3.2.3 地震,地殻変動等の最先端観測や新しい観測の試み

(a)南アフリカ鉱山における半制御地震発生実験

 南アフリカの金鉱山の地下深部の採掘域周辺に多数の高感度微小破壊センサを設置し,半径100m以上の範囲にわたってM-4以下という数cm程度の微小破壊までを検出・位置標定する,世界でも例をみない観測を行い,その鋭敏な検出感度とセンサの高密度配置をいかして,自然地震では観測されたことのない,既存弱面への極端な集中や,プレート境界のそれにくらべて極端に高い効率で発生するリピーター活動など様々な発見をしてきた.一方,現場のボアホールに設置されたセンサの周波数・角度指向性は複雑で,個々のイベントの規模や震源メカニズムの推定は困難であった.しかし,一様な媒質環境の下で多数のイベント波形があることから,京都大学と協力して,一般化逆解析法を適用してセンサ個々の現位置特性を推定した.

(b)キネマティックGNSS測位の高度化

 短期的スロー地震と長期的スロー地震の中間の帯域にあたる,数時間から数日の継続時間をもつスロー地震をGNSS観測から検知することを試みている.この帯域のスロー地震を検知しその性質を精査できれば,スロー地震の発生メカニズムの理解を進めることが期待される.この目標を達成するためにはGNSSキネマティック測位によるGNSS観測点の高品位の時系列が必要である.そのため,我々はGNSSキネマティック観測のノイズ源の最も大きなもののうちの一つである電波のマルチパスの影響を評価した.我々は3 mから65 mの基線長を持つ3つのペアのGPS観測点をキネマティック解析し,時系列を求めた.この時系列には電波の大気による影響はほとんどないと考えられるため,ほとんどマルチパスの影響のみを抽出していると思われる.マルチパスの影響はGPS衛星の配置によって決まると考えられるため,その影響はGPS衛星の再来周期の2倍である1恒星日(23時間56分4秒)ごとに繰り返すことが予想されるが、実際には1恒星日よりも約10秒短い時間で繰り返すことが明らかになった.周期が10秒ずれる原因は不明である.また,繰り返すマルチパスの影響は500-1000秒よりも長い周期に卓越することが明らかになった.得られた知見をスロー地震発生域のGPS観測データに適用することにより,ノイズレベルが50 %以上減少することが明らかになった.