オーストラリア・プレート上にあるニュージーランド北島の下には,東から太平洋プレートが沈み込むことによって,ヒクランギ沈み込み帯が形成されている.特にこの地域は,西南日本地方と類似して浅い沈み込みが進行し,プレート境界の物理特性とその挙動を明らかにする上で格好の地域である.海底資源の調査のため,およそ10 km間隔でひかれた海溝軸に直交した測線で人工震源を用いた反射法地震波構造調査も行われており,海域下のプレート境界の形状も詳細に把握されている.2009年以来,当センターでは,ニュージーランドGNS Science,ビクトリア大学ウェリントン校,コロンビア大学,カリフォルニア大学サンタクルーズ校,及び南カリフォルニア大学と国際共同観測研究を実施してきた.海陸統合制御震源地震探査からは,北島下に沈み込む地殻の厚い(~12 km)ヒクランギ海台やプレートの沈み込み形状の構造が明らかになった.また,散乱波を用いた解析によって,プレート上盤側のワイララパ断層のイメージングに成功した.
2012年4月から2013年3月にかけて,ヒクランギ沈み込み帯北部においておよそ2年間隔で周期的に発生するスロースリップイベント(SSE)を観測することを目的として,東京大学地震研究所の海底地震計を用いて,日・NZ共同でヒクランギ沈み込み帯では初となる海域地震観測を実施した.本海域では,人工震源地震波構造調査によって,沈み込んだ海山や,その沈み込み前方に見られるプレート境界からの地震波反射強度が強い場所,すなわち水の含有量が大きいと考えられる領域が確認されている.本観測で観測された海域から陸域にかけて発生する地震の震源を詳細に決定するとともに,地震波速度構造を明らかにした.その結果,沈み込む太平洋プレートの海洋性地殻内にP波とS波の速度比(Vp/Vs)が大きい場所が局在していることが確認されるとともに,通常の地震活動がVp/Vsが極大となる場所を避け,その周辺域で発生していることを明らかにした.また,プレート境界面上の存在する流体が豊富な領域は,このVp/Vsが大きい場所の上面にあたることが分かった.Vp/Vsの大きい場所では,プレートの沈み込みに伴う海洋性地殻内の脱水反応が大きい場所にあたること,また地震の発生は脱水反応によって生成された流体の間隙圧が適当な領域で発生している可能性を示した.
2014年5月から2015年6月にかけて,日・NZ・米の国際協力による大規模な海域地球物理観測を行った.本観測では,地震研究所から海底地震計5台,海底圧力計3台,東北大学・京都大学から海底圧力計4台,海洋研究開発機構から海底電位差磁力計3台,コロンビア大学から海底地震・圧力計10台,海底圧力計5台,テキサス大学から海底圧力計5台の総計35台の海底観測機器を使用した.観測期間中の2014年9~10月には,2000年ころから整備された陸上GPS観測網によって捉えられたSSEとして,2番目に規模の大きなSSEが本海底観測網直下で発生し,これによる地震活動,海底地殻変動などを観測することに成功した.海底圧力計のデータを用いて海域における断層すべり分布を詳細に求めた結果,断層すべりは沈み込んだ海山を避けるように分布していること,断層すべりの一部は海溝軸近傍まで達していることが初めて明らかとなった.さらに海底地震計の解析から,海域下における微動の発生が初めて確認された.この微動活動について詳しく調べてみると,SSEにおけるプレート境界面上の断層すべり運動が終了するころになって沈み込んだ海山周辺域に限って活動を開始し,その後およそ3週間にわたって連続的に発生していることがわかった.一方通常の地震活動は,そのほとんどが沈み込むヒクランギ海台の海洋性地殻内で発生していることが改めて確認され,その発震機構を調べたところ,平常時は横ずれ型地震が起こっているが,SSE発生直前には横ずれ型から逆断層型まで,多様な地震活動が見られるようになることがわかった.これは,海洋性地殻内における脱水反応によって間隙水圧が上昇し,最大主応力周辺の差応力が減少したことによると解釈される.従って,SSE発生直前には,間隙水圧が海洋性地殻からプレート境界まで上昇していることが考えられる.このようなSSE発生に伴う変化は,地震波速度異方性にも現れていることが確認された.さらに,2018年10月から2019年10月にかけて,地震研究所の海底地震形5台を用いて同様の海域にて地震観測を実施した.この海底地震計5台は全台回収され,良好なデータが取得された.観測期間中には,ふたたび大規模なSSEが発生し,これに伴う微動も発生した.微動活動の規模は2014年のものを遥かに上回るものであるが,SSEとの活動期間の関係,および沈み込む海山周辺に限った活動分布については,同じ特徴を有することが示された.海洋性地殻からプレート境界周辺域の構造的特徴と,SSEおよびそれに伴う微動活動との関係について,詳細を調べている.
2020年11月には,これまでのヒクランギ沈み込み帯北部から,プレート間固着強度が大きく変化する中部へと観測領域を移し,海底地震計10台を用いた海域地震観測を開始した.ヒクランギ沈み込み帯北部での結果によると,多様な断層すべりの特徴は,沈み込むプレートの海洋性地殻内における脱水反応との関係が示されている.プレート間固着強度の大きな変化も,脱水反応の大きさのコントラストに起因する可能性も考えられ,固着強度遷移域をカバーした海域地震観測によって地震活動と沈み込みの構造を明らかにし,固着強度変化の要因を明らかにすることを目的としている.2020年中のコロナ禍の中,NZへの入国許可は限定的であったが,NZ側共同研究機関であるGNS Scienceによって関係する日本人研究者の特別な入国が申請され,地震研究所と国内共同研究機関の東北大学・京都大学から観測人員の入国が許可された.2021年9月から10月にかけて行われた航海で,設置していた10台前代の回収に成功し,良好なデータが得られていることを確認した.この観測期間中の2021年5月には,観測網内の固着強度遷移域でSSEが発生しており,これを捉えることに成功している.現在,このSSEおよび微動活動について解析を進めている.回収された10台のうち9台についてはGNS Scienceにて整備を行い,2021年10月に実施した航海にて,2018-19年と同様の観測網を構築して,1年間の観測を開始した.
人工震源を用いた構造調査としては,2017年11月には,ヒクランギ沈み込み帯全域にわたる構造を調べるため,海域には海底地震計を設置し,北島全長に渡るヒクランギ・トラフに沿った測線,それに平行なトラフ軸海側の測線,さらにはヒクランギトラフに直交する北島北部,南部の2測線において,エアガン発震を行った.ヒクランギ・トラフ北部の海山が沈み込んでいる海域の周辺で海底地震計100台を用いた3次元構造調査を実施し,現在,本調査について解析を進めているところである.特に地震波走時トモグラフィー解析では,地震波速度異方性を含めた解析を行なっており,海山の沈み込みに伴う構造の詳細について調査を行なっている.また,陸域には,タウポ背弧リフト帯の地震波速度構造,反射面分布を高分解能で得るために,ニュージーランドの GNS Science, ビクトリア大学ウェリントン校,アメリカのテュレーン大学と共同で,Plenty湾岸に臨時地震観測点を約2㎞間隔で25台設置し,エアガン発震及び自然地震の観測を実施した.取得したエアガン発震記録からは,初動到達後に,深部地殻からの反射波と考えられるイベントが確認できる.そこで,NMO補正を適応し,CMP時間断面図を作成したところ,往復走時7秒付近(深さ約20㎞相当)に顕著な反射面が確認でき,さらに深部にも反射イベントが確認できた.Plenty湾内で実施された構造探査で得られた結果(Gase et al., 2019)と比較すると,これらはモホ面やマントル内の反射イベントと考えられ,さらに詳細なイメージングを得るための解析を進めている.
ヒクランギ沈み込み帯では,その北部の浅いプレート境界において2年という短い周期でSSEが発生している.このような高頻度でSSEが発生している場所は世界的にも類を見ず,プレート境界も浅いために境界面上の現象を捉えるにも恰好の場所である.東京大学地震研究所では,これまで,低周波微動やSSEが発生している南海トラフ豊後水道周辺の陸域で,ネットワークMT観測を実施してきた.同様の観測をヒクランギ沈み込み帯においても実現すべく,2019年にGNS Scienceならびに現地の電話会社Chorusと共同して,観測に必要なメタル通信回線網の現状を調査した.2019年12月より,Gisborneの北にあたるTolaga Bay地域において,4電極点と2磁場観測点からなる試験的なネットワークMT観測を開始した.2020年3月~7月にかけてのデータの解析から,特に数100秒以上の長周期帯で従来のMT法に比べて安定したMT応答関数が推定できることが明らかとなった.さらに2年周期でSSEが発生するヒクランギ沈み込み帯北部域や,固着強度が大きく変化する同沈み込み帯中部域において観測網を展開することを目指していたが,コロナ禍の影響により計画に遅れが生じている.さらに,ヒクランギ弧を横断する測定線で沈み込みに伴う深部大規模構造を推定するためのネットワークMT観測も計画しているが,連続観測と同様に計画に遅れが生じている.ただ,GNS Scienceの研究者やChorusとの協議は進めており,状況が改善し次第,観測網設置に向けて計画を進めていく.
測地学的に観測される余効変動をプレート境界における余効すべりとマントルにおける粘弾性応力緩和を組み合わせた物理モデルを用いてモデル化する手法の構築を行った.モデルでは,余効すべりは摩擦構成則,粘弾性緩和はBurgers rheologyに従い,これらのプロセスが地震時の応力変化により駆動され,力学的に相互作用すると仮定した.地震時と地震後の測地データを用いて,このモデルのパラメータである地震時のすべり分布,プレート境界の摩擦構成則パラメータ,マントルの粘性率分布などをベイズ統計に基づく逆問題の枠組みで推定する手法を開発した.このモデルと手法を2011年東北沖地震の地震時及び地震後の測地データに適用し,余効変動に対する余効すべりと粘弾性応力緩和の寄与の時空間変化を明らかにした.さらに,より多くの未知パラメータを含む現実的なモデルを用いて測地学的に観測される地殻変動をモデル化することを可能にするために,より低い計算コストで物理モデルのパラメータ推定を行う方法の検討を行った.
電気比抵抗は,温度,水・メルトなど間隙高電気伝導度物質の存在とそのつながり方,化学組成に敏感な物理量である.これらの岩石の物理的性質は,すべて,その変形・流動特性を規定する重要なファクターであり,比抵抗構造と地震学的諸情報をあわせることで,より詳細かつ正確な情報を抽出し得る.従って,当センターは内外の研究者と協力して,震源域や火山地域スケールおよび列島スケールや周辺大陸縁辺域の比抵抗構造を解明するプロジェクトにおいて,観測法やインヴァージョン手法の開発を含め,中心的な役割を担ってきた.
2021年には,2012年から2018年にかけて観測を実施したいわき-北茨城誘発地震域やいわき地方から新潟平野に至る測線での広帯域MT観測データの解析を継続した(東京工業大学・東北大学・秋田大学・産総研との共同研究,あわせて3.5.1参照).特にいわき地方から新潟平野に至る測線での2次元解析から,脊梁山脈中央部の火山フロントより背弧側にあたる地域の地下に,マントル深部から立ち昇るかのような低比抵抗域が決定され,その低比抵抗域の上部域に低周波地震が分布し,さらにその上部に柳津の地熱地帯,沼沢湖(火山)などが分布し,沈み込むスラブから供給された深部流体がこれらの地震火山活動に寄与している可能性が確認された.また,2008年から2011年にかけて庄内平野周辺域で取得した広帯域MT観測データの再解析を行った(東京工業大学・東北大学・秋田大学・産総研・名古屋大学・京都大学との共同研究).その結果,鳥海山と月山の下は低比抵抗であり低比抵抗域は低周波地震が起きている下部地殻まで分布しているが,それらの火山にはさまれた非火山地帯では同様の深部につながる低比抵抗域は存在しないことが分かった.さらに,同地域の地下では地震発生層深度の下限が浅部の高比抵抗とその下の低比抵抗の境界と対応している可能性が明らかとなった.一方,2011年から2012年にかけて三宅島で実施した広帯域MTならびに自然電位データの解析を進め,マグマ供給系に関連した構造解明を図る一方(火山噴火予知研究センターとの共同研究),2018年に実施した北海道胆振東部地震震源域における広帯域MT観測データの解析を進めた(北海道大学・名古屋大学との共同研究).また,大陸縁辺域スケールの大規模深部構造を求めることを目標として,中国全域にわたる3成分磁力計網のデータのコンパイルと解析を継続した(海半球観測研究センター,北京大学・中国地震局との共同研究).
2021年に新たに実施した観測として,水戸周辺域から中越地域に至る測線における25点からなる広帯域MT観測があげられる(東北大学・秋田大学・産総研との共同研究).また,阿蘇カルデラを含む九州地方中央部の深部広域構造を決定するためのネットワークMT観測を継続した(産総研・京都大学との共同研究).一方,豊後水道スロースリップ域やその北側に東西に分布する深部低周波微動域を含んだ広い領域での深部比抵抗構造を決定する目的と,スローイヴェント時の電磁気的シグナルの有無を検証するため,四国西部と九州東部においてネットワークMT法連続観測ならびにそのデータ解析を継続した.また,ニュージーランド北島ヒクランギ沈み込み帯においても同様の観測を実現すべく,準備と試験的観測を開始した(GNS Science・大阪電気通信大学との共同研究,3.5.6参照).
上述のいわき地方から新潟平野に至るMTデータを解析するために,従来のMTインピーダンスや鉛直-水平磁場変換関数に加えて水平-水平磁場変換関数を用いて2次元走向を推定する手法の開発や,上記の3種類の周波数応答関数のすべてを用いて構造を推定する2次元インヴァージョン手法を開発した.さらに,広帯域MT観測データとネットワークMT観測データを同時解析するため3次元インヴァージョン手法を世界に先駆けて新規開発した.深部構造に対する感度が高いネットワークMT観測データと(ネットワークMT観測データと比較して)浅部構造に対する分解能が高い広帯域MT観測データを同時解析することで,上部地殻から上部マントルに至る地下の3次元比抵抗構造を精度良く推定可能になると期待できる.シンセティックデータを使用したインヴァージョンで手法の有効性を確認するとともに,跡津川断層系を横切る測線の観測データに適用することで開発した手法が実用的に使用できることを確認した.
内陸地震の長期評価や発生メカニズムを理解するには,地震発生層底部から表層に至る一つのシステムとして活断層-震源断層を理解する必要がある.このため,当センターでは地殻スケールから極浅層に至る反射法地震探査による活断層の地下構造の解明に主眼をおいた研究を,全国の研究者と共同で進めている.
日本列島の震源断層のモデル化は,島弧地殻の変形プロセス・内陸地震の長期予測・強震動予測においても重要であり,2010 年から全国の研究者と共同で地質・変動地形・重力や地震活動などの地球物理学データに基づいた総合的な日本列島の震源断層のマッピングプロジェクトを進めている.2021年は東北日本弧とその沿岸海域の震源断層モデルを作成した.さらに,2011年東北地方太平洋沖地震後10 年間の粘性緩和にともなう上盤プレート内の震源断層の応力変化の評価に向け,東北沖地震の地震時・余効すべり分布に千島海溝の固着など広域のプレート境界過程を含めたモデル計算を行い, この条件下で日本列島域の応力速度場を計算し, さらに東北地方陸域および日本海沿岸域の震源断層にかかる応力を計算した.
沈み込み帯における地震発生は,プレート境界面における摩擦によってひずみが蓄積し,地震時に蓄えられたひずみエネルギーが解放される現象である.地震発生に関するプレート境界の性質は,境界の形状および温度や水の含有量といった物性によって決定されると考えられる.低周波イベントからプレート境界型巨大地震まで,その発生メカニズムを理解する上で,プレート境界の固着程度の把握,およびその周辺の構造や物性を詳細に理解することが必要不可欠である.さらには,プレートの沈み込みに伴う脱水反応によって生成された水の挙動が,上盤プレート内の内陸地震の発生に関与していることもわかって来た.我々は沈み込み帯の全体構造の把握,およびプレートの沈み込みに伴う諸現象の理解を通して地震発生メカニズムの解明をめざし,海域での地震観測や制御震源地震波構造調査などによる研究をすすめている.
(1)茨城沖の海山の沈み込みと多様な地震活動との関係
茨城県の東方沖合~100 kmでは,太平洋プレートの沈み込みに伴って,~20年周期でマグニチュード(M)7級の地震が繰り返し発生してきた.2004年の海域構造調査,および2005年海域地震観測から,深さ10 kmに海山が沈み込んでおり,M7繰り返し地震の断層がその沈み込み前縁部に位置すること,また海山上のプレート境界では地震活動が見られないことを明らかにした.2010年10月から,この海山前縁部周辺の 35km×30km の領域に長期観測型海底地震計を用いて,観測点間隔 6kmという高密度なアレイを構築し,およそ1 年間の地震観測を行った.またこの観測網を通る南北150kmの測線で,エアガンを人工震源とした構造調査を行った.本観測期間中には2011年東北地方太平洋沖地震(東北沖地震)が発生し,さらに本震震源域南限に位置した本観測アレイの近傍で最大余震が発生した.本震発生前後での地震活動を比較すると,本震発生後は震源域南限全域で地震活動が活発化しているが,特に沈み込む海山の前縁部周辺域で非常に活発化していることがわかった.また,海山沈み込み最前縁部において,地震活動の空白領域が存在する可能性が示された.この地震活動と本震および最大余震の発生との関連について詳細に調べたところ,本領域の活動が本震よりも最大余震によって活発化したことを明らかにし,本震のプレート境界面すべりが茨城県沖まで達しなかった可能性について議論した.これまでの海山の沈み込み前方で発生したM7以上の地震の発生様式を比較すると,海山の沈み込み前方基底部で地震が発生し,その後にプレート境界面上の沈み込み深部を震源としてM7以上の地震が発生するというパターンが見られる.最近になって日本海溝沿いに海底地震津波観測網が整備され,通常の地震活動に加え,低周波の地震活動も明らかになりつつある.沈み込んだ海山周辺でも,微動や超低周波地震の活動が確認された.これらの活動と沈み込み構造との関係を調べるため,人工震源構造調査のデータを解析している.また,本海域で発生した地震の震源および発震メカニズムを詳細に調べることを目的として,環境雑音の観測点間相互相関関数を用いた表面波速度構造解析による,非常に遅い堆積層内S波速度構造を精度良く決定するための手法,さらにこのS波速度構造を取り入れて,海底地震計波形データを用いた微小地震のセントロイド・モーメント・テンソルを求めるインバージョン法の開発を行っている.これらの手法を2011年東北沖地震の余震活動に対して適用し,震源メカニズムの分布から,沈み込んだ海山を含む複雑な沈み込み構造に対する地震発生メカニズムを明らかにするための研究を進めている.なお,この観測研究は北海道大学,東北大学,九州大学,千葉大学との共同研究である.
(2)2011年東北地方太平洋沖地震震源北限域における地震波構造調査
三陸沖の北緯39度には,南側の地震活動の活発な領域と北側の非活発な領域の境界が存在することが知られていた.2001年に海域地震波構造調査を行い,地震活動とプレート境界反射波の振幅の間に,良い反相関の関係があることを明らかにした.この境界領域は,東北地方太平洋沖地震震源域の北限に当たると考えられている.地震発生前後でプレート境界の反射強度に変化が見られるか確認するために,2013年9月に海洋研究開発機構の白鳳丸を利用して行われたKH-13-5次航海において,2001年と同じ測線上に同じ観測点配置で海底地震計を設置し,再度構造調査を行った.また2014年10月には,同じく海洋研究開発機構の白鳳丸によるKH-14-4次航海において,東北地方太平洋沖地震でプレート境界が大きく動いたとされる海溝軸近傍の陸側斜面において,海底地震計およびエアガン人工震源を用いた海域構造調査を行った.2013年構造調査のデータを用いて,人工震源からの初動の走時,およびプレート境界からの反射波の走時を目視検測し,走時インバージョン法によって本調査測線に沿った2次元P波速度構造およびプレート境界面の形状を明らかにした.その結果,地震活動が変化する境界に対応して,プレート境界の深さも,およそ1km程度変化していることがわかった.プレート境界反射波の強度について,2001年と2013年のデータについて比較したところ,2001年構造調査で確認された反射波強度が強いところで強度が弱くなり,弱いところで強くなる傾向にあることが考えられ,さらに検討を進めているところである.2014年構造調査測線では,東北地方太平洋沖地震で大きな断層すべりがあったとされる場所のプレート境界の深さが浅くなっている領域が認められた.走時インバージョンによって求められた速度構造については,誤差評価の解析を進めつつ,断層すべりとプレート境界面形状との関係について,さらに詳しい調査を進めている.なお,これらの調査研究は,北海道大学,東北大学,鹿児島大学,千葉大学との共同研究である.
(3)伊豆大島における陸海統合地震波構造調査
伊豆大島火山と周辺海域において,人工震源を用いた構造探査が2009 年 10-11 月に実施された.伊豆大島の常時観測点に加え,37 台の海底地震計を東西方向の長大測線,288台のジオフォンを東西・南北方向の 3 測線(A-C)に臨時配置され,最大3日間にわたり連続観測が実施された.その際に,長大測線沿って,エアガンが 476 回発振され,海中発破が 9回行われた.さらに,伊豆大島を囲むようにエアガンが 751 回発振された.現在,海底地震計データから伊豆大島周辺の地殻上部の大局的なP波構造を,陸上観測点データから伊豆大島直下の詳細なP波速度構造の推定し,火山性地震との関連性を議論しているところである.同時観測された常時微動データに地震波干渉法を適用することで S 波構造推定を試み,P 波構造との統合的解釈を目指している.
(1)内陸地震発生域における不均質構造と応力の蓄積・集中過程の解明
(1-1)2011年東北地方太平洋沖地震にともなう地殻応答
内陸地震発生メカニズムを解明することは,災害を軽減するために非常に重要な課題である.内陸地震のメカニズムを理解するためには,断層への応力集中とひずみの蓄積について理解することが重要である.また,内陸地震発生には地殻内流体の存在が大きく関係していることがわかってきている.そのような地殻内流体が,島弧のシステムの中でどのように生成され,移動し断層近傍に存在するのかについて理解することは重要な研究課題である.この目的のために,同一測線上での地震・電磁気観測を進めている.レシーバ関数解析で得られた地震学的構造と,電磁気学的研究グループによって求められた比抵抗構造(3.5.4参照)との比較検討を行うことにより,特に間隙流体の存在に着目した島弧構造が明らかとなり,地震火山活動の発生に対する地殻内流体が果たす役割の理解が深められることが期待される.
2014年~2018年にかけて実施したいわき・北茨城誘発地震発生帯から新潟平野に達する測線において,レシーバ関数解析については,火山フロント付近から前弧側にかけての断面が得られ,MTデータ解析については全測線にわたる島弧横断断面が推定されている.これらを比較することにより,比抵抗構造から求められた火山フロント付近の低比抵抗域が,レシーバ関数解析によって求められたモホ面を超えて明らかにマントルから地殻へと延びていることがわかった.低比抵抗域は上部マントル深部から続いている可能性があり,地殻に存在して内陸地震活動を規定する流体の供給源となっている可能性がある.今後さらに複数の測線において,流体の存在域と地震発生域との相関関係を明らかにし,内陸地震発生のポテンシャルを明らかにしようと研究を続けている.
(1-2)茨城県北部・福島県南東部の地震活動と応力場の研究
2011年東北沖地震以降の活動が継続している茨城県北部・福島県南東部における稠密地震観測網(40点)の維持を行った.2021年8月以降は,臨時観測点39点による観測が継続している.約10年間に蓄積された波形データを用いて,気象庁一元化処理震源と一致する震源を再決定した.気象庁の検測値に加えて,自動処理による読み取り値を用いて初期震源を推定した.その後,近接イベント間の相対走時差データを読み取り値と波形相関法に基づいて抽出し,相対走時差データを用いたDouble differential法により震源再決定を実施した.震源分布の特徴は,従来の自動震源処理結果と類似しており,共役関係にある南西傾斜と北東傾斜の断層面を示す震源の並びが多数見られ,震源域中央部では南西傾斜の幅の薄い面状の震源分布となり変形が局在化している.深さ約13㎞から約25㎞の範囲で,震源域の東側から西側に低角度で傾斜する震源の複数の並びが明瞭に確認され,前弧域における中・下部地殻内の変形帯を表している可能性が挙げられる.
(2)プレート境界域における不均質構造と地震活動の解明
(2-1) 四国地域におけるプレート境界すべり現象メカニズム解明のための地下構造異常の抽出
スロースリップイベントや深部低周波微動等の多様なプレート間の滑り現象を規定する地下構造異常を抽出する研究を進めている.2021年は,スロー地震の活動様式に違いがある四国東部地域で稠密地震観測を実施する為に,既存地殻構造探査で得られた結果や定常的な地震活動度,西南日本の他のスロー地震発生域で取得した稠密地震観測データによる最新の解析結果を参考にしながら観測点配置の検討を行った.検討結果を基に現地踏査を実施して確定した設置場所で,2021年12月13日より観測を開始した.本観測では,徳島県阿波市から海陽町に至る「阿波‐海陽測線」(測線長:約70 km)上の70か所(観測点間隔:約1 km),三好市から神山町に至る「三好‐神山測線」(測線長:約60 km)上の30カ所(観測点間隔:約2 km)に臨時地震観測点を設置した.各観測点では,固有周波数4.5Hz の地震計によって上下動及び水平動の3成分観測を実施している.データ収録は2022年12月までを予定している.
四国西部において,2019年に科研費・新学術領域研究「スロー地震学」によって取得した制御震源地殻構造探査データと,それ以前に取得されていた制御震源地殻構造探査データとを統合したデータに対して2次元波線追跡法,反射法解析を適応することで,島弧地殻や沈み込むフィリピン海プレートの形状を得た(Kurashimo et al., 2021).四国西部下の島弧モホ面は深さ25km~30 km,北傾斜の沈み込むフィリピン海プレート上面は深さ25-33 km付近にそれぞれ位置し,深部低周波微動発生域の南端は,島弧下のマントルウエッジが確認できる南端と良い一致していることを示した.