3.5.9 地震活動の特徴に関する研究

 最近の観測・理論・実験的研究の成果をもとに,大地震の発生過程に関する統合的なモデルを提案した(Kato and Ben-Zion, 2021).移動を伴う前震活動やスロー地震が同時に発生することで,断層面近傍に変形の集中(局在)化が進み,大地震の発生を促進した複数の事例を概観した.このプロセスは時間とともに段階的に進むため,大地震の精度の高い直前予測が困難な点についても言及した.さらに,不均一性の強い構造をもつ断層面を用いた近年の室内実験や理論研究にもとづいて,大地震発生に至るプロセスの多様性・複雑性について議論を展開した.

 地震活動の統計モデルを用いて,気象庁地震カタログから地殻内の背景地震活動度の列島スケールにおける空間分布を推定した.内陸に位置する5地域のひずみ集中帯において,背景地震活動度とひずみ速度(測地データより推定)との関係性について検証した.分析の結果,背景地震活動度とひずみ速度には正の相関が確認され,山形県沖合いで見出された関係(Ueda et al., 2021)が広範に成立することが明らかになった.さらに活火山近傍では,同じひずみ速度の地域と比較して背景地震活動度が高くなる傾向が見られた.活火山近傍では,火山性流体により断層強度が低下するため,同じひずみ速度の地域と比較して地震活動度が高くなると解釈される.