首都圏地震動イメージング

加納将行(1)、長尾大道(1,2)、永田賢二(3,4)、伊藤伸一(1)、酒井慎一(1)、中川茂樹(1)、堀宗朗(1)、平田直(1)
(1)東京大学地震研究所 (2)東京大学大学院情報理工学系研究科
(3)産業総合技術研究所 人工知能研究センター (4)科学技術振興機構 さきがけ研究者

Journal of Geophysical Research (2017), 122(7), 5435–5451, doi:10.1002/2017JB014276

図:2014/9/16に発生した茨城県南部地震(マグニチュード5.5)の周期5-10秒の地震動イメージング結果。丸印は観測点を表し、そこでの観測波形の振幅を表示している。観測点以外の場所では推定した地震動イメージング結果を示している。

 巨大地震発生時に、都市部における構造物の揺れを即時的に評価することは、構造物の被害の推定だけでなく、地震後の迅速な復旧活動や二次的な災害の軽減につながります。構造物の揺れを計算するためには、構造物直下における地震動を与える必要がありますが、すべての構造物において地震動を直接観測することは現実的ではありません。しかしながら、関東地方では、首都圏における地震像の解明を目的として、2007年度以降、首都圏地震観測網(MeSO-net)が整備されています。都心部を中心に数kmの観測点間隔でおよそ300点の地震計が設置されており、稠密な観測網の一つといえます。先行研究(Kano et al., 2017, GJI, http://www.eri.u-tokyo.ac.jp/2016/12/28/seismic-wavefield-imaging-based-on-the-replica-exchangemonte-carlo-method/)では、限られた地震観測記録から、レプリカ交換モンテカルロ(REMC)法により観測機器のない場所での地震動を推定する「地震動イメージング手法」を開発しました。

本論文では、この手法を実際にMeSO-netで得られた観測記録に適用して首都圏の地震動イメージングを行った上、構造物の揺れの簡易評価に用いられる速度応答スペクトルを計算しました。その結果、高層建築物で卓越する周期5-10秒の長周期地震動に対して、観測波形の大部分を説明可能な地震波動場のイメージングに成功しました(図)。観測波形が再現されている上、推定された応答スペクトルも観測から得られる応答スペクトルと良い一致を示しました。一方、中小規模の建物を含む一般的な構造物は0.2-0.5 秒程度の周期帯が卓越します。しかしながら、被害を受けた構造物の卓越周期は長くなることから、一般的な構造物の大規模被害のみを想定する場合は周期1秒以上の地震動を評価すれば十分であるという報告がなされています(境, 2012)。そこで、様々な規模の構造物の揺れの評価に向けて、周期1-10秒の地震動イメージングを行ったところ、振幅の大きな成分の直達波の地震動がある程度再構築でき、また応答スペクトルを再現することに成功しました。この結果は、構造物の応答評価という観点において、地震動イメージング手法が1秒程度の短周期帯まで適用可能であることを示しています。今後の地震動イメージング手法の更なる高度化や高速化により、将来的に地震発生時の即時的な被害推定や二次災害の軽減に貢献することが期待されます。

本研究は文部科学省受託研究費「都市の脆弱性が引き起こす激甚災害の軽減化プロジェクト」および国立研究開発法人防災科学技術研究所「首都圏を中心としたレジリエンス総合力向上プロジェクト」の一環として行われました。