T. W. Becker1・橋間昭徳2・A. M. Freed3・佐藤比呂志2
1テキサス大学オースティン校, 2東京大学地震研究所, 3パーデュー大学
Earth and Planetary Science Letters, 504, 174-184, doi:10.1016/j.epsl.2018.09.035
Published: 15 December 2018
Key Points
・ 2011年東北沖地震の4年ほど前から、東北地方の応力パターンが変化
・ 2011年東北沖地震後も応力パターンの変化が続くが、3〜4年後以降は回復傾向
・ 応力パターン変化のモニタリングは、超巨大地震の発生プロセスの推定に有用
2011年東北地方太平洋沖地震(以下、東北沖地震と表記)のようなマグニチュード9以上の超巨大地震にともなう上盤プレート内の地殻活動の解明は、プレート沈み込み運動の研究や、巨大地震前後における内陸地震の発生ポテンシャル評価のために大変重要です。GNSS観測網による東北地方の地殻変動データより、東北沖地震の10年ほど前から変動速度がそれ以前の通常状態から有意に変化していたことが、すでに示されています。
本研究では、日本列島下の応力場に注目し、東北沖地震の前後に通常時からの変化が見られるのかどうかを調べました。地下の応力状態は、そこで起こる地震のメカニズム解から推定することができます。そこで、防災科学技術研究所のF-net観測網による地震メカニズム解のカタログを用い、東北沖地震の地震前と地震後の応力場を、カタログの各地震の発生と調和的になるよう推定しました。
図1aに、通常時(2007年以前)と比べた東北沖地震直前の応力パターン変化を示します(応力を表す震源球については図1aの説明参照)。特に震源域直上の東北沖(紫四角の周辺)で、緑〜青色の震源球で表される相対的な水平伸張が見られます。これは、通常時の太平洋プレートの固着による東西圧縮応力が、地震直前には弱まっていることを示しています。これは地殻変動研究により指摘されている地震前の固着のゆるみと調和的です。
図1bは東北沖の水平応力の時間変化を示します。最も目立つのは東北沖地震直後の急激な変化ですが、地震前にも3~4年前(2007~2008年)から圧縮のゆるみが見られ、通常時から応力パターンがずれていったことを示しています。地震後には、伸張的な応力場が持続しますが、興味深いことに4年後(2015年)くらいから、伸張応力が弱まり、地震発生前の状態に戻ろうとしているように見えます。
地震後の応力パターン変化については、変動の支配メカニズムが余効すべりから粘弾性緩和へと変わっていくために起こると考えられ、モデル計算により再現することができます。今後、地震前の応力変化も合わせて、地殻変動など他のデータとともにモデル化し、解明を進めていくことが、巨大地震災害を理解するのに必要であるといえます。
図の説明
図1 (a) 東北沖地震直前の応力場の通常(1997–2007年)からのずれ。震源球は、地下の各点が受ける圧縮応力(白面)と伸張応力(色付き面)の3次元的パターンを示す。震源球の色は規格化した応力の水平成分(σm)。背景色(θ)は通常時と地震前の応力パターンの一致度。θ = 1は完全な一致、θ = -1は反転(圧縮⇔伸張)。東北地方のほとんどで0.75以下であり、通常時と比べて一定の違いを示す。(b) 東北沖地震の震源域直上の規格化水平応力(σm)の時間変化(図1aの紫四角の位置)。上下の点線は、それぞれ期間1 ≤ t ≤ 3 year、t < -4 yearのσmの時間平均。東北沖地震に伴う急激な変化の他にも、地震の3〜4年前からの変化や、地震4年後以降にもゆっくりとした変化が見られる。