【研究速報】2022年1月15日13時頃(日本時間)のフンガ・トンガ-フンガ・ハアパイ火山の噴火


ウェブサイト立ち上げ:2022年1月17日
最終更新日:2022年1月24日

日本でも気象庁より津波警報が発出されました、2022年1月15日日本時間13時頃のフンガ・トンガ-フンガ・ハアパイ火山の噴火(気象庁HPより)関連の情報を、ここで更新してまいります。
*内容や図等は常に新しい情報が入り次第更新されております。

*報道関係の皆さまへ:図・動画等を使用される際は、「東京大学地震研究所」と、クレジットを表示した上でご使用ください。また、問い合わせフォームよりご連絡ください。


【三陸沖光海底ケーブル式海底地震・津波観測システムで記録された2022年1月15日トンガ火山爆発に伴う海面変動】(掲載日:1月24日)

2022年1月15日13時頃(日本時間)に南太平洋トンガのフンガ・トンガ-フンガ・ハアパイ火山が大きな噴火を起こしました。この噴火に伴い、同日夜から翌日午前中に日本各地で海面変動が観測されました。東京大学地震研究所が設置、観測を行っている三陸沖光海底ケーブル式海底地震・津波観測システムでも、この海面変動を記録しました。同システムは1996年に設置されたシステムと2015年に設置されたシステムの2システムからなっており、併せて5台の津波計により観測を行っています(図1)。最も浅いYTM1は水深が500mほどで、ケーブルとセンサーは海底下に埋設されています。そのほかの点は海底に置かれており、最も深いYTM3で水深1600mほどです。
同システムの津波計は、15日の20時過ぎから海面の変動(海底における水圧変化)を観測しました(図2)。この海面変動は、16日の午前0時頃に最も大きくなり、その変動量は両振幅で約18cm(水圧変化としては18 hPa)に達しました。その後、変動は小さくなっていきましたが、変動を始めてから24時間経過した後も継続していました。変動開始の時間帯のデータを詳しく見ると、変動はおおよそ340 m/sの速度で伝播しているように見えます(図3)。これは、大規模な噴火による気圧変動が海面変動を引き起こしたとする説明に整合的です。

図1 三陸沖光海底ケーブル式海底地震・津波観測システムの位置。赤い四角が津波計の位置を示している。黒線と赤線は海底ケーブルの位置。
図2 三陸沖光海底ケーブル式海底地震・津波観測システムにより観測された海面変動。縦軸は圧力を示しており、1hPaがおおよそ1cmの海面変動に対応する。データには、3600秒から10秒のバンドパスファイルターがかけてある。最も浅いYTM1で最大約18cmの変動が見られた。

図3 変動開始付近の拡大図。縦軸は、フンガ・トンガ-フンガ・ハアパイ火山から距離を示している。データには、3600秒から10秒のバンドパスファイルターがかけてある。図中の縦棒は、波形の振幅を示している。海面変動は、15日の20時過ぎに始まり、約340m/sの伝播速度を持っているように見える。

(観測開発基盤センター 篠原雅尚 教授・酒井慎一 教授)


火山噴火に関連する大気・海洋波動現象の用語解説】(掲載日:1月21日)

  • 空振とは:空気中の圧力変化として音速で伝わる波.大気波動の一種.日本固有の用語で.英語の「Infrasound」を含む.
  • 大気Lamb波とは:大気中を地表や海面に沿って大気音速で伝わる.大気波動の一種で大気境界波とも言う.
  • 衝撃波とは:強い火山爆発等で発生し火口近くでは音速を超え,遠ざかると急激に減速し,音速で伝わる.
  • 津波とは:波長が長ければ水深に応じた速度で伝わる.海洋波動の一種.
  • 共鳴:大気波動が海面上を伝わる際、津波の伝播速度に一致すると海面変動が生じ、津波として伝わる.

トンガ噴火に伴う津波の発生機構に関しましては,NHK解説記事内の説明をご参照ください.

(地震研究所長 佐竹健治 教授)
(火山噴火予知研究センター 市原 美恵 准教授)
(数理系研究部門 西田 究 准教授)
(地球計測系研究部門 綿田 辰吾 准教授)


【噴火の強さ】 (最終更新日:1月19日)
大気への噴煙流入率(時間あたりの噴煙流入量)が大きいほど噴煙半径が大きくなることが知られています。今回の噴火は噴煙半径が非常に大きいことが特徴で、強い噴火であったことを示唆しています。今回の大気への噴煙流入率は1991年のフィリピン・ピナツボ噴火の約3倍であると推定しています。このような高い噴煙流入率は、1) 高いマグマ噴出率、2)多量の海水との接触、またはその両方が原因になった可能性があります。

横軸は噴火開始からの秒数、縦軸は噴煙の半径。同じ時間でみると、ピナツボ火山の1991年噴火よりも今回の噴煙半径が大きいことが見て取れる。

(火山噴火予知研究センター 鈴木 雄治郎 准教授)


謝辞:
宇宙航空研究開発機構(JAXA)の分断横断型プロダクト提供サービス(P-Tree)の提供するデータを使用しました。記して感謝します。


【噴火に関する津波】(掲載日:1月18日)

トンガ大規模噴火による津波は太平洋沿岸の各地に到達しました。図は東京湾アクアラインの海底トンネルに設置されたミュオグラフィ観測装置「Hyper Kilometric Submarine Deep Detector(HKMSDD)」を用いて測定された潮位偏差(天文潮位との差分)の時間変化です(青線)。東京湾の海水を貫通して海底トンネルに到達した素粒子を測定することでトンネル上部にある海水の厚みに関する情報が得られます。2022年1月15日13時ごろ噴火が起き、そのおよそ8時間後の21時ごろに最初の津波が東京湾に到達しました。図(A)〜(B)には、それぞれ千葉、横須賀検潮所における潮位偏差※との比較が示されています。潮位の時間変化を見ると、千葉、横須賀における検潮結果とミュオグラフィの結果との間には似たような傾向がありますが、振幅はおよそ2.5倍高い結果となりました。また、図(C)には、横浜における気圧の時間変化を示しました。検潮結果の大雑把な傾向として、潮位が徐々に高くなっているように見えますが、これは図(D)に示した気圧変化による吸い上げ効果によるものと考えられ、吸い上げ効果の影響を受けないミュオグラフィではそのような変化は見られません。従って、津波そのものが高くなってきているのではないと考えられます。

※海上保安庁海洋情報部リアルタイム検潮データ


(参考)世界最高ミュオグラフィ観測精度を達成(東京大学国際ミュオグラフィ連携研究機構

(高エネルギー素粒子地球物理学研究センター 田中 宏幸 教授)


【噴火に関するLamb波】(最終更新日:1月18日)
周期200秒より長い帯域では、大きな火山噴火が起きると、大気Lamb波(長周期大気音波の一種)*1が励起される事が知られています。1883年クラカタウ噴火には、地球を周回したとの記録が残っています。近代的な観測が始まってからは、地球を周回する火山起源のLamb波の観測はありませんでした。今回、全世界的に微気圧計記録を解析したところ、Lamb波が地球を周回する様子を捉えていました。図中L1で示した直線はトンガから最短距離で伝搬したLamb波、L2は逆回りに伝播したLamb波です。図中L3、L4は2周目と対応します。

横軸はトンガからの距離(角度)、縦軸はUT 1/15 4:30 (おおよその噴火時刻) からの秒数。微気圧計記録に周期100秒から10000秒のバンドパスフィルタをかけた。

謝辞:
US Geological Survey Networks, Central and Eastern US Network, Caribbean USGS Network, Geoscope, IRIS IDA, IRIS USGS のデータを使わせていただきました。記して感謝します。

*1: 大気Lamb波: 厳密には境界波の一種で、水平方向には音波として振る舞い、鉛直方向は静水圧平衡にある波です。

(数理系研究部門 西田 究 准教授)

・・・・・・・・・・下記掲載日:1月19日・・・・・・・・・・・


 トンガの噴火により発生した,地球を周回する大気Lamb波(西田准教授【噴火に関するLamb波】をご参照ください)は,日本の火山空振観測点でも捉えられました.空振計としても気圧計としても使用できる非常に精度のよい微気圧計を設置している霧島火山周辺の観測点(宮崎県4点・鹿児島県1点)と浅間火山周辺の観測点(長野県)の波形を並べて示しました.大気圧の変動や局地的な音波は霧島と浅間や,霧島の観測点間でも大きく違いますが,Lamb波はすべての観測点で共通に見えるはずです.世界中の観測点に届いた時刻を参考にLamb波と思われるところを黄色の矢印で示しました.地球の裏側を回ってきたL2は波形が不明瞭で,霧島と浅間では大きく異なりました.L4・L5になると,矢印で示したものが対応するものかどうか,まだ確信は持てません.日本各地,世界各地の観測データと合わせて解析することが重要です.研究者の方々との情報共有のため,本ページに掲載しております.なお,図の時刻は日本時間,縦軸の目盛り幅は100 Pa (太線)です.

(火山噴火予知研究センター 市原美恵 准教授)