観測開発基盤センターでは、所管の観測施設や観測機器・データ等を共同利用として、希望者からの利用申請に対応している。特に、16項目総計約1000台の観測機器については特定機器利用として共同利用に供し、2 ヵ月以上の長期利用を希望する利用者が利用希望年度の前年度に行われる特定機器利用公募に申請した際に、申請内容を踏まえ観測開発基盤センターにて採否を審議している。2021年度の特定機器利用の採択件数は4件で貸出台数は64台であった。また、2 ヵ月未満の短期利用については随時受け付けており、2021年度の利用件数は10件、貸出台数は91台であった。
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3.11.9 テレメータ室の活動
(1)テレメータシステムの運用管理
観測開発基盤センターの地震・火山観測網で,地震波形データをはじめとする,各種リアルタイム観測データの伝送および連続収録を行うテレメータシステムの運用管理を継続している.研究者が目的に応じて接続するセンサーの連続データを,途切れなく伝送し収集・提供するとともに,一部イベント収録処理も行う.伝送手段としては衛星通信(VSAT)や,ISDN・ADSL・光回線・無線LAN・モバイル通信等,最新の通信技術を取り入れた各種IP通信回線を利用している.管轄する観測点は地震・火山合わせて約200観測点である.特に衛星通信については,全国の大学の共同利用設備として,VSATシステムのハブ局を東京と長野の2か所で運用し,140局のVSATの維持管理を行い,地上回線の利用が困難な山間僻地や離島での機動的な観測研究に貢献している.観測点からフレッツ系およびモバイル系回線でデータをSINET5のデータセンタ(長野,松江)へ直接収集して直ちにJDXnetに乗せる,耐災害性の高いデータ伝送システムを運用継続し,2020年度末には,地震予知振興会等の観測点を含め合計239点に対応した。
(2)全国の大学を含む各機関とのデータ交換システムの運用管理
リアルタイム観測データの全国的な流通のため,各大学や地震火山情報センターと協力して,高速広域網新JGNとSINET5のそれぞれ L2VLANサービスや,フレッツ系回線等を利用し,全国の大学等を結ぶJDXnet(Japan Data eXchange network)を構築・運用管理している.また,地震観測に関係する全国の大学を代表して,東京大手町に防災科研が設置したTDX(Tokyo Data eXchange)を介した,気象庁・防災科研等他観測機関とのリアルタイムデータ交換の窓口の役割を果たしている.そのために,TDX,衛星通信ハブ局 等の拠点間を接続する延長約300kmの光ファイバー通信網を構築・運用管理している.これらの高速広域ネットワークにより,全国の研究者が様々な機関 の約2000観測点ものリアルタイム観測データを研究利用することが可能になっている。
(3)収集データの利用支援
テレメータシステムやデータ交換システムによって収集されたデータは,所内ネットワークやインターネットを通じて所内外の研究者に提供される.それ には収録済みデータのオンライン利用やオフライン利用(テープの再生等)とともに,インターネットやJDXnetを介したリアルタイム配信サービスも含まれる.これら所内外の共同利用ユーザーに対する技術的および手続き面での支援を行っている.また,これまでに蓄積されたすべての地震データをオンライン提供するため,地震予知研究センター・地震火山情報センターと協力して,記憶容量1.3 ペタバイトの長期間地震波形データ等解析システムを導入し,システム開発を継続した.地震波形データについては,地震研究所の保有する1989年からのデータ507TBが本システムに格納された
(4) 観測機材の全国共同利用への対応
地震観測用VSATシステムおよび地上テレメータ装置,データロガー等を地震研共同利用の手続きに従って,全国の大学の研究者に提供(貸し出し)しており,2020年1月24日現在の貸し出し数は741件である.
3.11.8 首都圏を中心としたレジリエンス総合力向上プロジェクト:サブプロジェクト(b)「官民連携による超高密度地震動観測データの収集・整備」
2017年から「首都圏を中心としたレジリエンス総合力向上プロジェクト」が開始された.このプロジェクトは,3つのサブプロジェクトからなり,その中のサブプロジェクト(b) 「官民連携による超高密度地震動観測データの収集・整備」の一部を地震研究所で担当している.これまでに解明を進めてきた首都圏の地震像の精緻化や都市の詳細な地震被害評価に資するものにするため,政府関係機関が保有する,首都圏に整備された稠密かつ高精度な地震観測網(MeSO-net)と全国規模の地震観測網(K-NET,Hi-net等)により得られるリアルタイムの観測データ,民間が保有する地震観測データを統合した超高密度地震動観測データを収集・整備することを目標としている.
具体的には,MeSO-net等で収集された高密度な地震観測データを利用して,首都圏の地震ハザード評価に資する首都圏中心部や伊豆地域における詳細な地下構造の提案,首都圏における過去~現在の地震像の解明,将来の大地震による揺れの予測手法の開発,統合された地震観測データを用いてノイズレベルの高い首都圏でも適用可能な自動震源決定手法の高度化,歴史地震による揺れの分布の再現,3 次元階層化地震活動予測モデルを開発等の研究を行っている.
今年度は,これまでにトモグラフィー解析で推定した地震波速度異方性構造と温泉地学研究所がレシーバ関数法で推定したフィリピン海プレートの構造とを統合した.それぞれの解析結果の精度が不十分な部分を補い合うことができ、その結果,フィリピン海プレートの地殻の厚さの分布が明確になり、地殻の薄い部分が過去の大地震の震源域と対応することが明らかになった.それは,今後発生すると考えられている首都圏の大地震の地震像を想定する際に,重要な要素の一つになる.
大地震が発生した際の地震波による地表面の揺れは,必ずしも均質ではなく,地域によって異なっている.揺れは,地震波減衰構造や地盤特性等に大きく影響されるためであり,細かな地点ごとの情報があれば,そこから算出することが可能である.しかし,詳細な被害分布を推定するには,まだ地下構造の情報が足りない.そこで,これまでに観測された地震動を用いて,相対的な地点ごと揺れの特徴を求めた.その情報をもとにして,面震源(断層)を仮定した際の震度分布推定アルゴリズムのプロトタイプを開発した.
大地震の発生は大きな被害をもたらすが,その頻度は高くなく,その情報は限られている.そのため,大地震の地震像やその被害状況を知るためには,過去に遡って古文書等から読み解く必要があり,これまでに多くの文献が収集されてきた.被害の記述から被害の程度を判定し,その分布から震源の位置や地震の規模等を知ることができた.ただ,その震度は,震源から同心円状に分布するわけではなく,地域による不均質がみられる.地下構造や地盤特性の影響と考えられるが,それを現在の地震の震度分布と比較するために,震度のデータベースを作成している.具体的には,古文書に書かれている被害地点を古地図の中から探し出し,位置を特定する.そして,その地点に地震計を設置し,現在の地震による揺れを観測する.古文書に記述されていない地点でも同時に観測することで,相対的な震度を推定することができ,震度分布の密度を高めることが可能になり,歴史地震の地震像を推定する際の重要な情報の一つとすることが期待される.
近年に発生した大地震の本震発生前後の地震活動を統計モデルで解析し,余震活動の収束性や本震に至る地震活動の特徴の解析を継続して行い,統計モデルの高度化をはかっている(例えば能登半島の地震).
図3.11.2
図3.11.1
3.11.7 スロー地震学プロジェクト
スロー地震とは,普通の地震に比べてゆっくりした断層すべり現象の総称であり, 2000年前後に日本全国に展開された地震・GNSS観測網によって発見され,その後,環太平洋の各沈み込み帯でも次々と見つかってきた.スロー地震は巨大地震震源域を取り囲むように分布し,両社間には何らかの相互作用の存在が期待されるため,スロー地震に対する理解を深めることは非常に重要である.そこで,スロー地震による低速変形と普通の地震つまり高速すべりとの関係性を含め,これらの地震現象を統一的に理解することを目指す目的で,科学研究費新学術領域研究「スロー地震学」プロジェクトが2016年より5年計画で開始した.このプロジェクトでは地震学・測地学だけではなく,地質学,物理学などのアプローチを結合し,スロー地震の発生様式,発生環境,発生原理の解明に向けて,6つの計画研究,A01「海陸機動的観測に基づくスロー地震発生様式の解明」,A02「測地観測によるスロー地震の物理像の解明」,B01「スロー地震発生領域周辺の地震学的・電磁気学的構造の解明」,B02「スロー地震の地質学的描像と摩擦・水理特性の解明」,C01「低速変形から高速すべりまでの地球科学的モデル構築」,C02「非平衡物理学に基づくスロー地震と通常の地震の統一的理解」において研究を進め,さらに,総括班と国際活動支援班を置いて,プロジェクト全体のマネジメントと国際的な研究推進活動を行なっている.地震研究所では,観測開発基盤センターの他,地震予知研究センター,地震火山情報センターなど複数の部署において横断的にプロジェクトを推進するとともに,東大大学院理学系研究科,神戸大学,筑波大学などを含む全国の多くの研究機関と共同で研究を実施している.また本プロジェクトでは,スロー地震研究を国際的に活性化させる目的で,様々な種類のスロー地震を対象として様々な解析手法で構築されたスロー地震カタログを集約し,共通フォーマットでの取り扱いを可能とするようなスロー地震データベースを安定的に維持・管理している,データベースへのカタログ登録を継続的に呼びかけ、現在では約80のカタログが登録されている。なお,本プロジェクトは2020年度末で終了予定であったが,コロナ禍のため2021年度に繰り越して領域活動を継続している.
3.11.6 強震動観測研究
(1)定常的な強震観測網の運用
伊豆・駿河湾地域や足柄平野などにおける高密度の強震観測網を中心とした観測研究を,強震計観測センターの時代から継続して行っており,近年リアルタイム化を進めている.伊豆駿河湾の観測網は東海地方での大規模地震発生を想定して,地域を代表する露岩上に設置されている.一方,足柄平野の観測網は表層地質による強震動への影響を評価することを主目的として1987年に設置され,国際的なテストサイトとしても位置づけられている.定常的な強震観測網では,地盤特性の把握を目的としたボアホール観測に加え,地盤と建物の同時観測も実施している.
(2)臨時強震観測の実施
開発された機動観測用強震計は,微動観測にも対応可能な増幅器を併せ持ち,共同利用の枠組みなどを通して機器の貸し出しが可能な体制を取っている. 2016年熊本地震後に震源域周辺において臨時強震観測を他機関と共同で行った他,拠点間連携共同研究による小田原地域や東京湾岸地域の共同観測に参加した.
(3) 強震観測データベースの公開
2007年度より,観測された強震動記録のアーカイブと公開を行うデータベースシステムの開発を進め,そのシステムを用いて1980年以降のデータ公開を開始し,以後,引き続き公開を行っている(https://smsd.eri.u-tokyo.ac.jp/smad/ ).また,1964年新潟地震の川岸町においてSMAC型強震計で観測されたデジタイズ記録を公開した他,1956年から1995年兵庫県南部地震までのSMAC型強震計記録の画像データを公開した.
3.11.5 新たな観測手法の研究
地震・火山現象を理解するためには地下深部の観測が不可欠であるが,機器を設置できるのは地球全体の規模からすると地表に近いごく一部の領域にすぎない.そのため観測機器の精度の向上や観測範囲の拡大を目指して,レーザー干渉計などの光計測を用いた新たな観測機器の開発に取り組んでいる.レーザー干渉計は高精度・低ドリフトの変位センサーであり,地震・地殻変動観測機器へ組み込むことにより観測装置の高精度化や装置の小型化ができる.また光を用いた計測手法は,半導体素子では観測が難しい地下深部・惑星探査など極限環境での高精度観測を可能にする.
(1) 長基線レーザー伸縮計による広帯域ひずみ観測
レーザー伸縮計は地殻変動から数十Hz の地震波まで広いタイムスケールの地動を観測できる.岐阜県の神岡鉱山(東大宇宙線研究所神岡宇宙素粒子研究施設)の地下1000 m のサイトにおいて,独自開発した波長安定化レーザーを組み込んだ100 mレーザー伸縮計を用いて,世界最高感度のひずみ観測を継続している.これまでに,地球潮汐を利用した観測ひずみとregionalひずみ場の関係の定式化,間隙水圧と関連した季節変動ひずみの検出,地球自由振動の観測,遠地地震に伴うひずみステップを用いた測地学的な地震モーメントの推定などを行った.近地~遠地にわたる多様な規模の地震に伴うひずみステップが飽和せず取得され,レーザー干渉計の広帯域・広レンジ計測が実証された.この技術に基づき,神岡で進められている重力波望遠鏡建設計画(KAGRA)と連携し,1桁以上スケールアップした長さ1500mのレーザー伸縮計をKAGRAトンネル内に建設し,2016年8月から観測を行っている.100mレーザー伸縮計よりも高い分解能で地球潮汐やひずみステップが観測されており,regionalひずみ場と整合する季節変動もみられている.また,愛知県犬山観測所(名古屋大学,30m),静岡県天竜船明観測点(気象庁気象研究所,400m)に設置されている同様のレーザー伸縮計と同時観測を行い,共通イベントの検出や地震学と測地学にまたがるタイムスケールの現象の解析などを継続している.
(2) 光ファイバーリンク方式の観測装置の開発
レーザー干渉計の光源とセンサーを光ファイバーでつなぐことによりセンサー部を無電源化し,地下深部や惑星探査など極限環境(高温・極低温・高放射線など)で使用可能な高精度観測装置を構成できる.その一つとして,小型広帯域地震計の開発を行っている.この地震計は小型長周期振り子の変位検出部としてレーザー干渉計を使用し,光ファイバーでレーザー光を導入することにより耐環境性を高めている.試作機を用いたこれまでの性能評価では,広帯域地震計(STS1型) と同等の検出性能が確認され,干渉計部分は-50℃~ 340℃の温度範囲で動作できる.この原理の地震計を複数光ファイバーで接続し地下深部の地震観測網を構築することを検討している.
(3) 小型絶対重力計の開発研究
絶対重力計は地殻変動や物質移動(マグマ移動・地下水の変動など)を観測する有効な手段である.火山観測など野外で機動的に使用でき,また複数の装置を使った観測網を構築できるような小型絶対重力計を開発している.小型で必要な精度が得られるように高精度なレーザー干渉信号の取得法や地面振動ノイズの補正機構を導入し,従来の市販装置の約2/3 のサイズの実証機を開発した.霧島火山観測所(宮崎県),蔵王観測所(宮城県,東北大)などで試験観測を行い,設計精度10-8m/s2が得られることを確認した.また,観測網を構築するために長距離伝送できる通信波長帯光源(波長1.5μm帯)を用いた動作試験を東北大・電気通信研究所と共同で実施し,従来の光源(波長633nm)の測定結果と一致し,光ファイバーによる光源の長距離伝送による精度劣化などは生じないことがわかった.火山帯の野外環境などで複数の絶対重力計を光ファイバーで接続し観測網を構成する手法開発を進めている.南極の昭和基地や周辺の露岩地域において,寒冷な野外に装置本体を設置し,長基線の光ファイバーで光源と検出器を接続した構成での絶対重力測定を実施した.また,国立天文台江刺地球潮汐観測施設(岩手県) においては,東北地方太平洋沖地震後の重力変化を継続的に観測している.
(4) 重力偏差計の海底・月惑星・小天体探査への応用
地下構造を探査する方法として,広い空間スケールの重力場(重力加速度)をとらえる重力計に加え,その空間微分を測定する重力偏差計を併用することにより狭い範囲に局在化した鉱床などの密度異常のマッピングができる.海底鉱床の探査手法として,無定位振り子と光センサーを組み合わせた加速度計2台によって構成される重力偏差計を製作し,自律型無人潜水機(AUV) に重力計とともに搭載し,海中移動体上で探査を行ってきた.一方,月惑星や小天体などの天体の内部構造はいまだ十分な探査が行われておらず,着陸機あるいは周回機による観測で重力偏差計を用いれば従来の重力加速度の観測よりも高い分解能が得られることがモデル計算によって示されている.国立天文台および宇宙科学研究所(JAXA)と共同で小天体や月惑星表面などの内部構造探査を目指した重力偏差計の開発を進めており,光センサーを用いた小型重力加速度計を試作した.50m落下塔を用いた微小重力試験を実施し,所期の動作性能を確認した.また,小型絶対重力計の技術を転用し,2つの鏡を真空中で同時落下させ重力偏差を計測する自由落下式重力偏差計の基礎データを取得した.月惑星など重力天体表面における地下構造探査を目指して機器構成などの検討を今後行っていく.
3.11.4 電磁気的観測研究
(1)八ヶ岳地球電磁気観測所における基準観測
八ヶ岳地球電磁気観測所では東海・伊豆地方における地球電磁気連続観測の参照となる基準連続観測を継続した.毎月の地磁気絶対観測により地磁気3成分測定値の基線値を同定するとともに,毎月約2週間の,絶対観測室磁気儀台上の全磁力の繰り返し連続計測を実施し,観測所全磁力連続観測測定値との全磁力差を同定した.加えて毎月,地磁気絶対観測の際に絶対観測室内の水平48点,鉛直5層の計240点における全磁力値を計測して同室内の全磁力勾配を評価し,全磁力差や基線値の季節変化・経年変化との関連を調査するための基礎資料を作成した(ただし2021年度は4月,10月,2022年1月を欠測とした).これらの参照資料とするための気温・地温連続測定を継続して実施した.記録計室内での気温・気圧・湿度計測のオンライン化,局舎敷地内のwebカメラによる画像での敷地内の状態の定時監視,庁舎のwebカメラによる気象条件の常時監視による,無人観測所の保守を継続した.
気象庁及び同地磁気観測所による,草津火山における火山活動監視を目的とした全磁力観測値の参照値として,前日分のデータを毎日自動で送付する仕組みの運用を継続した.
(2)東海・伊豆地方における地球電磁気連続観測
東海地方の7観測点(河津,富士宮,奥山,俵峰,相良,舟ヶ久保,相良)における地球電磁気連続観測,伊豆地方の9観測点(大崎,湯川,新井,玖須美元和田,岡,手石島,与望島,川奈,池)における全磁力観測を継続するとともに,機器の保守を実施した.
(3)その他の地殻活動域における連続観測
(3-1)デジタルコンパスデータを用いた偏角変化連続観測の試み
2014年6月に開始した,浅間山に設置された4台のボアホール型傾斜計に内蔵されたデジタルコンパスが計測する偏角データ(毎秒値,分解能0.01度)の収録を継続した.
(3-2)沖縄県石垣島・西表島における地磁気連続観測
2014年度に全磁力観測を,2015年度に地磁気変化3成分観測を開始した石垣島,西表島における地磁気連続観測を継続した.