3.5.7 スロー地震学プロジェクト:スロー地震発生領域周辺の地震学的・電磁気学的構造の解明

 南海トラフ沈み込み帯の深部低周波地震(LFE)の移動現象を解明するために,四国西部に展開された稠密な短周期地震計アレイにより取得された連続波形記録の解析を進めた.LFE震源の時空間発展を推定しところ,震央分布は現在のフィリピン海プレートの収束方向と平行な西北西-東南東の走向に加えて,過去の収束方向に平行な北西-南東走向の2つの構造で特徴づけられることが示された.同様な構造は,Ide (2010)でも広域スケールにおいて指摘されているが,数㎞スケールでも類似の構造が存在することが明らかになった.スロー地震発生域のマルチスケール構造を示唆する意義深い結果である.また,LFEの大規模活動は,先行研究(Ide, 2010; Kato and Nakagawa, 2020)で報告されているように,深部から浅部へ移動後にプレート走向方向へと向きを変え,低速且つ拡散的な様式で移動することが示された.低速移動中には,短時間に短距離を高速(約30km/hr)で移動する現象を複数見出した.プレートの傾斜方向と走向方向の両方への移動が見られ,順方向・逆方向の移動が数㎞のスケールで頻繁に生じていることが分かった.