3.3.8 沈み込み帯温度構造のモデル化

 地球内部の温度構造を推定するためのモデリング研究では、これまで多くの場合等方的な物性値を仮定してきた。しかし実際は地球内部を構成する鉱物の結晶選択配向などにより、物性は異方性を持つ。そのような物性値の1つとして、かんらん石の結晶選択配向に伴う熱伝導率の異方性が東北地方沈み込み帯の温度構造に及ぼす影響を見積もった。ここでかんらん石の熱伝導率は結晶軸によって最大2倍程度異なることが報告されている。かんらん石結晶選択配向のパターンとして、Aタイプ、Cタイプ、そしてEタイプの3種類を考慮した。異方性はマントルウェッジでのみ生じると仮定し、2次元のモデル領域で計算を行なった。その結果、スラブ直上と上盤プレート底部の2箇所で熱伝導率の異方性が大きくなることが明らかになった。これらはスラブの沈み込みに伴う変形が大きな場所に対応している。またそのような場所では熱伝導率が等方的である場合と比較して温度の変化が見られ、それは主に、スラブ直上においてはスラブ表面に対して垂直方向の、また上盤プレート底部では鉛直方向の熱伝導率にそれぞれ支配される。しかし熱伝導率の異方性によるスラブ内部の温度変化は最大でも30度であり、大きいとは言えない。今後スラブ内部の異方性まで合わせて考慮することで、この効果は大きくなる可能性がある。