黒川愛香・武尾実・栗田敬
Journal of Geophysical Research doi:10.1002/2015JB012500
本論文は1986年11月に起きた伊豆大島三原山の噴火の火山性微動の解析結果の報告である.三原山は近年30~40年間隔で噴火を繰り返しており、1986年の噴火はもっとも最近の噴火である.この噴火では中央火口での噴火後2日ほどの休止期間を経て規模の大きな割れ目噴火が生じた.この噴火の拡大は予想外の出来事で、その後1ヶ月に及ぶ全島民避難を余儀なくされ、当時火山学の未熟さが痛感された.30年前の事象ではあるが、その後の地震学・火山学の進展による新たな知識をもとに再度見直しておくことは今後の噴火を考える上で有益であろう.
1986年噴火には幾つかの未解明な謎が残されている.マグマ種の異なる2種の噴火はどのように準備されたのか、地下のマグマ供給系はどうなっていたのか、と言う問題.長期的には電気伝導度の変化など顕著な予兆現象から噴火は予想されていたが、中央火口噴火から割れ目噴火と言う噴火の推移は全く予測されていなかった.これはなぜか? その後多くの研究から火山性微動がマグマの活動の有効な指標である点が明らかにされてきた.本研究では当時のアナログ収録の地震記録のデジタル化を試み、火山性微動の解析を行った.残念ながらデータの劣化が激しく記録の完全なデジタル修復は出来なかったが、ノイズの多いデータながら幾つかの極めて興味深い結果が得られた.まず微動は中央火口噴火に対応した連続型微動と割れ目噴火に対応した断続型微動に分けられた(図1).その震源はAkiらによる震幅法に基づいて決定され、連続微動はほぼ中央火口下に集中したのに対し、断続微動は割れ目噴火と平行な北西−南東の方向に拡がった(図2).興味深い点は中央火口の噴火・連続微動が停止した11月19日から割れ目噴火の開始(11月21日)までの間割れ目噴火の位置で断続微動が発生し続けていた点である.このことは地表で割れ目噴火が生じる少なくとも一日前には割れ目下部へのマグマの供給が始まっていたと解釈できる.更に連続微動の中に埋もれていた断続微動を抽出し、その震源を決めると例えば11月17日の段階で既に割れ目へのマグマ注入が起きていたことが明らかになった(図3).このことは微動の連続的なモニターにより噴火推移の予測は十分に可能であることを示している.