レシーバ関数解析から求められたフィリピン海プレートと地殻の接触部の描像:1891年濃尾地震(Mj8.0)の発生原因

飯高隆、五十嵐俊博、橋間昭徳、加藤愛太郎、岩崎貴哉、濃尾地震断層域合同地震観測グループ

Tectonophysics 717 (2017) 41–50

日本では、活断層が活動することによって引き起こされる被害地震が多く発生します。例えば、1995年兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災の原因となった地震)(Mj7.3)、2004年新潟県中越地震(Mj6.8)、2016年熊本地震(Mj7.3)は活断層による地震です。このように日本で発生する大きな被害を引き起こす内陸地震はマグニチュード7クラスの地震が多くみられます。しかし、歴史的に見るともっと大きな地震も発生しています。それは、1891年に発生した濃尾地震です。気象庁によって決められたこの地震のマグニチュードは8.0です。マグニチュードが1違うとエネルギーは約30倍違います。このことからみても、1891年の濃尾地震がいかに大きな地震であったかがわかります。この地震は、日本の活断層で発生した内陸地震としては、観測史上最大規模の地震といえます。この地震の発生原因を調べるために、この研究所では、全国の大学や関係機関と共同で臨時の観測点を展開し、様々な手法を用いて研究をおこないました。この研究では、この地震がどのような場所で発生したかを知るために、レシーバ関数解析という手法を用いて解析を行ったものです。地震波は、伝播する途中で速度の境界面があるとP波からS波へ、S波からP波へ変換することがあります。この性質を用いて観測された波を調べることにより地下の構造境界を調べようとするのがレシーバ関数解析という手法です。

レシーバ関数解析によって、濃尾地震断層域の地殻構造について詳細な構造がわかりました。また、この地域においては人工震源を用いた構造探査が行われています。これらの結果からこの地域の構造を考えてみますと、沈み込むフィリピン海プレートは変形しており、伊勢湾から若狭湾にかけて尾根のように張り出した構造をしています。この張り出したフィリピン海プレートは、周囲の地殻と接触していることがわかりました。また、1891年の濃尾地震を引き起こした断層は、湾曲したフィリピン海プレートと地殻の接触部分にそって存在していることもわかりました。この地域ではフィリピン海プレートが北西方向に沈み込んでおり、地殻においても北西方向に力が加わっているものと考えられます。そのため、地殻と張り出したフィリピン海プレートの接触部分では、応力が集中することが十分考えられます。この研究では、このような特異な構造がMj8.0という大きな濃尾地震の原因の一因となった可能性を示唆しています(図1)。

図1 濃尾地震発生域の地殻・マントル構造の概念図。レシーバ関数解析から求められた沈み込むフィリピン海プレートの等深度線から、湾曲したフィリピン海プレートは周囲の地殻と接触していることがわかりました。1891年にMj8.0の地震を引き起こした濃尾地震の断層は、その接触部に位置しており、このような特異な構造が巨大地震の原因となった可能性が考えられます。