「アウトリーチ,国際共同研究,若手育成・教育推進,技術支援」カテゴリーアーカイブ
表4.2.1
4.4.2 総合観測室
担当教員 | 小原一成(教授,併任),篠原雅尚(教授,併任),大湊隆雄(教授,併任),酒井慎一(教授,併任) |
技術職員 | 阿部英二,秋山峻寛,安藤美和子,藤田親亮,橋本 匡,増田正孝,宮川幸治,西本太郎,佐伯綾香,芹澤正人,田中伸一,八木健夫,渡辺篤志,辻 浩(小諸地震火山観測所) |
平成22年4月の地震研究所における組織改組により,これまで個々の研究室に配属されていた技術職員のうち,主としてフィールドで観測研究の支援にあたる技術職員を総合観測室に集め,技術者集団として組織的に様々な観測支援依頼に対応できるよう,研究所全体の観測研究をより高度化することを目的として体制を変更した.総合観測室では,従来から行ってきた観測開発基盤センター所管の地震・地殻変動・火山・強震・電磁気の観測所及び観測網の保守,データの処理や管理に加え,同センター所有の観測機材の維持・管理や,所内の他センター・部門が実施する観測研究の支援を行うようになった.更に,地震研究所が「地震・火山科学の共同利用・共同研究拠点」として,地震・火山研究分野における全国の大学・研究機関の中核的役割を担っていることから,全国の大学・研究機関による地震・火山の合同観測における観測支援やそれに利用する観測機材の貸出・管理・維持を行っている.
観測網や観測所の維持・管理業務については,それに従事する多くの技術職員が平成23-24年度に退職を迎えたが,順調に現世代の技術職員への引き継ぎが行われ,現在に至っている.更に,これまで研究室ごとに観測機材を管理していた非効率なシステムの改善を目指して全所的に観測機材を管理できるシステムの構築を目指した「観測管理データベース」の構築や,全国の大学で地震データを共有する仕組みを支援する「データ流通・収集・処理」の高度化を目指した作業部会を技術職員が立ち上げ,業務改善に向けて自主的に励んでいる.
今後は,新たな研究の方向を見据えて,既存の観測所や観測網の整理・再構築を行い,学術の進展に従い,より柔軟な技術支援を実現できる体制を目指す必要がある.一方,研究活動の発展に伴って,技術職員の業務量が年々増加の一途をたどり,支援業務は概ね順調に行われているものの,技術職員の業務過多が深刻化しつつある.また,2020年に猛威を振るった新型コロナウイルス感染拡大は,消長を繰り返しながら継続しており,感染対策にも留意しながら業務を進める必要がある状況は今後も長期間続くと考えられるため,研究所の将来計画とも連動して,研究支援業務の内容・量を大幅に見直す時期に来ている.
主要な活動:
(1)陸域における地震/地殻変動観測研究の支援
- 各観測所の庁舎維持管理
- 各観測所データシステムの保守・記録の整理・保管
- 定常地震及び地殻変動観測点の保守
- 各観測所の地震・地殻変動データの収集状況及び機器動作状況の確認
- 定常地震観測点・地殻変動観測点におけるデータ品質管理・処理
- データ流通/収集/監視に必要なサーバ等の構築や保守
- 地殻変動データの一次処理と共同研究利用者への提供
- 四国南西部,九州東部における広帯域地震観測支援・保守・データ監視
- 四国・東海に展開された広帯域臨時地震観測網の現地保守・観測点撤去・機材管理支援
- 茨城県及び福島県域のオフライン稠密臨時観測支援
- 茨城県および福島県域の準定常地震観測点の保守・データ監視
- ひたちなか柏崎側線の臨時観測支援
- 谷根千臨時地震観測点の設置・保守
- 長野県大町における臨時地震観測点の設置・保守・回収
- 弥彦観測所の観測終了に伴う撤収作業
- 筑波地震観測所観測室の解体にむけた準備
(2)海域観測研究の支援
- 自己浮上式海底地震計・圧力計の組立・解体
- 自己浮上式海底地震計・圧力計の機材整備
- 釜石海底地震計・津波計観測施設の維持・管理(災害復旧対応を含む)
- 日本海海底地震観測所の維持・管理
- 日向灘における地殻熱流量観測支援
- 宮城沖での自己浮上式海底地震計を用いた海底地震観測支援
- 紀伊半島沖での自己浮上式海底地震計を用いた海底地震観測支援
- 南西諸島沖での自己浮上式海底地震計を用いた海底地震観測支援
- 房総沖での自己浮上式海底圧力計を用いた海底地震観測支援
- 日向灘での自己浮上式海底地震計を用いた海底地震観測支援
- 三陸沖光ケーブル式海底地震観測システムの未使用光ファイバを用いたDistributed Acoustic Sensing計測支援
- 三宅島に流れ着いたガラス球OBSの回収
(3) 火山観測研究の支援
- 浅間山,伊豆大島,霧島山観測所の維持・管理
- 火山定常観測網(浅間山,伊豆大島,富士山,霧島山)の維持・管理及びデータ処理
- メタル回線を使用している各観測点の光回線への切り替えに向けた準備
- 無人航空機による火山観測支援
- 三宅島における臨時観測点の保守支援
- 浅間山の空中電界変動観測支援
- 三宅島における臨時観測点の保守支援
- 伊豆大島における地磁気絶対観測
- 伊豆大島における海陸合同比抵抗構造探査支援
- 富士山における臨時地震・空振観測支援
(4) 電磁気観測支援
- 八ヶ岳地球電磁気観測所における機器保守ならびに基準観測支援
- 伊豆・東海地磁気観測点の観測点維持・管理
- 関東北部・新潟広帯域MT観測支援
- 南鳥島における地磁気絶対観測支援
(5)強震観測支援
- 定常強震観測網及び観測設備の維持・管理・廃止・リアルタイム化
- 共同強震観測網の観測支援
- 強震観測データの回収、整理及びWebサーバでの公開
- 強震観測データベースWebサーバの更新
- 強震観測事業推進連絡会議への強震速報の報告
(6)その他の国内観測・実験支援
- 桜島、伊豆大島における絶対重力測定
- 伊豆大島における絶対・相対重力測定
- 箱根・南足柄アレイ観測機材貸出および観測支援
- 四国東部緻密地震観測の観測機材準備支援
- ミューオンによる跡津川断層透視のための観測準備作業
- レーザー伸縮計を用いた歪観測
- 石垣島におけるサンゴマイクロアトールの試料採取
- 先島諸島で採取したサンゴマイクロアトールの試料整理と喜界島サンゴ礁科学研究所への輸送支援
- 南海トラフ海底地震津波観測網(N-net)開発のための鋸山観測坑内試験支援
(7)国外における観測研究支援及びその関連業務
- ニュージーランドでの自己浮上式海底地震計を用いた海底地震観測支援
- メキシコでの自己浮上式海底地震計を用いた海底地震観測支援
- チリでの自己浮上式海底地震計を用いた海底地震観測支援
- ネパールに構築したオンライン地震観測網の技術移転支援
(8)観測機材の維持・管理業務
- オンライン地震計及び地震観測システムの維持・管理,貸出
- オフライン地震計及び地震観測システムの維持・管理,貸出
- 電磁気機材及び観測システムの維持・管理,貸出
- 機動強震観測システムの整備,維持・管理,貸出
- 本所及び観測所の公用車の維持・管理
(9)その他
- 共同利用・共同研究拠点機能としての観測機材貸与(観測機器の点検・準備・発送)
- 地震計博物館・一般公開・ラボツアーに対する支援
- 火山噴火予知連絡会資料の作成
- 研修運営委員会業務
- 技術研究報告編集委員会業務
- 一般公開WG業務
- CERT委員会業務
- 報道取材(NHK・TBS・新潟日報など)対応
- 広報アウトリーチ向け動画撮影への協力
4.4.1 技術開発室
担当教員 | 新谷昌人(教授,併任) ,平賀岳彦(准教授,併任),中井俊一(教授,併任),高森昭光(助教,併任),鶴岡弘(准教授,併任) |
技術職員 | 外西奈津美,竹内昭洋,上原美貴,浦野幸子 |
特任専門職員 | 内田正之 |
技術補佐員 | 細井健司 |
技術開発室は,観測・実験にともなう機器の試作・開発,化学分析,実験装置の維持管理,観測データ流通ネットワークや計算機システムの整備・運用などをつうじて,観測・実験研究を技術面から支援している.所内教職員からの依頼による機械工作(金工・木工) ,電気回路製作,技術相談,化学分析,実験支援を行っている.汎用性の高い工作機械,工具類,計測装置,機械・電気部品,ソフトを常備し利用者に開放している.また,定期的に機械工作講習会を実施している.
(1)依頼工作・分析・実験補助等による技術支援
- 機械工作(金属部品製作,装置組み立て,追加工,木工等)
- 電気回路製作(アナログ・デジタル回路製作,特性測定,基板・シャーシ加工,配線等)
- 技術相談(機器開発,装置改良,技術問題解決等)
- 化学分析(元素分析,同位体分析等)
- 実験補助(大型装置操作等)
(2)共用機械・装置の維持管理,共用部品・ソフト等の整備
- 工作機械(ボール盤,旋盤,フライス盤,鋸盤等)
- 電子計測機器(発振器,直流電源,デジタル電圧計,オシロスコープ等)
- 分析装置(元素分析装置,同位体分析装置)
- 実験装置(岩石破壊装置等)
- 共同利用実験装置の維持管理
- 共用部品・ソフト(ねじ類,工具類,電子部品,機器消耗品,3次元製図ソフト等)
(3)技術情報の共有,安全管理
- 技術講習会の開催(機械工作)
- 依頼案件の集約(共通技術の把握)
- 技術情報の提供(部品規格,供用物品,製作事例等の公開)
- 安全管理業務の遂行
(4)観測データ流通ネットワーク・計算機システムの整備・運用
- 本所および各観測所間の観測データネットワーク整備
- 地震研基幹ネットワークシステムの運用
- 大規模高速並列計算機システムの運用
4.1.2 委員等派遣による国・自治体等の防災対策への貢献
地震及び火山現象の解明とその防災・減災に関連する研究が目的のひとつとなっている地震研究所にとって,国や自治体における地震・火山防災に関連する委員会等への貢献は,研究成果を社会へ還元する取り組みである「アウトリーチ活動」の一環として,重要な意味を持っている.2021年も,延べ100名を越える委員等の派遣をしており,国や地方自治体の防災対策に大きな貢献を果たしている.
4.1.1 広報アウトリーチ活動の実績
(1)ホームページ
ホームページ(所の公式なウェブサイト)は社会への情報提供のための重要なツールである.広報アウトリーチ室ではこれまで,ニューストピックス,地震・火山情報の発信などを整備し,運営・管理を行ってきた.2013年度以降は,所の最新の研究活動をより広く知って貰うため,最近の研究を紹介する欄を設け,研究成果として論文に公表された内容を一般の方にも判るような解説を付けてホームページにアップするコーナーを立ち上げた.また,2014年11月にホームページを大幅にリニューアルして,よりシンプルなトップページと整理された階層構造を整えて,ホームページによる情報発信の強化を図った.さらに2021年4月より,ウエブアクセシビリティ等に配慮した新たなウェブサイトへの移行を進めた.また,教育・研究活動の国際化に応えるためホームページ英語版の構成を全面的に見直し,国際的な情報発信を強化した.
地震研究所の最新の研究活動に関する情報を掲載するホームページの維持管理と情報発信に務めるとともに,大規模な地震・火山活動時には,国内外を問わず,すみやかに地震・火山情報のページを設け,地震研究所の観測・研究情報や解説記事などを迅速に提供している.2021年には,2月13日の福島県沖の地震の観測・研究速報の情報発信を行った.トップページには,所員が出版した最新の論文についての解説を「最近の研究から」として掲載し,順次入れ替えを行っている.また,「お知らせ」「シンポジウム」「受賞」等の情報の掲載を頻繁に行い,所内外への広報アウトリーチ活動を遅滞なく進めた.2020年から行っているWebサイトリニューアルにおいて,「広報・アウトリーチ室」内のメニュー構成を,外部の方がアクセスしやすいよう,見直した.
(2)印刷物
所内研究者の研究や所外研究者との共同研究の成果を公表・発信するために,広報誌・要覧などの印刷物を出版するとともに,これらをホームページで公開している.
広報誌は「地震研究所広報」から電子媒体のみの「地震研究所ニュースレター」(2005 年より 30 回発行) を経て,2008 年より紙媒体の広報誌「ニュースレター Plus」を発行している.4ページのコンパクトな紙面に,特集記事とトピックスを一般の読者を意識して分かりやすく解説するよう努め,学内・行政・審議会・メディア等の関係者や地球科学関係の学科等がある大学や首都圏の高校,図書館等に送付するほか,全所員,一般公開の参加者や公開講義等でも配布している.執筆・デザインには外部のライターやデザイナーの協力も得て,質の高い広報誌を目指している.2021年には「ニュースレター Plus」を2回(第35 36号)発行し,第37号の準備を行い,地震研究所の最新の研究成果を紹介した.
世界及び日本の震源地図のポスターは最新の地震活動データを加えた改訂版を作成しているが,2020,2021年は大きな地震がなかったことから更新は行なわなかった.コロナ感染終息後の見学や出展再開に備え,鯰絵や要石等をデザインした絵葉書,世界・日本震源地図,地震研パンフレット(日本語),震源クリアファイルを増刷した.その他の配布物として,地震研ロゴ入り布製バッグ(A4サイズ,追加),地震波形入りの手ぬぐい(新規)を製作した.これらの配布物は,一般公開・ラボツアー・所内見学に訪れた来場者に配布し,地震活動の理解への啓発に向け活用した.特に12月に米国で開催されたAGU(米国地球物理学連合秋季大会)に出展し配布したところ大好評であった.
(3)研究紹介動画等
一般の方に地震の観測の方法や研究の意義を理解してもらうための動画を作成し,展示ブース等での上映や,地震研ホームページへの掲載を行った.地震波伝播を再現する模型等の教材を,学会等で展示や,学校,防災関連イベントへの貸出を行なっている.2021年は,技術開発室と共同で,低学年向けの工作教室(地震内波発生装置,地震計)の動画を製作,地震研Youtubeに公開した.
また,バーチャル地震研を拡張した「デジタルパンフレット」や,研究室紹介3分動画の製作など,オンラインを活用した新たな広報・アウトリーチ企画を検討した.
(4)関連学会へのブース出展
学会に参加する研究者,学生・生徒へのアウトリーチとして,これまで日本地球惑星科学連合大会,日本地震学会,国際学会 (EGU,AGU,AOGS,IAVCEI・IASPEI等) に,地震研究所としての展示ブースを出展し,研究所の活動や成果,開発機器等の紹介を務めてきた.2021年は,4月に開催されたEGU(ヨーロッパ地球物理学連合)2020年次大会にオンライン出展した.国際室・共同利用・一般公開WGと共同で,所長挨拶・COVID-19下での対応,・26件の3分動画(部門・センター・ハイライト・プロジェクト紹介)・Muogeaphix紹介・国際室紹介・アンケート,の6コンテンツを製作した.5月に開催されたJpGU2021大会(バーチャル)にもオンライン出展し,EGUと同様,地震研の研究活動と共同利用や国際室の各種募集情報を電子ポスター(iPoster)にて紹介した.2021 AGU Fall Meetingには,国際室との協働により対面で出展(米国ニューオーリンズ)し,地震研究所の教育研究活動の紹介に努めた.
(5)一般公開・公開講義
地震研究所では,地震や火山の基礎研究,地震火山災害の軽減に関する研究などを直接的に社会に伝達することも重要な責務であり,学生や市民を対象に研究所の一般公開を実施している.2009年までは一般公開に合わせて公開講義を実施してきた.2010年から2013年までは,1月から3月に公開講義を開催したが,2014年からは,一般公開の時期に公開講義を実施している.2021 年は,東京大学のオープンキャンパス(オンライン)の日程に合わせて,7月10日に研究活動のWeb展示と,学生実験及び公開講義をライブ配信した.
2021年11月には,JST主催の「サイエンスアゴラ(科学と社会を繋ぐ広場)」にオンライン出展し,「光ファイバー地震計が拓く新たな海底地震・津波観測の新展開」に関する議論を行った.
(6)所外からの問い合わせ・講演依頼等への一元的な対応
社会の関心が高い研究を進めている研究機関として,一般の方からの様々な問い合わせに対応するため,地震研究所ホームページに「問い合わせ」欄を設け,広報アウトリーチ室が窓口となる体制を整えている.また,所外(政府省庁,地方公共団体,防災関係機関,学会,教育委員会,中学・高校)からの講演依頼については,所内の教職員の協力のもと,本務である研究・教育活動に支障がない範囲でできるだけ対応する方針をとっている.
(7)見学,ラボツアーの実績
中学生・高校生・大学生・研究者及び地方あるいは国の行政機関,学校教員,関連企業などからの地震研究所の訪問・見学の希望については,できるだけ受け入れる方針で対応している.訪問・見学者に対しては,希望により所内教員の協力を経て地震火山に関する講義を行い,また所内研究施設(海底地震計,首都圏地震観測網,地震計博物館など)の見学(ラボツアー)を実施している.また,国際室と協力して,海外の研究機関や行政機関からの来訪者にも対応している.例年,国内外から50件,人数にして1500名以上の見学・訪問者があるが,コロナ禍の下,講義や施設見学の訪問者の受け入れは停止していた.2021年の夏以降感染者が減少したことなどから,感染対策に配慮した見学受け入れをWebサイトで案内し,12月に一件,対面での見学が実現した.10月には,弥彦山観測所閉鎖作業時に現地での見学・取材対応を行った.オンラインによる講義や施設見学(バーチャルラボツアー)を開催した.
(8) 報道対応及び報道関係者,防災関係者向けの教育
地震研究所における取組みを一般に伝えるためには,ホームページや印刷物の他に,報道機関からの取材への対応も広報アウトリーチ室が担当している.2012年度以降は,報道関係からの取材依頼や問い合わせについても,広報アウトリーチ室が窓口となって一元的に受けつける体制を整備し,対応が可能と思われる適切な教員に受けて貰う形で応えている.また,教員が行った取材対応や講演会等の活動は,所内ページの「アウトリーチ活動報告」フォームから随時報告を受けている.
また,地震・火山の観測計画によっては地元自治体,住民の協力・理解を求める事が必要であり,それらの実施予定や重要な研究成果などについては東京大学本部広報課と緊密な連絡を取りながら,必要に応じてプレスリリースや記者会見等の手段による報道対応を行っている.
地震研究所の研究活動,研究成果をより的確に社会に伝えるためには,仲介者となる報道や行政機関,教育関係者などとの十分なコミュニケーションが不可欠である.国内外の地震・火山災害の解説や,地震研究所が取組む研究など,話題提供と意見交換を行う場として「地震火山防災関係者との懇談の場」を設けている. 2012年からは,「ニュースレターPlus」で取り上げた話題を報道関係者に掘り下げて詳しく紹介する試みを始めている.2020年は,「ニュースレターPlus」第35, 36, 37号の特集記事に関する懇談の場を,オンラインにて3回開催した.また,報道関係者や自治体防災担当者を対象に,地震・火山情報の基礎となる研究と予測の現状について意見交換を図る「地震・火山噴火予測研究のサイエンスカフェ」の第6〜12回目を地震火山噴火予知研究協議会に協力してオンライン開催した.
4.2.1 経緯と展望
地震研究所では,特別教育研究経費によって平成17年から「地震・火山に関する国際的調査研究」事業をスタートした.この事業では,先進諸国との連携を一層強化するために世界の一線級の研究者を客員教員・客員研究員として招聘することとし,その推進のために同年「国際地震・火山研究推進室」(略称:国際室) を開設した.この事業は当初10年間の予定であったが,平成23年度に運営費交付金に組み替えられた.地震研究所では,引き続き国際室を中心として客員教員・客員研究員の招聘事業を行うとともに,地震・火山の共同利用・共同研究拠点としての機能も用いながら,アジア・太平洋地域に地震研究所の研究成果を還元するなどの活動を積極的に推進しており,同地域における地震・火山研究の中核研究機関となることをめざしている.
4.2.2 国際室の運営と業務
国際室は教授4名,准教授5名,オブザーバー(所長,事務長,副事務長,人事及び研究協力担当)及び業務スタッフ(特任専門職員2名,技術補佐員1名)で構成され,ほぼ毎月定例の国際室会議を開催して運営にあたっている.共同利用担当など事務部を支援して,海外からの研究者招聘(長期・短期)業務に加え,地震研に滞在する研究者・留学生の招聘に関する手続き支援,学術協定締結・更新業務,協定に基づく共同研究や全学主催の行事への派遣,ワークショップ・サマースクール開催に関する業務を行っている.育成室・広報アウトリーチ室と協力し,国際学会でのブース展示をここ数年実施している.
(1)招聘事業
外国人研究員の招聘事業は, 3ヶ月以上の長期招聘(特任教授・准教授などの教員級と若手のPD級)と3ヶ月未満の短期招聘との2種類で構成されている.長期招聘研究員については,地震研ホームページで公募し,パンフレットを作成して国際学会で配布したりなど広く呼びかけており,平成30年度32名,平成31年度42名,令和2年度34名,令和3年度33名, 令和4年度24名の応募があった.短期招聘については,地震研の教員による推薦として所内公募を行っている.これらの応募者について,国際室メンバーで選考会議を開催,候補者を決定し,教授会・共同利用委員会へ推薦している. 令和3年度の外国人研究員のリストを[表4.2.1](長期招聘者)に示す.(令和2, 3年度は短期招聘者なし).2021年3月に東京大学が制定した「Global Fellow」称号を活用し,国際室招聘研究員(教授級)のうち,1名が外国の居住地からリモートで研究活動を実施した(委託契約).また,コロナ禍のため来日が遅れている招聘研究者に対して,速やかに研究を開始するためのオンライン研究(謝金制度を利用)を開始,3名が数か月〜12か月間にわたりリモートで研究を実施した.また,学会がオンラインになる中,海外の研究者との交流の機会が減少していることに鑑み,オンラインでのセミナー(金曜日セミナー等)の開催に対して謝金を支払う制度を開始し,1件が採択された.
招聘研究者への待遇・環境改善に取り組んだ.ロッジの使用料が軒並み値上げされたため,手当(雇用)や宿泊費(短期招聘)の支給額を見直しに着手した.また居室の環境改善に取り組んだ.
(2)国際共同研究・教育の推進
2019年度まで実施していた中国科学院大学のサマースクールへの講師派遣は行われなかった.令和3年度の国際室招聘研究者の集いを, 2021年9月17日(チリ, パキスタン, フランス各1名, インド, 中国各2名, 計7名)と2022年1月25日(チリ, パキスタン各1名, フランス, インド, 中国各2名, 計8名)の2日間,ハイブリット形式で開催し, 各自の研究内容を含めた紹介等を行った.今年度で7回目となるJSTさくらサイエンスプログラムは対面での実施は中止となったが,オンラインで実施した(実施は2022年2月上旬). この中で国立台湾師範大学(台湾),インド科学教育研究大学(インド),中国科学院大学,中国科学院 地質・地球物理研究所(中国)各1名, 計4名の大学生が2022年2月1日にオリエンテーション, 2月3日, 8日, 9日は講義に参加し, 2月16日には研究発表会を行った.
(3)国際アウトリーチ活動
多くの学会がオンライン開催となったため,展示もオンラインでの参加が中心となった.JpGUでの展示は,広報アウトリーチ室・共同利用と協力して実施し,国際室招聘プログラムの紹介動画の作成や,開催期間中のオンライン同窓会を開催した.またハイブリット形式で行われたAGUでは国際室長1名で参加, ブース出展し,パンフレットの配布と訪問者の質問の対応などを行った.ブースへの来訪者は多く,数名のOB・OGの訪問もあり,盛況であった. また昨年に引き続き, 地震研Webサイトの改訂に合わせて,国際室部分のリニューアルを継続した.
4.4 技術部
下記の2室は,全国共同利用研究所(H22年度より地震・火山科学の共同利用・共同研究拠点)としてより有機的な研究支援体制の確立を目的として,平成13年4月1日付けで設置された技術職員とそれを統括する担当教員で構成された組織(所内措置) である.
4.3 若手育成・教育推進室
教授 | 新谷昌人,市村強,加藤愛太郎,清水久芳(室長),武井康子,竹内 希 |
准教授 | 市原美恵,前野 深,望月公廣,西田 究,綿田辰吾 |
次世代をになう大学院生・若手研究者の育成に全所的に取り組むことを目的とし,平成22年4月に行われた改組に伴い「若手育成・教育推進室」(以下『育成室』と呼ぶ)が設置された.育成室では,(1) 理学系大学院地球惑星科学専攻の教務,(2) 大学院教育プログラムの企画・立案および調整,(3) 若手育成・教育に関する方針,(4) 学生に対する経済支援,(5) 本学におけるさまざまな教育活動,(6) その他研究所の若手育成・教育に関する重要事項,について地震研究所としての対応を検討・実施している.
令和3年度も,引き続き毎月1 回の定例の育成室会議(原則として教授会の一週間前の木曜日)を開催し,活動した.所外の教育関連の委員会には,理学系研究科教育会議(清水),地惑専攻教務委員会(望月,市原,西田),地球惑星専攻幹事会(武井,新谷),GSGCファカルティ―委員会(竹内)のように,室員から委員を派遣した.また,理学部地球惑星物理学科の講義・演習の担当者の選定などにも組織的に対応している.
具体的な活動としては,修士論文の中間発表と大学院生およびポスドク研究員の研究発表を全所的に行う「学生week」の開催(11月15日–19日),博士課程学生を対象とした地震研リサーチアシスタント制度の実施,国内外の大学院生・学部生を一定期間受け入れるインターンシップ研修生制度の実施,大学院進学ガイダンスの実施(5月22日),気象庁,国土地理院,海上保安庁による合同進路説明会の開催(2021年3月15日:参加学生19名)などを行った.また,理学部地球惑星物理学科の学生を対象とした観測実習や実験演習には地震研究所から11名の教員が非常勤講師として参加し,教育・指導を行った.さらに,教養課程の学生を対象とした初年次ゼミナールとして「地球の鼓動を聴いてみよう」(担当:西田准教授,加納准教授,綿田准教授)を担当した.例年、初年次ゼミナールに関連した全学体験ゼミナールを開催してきたが,COVID-19の影響により,2020年に引き続き2021年も開講を見合わせた.また,COVID-19 の影響によりオンラインで授業やセミナー,学会が開催されていることに対応し,大学院生や研究員が使用できるオンライン会議室の設置に関する調整を行なった.
大学院教育の国際化に関連して,理学系研究科が開校したGSGC(国際卓越大学院,Global Science Graduate Course)に参加している.2021年に1名が博士課程を修了し,現在は1名の学生を受け入れている.また,1名についてはCOVID-19の影響により来日・入学が延期されているが,状況が整い次第来日する予定である.地震研に所属する大学院生に対し,海外の大学・研究機関に1ー2ヶ月滞在し研究をおこなう活動を支援する「地震研究所海外派遣インターンシップ制度」については,COVID-19 の影響により派遣が難しい状態となり,派遣者はいなかった.