爆発的噴火における火砕流発生条件

Part 1: 理論.小屋口剛博・鈴木雄治郎(東大地震研)
Part 2: 数値シミュレーション.小屋口剛博・鈴木雄治郎・武田海・稲川聡(東大地震研)

Journal of Geophysical Research: Solid Earth 123 (2018)

Part 1: https://doi.org/10.1029/2017JB015308
Part 2: https://doi.org/10.1029/2017JB015259

爆発的噴火においては,高温の火砕物(マグマの破片)と火山ガスが火口から高速度で噴出します.これらの噴出物は,噴煙柱を形成して火口から上昇し,そのまま高層大気に達する場合もありますが,噴出条件によっては噴煙が崩壊し(この現象を「噴煙柱崩壊」と呼びます)火砕流として地表を駈け下る場合もあります.火砕流は,高温状態のマグマが高速度で地上の集落や社会基盤を襲う非常に危険な現象であり,その発生条件を理解する必要があります.本研究では,爆発的噴火において噴煙柱が崩壊し火砕流が発生する条件を,理論(Part 1)および数値計算(Part 2)に基づいて決定しました.

噴煙柱崩壊条件は,火口噴出直後の上昇速度,および,渦によって噴煙に取り込まれた大気の熱膨張,という二つの物理過程に支配されています.さらに,これらの物理過程は,火口の形状やマグマ溜りの圧力などの地質条件やマグマの岩石学的性質に複雑に依存します.このような複雑な依存性を整理するために,Part 1では,噴煙ダイナミクスおよび火道流ダイナミクスに関する1次元モデルを理論的に解析し,噴煙柱崩壊条件を表す無次元パラメータの関係式を新たに導出しました.導出した関係式を用いることによって,実際に噴出したマグマの性質と火口の形状から,噴煙柱が崩壊して火砕流が発生する条件を即座に判断することができるようになりました.

Part 2では,Part 1で得られた噴煙柱崩壊条件の関係式を3次元数値シミュレーションによって検証しました.Part 1で用いた1次元モデルでは,乱流による混合過程や噴煙や大気の膨張・圧縮過程などの3次元的物理現象について,多くの仮定が使われています.これらの仮定を用いない3次元数値シミュレーションによって,火山噴出物の減圧膨張に伴う加速,衝撃波に伴う圧縮・減速,さらに,それらの膨張・圧縮過程を伴う乱流混合などの噴煙内部の物理過程について解析したところ(図は3次元数値シミュレーションにおける噴煙内部の噴出物重量分率,上昇速度,圧力,密度の分布),Part 1で用いた仮定が妥当であることを確認できました.また,3次元数値シミュレーションでは,噴煙柱崩壊条件の近くで,上昇する噴煙の一部が崩壊し小規模な火砕流を形成する「部分崩壊」と呼ばれる現象(ビデオ「partial collapse」)や噴煙が激しく振動し,間欠的に火砕流を形成する現象(ビデオ「oscillation」)など,Part 1の1次元モデルの枠組みを超えた,噴煙柱崩壊に至る様々な遷移現象を捉えることができました(ビデオでは噴出物重量分率が示されています).このことは,3次元数値シミュレーションによって,現実の爆発的噴火においてどのように火砕流発生に至るのか,その多様な物理過程について理解を深めることができることを示唆しています.

ビデオ: partial collapse (クリックして動画を再生)

 

 

ビデオ: oscillation (クリックして動画を再生)