2004年スマトラ地震(Mw9.2)と2012年インド洋地震(Mw8.6)が引き起こした長期的な重力やジオイド高の変化と海水面の高度変化

Yusaku Tanaka1, Yao Yu2, 3, and Benjamin Fong Chao3
1. Earthquake Research Institute, The University of Tokyo, Tokyo, Japan
2. School of Geodesy and Geomatics, Wuhan University, Wuhan, China
3. Institute of Earth Science, Academia Sinica, Taipei, Taiwan

Terrestrial, Atmospheric and Oceanic Sciences, Vol. 30, No. 2, 1-10

 地球の重力場は、地球上の質量の移動に伴い、わずかに変化します。地震も質量の移動を伴う自然現象ですから、地震に伴って重力が変化します。したがって重力の観測で地震による地殻変動量などを推定することができます。

地震に伴う重力変化の研究では、重力観測衛星GRACEのデータが大いに役立ちます。GRACEのデータを利用した超巨大地震に関する研究の成果は既に多くあり(参考:田中・日置『GRACE地震学—衛星重力観測による地震研究のこれまでとこれから—』, 地震・第2輯, 2017)、主に本震の断層運動に起因する地震時の重力変化や、地震後の「余効変動」に起因する重力変化について調査が進められています。なお、地震後の重力変化を引き起こす「余効変動」としては、本震の断層すべりの「すべり残り」が地震後に時間を掛けて解放される(ゆっくりすべる)「アフタースリップ」と、本震の断層すべりによって生じた地下の岩石に掛かっている負担が、岩石の変形や移動によってじわじわ緩和される「粘弾性緩和」という二つの現象が考えられています。地震時の重力変化は、本震時にどのくらいの大きさの断層が、どのように動いて、その結果として地面がどうなったのかを調査するのに役立ちますし、地震後の重力変化は余震の発生とも関連が疑われるアフタースリップや粘弾性緩和に起因するものだと考えられており、現在は統計学的な根拠に基づいて計算されている余震発生確率に、物理学的な根拠に基づいた推定を加えることで確度の高い余震発生予測に繋がる可能性を秘めています。また、地震時・地震後の重力変化は共に地震の全体像を解明するためにも重要です。しかしながら、それらのトータルの重力変化についての観測報告はこれまでありませんでした。その理由の一つは、2002年にGRACEが打ち上げられた後に発生した最初の超巨大地震である2004年スマトラ地震による重力変化が続いていたからです。(ちなみに、東北地方太平洋沖地震の重力変化は現在も進行中です)

本研究では、まず2004年スマトラ地震による地震後の重力変化は、2016年には大部分が終息したことを明らかにしました。そして2004年スマトラ地震に伴う地震時・地震後の重力変化と、その近傍で発生した2012年インド洋地震に伴う地震時・地震後の重力変化、さらに、それらのトータルの重力変化を調査し、その時空間分布を明らかにしました(図1)。

重力変化の空間分布と時系列(図1c, f, g, h)からは、海域で重力が「不可逆的に」変化して、地震前より強くなったり弱くなったりしていることも読み取れます。理論的には、これを反映した海水面の高度変化が存在するはずです。例えば、海域で重力が強まれば、そこに水が引き寄せられるので、この重力変化により海水面が上昇することが考えられます。本研究では、海面高度計のデータを利用して海水面の高度変化を検出できるかどうかも調べました。その結果、地震に伴う重力変化が引き起こす海水面の高度変化は、潮汐の補正を施してもエルニーニョ等による海水温変化による海水面の高度変化(熱膨張)に埋もれてしまい、検出が非常に困難だということが分かりました。これは一見「失敗」だと思われるかもしれません。しかし、見方を変えると、今回の研究とは逆に、熱膨張による海水の動態を調査する際には(現在の技術では)地震に伴う重力の変化はほとんど考慮する必要が無いということが分かったと言えます。

図1 (a)2004年スマトラ地震に伴う地震時の重力変化、(b) 2004年スマトラ地震に伴う地震後の重力変化(2016年7月まで)、(c) 2004年スマトラ地震に伴うトータルの重力変化、(d)2012年インド洋地震に伴う地震時の重力変化、(e) 2012年インド洋地震に伴う地震後の重力変化(2016年7月まで)、(f) 2012年インド洋地震に伴うトータルの重力変化、(g)二つの地震による重力変化の合算(実際の重力変化の観測値)、(h)地図中の赤い丸で示した地点の重力変化の時系列(季節変化は補正済み)。重力変化の空間分解能は数百km程度(球関数の次数と位数が80次まで)。等値線の間隔は、(a)-(c)が10μGal, (d)-(f)が2μGalである。地図中の黒い四角は断層の模式図。震源球は震央に置いた。尚、1 μGal = 10^(-8) m/s2である。