部門・センターの研究活動」カテゴリーアーカイブ

太平洋アレイの配置構想図. 単位アレイをスパイラルで模式的に示す.☆は2018年に設置された観測点(US1a:5月, Oldest-1:11月).既存の海底機動観測点を小黒点で示す.Oldest-2, HEB, 20Ma, Samoa, MPMはアレイ候補である.US1bは,既にNSFによって採択された米国の第1期計画の2番目のアレイである.

太平洋アレイの配置構想図. 単位アレイをスパイラルで模式的に示す.☆は2018年に設置された観測点(US1a:5月, Oldest-1:11月).既存の海底機動観測点を小黒点で示す.Oldest-2, HEB, 20Ma, Samoa, MPMはアレイ候補である.US1bは,既にNSFによって採択された米国の第1期計画の2番目のアレイである.

3.5.14 歴史地震に関する研究

 2017年度より地震研究所と史料編纂所との連携研究機構として「地震火山史料連携研究機構」が設置され,地震予知研究センターからも教員・研究員が参画している.同連携研究機構では,東京大学デジタルアーカイブズ構築事業の一環として「日記史料有感地震データベース」を構築しており,2018年度から試作版を公開するとともに,順次データを追加している.また,いくつかの地震の有感分布の分析や実在性の検討を行なった.「災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画」の一環で構築した「地震史料集テキストデータベース」(https://materials.utkozisin.org/)を2021年末に公開した.

 1596年に畿内で発生した地震に関してGISデータを作成した.89件の史料群のうち登場する地名や場所について現代の位置を特定し,397件について緯度経度情報および震度判定結果を付したものである.18世紀の宮城県南部の地震活動や1855年安政江戸地震の余震活動の詳細を分析した.市民参加型の歴史資料解読プロジェクト「みんなで翻刻」に新規の資料を追加した.歴史時代から現代までを通して地震カタログや有感地点データを検索できるツールを試作した.

3.5.13 日向灘における国際深海科学掘削計画推進プロジェクト

 日向灘は,巨大地震の発生してきた強い固着域である南海トラフの西端に位置し,固着が弱いと考えられている琉球海溝への遷移域である.日向灘・豊後水道における巨大地震の発生は確認されていないものの,南海トラフ地震の破壊領域の端に位置し,地震活動や固着メカニズムの解明及び防災計画立案に対し重要海域である.南海トラフと琉球海溝の境界に九州パラオ海嶺が存在し,そこを境として沈み込むプレートの凹凸や熱流量値が急激に変化している.また海山列の沈み込みが上部プレートの破砕や応力の局所的な増大をもたらし,日向灘・豊後水道における地震発生に大きく影響を及ぼしているであろう.これまでになされていない詳細な構造推定や原位置の岩石物性の把握を進め,定量的に地震分布・発生との関係を導く必要がある.

 このプロジェクトでは,海山が現在沈み込みつつあるトラフ付近に焦点を当てる.沈み込む海山の前方に微動・超低周波地震が分布しており,明瞭な関連性が見られる.しかしながら,海山の具体的な位置・形状,プレート境界断層の形状,上盤内部の構造は十分に得られたとはいいがたい.加えて,過去に掘削が実施されていないため物性が不明であり,定量的なモデル評価が困難である.地震波による地殻構造推定が不可欠であると同時に,掘削を通じたコア採取・原位置計測・室内実験,孔内観測が必須である.

 2020年4月に,国際深海科学掘削計画(International Ocean Discovery Program; IODP)に対して掘削予備提案を提出した.その後 2020 年 10 月に本提案を,2021 年 10 月に改訂案を提出した.提案は高評価を受けており,2024 年ごろに掘削実施を目指している.これと並行して,JAMSTECと共同で地震構造探査を 2020 および 2021 年度に実施し,解析をしている.地震学・地質学・地球化学など学際的な連携が不可欠であり,国内(海洋開発研究機構・京都大学・高知大学・神戸大学など)のみならず,アメリカ・カナダ・ニュージーランド・フランスなどを含めた国際性の高いプロジェクトである.日向灘~豊後水道域では,海底地震観測,GNSS 観測が継続的に実施されていることに加え,防災科学技術研究所による N-net の敷設が予定されており,関連研究と連携していく予定である.

3.5.12 海溝近傍での海洋プレート変形に伴う水・熱の流動過程の研究

 日本海溝海側における太平洋プレートの屈曲変形に伴い,プレート上層部で水や物質・熱が活発に移動することを示す現象が,近年相次いで発見された.プレート内火成活動(プチスポット),広域的な高熱流量異常,地震波速度構造の異常等である.速度構造の異常は,屈曲変形で生じた亀裂に水が取り込まれたことを示唆しており,熱流量異常も,海洋地殻の破砕により流体循環が発達し,熱を運ぶことで生じたと考えられる.このような海溝海側での水と熱の流動は,沈み込むプレートの温度構造と水分布を変化させ,プレート境界の地震発生帯付近の環境条件に影響を及ぼすものである.また,海洋プレートに水が侵入し沈み込み帯に持ち込まれる過程は,物質循環やマグマの成因等,物質科学の観点からも注目されている.

 これらの海溝海側で生じる過程に関して,科学研究費・基盤研究(A)「海溝近傍での海洋プレート変形に伴う水・熱の流動過程とその沈み込み帯への影響の解明」(2018~2021年度)を軸とした総合的な研究を行っている.この研究では,海洋プレート上層部における水の動きとそれによる熱輸送に焦点を絞り,複数の研究機関が共同することで,地球物理学的探査,物質科学的分析,室内実験,数値モデリングといった幅広い手法を用いている.

 2018~2020年に三陸沖日本海溝及び北海道沖千島海溝海域で実施した観測調査航海では,高密度の熱流量測定,堆積物コアと底層水の採取・分析,海底電位磁力計による自然電磁場変動の観測等を行った.それにより,千島海溝海側アウターライズにおける熱流量分布は日本海溝と異なる特徴を示すこと,日本海溝海側斜面に発達する正断層の近傍で間隙水中にマントル由来のHeが検出されること,プチスポット火山近傍の熱流量分布が火山体を通る活発な流体循環の存在を示すこと,等が明らかになった.これらは,いずれも海溝海側の海洋地殻内における水・熱の流動について重要な情報となるものであり,地震波速度構造や反射法地震探査の結果,流体循環のモデル計算等と組み合わせて,海洋地殻の破砕とそれに伴う流体流動の過程の検討を進めている.

 一方,多様な分野の研究者による議論や情報交換を推進する場として,地震研究所共同利用研究集会「海溝海側の過程に関する横断的研究:沈み込み帯インプットの実態解明を目指して」,及び日本地球惑星科学連合大会で同様な趣旨のセッションを開催した.また,日本海溝アウターライズを掘削し,海洋プレート屈曲断層の実体と水の流入過程の解明を目指す計画について,IODP掘削提案書の改訂に向けて議論を進めた.

3.5.11 2015年ネパール・ゴルカ地震 (Mw 7.8)

 2015年4月25日に発生したネパール・ゴルカ地震(Mw7.8)は,インド-オーストラリアプレートとユーラシアプレートの境界で発生した逆断層型の地震である.ゴルカ地震の震源断層の形状を明らかにすることは,衝突帯のテクトニクスを理解する上で重要である.そこで,2015年以降,トリブバン大学,ネパール科学技術院,山形大学との共同研究を進めている.2019年に自然地震を用いた反射法の解析により,震源断層の形状を高い精度で明らかにした(Kurashimo et al., 2019).本震時における断層面上のすべり量が大きな領域は,地震波トモグラフィによる速度構造でHigh Vp, High Vp/Vsの特徴を示す領域と対応している.2020年以降,自然地震観測は新型コロナウィルス蔓延のため,中止せざるを得ない状況ではあるが,取得データの解析作業は継続している.

3.2.6 地震先行現象の研究

(a) 長期的静穏化が地震に先行する傾向の客観的評価

巨大地震のほとんどに数年以上の静穏化があるという傾向の有意性を客観的に評価するため,北海道大学と協力して,一定の基準に基いて静穏化を判断し,一定の領域に一定の期間,大地震がおきやすいという予測によってランダムに立てた地震より有意に良く当るかを検証した.千島から小笠原にかけて,客観的・網羅的な静穏化の検出をおこない,9-12年程度以上続く静穏化があればそこから50-70km程度の範囲に4-8年程度有効な警報を出すという試行予測による警報マップと,1988年から2014年におきたM7.5以上8.5未満の地震8個とを比較した結果,確率ゲインが2程度,p値が5%をきる有意な先行傾向を示す.しかし,学習に使ったデータと評価に使ったデータが同じなので,過学習による好成績である可能性がある.そこで,今年度は,実験期間を前半・後半にわけて,片方で最適化したパラメタで他方の予測を行うクロスバリデーションを行い論文にまとめた.この場合,評価はたった4個の地震に対して行うことになるので低いp値は得られなかったが,後半データで学習した予測モデルは,前半の地震の予測に対しても確率ゲインが2程度の予測ができ,また,最適化された予測モデルは全期間のデータで学習したモデルと同様であった.一方,前半データで学習した場合は,この期間におきた地震前の静穏化に継続期間の特に長いものが複数あったため,異常検出の閾値が厳しすぎるモデルが選好されてしまい,学習期間では確率ゲインが4を超えるが評価期間では1程度となる(予測できていない)典型的な過学習となった.いずれにしろ,8個の地震に対して学習したモデルはロバストに見えるので,評価に使える地震数を2倍にすれば,クロスバリデーションに合格できるかもしれない.

3.5.10 日本海地震・津波調査プロジェクト

 2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う大津波は,日本列島の広汎な領域に極めて甚大な人的・物的な被害を及ぼし,防災対策の見直しが必要になっている.日本海側には,津波や強震動を引き起こす活断層が多数分布している.このことを背景として,文部科学省の「ひずみ集中帯の重点的調査観測・研究(2007〜2012年)」において新潟沖〜西津軽沖にかけての領域を対象に調査観測を進め,震源断層モデルを構築した.しかし,それ以外のほとんどの地域については,震源断層モデルや津波波源モデルを決定するための観測データが十分に得られていない.こうした問題点を解決するために,2013年度より「日本海地震津波調査プロジェクト」が開始された.本プロジェクトでは,日本海の沖合から沿岸域及び陸域にかけての領域で,津波の波高予測を行うのに必要な,日本海の津波波源モデルや沿岸・陸域における震源断層モデルを構築するための観測データを取得する.また,これらのモデルを用いて,津波・強震動シミュレーションを行い,防災対策をとる上での基礎資料を提供するとともに,地震調査研究推進本部の実施する長期評価・強震動評価・津波評価に資する基礎データを提供する.また,このような科学的側面に加えて,津波や強震動による被害予測に対する社会的要請の切迫性に鑑みて,調査・研究成果にもとづいて防災リテラシーの向上を目指して,地域研究会を立ち上げ,行政と研究者間で津波や強震動による災害予測に関する情報と問題意識の共有化を図っている.

 2021年は本プロジェクトの最終年度にあたり,これまでの構造探査の成果に加えて, 日本海側の平野下で新たに見出された伏在活断層を含め,震源断層モデルを構築した.これらの震源断層モデルをもとに,日本海沿岸での津波予測を行った.また,大和海盆と日本海盆で実施してきた広帯域海底地震計を含む地震観測記録の解析により,日本海海域下のリソスフェアーの厚さを明らかにした.被害地震発生の中期予測のための基礎資料をえるために,プレート形状を含め上盤プレートのモデル化を行い,測地データや発震機構から推定される応力状態のデータを基に,断層面に作用するクーロン応力の変化を求めた.これらの成果は,プロジェクトの成果報告書として公表されると共に, 日本海沿岸の道府県での研究会を通じて広報された.

3.11.8 首都圏を中心としたレジリエンス総合力向上プロジェクト:サブプロジェクト(b)「官民連携による超高密度地震動観測データの収集・整備」

2017年から「首都圏を中心としたレジリエンス総合力向上プロジェクト」が開始された.このプロジェクトは,3つのサブプロジェクトからなり,その中のサブプロジェクト(b) 「官民連携による超高密度地震動観測データの収集・整備」の一部を地震研究所で担当している.これまでに解明を進めてきた首都圏の地震像の精緻化や都市の詳細な地震被害評価に資するものにするため,政府関係機関が保有する,首都圏に整備された稠密かつ高精度な地震観測網(MeSO-net)と全国規模の地震観測網(K-NET,Hi-net等)により得られるリアルタイムの観測データ,民間が保有する地震観測データを統合した超高密度地震動観測データを収集・整備することを目標としている.

具体的には,MeSO-net等で収集された高密度な地震観測データを利用して,首都圏の地震ハザード評価に資する首都圏中心部や伊豆地域における詳細な地下構造の提案,首都圏における過去~現在の地震像の解明,将来の大地震による揺れの予測手法の開発,統合された地震観測データを用いてノイズレベルの高い首都圏でも適用可能な自動震源決定手法の高度化,歴史地震による揺れの分布の再現,3 次元階層化地震活動予測モデルを開発等の研究を行っている.

 今年度は,これまでにトモグラフィー解析で推定した地震波速度異方性構造と温泉地学研究所がレシーバ関数法で推定したフィリピン海プレートの構造とを統合した.それぞれの解析結果の精度が不十分な部分を補い合うことができ、その結果,フィリピン海プレートの地殻の厚さの分布が明確になり、地殻の薄い部分が過去の大地震の震源域と対応することが明らかになった.それは,今後発生すると考えられている首都圏の大地震の地震像を想定する際に,重要な要素の一つになる.

 大地震が発生した際の地震波による地表面の揺れは,必ずしも均質ではなく,地域によって異なっている.揺れは,地震波減衰構造や地盤特性等に大きく影響されるためであり,細かな地点ごとの情報があれば,そこから算出することが可能である.しかし,詳細な被害分布を推定するには,まだ地下構造の情報が足りない.そこで,これまでに観測された地震動を用いて,相対的な地点ごと揺れの特徴を求めた.その情報をもとにして,面震源(断層)を仮定した際の震度分布推定アルゴリズムのプロトタイプを開発した.

 大地震の発生は大きな被害をもたらすが,その頻度は高くなく,その情報は限られている.そのため,大地震の地震像やその被害状況を知るためには,過去に遡って古文書等から読み解く必要があり,これまでに多くの文献が収集されてきた.被害の記述から被害の程度を判定し,その分布から震源の位置や地震の規模等を知ることができた.ただ,その震度は,震源から同心円状に分布するわけではなく,地域による不均質がみられる.地下構造や地盤特性の影響と考えられるが,それを現在の地震の震度分布と比較するために,震度のデータベースを作成している.具体的には,古文書に書かれている被害地点を古地図の中から探し出し,位置を特定する.そして,その地点に地震計を設置し,現在の地震による揺れを観測する.古文書に記述されていない地点でも同時に観測することで,相対的な震度を推定することができ,震度分布の密度を高めることが可能になり,歴史地震の地震像を推定する際の重要な情報の一つとすることが期待される.

近年に発生した大地震の本震発生前後の地震活動を統計モデルで解析し,余震活動の収束性や本震に至る地震活動の特徴の解析を継続して行い,統計モデルの高度化をはかっている(例えば能登半島の地震).

図3.11.2

fig3_11_2

四国西部における深部超低周波地震累積個数の経年変化.G1は豊後水道域,G2は愛媛県西部,G3は愛媛県中部に対応する.黒い矢印は豊後水道の長期的SSEの発生時期を表し,赤い直線は2004年4月–2009年12月および2014年7月–2017年3月の回帰直線を示す.回帰直線の傾きを比較すると,G1とG2で2014年後半以降超低周波地震の活動が静穏化していることがわかる(Baba et al. 2018).

図3.11.1

fig_3_11_1_a

fig_3_11_1_b

fig_3_11_1_c

 

1997年7月11日から2017年12月31日までの鋸山観測所における歪, 傾斜, 気圧, 雨量のデータ.2011年の東北地方太平洋沖地震の影響によるデータ欠測期間を破線で示した.

上段:歪三成分 (NS, EW, NE,いずれも伸びが正)と大気圧.

中段:傾斜二成分 (NS:N-down正,EW:E-down正).

下段:24時間降水量.