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図3.10.1
3.10.6 拠点間連携共同研究
「地震・火山科学の共同利用・共同研究拠点」である地震研究所は,「自然災害に関する総合防災学の共同利用・共同研究拠点」である京都大学防災研究所は, 2014年度から地震・火山に関する理学的研究成果を災害軽減に役立てるための研究を推進するために,拠点間連携共同研究を実施している.両研究所の教員及び所外の教員からなる拠点間連携共同研究委員会を設置して,共同研究の基本方針を決定した上で,両研究所の拠点機能を活用し全国連携による共同研究を実施している.これまでに,震源から地震波伝播,地盤による地震動増幅,建物被害など,地震動被害に影響を及ぼす個別の要因を評価した上で,全体としての評価の精度を向上させることを目的として,南海トラフ巨大地震のリスク評価研究などを実施してきた.
沈み込み帯でのプレート間固着強度分布を把握するためには,海底地殻変動データに加え,通常の地震からスロー地震まで,プレート境界周辺での断層すべり運動の性質を理解することが重要である.南海トラフ沿い巨大地震断層域に当たる紀伊半島沖では,ケーブル式地震・津波観測監視システムDONETによって,海域下の多様な地震活動をリアルタイムで観測している.ここで観測される地震活動を詳細に把握するためには,特に速度の遅い堆積層を含む海底下S波速度構造を考慮に入れ,精度の高い震源分布を求める必要がある.これまでに,DONETの観測記録を用いたレシーバー関数解析によって,構造調査に匹敵する解像度でS波速度構造を推定できることを示している.
熊野灘より海溝軸近辺のスロー地震が比較的頻繁に発生する場所では,紀伊半島南東沖のDONET1と紀伊半島南西沖のDONET2の間に若干の観測網でカバーできていない領域が存在するため,海底地震計を用いた機動的観測を行うことによって海底下速度構造および震源決定の精度を向上させることができる.この目的のために,2019年6月に紀伊半島沖南海トラフ沿いに15台の海底地震計を設置して観測を開始した.2021年 6月に,この海底地震計を全台回収し,良好な観測記録が得られていることを確認した.本観測記録中の2020年12月から2021年1月にかけて,この観測網周辺にて活発な微動活動も発生しており,プレート境界の空間的特徴を把握するためには通常の地震と微動との判別をする必要が生じた.これには機械学習による手法の適用を念頭に手法の検討を進めており,海底地震計観測波形から代表的な地震は検出可能であることを確認した.さらに,微動と地震の検出判定に関して,その判別精度の確認を進めている.
3.10.5 無人飛翔体を用いた空中磁気測量による火山体構造探査
火山噴火は地下の高温の火山性流体の移動に起因する表面現象であり,あらかじめ物理・化学観測を実施し地下の熱的状況や構造を把握しておくことは,将来の火山噴火減災のために重要である.我々は火山火口近傍観測のために,無人飛翔体(産業用無人ヘリコプターやマルチコプタードローンなど)を活用することを進めている.無人飛翔体を使用する利点は,(1) 噴火活動による人的リスクを負うことなく火口近傍の物理・化学探査が可能であること,(2) 有人機と違い,プログラミングされた航路を精確に飛行できるため,繰り返し同一測線・測点での計測が可能となり,測定量の時間変化を抽出できるようになること,が挙げられる.両利点を考慮し,これまで特に空中磁気測量を複数の活火山で実施してきた.磁性鉱物を含む火山岩は温度によって帯・消磁するため,地上で磁気測量することで地下の温度の状況・分布を把握することが可能となる.
2021年には三宅島雄山においてドローンを用いて空中磁気測量を実施した.磁場データ解析の結果,推定された地下磁化強度分布から,カルデラリム下は強い磁性を示す一方で,カルデラ内下は磁化強度が弱くなっているというコントラストが見られた.カルデラ内の弱化は2000年噴火でカルデラ崩壊した際に,岩石磁化の磁性方向がバラバラになってしまったことによると示唆される.また,2014年に産業用無人ヘリコプターを利用して実施した空中磁気測量のデータと今回のデータの比較を行った結果,地下浅部は冷却による再帯磁が進んでいる.一方で,カルデラやスオウ穴火口下深さ1km程度では消磁傾向にあることがわかった.このことは,先行研究で示唆された発達した火山熱水系により不透水層の亀 裂に沿って選択的に熱が供給され,熱消磁をおこしている可能性がある.今後この熱消磁域の時間発展をモニタリングすることで,来る火山災害リスクを事前に評価できる可能性を示した.
3.10.4 北海道東部ひずみ集中域における地殻変動解析
北海道東部屈斜路カルデラ周辺では,北海道でも内陸地震が比較的多く発生し,過去に被害も記録されている.この地域では,カルデラ特有の地下の不均質構造の存在が示唆されており,それによる応力集中によって地震が発生すると考えられている.
この内陸地震発生ポテンシャルが高いと示唆される地域の周辺では,既存のGNSS観測網に加え,連続およびキャンペーン観測点も設置されており,より空間分解能が高い地殻変動場の推定とその変動場の理解が期待されている.これまでもGNSSデータの解析はされていたが,解析ソフトウェアや設定パラメタの更新,データの追加による再解析を実施した.連続観測点ではこれまでよりもばらつきの小さい座標時系列を得るとともに,キャンペーン観測点では2015年以降のデータが新たに解析されたことにより,概ねどの観測点でも約10年間線形的な変動が続いていることを確認することができた.連続点からは過去に屈斜路湖南部の北向きの局所変動が捉えられていたが,周辺のキャンペーン観測点の結果もそれをサポートし,ひずみ分布としてカルデラの中心部で1ppm/yrオーダーの大きい短縮変形の存在を裏付ける結果が得られた.この短縮変形が生じる要因として,球状圧力源の収縮,低粘性をもつマグマの粘性緩和,不均質構造の影響などが考えられるため,今後モデル計算等によってこれらを定量的に議論し,地震発生ポテンシャルについて検討する必要がある.
3.10.3 相似地震
ほぼ同じ場所ですべりが繰り返し発生する相似地震は,断層面のすべりの状態を示す指標として注目されている.また,地震の再来特性を考える上で重要な地震である.そこで,日本列島全域に展開されているテレメータ地震観測点で観測された地震波形記録を用いて,日本列島および世界で発生している小規模~中規模相似地震の検出を継続的に行っている.その結果,沈み込むプレートの上部境界では,長期間にわたって繰り返す相似地震群が多数検出されている.作成した相似地震カタログを用いて世界の沈み込み帯におけるすべりの空間分布を調べたところ,得られた平均すべり速度はプレート間巨大地震とその余効すべりの影響が見られる地域では,プレート間の相対運動速度よりも速く,それ以外の地域で遅い傾向を示した.また,プレート間巨大地震の発生サイクルにおいて,プレート間すべり速度が長期的に変化する傾向を明らかにすることができた.すべり速度は地震発生直後に急激に増加し,その後10年程度かけて徐々に減少する一方,地震発生から30年以上経過すると徐々に増加していく傾向が見られた.これらは余効すべりの発生および応力レベルの上昇と関連していると示唆される.さらに,2011年東北地方太平洋沖地震発生から10年経過した後の東北日本地域におけるすべり状況について調査を進めた.2021年に大すべり域周辺で発生したM6~7クラスの地震後には,いずれも小規模な余効すべりが発生したことを確認した.
3.10.2 速度・状態依存摩擦則に基づくSSEのトリガーモデル
円形アスペリティを仮定し,Nagata et al. (2012)により修正された速度・状態依存摩擦則に基づいて地震トリガーに関する数値シミュレーションを行なっている.地震サイクルのある時点で,応力擾乱を与えると微小滑りが起こり,強度が下がる(滑り弱化).擾乱の振幅が大きくなるにつれ,大きな滑り弱化が起こり,地震滑りに至るまでの時間が短くなる.これまでの研究により,応力擾乱の周波数依存性はほとんど見られないこと,静的応力擾乱を与えた場合は,動的応力擾乱の場合より小さな応力変化量でトリガーされ,応力変化量の大小だけでトリガー効果を見積もることはできないこと,などを示してきた.また,ある動的応力変化に対し,トリガー効果が等価な静的応力変化量も評価した.今年度は,スロースリップイベント(SSE)のトリガーについて調べた.同じ半径のアスペリティでも,摩擦パラメータの値により,周期的地震,周期的SSE,安定すべりなどが発生する.周期的SSEが起こっているときに,様々なタイミング,振幅で応力擾乱を与えた.擾乱の振幅が大きくなるにつれ,SSEの発生が早められ,SSE時の滑り速度が速くなり,継続時間が短くなっていく.さらに大きくすると,高速な地震滑りに移行することもわかった
3.10.1 地震・火山噴火予知研究協議会企画部
全国の大学等が連携して実施している「災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画」を推進するために,地震研究所には地震・火山噴火予知研究協議会が設置されている.地震・火山噴火予知研究協議会の下には,推進室と戦略室からなる企画部が置かれ,研究計画の立案と実施で全国の中核的役割を担っている.企画部推進室は,流動的教員を含む地震火山噴火予知研究推進センターの専任教員,地震研究所の他センター・部門の教員から構成されている.流動的教員は,地震研究所以外の計画参加機関にも企画部の運営に参加してもらうために,東京大学以外の大学,関連機関から派遣されており,2年程度で交代する.戦略室には,効果的に研究計画を推進するために,東京大学地震研究所以外の多くの大学の研究者も参加している.企画部では次のような活動を行っている.
1. 協議会の円滑な運営のため常時活動し,大学等の予算要求をとりまとめる.
2. 地震・火山噴火による突発災害発生時に調査研究を立ち上げるためのとりまとめを行なう.
3. 大学の補正予算等の緊急予算を予算委員長と協議し,とりまとめる.
4. 研究進捗状況を把握し,関連研究分野との連携研究を推進する.
毎年3月に成果報告シンポジウムが開催され,大学だけでなく研究計画に参加するすべて機関の研究課題の成果が発表される.2021年はオンラインで実施された.科学技術・学術審議会測地学分科会が毎年作成している成果報告書では,各課題の成果報告に基づいて全体の成果の概要をとりまとめており,文科省のHPで公開されている.また,地震・火山噴火予測研究の現状を正確に社会に伝えることを目的として,主に報道関係者を対象とするサイエンスカフェを7回オンラインで開催した.それらの活動については,facebookを用いて随時情報提供している
3.10 地震火山噴火予知研究推進センター
教授 | 加藤尚之(センター長),吉田真吾,加藤愛太郎(兼任),大湊隆雄(兼任),上嶋誠(兼任) |
准教授 | 大園真子 |
助教 | 小山崇夫,五十嵐俊博 |
特任研究員 | GRESSE Marceau |
学術支援職員 | 荒井道子 |