加納将行(1、2)、麻生尚文(3、4)、松澤孝紀(5)、井出哲(3)、案浦理(6)、新井隆太(7)、馬場慧(1)、Michael Bostock(8)、Kevin Chao(9)、日置幸介(10)、板場智史(11)、伊藤喜宏(12)、鎌谷紀子(6)、前田拓人(1、13)、Julie Maury(14)、中村衛(15)、西村卓也(12)、尾鼻浩一郎(7)、太田和晃(12)、Natalia Poiata(16、17)、Baptiste Rousset(18)、杉岡裕子(19)、高木涼太(20)、高橋努(7)、竹尾明子(1)、Yoko Tu(10)、内田直希(20)、山下裕亮(12)、小原一成(1)
(1)東大地震研 (2)現、東北大理 (3)東大理 (4)現、東工大理 (5)防災科研 (6)気象庁 (7)海洋研究開発機構 (8)University of British Columbia、 Canada (9)Northwestern University、 USA (10)北大理 (11)産総研 (12)京大防災研 (13)現、弘前大理工 (14)BRGM (15)琉球大理 (16)National Institute for Earth Physics、 Romania (17)IPGP、 France、(18)University of California、 Berkeley、 USA、(19)神戸大理、(20)東北大予知センター
Seismological Research Letters, 89 (4), 1566-1575, https://doi.org/10.1785/0220180021.
近年の地震・測地観測網の発展により、世界各地の沈み込み帯を中心に、同規模の通常の地震に比べて断層がゆっくりと滑るスロー地震が発見されています(例えばObara and Kato, 2016)。スロー地震の発生領域が、高速破壊(通常の地震)を引き起こす領域に隣接していることから、スロー地震の発生は巨大地震の準備過程に関連している可能性があります。そのため、スロー地震の発生様式・発生原理・発生環境を解明することは、低速すべりから高速破壊までを含めた沈み込み帯の断層すべり現象の統一的な理解に向けて重要です。
スロー地震は、低周波微動・低周波地震・超低周波地震・スロースリップイベントといった数Hzから数年にわたる幅広い時定数を有する複数種類の現象から構成され、これまで多数の研究機関や研究者が様々な手法を用いて検出してきました。検出されたスロー地震の情報は、個々の研究機関・研究者が論文やウェブサイト(Interactive Tremor Map, Wech, 2010; World Tremor Database, Idehara et al., 2014)などを通して、独自のフォーマットを用いて公開されています。しかしながら、これらのスロー地震の活動を調べたり、他の結果と比較したりする際に、様々な場所に存在するスロー地震の情報を収集し、様々なフォーマットを揃えるといった作業には労力を要します。こうした標準化されていない情報利用の煩雑さを軽減し、多岐にわたるスロー地震カタログを扱いやすくすることを目的に、“Slow Earthquake Database”(http://www-solid.eps.s.u-tokyo.ac.jp/~sloweq/)を構築し2017年12月に公開しました。本論文はSlow Earthquake Databaseの概要とコンテンツ、今後の課題についてまとめたものです。
Slow Earthquake Databaseは主に二つの機能を有します。第一に、それぞれ独自に作成されてきた多数のスロー地震カタログを収集し、同一のGoogleマップ上で複数のスロー地震情報の可視化を行います(図1)。ある期間に発生した種々のスロー地震を同時に地図上に表示することで、スロー地震間の空間的な関係や、地域間でのスロー地震活動の比較、カタログ間の比較が可能となります。第二に、収集したスロー地震カタログを共通のフォーマットに変換し、単一のウェブサイトから複数のカタログを同一のフォーマットで取得できます。加えて、原著論文や解析期間などの個々のカタログに関する情報に統合的にアクセスすることができます。
Slow Earthquake Databaseでは、2017年12月の公開当初29種類のスロー地震カタログを公開しましたが、2018年6月現在43種類にまで増加しました。今後も多くの国内外の研究者の協力の下、更なるスロー地震カタログの追加を予定しており、本データベースがスロー地震カタログの国際的な標準化について主導的な役割を担うことが期待されます。また、スロー地震に関する標準化された情報を提供することで、これまで蓄積された成果が利用しやすくなるだけでなく、多分野の研究者のスロー地震研究への参画を容易にし、分野間の連携研究を通して、スロー地震を含む沈み込み帯のダイナミクスの更なる解明に貢献することが期待されます。