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3.11 Center for Geophysical Observation and Instrumentation

3.11.3 活動的火山における多項目観測研究

地震研究所では,文部科学省科学技術・学術審議会が5年ごとに関係大臣に建議する研究計画に基づき,火山噴火予測に関連する観測研究を全国の大学・研究機関と協力し,その中核となって実施している.この研究計画は,その前身の火山噴火予知計画から約半世紀の間,その内容を学術の進歩に合わせて変更しながら継続してきた.火山噴火は発生すると大きな被害をもたらすが,発生頻度が低いため,長期の観測データの蓄積が不可欠であり,この50年弱のうち,特に最初の約20年間は火山観測網の充実が図られ,さらに研究者及び観測を支える技術職員が増員され,日本の火山学の進展に大きく貢献してきた.最新の研究計画は2019年1月に建議され,2019年4月から5年間に渡り実施中の「災害の軽減に貢献する地震火山観測研究計画(第2次)」である.この計画は前計画に引き続き火山災害の軽減を目指して,観測,実験,理論の各手法を用いて火山現象の解明とその成果に基づく火山噴火予測に関する研究行なうことになっている.現建議において火山の研究に関して特筆すべき点として2つ挙げることができる.一つは,火山噴火予測の精度向上を目指すために火山活動推移モデルの構築を重点的研究とした点である.もう一つは,2014年9月に発生した御嶽山噴火で多くの犠牲者が出たことを重視し,観光地となっていて登山客や観光客が火口近傍まで訪れる火山については,小規模な噴火であっても大きな災害を引き起こす火山噴火であるとして「高リスク小規模火山噴火」と位置づけ,地球物理学観測だけでなく,地球化学,地質学,史料研究を含めて包括的な研究を実施することを打ち出した点である.

当センターにおいては,長年継続して整備されてきた火山観測網やそれを支えるシステムの維持・強化を担っており,火山噴火予知研究センターをはじめとする他のセンター及び部門と協力し,観測に基づく火山噴火予測研究を実施している.火山噴火予測においては,噴火発生時の諸現象を精度良く捉えて噴火現象に関する新たな知見を得ることも重要であるが,火山噴火の準備段階は往々にして数十年を超える長期にわたることもあることから,長期にわたり観測を継続し,噴火に至るまでの火山内部のわずかな変化を捉え,その原因を科学的に解明することも極めて重要である.このようにして得られた火山活動に関する知見を火山噴火予測に活かすことが,火山噴火予測研究の重要な目的である.従来の火山噴火予測は,噴火に先行する現象に基づく経験則に大きく依存していた.火山噴火前のさまざまな火山現象を科学的に解明することによって,より普遍的かつ科学的な火山噴火予測に発展させることを目指すべきであり,そのためには精度の高い各種観測データを長期に安定して蓄積することが重要である.

本研究所では,これまでの「火山噴火予知計画」で観測網が整備された浅間山,伊豆大島,富士山,霧島山,三宅島の5火山を中心に長期的・継続的な観測を行っている.これらの火山においては,地震・地殻変動・全磁力変化・空振観測・熱映像・可視画像等の多項目の観測を行い,噴火に伴う諸現象,噴火前に起こる前兆現象を捉え,その物理・化学過程を明らかにする研究を実施している.また,この他の火山においても,他大学・機関との協力し様々な観測を実施している.ここでは主として,それぞれの火山における観測の現状と観測研究の目的や意義について述べる.

(1)浅間山

浅間山では,広帯域地震(17点),短周期地震(2点), GNSS(13点),傾斜(5点),全磁力(3点),空振(1点),熱映像(1点),可視画像(3点)の多項目観測を行い,浅間火山観測所と小諸火山観測所を拠点として観測網の維持管理を行っている.山頂付近のデータは無線LANによる中継あるいは光ファイバーを経て浅間火山観測所に集約され,本研究所までインターネット高速回線を用いて伝送されている.また,観測点の通信状況などに応じて 衛星回線や有線回線,携帯データ通信を利用したデータ転送も行われている.

浅間山の最近の活動としては,山頂付近の観測網が増強されつつある中で発生した2004年の中規模噴火,2009年と2015年の小規模噴火,2019年8月の極小規模噴火を挙げることができる.2004年噴火では,噴火前に浅間山西方深部にあるマグマ溜まりの増圧を示す地盤変動がGNSS観測等で捉えられた.また,噴火前に山頂付近で発生する長周期の地震動(VLP)の発生様式が変化するなどの現象が捉えられた.さらに,VLPの波形解析から推定される火道浅部の体積変化と火山ガス(SO2)放出量の相関の高さから,VLPは火山ガス放出の指標となると考えられている.一方,2019年8月に発生した小規模噴火では,2004年の中規模噴火や2009年と2015年の小規模噴火とは異なり,これまで知られていた噴火に先行して現れる明瞭な先行現象は見られなかった.しかし,火口付近のデータを精査すると,火口の西側に設置している赤外カメラの解析から,噴火の約10日前の7月27日から火口底の温度が急激に低下し,それが噴火発生まで継続していたことがわかった.また,その間,火口直下浅部を震源とするBL型地震の発生頻度が低下していること,火口直下を震源とするBH型地震については7月末ごろから明らかに活動度が上昇していたことがわかった.これらのことから,2019年8月噴火は他の噴火のように深部からのマグマの供給により発生するものではなく,深部から火口に通じていた火山ガスの通路が一時的に閉塞して噴気が火口から放出されなくなり閉塞した火道に蓄積した火山ガスが岩塊を吹き飛ばした現象であると推定された.この結果は,火口近傍での多項目観測の重要性を如実に示すものである.

(2)伊豆大島

現在,伊豆大島には24点(うち4点は広帯域地震計を併設)からなる地震観測網と14点からなるGNSS観測網によって地震及び地盤変動観測を行っている.これらの観測網は,従来の地震及び地盤変動観測機器が老朽化したため,2003~2004年に一気に更新したものである.この更新以降期間にわたり精度の高い地震及び地盤変動の観測データを蓄積してきたが,近年これらの機器の老朽化が再び目立つようになってきた.そのため,最新の観測機器に更新する作業を2018年度から実施し,地震観測ロガーやGNSS受信機の更新を進めている.電磁気的観測については,プロトン磁力計による全磁力の連続観測に加え,能動的な比抵抗構造探査手法の一つである ACTIVE観測や長基線の電位差を計測するネットワークMT観測を実施している.

これらの各種観測データは,様々な手段を用いて地震研究所に集約されている.通信会社による有線回線サービスを利用することのできる観測点では高速で信頼性の高い光回線網を,有線回線サービスを利用することが難しいが携帯通信網が利用可能な観測点では4G携帯電話回線網を用い,そのいずれも利用できない観測点では無線LAN装置を設置してデータ伝送を行っている.有線回線網ほど安定的なデータ伝送が行われない携帯電話回線網を利用した観測点では,自動的に最適速度でのデータ送信や再送を行うACTプロトコル(当研究所で開発)を用いて,人手をかけず安定的なテータ収集を行っている.

伊豆大島では,1986-87年の前回の噴火から34年以上が経過している.明治以降の平均噴火間隔が36~38年であることから,次の噴火が近づいており,現在は噴火に至る諸現象が地下で進行していると考えられる.噴火前に地下で起こる諸現象を捉え,それを理解することにより,噴火の発生時,規模,噴火様式を予測することが重要である.

科学的な記録が残っている伊豆大島のこれまでの噴火では,他の火山と異なり噴火初期(発生時)には,火山性微動は発生するものの明瞭な地震活動の高まりが見られないとされている.これは,伊豆大島のマグマが低粘性の玄武岩に富むものであるため,マグマに含まれる火山性ガスが噴火前から効率的にマグマから放出され,噴火初期には比較的爆発性の低い噴火様式になると考えられる.実際,前回1986年の噴火ではマグマに先行してそこに含まれる高温の火山ガス等の揮発性成分が地下浅部に上昇し,地中の温度上昇による熱消磁,地下の電気伝導度の変化が噴火に前に起こり,その後,火山性微動が発生してその振幅が大きくなったのち,マグマが火口に満たされる山頂噴火に至ったと考えられている.その間,顕著な地震活動の増加は見られなかった.そのため,伊豆大島では来るべき噴火活動に備えて,山頂火口周辺での広帯域地震観測網の増強,土壌火山ガス連続観測,空振観測網の整備も検討されている.2018年9月には,三原山の火口近傍に,理学研究科火山化学研究施設と共同で土壌火山ガス連続観測装置を設置した.また,カルデラ内にある三原西観測点の深度1000m井戸については,マグマに先行して上昇してくる揮発性成分(火山ガス)を捉えるため,観測装置の設置を模索している.

次回の噴火の発生初期も前回と同様な経過をたどる可能性が高いと考えられるが,現時点では熱消磁や火山性微動の発生は観測されておらず,噴火が切迫している証拠は見つかっていない.今後も,これまでに蓄積された精度の高い地震及び地盤変動の観測データを併せて解析することにより,噴火の準備段階として山体内部で進行する現象の理解を目指す.

(3)富士山

富士山では9点からなる地震観測網を主体とした観測を行っている.この内4点は地表設置型広帯域地震計,3点はボアホール型広帯域地震計である.ボアホール観測点には3成分歪計,高感度温度計,傾斜計も設置されている.また全磁力観測も継続している.他の火山同様,富士山に於いても観測点の条件に応じて様々な伝送方式が用いられている.

富士山は,三宅島や伊豆大島に比べて噴火間隔が長く,1707年の宝永噴火以降,噴火していない.しかしながら,2000年10~12月及び2001年4~5月に深部低周波地震が多発し,火山活動の活発化が懸念された.深部低周波地震は火山活動の活発化に先行して発生する例が多いが,その発生機構については未だ解明されていない.そのため,広帯域地震計を主体として,長周期振動を捉えることに重点を置いて観測を行っている.2001年以降,深部低周波地震の活発化は見られない.今後の発生と,その後の火山活動の変化を見据えて,観測を継続している.

(4)霧島山

地震研究所は新燃岳周辺を含む広域で地震観測(17点),GNSS観測(3点),全磁力観測(1点),空振観測(3点)を行っている.これらの観測は,火山噴火予知研究センター・鹿児島大学などと協力して進めている.

霧島山新燃岳では2011年1月に爆発的な噴火が発生した.この噴火に先立ち2009年12月頃から新燃岳南西数㎞,深さ約8㎞にあると推定されているマグマ溜まり(以下,深部マグマ溜まり)に徐々にマグマが蓄積したことが明らかになった.噴火時にマグマの噴出により一挙にマグマ溜まりが収縮し,その後は2011年10~11月頃までマグマの蓄積が続き,一旦停止した.これに呼応して,新燃岳の活動は一旦休止した.この深部マグマ溜まりの膨張は,霧島山全体の大局的な活動の重要な指標となっていることが徐々に明らかになっている.

2013年8月から2014年10月までは再度深部マグマが膨張し,その後膨張は停止した.それに呼応するかのように,2014年8月以降えびの高原の硫黄山から韓国岳に掛けて地震活動が活発化し,火山性微動の発生とそれ同期する傾斜変動も観測された.その後この地域の活動は一旦低下したが,2015年8月頃より硫黄山周辺で傾斜変動を伴う火山性微動が度々発生するようになり,2016年1月には顕著な地表高温域の拡大と噴気の増大が見られるようになった.

2017年7月からは深部マグマ溜まりが再度膨張を始め,10月11日に新燃岳で小規模な噴火が発生した.噴火に先立ち傾斜変動を伴う低周波の微動が観測されたほか,噴火中に様々な火山性微動が火口近傍の複数の広帯域地震観測点で観測された.この活動は約1ヶ月程度継続した後一旦活動が低下した.2018年3月1日から3度目の噴火活動が再開し,3月8日には爆発的な噴火に移行し,1週間程度活動が継続した.その後新燃岳の活動は小康状態になっている.

硫黄山の活動は2017年9月以降低下していたが,2018年3月初旬に新燃岳が3度の爆発的噴火を起こした直後から再度活発化し,2018年4月19日に硫黄山に隣接するえびの高原で水蒸気噴火が発生した.

一連の活動を通じ,霧島山では,深部マグマだまりの膨張が引き金になって,新燃岳のマグマ噴火,硫黄山の水蒸気噴火を引き起こしていることが明らかになってきた.新燃岳の噴火と硫黄山の熱水活動や水蒸気噴火は,いずれも同じマグマ溜まりにマグマが供給された後に発生しており,共通のマグマの供給システムで駆動されていると推定される.即ち,霧島山は多くの火口を有する山容が示すように複雑なマグマや高温の火山ガス供給システムが地下に存在すると考えられ,新燃岳の噴火及び硫黄山付近での熱水活動や水蒸気噴火は,一連の火山活動として捉えられる.霧島山の一連の活動は噴火現象の推移の複雑さを理解する上で大変興味深い事例と言える.今後も観測を継続し,噴火活動の推移の理解につながる研究を目指す必要がある.

(5)三宅島

三宅島では,2000年噴火後は2010年頃まで山体収縮が続いていたが,それ以降山体膨張に転じた.これは,次の噴火に向けて,マグマ溜まりでのマグマの蓄積が再開したことを示している.また,2000年以前はそれほど地震活動が活発でなかったが,噴火後,大きく崩落した火口南側直下浅部を震源とする地震が非常に多く発生している.しかも,その活動度は季節により大きく変動していることが明らかになった.

2000年噴火直後と最近の地下の比抵抗構造の時間変化を研究するため,2012年と2019年にMT観測を実施した.これは,地下の温度変化,地下水の回復過程に着目して,今後の火山活動を評価し,その推移を解明するための基礎となるデータである.また,無人ヘリコプターにより,中腹の周回道路内側全域と火口周辺において空中磁気測定を2014年5月,2016年11月,2021年3月に実施した.磁化構造の変化から,火口直下では帯磁傾向が続いており,地下浅部では前回2000年噴火から地温の低下が継続していると推定されている.今後も,定期的にこのような観測を繰り返し,時間推移を捉えることが重要である.

三宅島では近年の噴火周期が20年程度であることから,次回の噴火が遠くないと思われる.このような火山における噴火前後で発生するマグマや地下水の移動とそれに起因する諸現象を捉えることが,火山噴火現象の解明と噴火予測に重要であることから,文部科学省委託事業「次世代火山研究推進事業」の課題B「先端的な火山観測技術の開発」サブテーマ4「火山内部構造・状態把握技術の開発」で,他機関の観測点が少ない火口近傍に広帯域地震観測点を3点,GNSS観測点を2点設置して観測能力の向上をはかった.次回の噴火が同じマグマ溜まりが活動して発生するかは大変興味がある問題で,これらの知見の積み重ねを経て,次回の噴火の予測や噴火現象の理解の深化を目指している.

3.11.2 海域における観測研究

(1)災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画による海底観測

(1-1)平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震震源域の海底モニタリング観測

 2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震(以下東北沖地震)の発生時には,震源域の一部に,海底地震計が設置されており,本震発生直後から,海底地震計を追加設置し,余震観測を実施した.その結果,本震時に大きな滑りが推定されている本震震源付近では,本震直後から余震活動が低調であり,地震活動の様式が変化したことがわかった.その後2011年9月からは,主に長期観測型海底地震計を用いて,震源域における海底モニタリング観測を長期にわたって,実施している.

 地震時の滑りが大きかった東北沖地震震源域本震付近における長期の地震モニタリング観測は,プレート間固着の変化などを把握するために重要である.そこで,2013 年9 月に,長期観測型海底地震計を宮城県・岩手県沖に展開し,モニタリング観測を2014年10月まで実施した.さらに,2015年5月には,震源域最北部の青森県沖に,長期観測型海底地震計を設置して,海底地震観測を2016年5月まで実施した.また,2014年10月から2016年10月まで,科学研究費助成事業「深海調査で迫るプレート境界浅部すべりの謎~その過去・現在」と連携して,広帯域海底地震計を含む小スパンアレイと長期観測型海底地震計による宮城県沖における海底モニタリング観測を実施した. 2016年10月から2018年11月までは,同科学研究費助成事業と連携して,小スパンアレイによる観測を福島県沖において実施した. 2019年7月から2020年10月にかけては,科学研究費助成事業と連携して,北海道えりも岬沖において,小型広帯域地震計と長期観測型海底地震計を用いた小スパンアレイ観測を実施した.2020年10月は科学研究費助成事業とも連携して,岩手県沖において広帯域海底地震計を含む小スパンアレイと長期観測型海底地震計による海底モニタリング観測を開始し,2021年2月まで観測を継続した.なお,これらの観測研究は,北海道大学,東北大学,京都大学,鹿児島大学,千葉大学との共同研究である.

(1-2)南西諸島海溝北部における長期海底地震観測

 南西諸島海溝域では,島嶼が海溝軸から100~200 km 離れた島弧軸に沿って直線状に配列するのみであり,プレート境界付近の微小地震活動等の時間空間的変化の詳細な把握が難しい.本観測研究は,海域に長期観測型海底地震計を設置して,プレート境界3次元形状などを明らかにするとともに,活発な活動が確認されている短期的スロースリップイベントや超低周波地震の詳細を明らかにする.2021年8月に観測を行った長期観測型海底地震計を回収するとともに,予め準備した長期観測型海底地震計をトカラ列島東方海域に設置し観測網を構築して観測を実施している.なお,この観測研究は京都大学,鹿児島大学,長崎大学との共同研究である.

(1-3)ニュージーランド北島ヒクランギ沈み込み帯における海底観測

 ニュージーランド北島ヒクランギ沈み込み帯北部では,平均しておよそ2年の周期でスロースリップが発生しており,このうち6年程度の周期で規模の大きなイベントが起こっている.2014年5月から2015年6月にかけて海底地震計と海底精密圧力計を用いて実施した観測では,比較的大規模なスロースリップイベント(SSE)を観測網直下で捉えることに成功し,そのプレート境界面上のすべりが部分的に海溝軸近傍まで達していることが,世界で初めて確認された.また,このSSEが終了する時期から,沈み込んだ海山周辺で3週間ほど連続して発生する微動活動を明らかにした.一方,沈み込む海洋性地殻内での地震活動における発震機構の時間変化とSSEとの対応関係から,通常は横ずれ型の地震が卓越しているのに対し,SSE発生直前には多様なメカニズムの地震が発生していることが明らかとなった.このことは,海洋性地殻内における脱水反応によって間隙水圧が上昇し,有効法線応力があるレベルまで減少したところでSSEが発生する可能性を示唆している.なお,この観測研究は,東北大学,京都大学, UCSC(米国),LDEO(米国),University of Colorado at Boulder(米国)との共同研究である.2018年には同海域に海底地震計を設置し,2019年3月に発生したSSEおよび微動活動を再び観測網直下で捉えることに成功した.2019年10月にはこれらの海底地震計を回収し,良好なデータが記録されていることを確認した.この微動活動の発生様式は2014年の活動に類似しており,SSEの終息時期から3週間ほど,沈み込んだ海山周辺域に限って連続して発生していることがわかった.一方,活動の規模は2014年のものよりも遥かに大きく,その発生メカニズム解明に向け,これらの微動活動の時空間分布の比較,および構造調査から得られた構造不均質との対比などについて,詳細に解析を進めている.2020年11月には,ヒクランギ沈み込み帯中部における,固着強度が大きく変化する固着強度遷移領域に,長期観測型海底地震計を設置して海域地震観測を開始し,2021年10月に回収した.本海域では2020年5月に大規模なSSEが発生し,これを観測網直下に捉えることに成功した.このSSE伴う微動活動などについて,現在解析を進めている.またここで回収した海底地震計を整備した上で,2018-19年に実施した観測網と同海域に設置し,2021年10月に観測を開始した.

(1-4)宮崎県沖日向灘における長期海底地震地殻変動観測

 宮崎県沖日向灘では,活発な低周波微動活動が確認されている.その活動状況を正確に把握することは,海洋プレート沈み込みを考える上で重要である.そこで,2020年11月に,宮崎県沖日向灘に長期観測型海底地震の小スパンアレイを新規に設置して,観測を開始した.2021年8月に,観測を終了した長期観測型海底地震計を回収し,観測を継続するために,長期観測型海底地震の小スパンアレイを再設置した.なお,この観測研究は,京都大学との共同研究である.

(1-5)東北日本弧横断構造探査実験

 日本列島の形成や海溝型地震の影響を考える上で,深部構造を精度よく求めることが必要であり,日本海溝外側から日本海までの領域について,リソスフェアとアセノスフェアの詳細な構造を求めることは重要である.日本海における地殻構造の不均質や日本海東縁の歪み集中帯の形成,2011年に発生した東北地方太平洋沖地震が長期に与える影響などを考える上で,有益な情報である.そのために,日本海から日本列島を横切り日本海溝に至る測線を設定し,測線上に長期観測型海底地震計を設置して,実体波トモグラフィー・レシーバー関数解析・表面波解析などから深部までの構造を求める.さらに,この測線上で大容量エアガンを用いて構造探査実験を行い,深部構造と上記の解析に必要な詳細な浅部構造の情報を得る.2019年8月に,この計画の一環として,宮城県沖に測線を設定し,長期観測型海底地震計を設置し長期観測を開始した.さらに,設置した長期観測型海底地震計,別計画で設置された日本列島上の高密度臨時地震観測点と日本海に設置された海底地震計に向けて,エアガン発震を行った.2022年1月に観測を終了した長期観測型海底地震計を回収した.

(1-6)房総半島南部における長期海底地殻変動観測

 房総沖スロースリップ領域において,海底における地殻変動を検出することを目的として,長期観測型海底水圧計による観測を実施している.2018年9月に,海底水圧計を設置して観測を行っているが,海底水圧計を2020年10月に追加で設置した.2021年8月には海底圧力計を回収・再設置を行い,観測を継続した.用いている海底水圧計は3年間以上の連続収録が可能である.これまでに回収した長期観測型海底水圧計のデータについて解析した結果,海底の上下変動が約1 cmの精度で観測できることが示された.2018年6月の房総沖スロースリップの活動期間を含むデータから,スロースリップに伴う約1~2 cmの上下変動が検出された.なお,この観測研究は,千葉大学との共同研究である.

(1-7)青森県東方沖における海底臨時地震観測

 2020年11月6日から7日にかけて,青森県東方沖でM5クラスの地震が続発した.地震発生域は,1968年十勝沖地震(Mw8.2)破壊開始点やすべり域の付近でもあり、かつ1994年三陸はるか沖地震(Mw7.7)のすべり域の付近でもある.そのため,今後の地震発生を考える上で,活動域近傍での断層すべり・固着状態を把握・評価するため、ゆっくりすべりを含んだ地殻活動のモニタリングを行うこととした.2021年2月に固有周期120秒の地震計センサーを搭載した小型広帯域海底地震計を青森県東方沖に設置して,モニタリング観測を開始した.

(2)文部科学省委託事業による海底地震調査観測研究

(2-1)防災対策に資する南海トラフ地震調査研究プロジェクト

 南海トラフでは将来規模の大きな地震の発生が想定されている.そこで,南海トラフ地震の活動を把握・予測し社会を守る仕組みを構築し,地域への情報発信による減災への貢献をめざす委託研究プロジェクトが2020年から5カ年の計画で実施されている.このプロジェクトの一環として,南海トラフ西部の日向灘において,広帯域海底地震観測を計画している.2021年3月に小型広帯域海底地震計を含む長期観測型海底地震計を,宮崎県沖日向灘に設置して,観測を開始した.2022年1月には小型広帯域海底地震計を含む長期観測型海底地震計の回収・再設置を行い,観測を継続している.なお,この観測研究は京都大学と連携して行っている.

(3)共同研究による海底観測研究

(3-1)南西諸島における広帯域地震計による低周波地震・微動モニタリング研究

 南西諸島域では島弧全体にわたって浅部プレート境界において低周波微動,超低周波地震,短期的スロースリップの活動が活発であることがわかってきた.これらの低周波イベントはプレートのカップリングと密接に関連していると考えられている.そこで,低周波イベント活動および微小地震を含む地震活動の正確な把握を目的として,南西諸島海溝域における海底地震観測を2015年から開始した.南西諸島域の大部分は海域となっており常設の地震観測点が少ないために,海底観測点を追加することにより効果的な地震観測網を構築できる.観測域には島嶼観測網から低周波イベントの発生が推定されている南西諸島海溝中部から北部とした.2015年1月から2016年8月まで広帯域海底地震計・長期観測型海底地震計を設置して南西諸島海溝中部において全体の活動を把握するための広域地震観測網を構築して観測を実施した.2016年8月から低周波イベント活動が活発な奄美大島東方海域に観測点間隔30 km程度の観測網を構築し観測を開始した.2017年8月には設置した海底地震計を回収し,北東に拡張した観測網を再度構築し,2019年4月に海底地震計を回収した.一方,2019年2月には観測を継続するために小型広帯域海底地震計による観測網を構築し,2020年1月まで観測を行った.これまでに回収されたデータを用いて,通常の地震活動を含めて,低周波微動,超低周波地震の解析を進めた.なお,本研究は,公益財団法人地震予知総合研究振興会,京都大学との共同研究である.

(3-2)メキシコ太平洋沿岸部ゲレロギャップにおける長期海底地震・圧力観測

 メキシコ太平洋沿岸部は,ココスプレートが北米プレートに沈み込んでおり,プレート境界型巨大地震が発生する.しかし,ゲレロ州の沖合(ゲレロギャップ)は,近年大きな地震の発生が見られない一方,スロースリップが4年程度の間隔で繰り返して発生していることが知られている.プレート間歪みをスロースリップのみで解消しているわけではなく,将来巨大地震発生の可能性があると考えられている.そこで,ゲレロギャップ下のプレート間固着を明らかにすることを目的として,同領域において海底地震地殻変動観測網を構築した.2017年11月に,長期観測型海底地震計および長期観測型海底圧力計を,メキシコ国立自治大学(UNAM)所属研究船El Pumaを用いて設置した.観測領域は,海溝沿いに約120 km,直行方向に約50 kmである.2018年は11月に同じく研究船El Pumaを用いて前年に設置した長期観測型海底地震計および長期観測型海底圧力計を回収し,新たに長期観測型海底地震計を設置して観測を継続した.2019年11月には同研究船により前年に設置した長期観測型海底地震計を回収し,新たに長期観測型海底地震計を設置した.2021年は海底観測を継続した.なお,本研究は,2016年度から開始された国際科学技術共同研究推進事業,地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)「メキシコ沿岸部の巨大地震・津波災害の軽減に向けた総合的研究」の一環として,京都大学,東北大学,UNAM(メキシコ)との共同研究として行われた.

(3-3)南海トラフにおける高密度海底地震計アレイ観測

 西南日本沈み込み帯においては,室戸沖から熊野灘沖にかけて海底ケーブル地震観測網(DONET)が敷設されており,スロー地震の活動域と非活動域がトラフ軸に沿って明確に分かれていることが明らかとなっている.このスロー地震活動域/非活動域に対応する地下構造の要因を明らかにするため,ならびに,スロー地震の高精度な震源決定のため,当該海域において長期観測型海底地震計による自然地震観測を実施している.本年度は,スロー地震非活動域に設置した海底地震計を回収したほか,DONETを補間する形で,スロー地震活動域に海底地震計を新たに設置した.回収した地震計のデータは,2020年12月に始まった大規模なスロー地震活動の記録を含んでいる.本データを利用した,スロー地震の震源解析を進めている.本研究は京都大学,東北大学,神戸大学,海洋開発研究機構,九州大学との共同研究である.

(4)海底地震地殻変動観測システム開発およびデータ解析手法開発

(4-1)三陸沖に設置したICTを用いた光ケーブル式海底地震・津波観測システムの運用

 従来の光ケーブル海底地震・津波観測システムは,海底通信技術を用いた高信頼性システムであるが,コスト面や運用面に改善の余地がある.そのため,データ伝送とシステム制御にICTを用いたシステムを新たに開発した.このシステムは,データ通信の冗長性を備え,より低コストで,小型・軽量であることが特徴である.既設の三陸沖光ケーブル海底地震・津波観測システムの更新をも気宇的として,新しくシステムを開発・製作した.このシステムは地震計と津波計を装備した観測点を2点,地震計と拡張ポートを装備した観測点を1点設置し全長は約110 kmである.拡張ポートにはデジタル出力型高精度水圧計を接続した.2015年9月に岩手県釜石市沖へ設置を行った.このシステムの設置により釜石市沖は三陸沖光ケーブル海底地震・津波観測既設システムと併せて,空間的に高密度なリアルタイム海底地震・津波観測網が構築された.2017年4月には,波浪の影響を受けやすい汀線部から沖側約30 mまでの区間のケーブルの保護対策とアース電極の沖合への設置作業を実施した.その結果,給電電圧の変動はほぼ無くなり安定した運用ができるようになった. 2018年は,9月に汀線部から沖合100m程度までの状況の監視調査を行ったが,大きな問題は発見されず前年に実施した保護対策が有効であることが確認された.また,同月に1996年に設置したケーブル観測システム(既設システム)について,システムの監視と観測データの冗長性向上を図るために,陸上局舎内に既設システム監視用サーバを新規に追加した.2019年10月に同年台風19号の影響により,釜石陸上局への給電が停止し発動発電機によるシステムへの給電が行われた.同日中に復電し通常観測に復帰したが,道路の被害や局舎付近への土砂流入などが発生した.復旧作業は2021年3月に完了した。また、2019年11月11日落雷により陸上局舎内の新システム給電装置に不具合が発生し,観測不能となった.同年12月2日に,観測システムを再起動させ観測を再開した.なお,再起動以降は連続的に観測を行っている.2020年9月には陸上局システムの整備としてサーバ機の各種部品交換などを行い,また,汀線部付近におけるケーブル敷設状況調査を実施した.2022年1月には,旧システムのGPS受信器の交換を行った.また,2021年度は新しいシステムの地震計と水圧計の記録を,webシステムを通じて,公開するシステムの構築を行った.

(4-2)小型広帯域海底地震計の開発

 長期観測型海底地震計は実用化以降多数の実績を持っており,繰り返し観測の手法によりモニタリング観測が可能となった.この長期観測型海底地震計の地震計センサーは,三成分高感度短周期速度計であり,その固有周波数は1 Hzである.通常の地震観測には十分な帯域であるが,近年着目されている浅部低周波微動や超低周波地震を観測するにはやや帯域が不足である.近年,小型で低消費電力である広帯域地震計が利用可能になってきた.そこで,Nanometrics社Trillium Compact Broadband Seismometerを長期観測型海底地震計に組み込むために,専用レベリング装置の開発を実施し,2017年に小型広帯域海底地震計の最初の観測を行った.小型広帯域海底地震計の開発は引き続き実施中であるが,2019年は主として固有周期120秒の地震計センサーを搭載した小型広帯域海底地震計の観測への利用を進めるともに台数の確保に努め,2021年には25台規模で観測に用いることができるようになった.2021年は,このレベリング装置の機能強化を行った.レベリング動作の時刻記録のために時刻モジュール(RTC)を搭載した新しい制御部を開発した.制御部は時刻データ入力時およびレベリング操作時のRTC時刻を制御部の個体番号やセンサーの傾斜とともにSDカードに記録する.この改良開発により.海底におけるレベリング動作確認をより把握することができるようになった.

(4-3)光ファイバー計測技術による海底ケーブルを用いた海底高密度地震観測システムの開発

 光ファイバセンシングの一つであり,振動を計測する分散型音響センシング(Distributed Acoustic Sensing,以下DAS)は,近年様々な分野で応用され始めている.地震関係の分野では,石油探査のために構造調査に利用されており,地震観測にも適用され始めている.この計測は,光ファイバー末端からレーザー光のパルスを送出し,光ファイバー内の不均質から散乱光を計測し,その変化から,振動を検出する方法である.光ファイバーに沿って,時空間的に密な観測を実施できることが特長である.地震研究所が1996年に設置した三陸沖光ケーブル式海底地震・津波観測システムは,伝送路である海底ケーブルに予備の光ファイバーを持っている.この予備光ファイバーに,DAS計測を適用することによって,空間的に高密度の海底地震観測を実施できる可能性がある.2018年から,DAS計測技術を三陸沖光ケーブル式海底地震・津波観測システムの予備光ファイバーに適用する開発を開始し,2019年は2月,6月,11月の計3回計測を実施した.2月の計測では,測定長100 kmとして,チャンネル間隔5 mとして,合計約2日間実施した.その結果,計測装置を設置した陸上局から70 km程度まで,連続して地震波が記録されることを確認した.また,6月の計測では,空間的高密度計測として,測定長5 km,チャンネル間隔1 mとした.観測期間は約3日である.観測記録には多数の地震が記録されていた.11月の計測では,長期観測を念頭において,2週間弱の連続観測を行った.測定長は70 km,チャンネル間隔は5 mである.2020年11月にはエアガンとDAS計測による構造調査を実施した.エアガンの発震は海洋研究開発機構学術調査船白鳳丸KH20-11研究航海にて実施した.白鳳丸はエアガンを曳航しながら海底ケーブル敷設ルート上を航行し,この間陸上局においてDAS計測を行った.発震には大型エアガンアレイ,またはGIガンアレイを用いた.DAS計測は測定全長100 kmまたは80 km,チャンネル間隔5 mとして,エアガン発震時間帯を含む約5日間の連続観測を行った.2021年3月には新しく開発された計測装置の試験観測を約3日間行った。新型DAS計測器では,観測可能距離100kmまで地震波形を観測できることを確認した.DAS計測は単位時間に大量のデータを生成するために,長期にわたって定常観測を行うためには工夫が必要である.そこで,常時観測可能なシステムを開発することを目的として,ハードウェア・ソフトウェアについて検討した.ハードウェアについてはDAS計測器の内蔵ディスクでは容量が足りないために大容量の外部ディスク装置を増設し,各種処理を行うための観測サーバを追加することとした.ソフトウェアについては、地震イベントの抽出として,深層学習を用いたモデリングにより,地震とノイズを判別することとした. 2021年11月に、DASデータの連続取得を行うと共に、試作したシステムによる地震検出の実験を行った。

(4-4) 新しい精密水圧計の試験・評価

 現在、海底における精密水圧観測に用いているセンサーの高度化を図るために,新技術による水圧計センサーの試験評価を開始した.このセンサーは,圧力により発振周波数が変化する.現在用いている収録装置を新型水圧計センサーに接続可能であることから,2021年は現在運用している自由落下自己浮上式海底水圧計の水圧計センサーを新型水圧計センサーに変更し,新しい自由落下自己浮上式海底水圧計を製作した.この水圧計は2021年8月に房総半島沖に設置し,同年11月に回収した.また,観測を継続するために同タイプの海底水圧計を再設置し,観測を継続した.

3.11.1 陸域における地震観測

(1)陸域地震観測

(1-1)広域的地震観測

関東・甲信越,紀伊半島,瀬戸内海内帯西部に展開している高感度地震計を用いた広域的地震観測網による観測,および伊東沖(故障中)と三陸沖に設置している光ケーブル式海底地震・津波観測システムを用いた海陸境界域の観測を継続し,地震活動と不均質構造との関係を明らかにする研究を進めてきた.

全国の国立大学や研究機関等によって観測されている地震波形データを収集し,本センターのデータと統合して処理している.これらのデータは,日本列島周辺で発生する地震に対して行った臨時観測データと合わせることによって高密度な観測網となり,より詳細な地震活動が明らかになった.

最近の技術の進展により,観測機器の小型化,省電力化が進み,大規模な観測局舎が必要なくなってきた.さらに伝送経路の光回線化等のため,各観測点の伝送装置の切り替えを進めている.その結果,全観測点に対して,不必要な大規模観測施設は撤去もしくは小型の機器収納ボックスに置き換える等の検討・作業を行っている.光化作業については、陸域の広域的観測網だけでなく火山等も含め工事が進捗し、モバイル化などで別対応を行った観測点もあり、残り5回線になった。

(1-2)臨時集中観測

日本列島周辺で発生した顕著な地震に対して,それらの地震活動を把握するため,全国の国立大学や研究機関等と共に,臨時地震観測を行ってきた.2011年東北地方太平洋沖地震の発生後には各地で地震活動度が高まり,千葉県,茨城県,栃木県,福島県,長野県に臨時観測点を作り,リアルタイムで連続的にデータを収集している.特に,千葉県,茨城県では,太平洋沖で発生するスロー地震等の検出を目指し,広帯域地震計を設置し,観測を継続している.

今年度は、長野県大町市で臨時地震観測を行った。2021年3月下旬から大町市の龍神湖周辺で群発的な地震活動が続いていて、震度3を含む20個の有感地震が発生していた。そのため、乾電池で稼働するオフライン観測点を4ヶ所に設置し、約6か月間観測した。そのデータを加えて解析したところ、地震の検知能力は約10倍に向上し、震源の深さは2㎞前後に浅くなった。その震源分布は、周辺にある糸魚川-静岡構造線や1918年の大町地震の震源領域からは離れているため、それらとの関係性は高くないと考えられる。

(2)地殻変動観測

南関東・東海などにおいて歪・傾斜などの高精度センサーを用いた地殻変動連続観測を行うとともに,GEONET 等によるGNSS 観測結果と比較検討し,地震発生と地殻変動の関係に関する研究を行っている.観測は1970 年頃より長期にわたって継続観測を実施している油壺,鋸山,弥彦及び富士川の各地殻変動観測所における横坑式観測と,伊豆の群発地震発生地域や想定される南海トラフ地震発生地域などに設置された深い縦坑を用いたボアホールや横坑での観測によって実施されている.前者においては水管式傾斜計と水晶管伸縮計を中心とした観測方式を採用しており,後者においては,ボアホール地殻活動総合観測装置(歪3 成分,傾斜2 成分,温度,加速度3 成分,速度3 成分,ジャイロ方位計から構成されている)あるいは水管傾斜計を用いて観測を継続している.また,全国の地殻変動研究関係者が中心となってデータの公開を進めており,地震研からは鋸山と富士川の両観測所及び伊東,室戸のデータを提供した.なお,弥彦観測所は1967年より53年間にわたり観測を続けていたが,2020年度に閉所した.弥彦観測所の傾斜観測記録については地震研究所技術研究報告第26号(2021)に掲載された.

(3)茨城県北部・福島県南東部の地震活動と応力場の研究

2011年東北沖地震以降の活動が継続している茨城県北部・福島県南東部における稠密地震観測網(約60点から構成)の維持・整備を実施するとともに,それらのデータと周辺域の定常観測点のデータとの統合処理を行った.取得された連続波形記録に対して自動処理を施すことで地震活動の解明を行っている(地震予知研究センターの章参照).

(4)スロー地震モニタリング

西南日本等日本全国に発生するスロー地震のモニタリングを継続的に行っているとともに,海外におけるスロー地震についても調査研究を行っている.西南日本の既存の微動カタログを用いてクラスタリング解析を行い,中間帯域におけるスロー地震のエネルギー・継続時間・破壊面積等のスケーリング特性を明らかにした(Aiken and Obara, 2021).また,四国においてBackTrackBB法による微動の新たなカタログを構築し,その時空間的分布や挙動が非常に複雑でかつ不均質であり,沈み込むプレートの構造や応力集中,流体分布の複雑さを反映する可能性のあることを示した(Poiata et al., 2021).一方,日本周辺以外で浅部超低周波地震の存在が確認されているコスタリカにおいて実施された機動的広帯域地震観測データを解析し,海溝付近における浅部超低周波地震活動の検出に成功した(Baba et al., 2021).この活動域は大地震震源域のアップディップ側で,過去に発生したスロースリップイベントのすべり域と調和的である.また,超低周波地震に伴う微動シグナルを検出し,両者の比であるスケールドエネルギーを評価したところ,南海の浅部スロー地震とほぼ同様であった.


室戸岬沖から紀伊半島南東沖の領域について,Takemura, Noda et al. (2019)による浅部超低周波地震の検知手法により,定常的な浅部スロー地震活動モニタリングを実施している.それにより,2020年12月に紀伊半島南東沖で開始した大規模な浅部スロー地震活動を検知した.検知した浅部超低周波地震の震央再推定解析により,浅部超低周波地震の活動域の移動の特徴を明らかにした(武村・他,2021).さらに詳細な浅部スロー地震の物理プロセス解明に向け,浅部超低周波地震の震源時間関数推定手法を開発し,紀伊半島南東沖における浅部スロー地震によるモーメント解放の空間分布を詳細に明らかにした.紀伊半島南東沖では,沈み込んだ古銭洲海嶺の周辺でスロー地震活動が活発であり,沈み込んだ海嶺とスロー地震の関係が示唆された(Takemura et al., 2021b under review).


昨年開発した,3次元速度構造を用いた地震のCMT解析手法(Takemura et al. 2020)を関東地方の地震活動にも適用(Takemura et al., 2021a),得られたCMT解カタログをZenodoで公開した(https://doi.org/10.5281/zenodo.3926883).災害予測に重要な地震モーメントを正確に推定するためには,震源域の正確な剛性率の値が必要不可欠であり,1次元構造を用いた従来のCMT解析では誤推定となることを示した.地震モーメントの値は,地震工学における入力地震動の強震動シミュレーションにおいて特に重要であり,地震活動モニタリングによる災害軽減へ向け,重要なアウトプットとなることが期待できる.


「災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画」の研究課題「プレート境界すべり現象モニタリングに基づくプレート間カップリングの解明」において,九州東部から四国西部に合計6点における広帯域地震計臨時観測を継続し,不具合の見られる地震計の交換などを行った.さらに,科研費新学術領域研究「スロー地震学」において四国西部,紀伊半島,東海に設置した広帯域地震観測点のうち,それぞれ3点,4点,4点を維持するため現地作業を行った.これらにより,南海トラフ近傍で発生する浅部超低周波地震と内陸下で発生する深部超低周波地震の観測体制を強化した.さらに,深部超低周波地震の完全自動検出手法を開発し,過去記録まで遡って上記の観測点や定常観測網に適用した結果,18年間で約7000イベントを検出した.特に観測体制強化後は年間約700-900イベントを検出することができた.

(5)古文書に記載された地点における稠密地震観測

地震計が発明される以前に発生した地震を調査するため,古文書等の記述をもとにしてその地点の被害状況を知り,その分布から震源地や地震規模の推定を行ってきた.しかし,揺れの強さは,震源からの距離だけに依存したものであるとは言えず,建物の強度,地盤特性,地下構造の違いによって不均質になり,被害の程度に違いが出ることが考えられる.そこで,古文書に書かれている地点を特定し,その地点に地震計を設置し,地震時の揺れを実測することにした.発生した地震による揺れを観測することで,その地点における揺れの特徴を客観的に知ることができる.その分布から,古文書に書かれている記述との比較が可能になり,記述の信頼性を検証することができる.

今年度は,1855年安政江戸地震を対象として研究を進めた.地震研究所から近い,谷中・根津・千駄木の地域には,江戸時代から続く建物や施設があり,過去の地震被害の記述が多く残されている.そこで,それらの記述から被害地点を特定し,地震計を設置することにした.2020年9月1日から現在(2021年12月)まで, 20か所で臨時観測を行ってきた.固有周期1秒の3成分一体型地震計を地表に設置し,単一乾電池32本で約2か月間稼働する収録装置でオフライン観測を行った.観測された地震波形は,観測点ごとに最大振幅や卓越周期に違いがみられ,振幅が2倍以上大きくなる地点もあった.この観測を行うことで,古文書等に記述のなかった地点での揺れも推定することが可能になると期待している.

(6)汎用的な利用が可能な稠密地震観測網の開発

場所ごとの不均質な揺れを知るために,多数の地震計を用いた地震観測システムの開発研究を行っている.その場所の揺れは,地盤構造や建築物等の違いによって異なり,被害に差が生じることが知られている.この差を考慮した耐震対策の優先順位や効果的な救援・復旧手段を講ずるためには,多くの地点で揺れを測って,あらかじめ揺れの特性を知っておく必要がある.そこで,小型軽量で設置が容易な安価な地震計を開発することを目的として,MEMSを利用した地震記録収録伝送装置を開発している.

昨年度は,近距離無線を利用して,データを伝送する仕組みを開発したが,今年度は,データを中継する機能を開発した.地震研究所だけでなく本郷キャンパス全体の21か所に観測範囲を広げた試験観測を行った.ここで利用している電波は,省電力を実現するため,微弱である(乾電池2個で1年間の連続稼働).そのため,地震研に設置した中央集約装置へ直接送ることはできない.そこで,となりの機器までデータを送り,そこからバケツリレー形式で,その隣の観測装置へ伝送する仕組みを構築し,最終的に中央集約装置へ届けられるようにした.実際に地震が発生し,それを検知すると,一定時間の記録を保存し,となりの観測機器へ送ることができた.これまでの観測データから震度相当値を算出してみると、地表付近に設置したものは、周辺の震度とほぼ同じ値を示したが、建物屋上に設置したものは、その値より0.5程度大きな値を示した。特に、10階以上の建物に設置したものは、1.0以上の増分であった。今後も観測データを増やすことで、建物の種類や高さによる揺れの違いを明らかにしていく。

(7)地殻活動モニタリングシステム構築

地震活動や地震波観測記録を基にした地殻活動の現況のモニタリング,新たな地震学的な現象の発見・研究テーマの創出等,所内研究活動の更なる活性化を目的とした計算機システムを新たに構築した.本システムはリアルタイムで流通する高感度地震連続記録を長期間一元的に整理蓄積し,所内研究者に広くデータ利用可能な環境を提供している.さらに,連続あるいはイベント波形データに様々な自動解析処理を施した結果を閲覧可能なwebシステムを構築し,観測点毎の連続波形画像,深部低周波微動モニタリング用エンベロープ画像,広帯域マルチトレース,近地地震・遠地地震波形画像等の作成・閲覧に関する運用,新たなモニタリング手法の開発,所内公開を継続的に実施している.

3.11 観測開発基盤センター

教授新谷昌人,中井俊一(兼任),小原一成,大湊隆雄,酒井慎一(兼任), 清水久芳(兼任),篠原雅尚,上嶋 誠(兼任)
准教授平賀岳彦(兼任),蔵下英司,三宅弘恵(兼任),望月公廣(兼任),中川茂樹(兼任),鶴岡弘(兼任)
助教悪原岳,小河勉,高森昭光(兼任),武村俊介,竹尾明子
特任研究員艾 三喜
学術支援専門職員渡邊倫子
技術補佐員藤田園美,五十嵐仁美,工藤佳菜子,二瓶陽子,長田志保
外来研究員勝間田 明男, 大橋正健,高橋弘毅,吉開裕亮
大学院生馬場 慧(D3),福島 駿(D1),前田拓也(M2),高野洋輝(M2)
SE出川 昭子,三浦 佳代子

観測開発基盤センターは,平成22年4月の地震研究所の改組に伴い,これまで地震予知研究センター,火山噴火予知研究センター,強震観測室,研究部門などに配置されていた教員の一部を観測,機器開発という視点で再編成して,研究所の持つ地震観測網,火山観測網,強震観測網,分析装置に大きく関連する研究分野や観測機器の開発を強化のために設置された.本センターは,全国にある本研究所の観測所等の観測拠点とテレメータ観測網を活用した観測研究を推進するとともに,その高度化に必要な観測機器,データ伝送・流通システムの研究開発を図り,地震・地殻変動・火山・電磁気現象に関する広範な観測研究を進めている.地震や火山など地球で起こる現象を解明する研究は,自然界で起こることに疑問を持ち,それを解明するために現象を正確に捉えることが出発点であり,戦略的な観測と新たな観測システムや解析手法の開発を通して,新たな視点から地球を捉える姿勢が不可欠である.このような観測研究と技術開発を併せて推進していることが本センターの大きな特徴である.

 本センターでは地震・火山・強震・電磁気・地殻変動の観測網を維持・保守するとともに,地震・火山観測機器,強震観測機器,地球電磁気観測機器及び分析装置の維持・管理・活用等の研究支援,観測機器開発も行っている.そのため,本センターでは他の研究センターや研究部門と兼任し,両者の研究資源を併用して研究を進める教員が多い.ここでは,他のセンターの章での記載の重複を避け,このセンターが中心となり実施した内容を中心に記載した.