加藤 愛太郎・福田 淳一(東京大学地震研究所),熊澤 貴雄(統計数理研究所),中川 茂樹(東京大学地震研究所)
Scientific Reports, 6, 24792, doi:10.1038/srep24792.
25 April 2016 (Online publication) http://www.nature.com/articles/srep24792
2014年4月1日にM8.2の地震が、沈み込むナスカプレートと陸側の南アメリカプレートとの境界で発生しました。この地震の発生前の地震活動を高い精度で推定して地震カタログを新たに構築し、その時空間発展を詳細に分析しました。また、この地震カタログを用いて、プレート境界面上の非地震性すべり(ゆっくりすべり)の指標と考えられる繰り返し地震の抽出を行いました。さらに、この地震カタログに対してEpidemic Type Aftershock-Sequences (ETAS)解析(e.g., Kumazawa and Ogata, 2013)を適用することで、常時地震活動度の時間変化の推定を試みました。常時地震活動度の変化から、非地震的な何らかの変動(例、ゆっくりすべり、流体の移動)が地下で起きたと解釈できます。
2013年夏までは、地震の蓄積個数、非地震性すべりや常時地震活動度は、時間の経過に対して概ね線形で増加していました。非地震性すべりの増加率は約0.6 cm/年と本地域における収束速度約7 cm/年と比べて有意に小さいことがわかります。これは、本地域のプレート境界面の固着率が高い状況であることを意味し、測地学的解析結果とも整合します。
ところが、2013年夏(本震発生の約270日前)から本震発生までの間、地震活動度、非地震性すべり量、常時地震活動度、震源移動現象の発生頻度が間欠的に増加し始め、その増分も時間とともに大きくなりました(図1)。さらに、前震活動が最も活発であった本震発生前の約2週間には、陸上のGNSS観測網によりプレート境界面の固着が緩んだことを示す変位が地表で生じたことが報告されています(e.g., Ruiz et al., 2014)。繰り返し地震により明らかとなった非地震性すべりの存在を考慮すると、地震性すべりと非地震性すべりの両方が本震発生前の間欠的な固着の剥がれに寄与していたことが考えられます(e.g., Kato and Nakagawa, 2014)。
本震の破壊領域の端で固着が加速的、且つ、間欠的に剥がれることで破壊域への応力集中が生じ、本震の発生が促進されたと考えられます。大地震の発生前に固着の剥がれが加速的に進行していた点を明らかにしたことは意義深いものの、固着の剥がれが間欠的に生じるため、大地震が発生する時期を精度良く予測することは非常に困難なこともわかります。
【参考文献】
Kato, A., and S. Nakagawa (2014), Multiple slow-slip events during a foreshock sequence of the 2014 Iquique, Chile Mw 8.1 earthquake, Geophys. Res. Lett., 41, doi:10.1002/2014GL061138.
Kumazawa, T., and Y. Ogata (2013), Quantitative description of induced seismic activity before and after the 2011 Tohoku-Oki earthquake by nonstationary ETAS models, J. Geophys. Res., Solid Earth, 118, 6165–6182.
Ruiz, S., M. Metois, A. Fuenzalida, J. Ruiz, F. Leyton, R. Grandin, C. Vigny, R. Madariaga, and J. Campos (2014), Intense foreshocks and a slow slip event preceded the 2014 Iquique Mw 8.1 earthquake, Science, 345, 1165–1169, doi:10.1126/science.1256074.