2014年阿蘇山マグマ噴火に伴う地下電気伝導度構造の時間変化

南拓人(1)、宇津木充(2)、歌田久司(1)、鍵山恒臣(3)、井上寛之(2)

(1) 東大地震研、(2)京大火山研究センター、(3)阿蘇火山博物館

Minami, T., Utsugi, M., Utada, H., Kagiyama, T., and Inoue, H. (2018).

Temporal variation in the resistivity structure of the first Nakadake crater, Aso volcano, Japan, during the magmatic eruptions from November 2014 to May 2015, as inferred by the ACTIVE electromagnetic monitoring system. Earth, Planets and Space, 70(1), 138. https://doi.org/10.1186/s40623-018-0909-2

(本論文は、EPS Highlighted Papers 2018に選出されました。)

 近年、噴火の危険性が高い火山では、火山防災の目的から様々な連続観測が行われていますが、地下の温度、圧力、地下水量など、噴火に関わる地下の状態を監視することは、依然として難しいのが現状です。そのような中で、電磁気学的な探査で得られる地下の電気伝導度の値は、火山ガスの溶け込んだ地下水や、マグマが存在する領域で高くなるため、噴火に直接関わる地下の状態を知ることができます。しかしながら、火山の地下電気伝導度の値が噴火の際にどのように変化するかについては、これまで研究例がほとんどありませんでした。

本研究では、 2014年11月25日から2015年5月の期間に発生した阿蘇山マグマ噴火の前後で、 人工電流を用いる電磁気学的な探査を複数回実施し、噴火に伴う電気伝導度の時間変化を推定しました。図では、2014年8月と2015年8月の間の電気伝導度の時間変化を示しており、青色の領域が電気伝導度の低下を、また、赤色領域が電気伝導度の上昇を表しています。地下電気伝導度の推定に関わる数値計算では、 地表面は三角形で、また、地下構造は異なる電気伝導度を持つ四面体の集合として表現しました。図のように、噴火に伴う顕著な変化として、地下約400mの深さで、水平に広く電気伝導度が低下したことが明らかになりました(図の青色領域)。さらに、本研究で得られた複数回の観測による電気伝導度の時間変化を細かく調べると、図に示した電気伝導度変化の大部分は、噴火開始日翌日の観測(2014年11月26日)以前に起きたことがわかりました。つまり、マグマ噴火開始前に、火口直下の広い範囲で電気伝導度変化が低下した可能性が高く、得られた結果は、噴火前にマグマが上昇して地下水の沸騰を進め、広い範囲で火山ガスの溶け込んだ地下水の量が減少したことを示唆しています。

噴火の際の地下電気伝導度の変化が三次元的に明らかにされた例は、本研究の成果が初めてです。今後、他の火山観測の結果と詳細に比較することで、より具体的な地下の物理量(地下水の温度・圧力・溶存火山ガスの成分など)の変化を特定できる可能性があります。さらに今回の結果は、マグマの上昇に伴う地下水量の変化(沸騰を通した水蒸気への変化)を捉えた可能性が 非常に高いものです。 そのため、同様の観測によって噴火前の水蒸気量の変化を捉えることで、現状予測が困難な水蒸気噴火についても、噴火の危険性を評価できる可能性があると考えています 。

第144回地球電磁気・地球惑星圏学会総会・講演会プレスリリース資料 (2018)より一部改変