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3.3 Division of Earth and Planetary Materials Science

3.3.2 融点近傍における多結晶体の非弾性の研究

 地球内部の3次元地震波速度構造から地球内部の温度分布や流体分布を定量的に推定するためには,岩石の非弾性特性の解明が不可欠であるが,実験データが少なく未知の部分が多い.我々は,有機物多結晶体を岩石アナログ物質として用い,試料のヤング率Eと減衰Q-1を6桁の広周波数帯域(100-0.1 mHz) で精密に測定できる独自の非弾性測定装置を開発した(図3.3.1).この装置を用いて,多結晶体の弾性・非弾性・粘性を,融点直下から融点を超えて部分溶融に至るまでの温度範囲(T/Tm=0.89~1.01)でほぼ連続的に測定を行った.その結果,部分溶融が多結晶体の物性に与える影響は,これまで知られてきたような,メルトが生じたことによる直接的な影響に加えて,溶ける直前にも大きな変化が生じていることがわかった.つまり,ソリダス直下(T/Tm > 0.94)の固体状態において,多結晶体の減衰が顕著に増大し,また,粘性の活性化エネルギーも顕著に増大することがわかった.しかも,融点で0.4%程度の微少なメルトしか生成しない試料でもこの固体状態での変化は大きく,メルトによる直接的な影響を遥かに凌ぐ.上部マントルに存在し得るメルト量は,地球化学的制約条件から1%未満であると予想されているが,部分溶融の影響に対する従来の理解では,上部マントルで観測される地震波低速度域を微少量のメルトで定量的に説明することは困難であった.本研究の成果は,地球化学と地震学の結果を整合的に説明することを可能にするものとして重要である.実際,海洋リソスフェアの地震波速度及び温度構造から得られた横波速度の温度依存性は,カンラン岩のソリダス直下で急激な速度低下を示す(Priestley and McKenzie, 2013).本実験データから得られた非弾性モデルは,この速度低下をほぼ定量的に説明することに成功した.融点直下における物性変化の詳しいメカニズムはまだ解明できていないが,粒界構造の無秩序化(プリメルティング)によるものと推測している.

3.3.1 多結晶体特性からみた地球内部ダイナミックスの素過程

 高温・大気圧下での一軸圧縮試験より下部地殻主要鉱物の一つである単斜輝石(CaMgSi2O6)の高温変形特性を明らかにすることに成功した(Ghosh et al., 2021 JGR)。具体的には、通電焼結法を用いて僅かにフォルステライト(Mg2SiO4)もしくはアノーサイト(CaAl2Si2O8)を含み、粒径が0.43 μm から4.07 μm まで大きく異なる高緻密多結晶体を合成した。本試料を1050~1170℃下での変形実験に用いた。同じ粒径および温度において、アノーサイトを含む試料がフォルステライトを含む試料の3倍程度柔らかい。応力-歪速度の線形的な関係から拡散クリープであること、また、粒径-粘性率の関係から体(結晶内)拡散がクリープを律速していることが分かり、試料間の固さの違いは、Alの単斜輝石格子拡散への促進効果と考えられる。これらの実験結果に基づいて、単斜輝石の拡散クリープ則を提案した。本クリープ則を基準にこれまでに複数の研究グループから報告された実験データを再解析した。従来、粒界拡散クリープと認定され各報告間で矛盾するデータとされてきたものが、体拡散クリープで統一的に説明できることを示した。得られた拡散クリープの著しく大きな活性化エネルギー720 kJ/molは単斜輝石を主要とする岩石の高温下での著しい弱化を予想する。

3.3 物質科学系研究部門

教授岩森光(部門主任), 中井俊一,武井(小屋口)康子
准教授平賀岳彦, 安田敦
助教三部賢治, 三浦弥生, 坂田周平, 森重 学
特任研究員原口 悟, 小泉早苗, 中尾 篤, 谷部功将, 山内初希,  Asobo Nkengmatia Elvis Asaah, Debaditya Bandyopadhyay
技術補佐員今野沙世
大学院生岡本篤郎 (D3), Nahyeon Kim (D3),岩橋くるみ (D2),
猪狩一晟 (M2), 椚原光良 (M2), 宮本 堯 (M2), 夏井文凛 (M2), 勝木悠介 (M1), 津田実 (M1)
インターンシップ研究生唐 文詩,呉 培倫

本部門では,物質や物性の研究を通じて,固体地球内部の構造やダイナミクスの素過程を明らかにすることを目指している.地球に留まらず,太陽系内外での諸現象も研究対象にしている.理論,室内モデル実験,超高圧実験,元素・同位体分析など様々な方法に基づいて研究を行っており,その 内容は多岐にわたる.本年度における概要を以下に示す.