3.9.5 災害復旧時の社会経済分野における大規模数値解析手法の開発に関する研究

企業,家庭,銀行などの経済主体は,他の経済主体やライフラインなどのインフラストラクチャと密接な依存関係を持って機能しているため,これらの経済主体の集合である経済システムは大地震などの局地的な自然災害に対して脆弱となりがちである.そのため,大規模な災害に対する復旧計画を立案する際には各経済主体間の依存関係を考慮することが望ましい.このような分析においては,個々の経済主体を時系列で自律的に動くエージェントとしてモデル化しその相互作用を陽に解像するエージェントベース経済シミュレータが適しているが,数億エージェントからなる大規模経済においてはシミュレーションコストが膨大となり災害復旧の分析に適用するための課題となっている.

この課題を克服するため,計算地球科学研究センターでは多数のCPUを搭載した分散メモリ型並列計算機において高速実行可能な,高性能計算に基づく高分解能エージェントベース経済シミュレータ(HP-ABES)の開発を進めている.このHP-ABESは,日本のような大規模経済圏の数億の経済主体をシミュレーションすることが可能であり,ガス,水道,交通などのライフラインネットワークやサプライチェーンネットワークのような現実世界の複雑性を考慮するのに十分な柔軟性がある.広域都市をモデル化し,その地震時応答をシミュレーションする統合地震シミュレータ(IES)と連携することで自然災害に対する長期的な経済的影響を分析可能としてきた.本年においては,マクロ経済データを分析することで日本経済のシミュレーションに必要なモデルパラメータを試行的に同定し,阪神工業地帯における地震災害の経済的影響を推定するなどの試行解析を進めた.より詳細なデータを活用し,HP-ABESの性能向上を図ることで,災害が経済にもたらす影響の定量的検討への貢献が期待される.