【研究速報】浅間山8月7日22時08分頃の噴火

8月7日、午後10時08分頃に浅間山が噴火し、気象庁は噴火警戒レベルを3に上げました。観察により得た情報をここで更新してまいります。

※ 報道関係の方へ: 2019年噴火の写真の引用は,読売新聞社にお伺いください。


最終更新日:2019年8月20日


火山噴火予知連に提出された、地震研火山噴火予知研究センター関係の観測データ資料(火山噴火予知研究センター:大湊 隆雄)

(資料作成 火山噴火予知研究センター 市原美恵)

(資料作成 総合観測室 渡邉篤志)

(資料作成 火山噴火予知研究センター 大湊隆雄)(資料作成 火山噴火予知研究センター 大湊隆雄)(資料作成 火山噴火予知研究センター 大湊隆雄)

(資料作成 火山噴火予知研究センター 小山崇夫)



2019年8月10日

浅間山2019年8月7日噴火火山灰の堆積状況と構成粒子の特徴

(火山噴火予知研究センター:前野 深)

概要: 浅間山2019年8月7日噴火の火山灰の現地調査および火山灰構成粒子の観察を行った。堆積物は,火口から北方向へ少なくとも7.7 kmまでの距離で確認された。構成粒子は,様々な程度に変質した岩片,新鮮な溶岩片が大半を占める。このうち変質の程度が強いものは45%程度,比較的新鮮なガラス質溶岩片は25%程度認められた。粒子構成比率は,2015年噴火の特徴に似ている。火道浅部でのマグマの急上昇を示すような新鮮かつ高発泡度の粒子はほとんど含まれていない。

【降灰の状況】
8月7日22時7分頃に発生した小規模な噴火に伴って,浅間山の北から北東方向で降灰が認められた。浅間園北東500 mで2.1 g/m2,鎌原の北軽高原ホテル付近で0.6 g/m2の降灰量であった。堆積物は,火口から北方向へ少なくとも7.7 km(北軽嬬恋GC付近)までの距離で確認された。凝集した細粒火山灰が,粒状・斑点状に堆積しており,明瞭な層はなしていない(図 1)。降灰分布の詳細については,他機関と共同で別途報告する。ちなみに,2015年6月16日噴火では,軸部の鬼押出し園において0.75g/m2の降灰量であったので1),前回より降灰量は若干多い可能性がある。

【火山灰試料】
採取日:2019年8月8日14:45頃
採取場所:火口から4.3 km,浅間園北東500 m浅間橋
産状と採取法:構造物上に堆積した火山灰を刷毛で収集

図 1 浅間園北東の浅間橋での火山灰の堆積状況。降灰量は2.1 g/m2。

【火山灰の処理・観察結果】
水洗(超音波洗浄)により上澄みを取り除き,乾燥後,篩がけにより径125-250 μmの粒子を選別し,構成物の種類とその割合を実体顕微鏡で調べた(図 2)。305粒子について観察し,構成粒子の割合は粒子数を基にした。2015年噴火でも同様の方法で観察を行っているが,その際は粒径250-500 μmを用いている。今回は採取量が少なく全体としても細粒であり,250 μm以上の粒子が十分に稼げないため,径125-250 μmの粒子を対象に解析を行った。

2019年噴火の火山灰構成粒子は,様々な程度に変質した岩片,新鮮な溶岩片が大半を占める。これは,近年の浅間山噴火の火山灰と同様の特徴である。これまでの分類と同様に,粒子を以下5種類に区分し,その構成比を調べた。

(1)Fresh pumice: 変質物質の付着していない新鮮な発泡ガラス片。
(2)Fresh lava: 変質物質の付着していない新鮮なガラス質溶岩片。灰色〜透明で緻密,鋭利な破断面を持ち角張った外形を示す。
(3)Less altered lava: (2)よりも変質の程度の低い,主に灰〜黒灰色の溶岩片。ガラス光沢はないか,あっても粒子表面の一部に限られる。
(4)Altered material: 白色,黄色,橙色,赤色,緑色などを呈する,軽石・溶岩片等を源物質とする変質物質。
(5)Crystal: 斜長石,単斜輝石,斜方輝石の遊離結晶。

これらの粒子構成比は,(1)<1%,(2)25%,(3)20%,(4)45%,(5)9% となった。この比率は,2015年噴火の特徴によく似ているが(図 3),2019年の方が新鮮溶岩片の割合が10%程度多い。新鮮溶岩片の起源としては,既存山体や,近年の噴火の際に貫入し固結していたマグマなどが考えられる1)。構成比の違いは,岩石の破砕場所(または深度)の違いなどを反映している可能性もあるが,現時点ではその原因は明確ではない。新鮮かつ高発泡度の粒子,すなわち火道浅部でのマグマの急上昇を示すような粒子はほとんど含まれていないため,今回の噴火では既存の火道構成物・充填物が破砕し,噴出したと考えるのが妥当であろう。

図 2 洗浄後の径125-250μm火山灰粒子。
図 3 浅間山における近年の噴火による火山灰の構成種変化。2004 年は9 月中旬のストロンボリ式噴火の火山灰。2004 と2009 年噴火では新鮮溶岩と弱変質溶岩をまとめて示している。

参考資料:
1) 東京大学地震研究所・早稲田大学教育総合科学,浅間山2015 年6 月16 日噴火火山灰の観察結果,火山噴火予知連絡会資料2015年6月18日。

 

 


2019年8月9日

浅間山2019年8月7日噴火直後の上空観察

(火山噴火予知研究センター:前野 深)

概要: 2019年8月7日22時過ぎに発生した浅間山の噴火を受けて,8月8日朝にヘリコプター(読売新聞社機)による上空からの観察を行った。釜山火口および周辺に大きな変化は認められなかった。釜山火口内中央には以前から火孔が存在しているが,噴火後も同様に認められた。北西側の主に2箇所で明瞭な噴気活動が認められた。その他の場所でも弱い噴気があるが,これら噴気活動は以前から存在するものである。釜山の北側斜面など火口外には変化はない。今回の噴火は,既存の火孔から発生したものであり,釜山火口内外の地形を大きく変えるような噴火ではなかったと考えられる。

  • 8月8日6:40-7:25にヘリコプター(読売新聞社シリウス)により浅間山山頂釜山火口および周辺域を観察し,噴火後の状況を観察した。(図1)
  • 釜山火口内には従前から直径約30 mの火孔が存在していたが,噴火後も依然として存在し,青白い火山ガスを放出していた。(図2)
  • 火孔周囲の主だった岩塊の配置に変化はない。(図3)
  • 火孔付近から北西側にかけての釜山火口内斜面は,一部灰白色でややのっぺりとしており,火山灰の被覆(数cm 程度以下)の可能性がある。(図4)
  • 釜山火口内北西側の主に2箇所での明瞭な噴気活動が認められた。この地域は,噴火前から弱い噴気や熱異常が認められていた場所である。また火口内にはこの他に複数の弱い噴気が認められたが,これらも以前から存在するものである。
図1 浅間山山頂の様子。2019年8月8日6時50分頃。
図1 浅間山釜山火口の状況。2019年8月8日7時20分頃の様子。(図2)
図3 中央火孔および付近の状況。目印となる主だった岩塊の配置に変化はない。(撮影位置,縮尺は異なる)
図 4 火口内の北西側の状況。明瞭な噴気活動がある。また,灰白でややのっぺりした部分は火山灰による被覆の可能性がある。