【研究速報】2021年2月13日23時07分 頃の福島県沖の地震

最終更新日2021年3月9日
ウェブサイト立ち上げ2021年2月14日

2月13日23時07分頃、福島県沖で起きた地震についての情報を、ここで更新してまいります。

*報道関係の皆さまへ:図・動画等を使用される際は、「東京大学地震研究所」と、クレジットを表示した上でご使用ください。また、問い合わせフォームよりご連絡ください。


2011年東北沖地震による2021年M7.3福島沖地震への影響
[3/9に文・図が更新されています]

2021年2月13日、福島県の沖合でMj7.3の地震が発生し、最大震度は福島県と宮城県で震度6強を記録しました。この地震は、沈み込む太平洋プレート(スラブ)内部の地震だと考えられています。スラブ内地震は、深部で起こるため津波を起こしませんが、陸域により近い所で起こるため強い地震動を引き起こします。このような地震に対し、10年前の2011年3月11日に起きたM9東北沖地震(東北地方太平洋沖地震)がどのように影響したかは、今回の地震の発生メカニズムを考える上で重要です。

GPS観測で明らかにされたように、東北沖地震直後に地震前と比べて陸域で最大5 mの観測点の移動(変位)が生じました。その後10年間の観測で、引き続き1.5 m変位したことが分かっています。このような地震後の変動を余効変動といい、突然の地震変動によって生じた変形に対してアセノスフェアと呼ばれる深部領域が後から追随して流動的に動くこと(粘弾性緩和)の現れであると考えられています。図1にそのような効果によって内部にかかる応力が100年間にわたり周囲のプレートに再配分されていく過程を表したシミュレーションの一例を示します [1]。

このような効果が今回の福島沖地震に与えた影響を調べるために、ここでは、2011年東北沖地震後の変動モデル[2, 3]を用いて、福島沖地震の震源付近の応力変化を計算しプロットします。使用したモデルには、粘弾性緩和と余効すべり(本震まわりの追加的なすべり)の効果が取り入れられています。図2に2011年東北沖地震以降10年間の地下断面における応力2成分の時間変化を合わせて示します。地下断面は今回の地震の震源付近を通る北緯37.5度線でとり、横軸は東経、縦軸は深さを表します。図中では福島沖地震の震源を☆印で表しています。

図2左列では、東北沖地震による地下の動きと合わせて、背景色で体積的な伸張/圧縮変形にともなう応力成分(平均法線応力)を示しています。地下の変動は、地上のGPS観測と同様に、東北沖地震後にも引き続き起きています。平均法線応力は、上盤側が広く伸張的で下盤側は圧縮的な応力変化を受けています。特に、福島沖地震の震源域付近では、圧縮的な応力が地震直後からも着実に増加していることが見て取れます。

図2右列は、応力パターンをビーチボール型の記号で表し、背景色では剪断応力成分(von Mises応力)を示しています。ビーチボール記号は白面、黒面にそれぞれ圧縮、伸張的な力がかかっていることを示しています(詳しくは気象庁サイト[4]などを参照)。剪断応力の値は、東北沖地震直後に~2 MPaほどの増加を示しています。震源付近の10年間の剪断応力の値の増加はさほどでもありませんが、ビーチボールのパターンが横ずれ的から徐々に逆断層的に変化していることが特徴的です。

今回の福島沖地震は東西圧縮の逆断層型地震であると考えられており、モデル計算で示した応力変化はこのような震源タイプと調和的です。したがって、今回の福島沖地震は、2011年東北沖地震時のみならず、地震後10年間の変動も合わせた応力変化もあいまって引き起こされた可能性が示唆されます。


図1 2011年東北沖地震により日本列島周辺のプレートに起こるvon Mises応力の時間変化。断面は東北沖地震の震源を通る東西断面。

図2 a) 北緯37.5度下の福島沖地震周辺の内部構造(経度 [° E] -深さ [km] 断面)。☆印は福島沖地震の震源。PAC: 太平洋プレート、EUR: ユーラシアプレート、JP: 日本列島陸域、M9: 東北沖地震のすべり域。b) 10年間の応力変化。左列は平均法線応力。合わせて内部の変動ベクトルを表示。右列はvon Mises応力。ビーチボール記号は応力パターン(側面表示)。白面、黒面にそれぞれ圧縮、伸張的な力がかかっていることを表す。

(地震予知研究センター 橋間昭徳)

参考文献

  1. 橋間昭徳, A. M. Freed, 佐藤比呂志, 西村卓也, D. A. Okaya, 石山達也, 松原誠, 岩崎貴哉, T. W. Becker (2013), 有限要素法による日本列島域における2011年東北沖地震の余効変動シミュレーション, 日本地球惑星科学連合2013年度連合大会, SCG68-09.
  2. Freed, A. M., A. Hashima, T. W. Becker, D. A. Okaya, H. Sato, and Y. Hatanaka (2017), Resolving depth-dependent subduction zone viscosity and afterslip from postseismic displacements following the 2011 Tohoku-oki, Japan Earthquake, Earth Planet. Sci. Lett., 459, 279-290.
  3. Becker, T. W., A. Hashima, A. M. Freed, and H. Sato (2018), Stress change before and after the 2011 M9 Tohoku-oki earthquake, Earth Planet. Sci. Lett., 504, 174-184, doi:10.1016/j.epsl.2018.09.035.
  4. 発震機構解と断層面(気象庁)https://www.data.jma.go.jp/svd/eqev/data/mech/kaisetu/mechkaisetu2.html

W-phase解析結果 (モーメントテンソル解)
 世界中で観測された、この地震による地震波の記録からWフェーズを取り出し、Kanamori and Rivera (2008)の方法で解析した モーメントテンソルインバージョンによるメカニズム解です.

(地震火山情報センター 鶴岡 弘)