2023年2月6日トルコ南部の地震

ウェブサイト立ち上げ:2023年2月8日

最終更新日:2023年2月10日16:00


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2023年トルコ南部の地震 強震動

2023年2月8日版
災害科学系研究部門 三宅 弘恵 准教授

2023年2月6日現地時間4:17(日本時間10:17)にトルコ南部の東アナトリア断層沿いでM7.8の地震が発生した。その後、M6.7を含む活発な余震活動が続いた後、約9時間後の2月6日現地時間13:24(日本時間19:24)、M7.8の地震からやや離れた北側の別の断層付近でM7.5の地震が発生した。

Fig. 1. M7.8(下の赤丸)とM7.5(上の赤丸)の地震の震央(AFADの図面に加筆)

地震の規模と深さは、研究機関によって値が異なっている。
M7.8の地震
USGS →Mw7.8 深さ17.9 km
Global CMT→ Mw7.8 深さ14.9 km(非ダブルカップル成分が多い)
AFAD →Mw7.7 深さ 8.6 km
M7.5の地震
USGS→ Mw7.5 深さ10.0 km(非ダブルカップル成分が多い)
Global CMT→ Mw7.7 深さ12.0 km(非ダブルカップル成分が多い)
AFAD→ Mw7.6 深さ7.0 km

近年に内陸で発生したM7.8程度の地震は、2008年の中国・四川地震(Mw7.9)や、2002年の米国・アラスカのデナリ地震(Mw7.9)、2001年中国・崑崙地震(Mw7.8)などがある。しかし、今回のように、ほぼ同程度の地震規模の続発地震は発生していない。

今回のトルコのM7.8の地震は、東アナトリア断層沿いにおいてかねてから1513年の大地震以降に指摘されていた地震の空白域(Fig. 2の水色部分)に沿って、震源から主に北東に向かって破壊した。東アナトリア断層はアナトリアマイクロプレートとアラビアプレートを境界とする左横ずれ断層である。USGSの震央位置と既往の活断層図(トルコMTA発行,Emre et al., 2013)から判断して、破壊の開始は北西傾斜の正断層(ナルリ断層)から始まり、東アナトリア断層に乗り換わった後、北東方向への主破壊が生じたとみられる。一方、M7.5の地震は、東アナトリア断層から派生した、東西方向の左横ずれ断層であるチャルダック断層(旧称:エルビスタン断層)が主に破壊したと考えられる。震央位置は同断層の中央付近に位置するため、双方向に破壊が伝播したとみられる。付近では、歴史地震(例えばAmbraseys, 2009)が確認されている。

Fig. 2. トルコMTAとKürçer et al. (2020) による東アナトリア断層の主要セグメントと歴史地震 (Sayın et al., 2021)。M7.8の地震は、主に水色の部分を破壊したと考えられる。

トルコでは、このような事態に備えて強震観測を全土で整備しており (Fig. 3)、アンカラのAFADから強震記録が公開されている。M7.8の地震もM7.5の地震も、加速度・速度・変位のいずれも大きな強震動が、断層に沿って広範囲で観測されており、断層のすべりが原因と思われる周期1~2秒程度のパルス的な波形も確認されている。現時点では最大加速度が880 cm/s2程度、最大速度が187cm/s程度(AFADのフィルターに拠る)、最大速度応答が400 cm/s程度である。M7.8とM7.5の地震のうち、最大速度がそれぞれ大きな観測点をFig. 4とFig. 5に示す。

今回の地震は、内陸で発生するM7.8やM7.5の大地震として、加速度としては概ね想定されるレベルであるが、被害に関係する速度が大きい特徴がある。地震規模が大きいため、相当広い範囲が強い揺れに見舞われたと考えられる。

なお、強震記録は収録が途中で断絶している観測点もあり、AFADが精査中であるため、情報の更新が待たれる。断層周辺のHatay県やKahramanmaras県の強震観測点における地盤調査(Özmen, Yamanaka et al., 2017)も参考になる。

Fig. 3. トルコの強震観測点分布(AFAD提供)
Fig. 4. M7.8の地震の強震動の例(Hatay県の3123観測点;建築研究所ViewWaveを使用)
Fig. 5. M7.5の地震の強震動の例(Kahramanmaras県の4612観測点;建築研究所ViewWaveを使用)

Q (Elif Karaca, NASIL BİR EKONOMİ) and A (三宅 弘恵 准教授/楠 浩一 教授)

Q:なぜこれほどの被害が出たのか? Mや震度が大きかったのか,建造物の強度不足だったのか?

(三宅)自然現象の原因としては,地震規模が大きく,そのため揺れが広範囲で大きくなった.しかも内陸の地震なので,揺れた場所のほとんどが海ではなく陸である.自然現象以外の原因として,それなりに人口がある地域で,かつ構造物がそれほど頑丈ではなかったため,これらの要素が複合的に組み合わさって,これほどの被害が生じたと考えられる.

(楠)地表面加速度が大きかったこと、つまり、いくつかの地点で兵庫県南部地震の際のJR鷹取、熊本地震の特の益城の記録にも匹敵していた可能性があります。そのため、中層に至るまでの建物に被害が広がっています。なお,建造物が強度不足かどうかは、設計図書等を精査しないとわかりません。ちなみに最新のトルコの耐震規定は、ユーロコードも参考にしており、最先端です。

Q:日本もまた地震国であるのに,最近の被害ははるかに少ないように思われる.日本では地震への対処をどうしているのか?

(三宅)戦後の日本は,これほどの地震規模の地震を人口密集地で経験していない.来たるべき地震災害に備えて,構造物,鉄道,高速道路,水道・電力・ガスなどのインフラの整備を継続的に行い,見直しを続けている.

(楠) 我が国の耐震規定は、大きな地震被害を被る度に適切に改正されてきました.従って,今日の設計基準は地震被害を抑えることにある程度貢献しています。問題は、既存建物です。改正建築基準法は既存建物には遡及されません。そのため、改正してもその効果が表れるのに結構時間がかかってしまいます。その教訓から、兵庫県南部地震以降、耐震改修促進法を制定し、既存建物の耐震診断・耐震補強を推進してきたことも大きな理由です。なお、トルコにも耐震診断・補強の手順はあります。

Q:トルコにおける地震被害軽減のため,何をすべきと考えるか?

(三宅)構造物を地震に対して強くすることが必要と考えられる.近年被害地震が起きていない場所を優先して,構造物を点検することも有用であろう.今回は,東アナトリア断層帯で地震が発生したが,北アナトリア断層帯では,次にイスタンブール周辺が地震の空白域と言われており,すでにトルコでは行われている啓発活動等の活性化も有効であろう
(例えば,下記の図面を参照,前回のSATPRESトルコの図面)
https://www.jst.go.jp/global/kadai/image/h2408_turkey/photo0_l.jpg

(楠)まずは建物の年代・設計法・地盤状況と被害の関係を調査し、同時に古い基準で設計された建物の耐震診断・補強を進めることだと思います.