3.2.1 地球波動現象としての地震・津波の研究

(a) 火山性津波の研究

 2015年5月に発生した鳥島近海地震はM5.7と小さいが,東南海地域で広範囲に津波が観測された.津波波形・地震波形の同時インバージョンから,地震発生時にはカルデラ底がその下部で水平に広がるマグマの増圧により傾斜運動を起こし,カルデラ壁に沿って跳ね上げ運動を起こしたことが判明した.スミスカルデラ付近で繰返し発生するCLVD型の火山性津波地震は,カルデラ浅部の複合断層運動により地震波発生効率が低下していると推定される.

 同様のカルデラ内地殻の跳ね上げ運動は,ガラパゴス諸島のシエラネグラカルデラで発生し,カルデラ内に設置されたGPS観測で運動の詳細が記録されている.跳ね上げ運動にともなう長周期の遠地地震波の解析から,環状断層運動パラメタ(傾斜角・環状円弧の広がり角・カルデラ底部の地殻の傾斜運動)を決定する手法を開発し,シエラネグラカルデラ地震に適用し,成果を論文にまとめた.

(b) 津波を利用した巨大地震の研究

2004年12月に発生したスマトラ・アンダマン地震(M9.1)の再解析を実施した.新たにアフリカ・南極沿岸を含むインド洋全域の衛星海面高度計データと検潮記録に対し,最新の津波波動理論を用いて断層運動分布を求め,波源域が震源から1400キロ伸びていることを明らかにした.また.北米西岸まで到達した2004年スマトラ地震津波では,第1波は波源域から東方へオーストラリア南岸と太平洋を経由しており、第2波は西方へアフリカ喜望峰沖から南米南端のドレーク海峡さらに太平洋を経由していることが判明した.これらを論文にまとめた.

(c)津波伝播の研究

 水深分布を与え,任意の位置に津波の波源と観測点を置いたときに津波波線を計算する手法を新たに提唱した.これまでの手法では計算コストと波線収束の問題が存在していたが,新手法では任意の波源と観測点に対して一度の計算で波線が描けることを示した.1960年チリ地震津波では波源域北部で発生した津波は北海道東方から、また南部で発生した津波は本州南方から日本に到達していることを明らかにし,これらを論文にまとめた.