【研究速報】令和6年能登半島地震(2024/02/01更新)

ウェブサイト立ち上げ:2024年1月4日
最終更新日:2024年2月1日


1月1日16時10分頃に石川県能登地方で起きましたマグニチュード7.6(気象庁速報値)の地震について、こちらで情報を随時更新して参ります。

*随時更新をしております。定期的にページの再読み込みをお願いします。

*報道関係の皆さまへ:図・動画等を使用される際は、「東京大学地震研究所」と、クレジットを表示した上でご使用ください。また、問い合わせフォームより使用した旨ご連絡ください。


掲載日2024/01/31
最終更新日2024/02/01

令和6年能登半島地震(M7.6)に伴い若山川沿いに生じた地表地震断層【速報】

Surface ruptures appeared along the Wakayama-gawa River associated with 2024 Noto Peninsula Earthquake (Preliminary Report)


白濱吉起(東京大学地震研究所)・石山達也(東京大学地震研究所)・立石 良(富山大学)・安江健一(富山大学) Yoshiki Shirahama (Earthquake Research Institute, the University of Tokyo), Tatsuya Ishiyama (Earthquake Research Institute, the University of Tokyo), Ryo Tateishi (University of Toyama), Ken-ichi Yasue (University of Toyama)

 
 2024 年1月1日16時10分に、石川県能登地方の深さ約15 km でM7.6(暫定値)の地震が発生した。地震の発震機構は北西-南東方向に圧力軸を持つ逆断層型で、上部地殻内で発生した地震である(地震本部, 2024)。この地震に伴う内陸の地表変状の把握のため、国土地理院が地震後に公開した1月2日撮影の空中写真(国土地理院, 2024a)の判読を行った結果、若山川沿いに分布する一連の地表変状を見出した(図1a, b)。これらの地表変状を現地にて観察するため、1月27日に若山町中地区を中心として東西2㎞の範囲にわたって地形調査を実施した。その結果、若山川沿いに発達する河成段丘面および現河床を横断して、地表地震断層と推定される崖地形が連続的に分布し、これに沿って顕著な田畑や道路の破断、波状変形が認められることがわかった。

 若山町中地区では、顕著な南上がりの崖地形がほぼ北東-南西方向に直線的に連続しており、蛇行する若山川を複数地点で横切っていた。A地点では、南から北に流れる河川を横切り、河川とその東西の水田に約1 m以上の落差を持つ低断層崖が生じていた(図2a, b)。また、河川を横切る地点では擁壁が大きく崩れており、擁壁のずれから左横ずれ成分を含むことが推定された(図2a)。A地点の東側に位置する水田までは、崖地形は明瞭であるが(図2b)、そのさらに東では不明瞭であった。調査範囲の東端では水田にやや南上がりの撓曲変形が生じていることを確認した(図1)。

 B地点はA地点の西に位置しており、A地点から連続する南上がりの低断層崖が認められ、水田と用水路が上下・水平方向に大きく変位し破壊されていた(図3a, b)。水田脇のU字溝はほぼ水平かつ直線的に設置されていたと考えられるため、それを基準に簡易的な計測を実施した結果、上下変位量が南上がり約1.4 m、左横ずれ約1.2 mと見積もられた(図3a)。水田に生じた低断層崖面上には、積雪によってやや不明瞭ではあるが、右雁行配列を呈する開口亀裂が認められた(図3b)。

 道路と交わるC地点の東側では、B地点から連続する低断層崖が南流する河川を横切っており、南上がりの変位によって下流側の河床が一部離水する一方、上流側に湛水が生じていた(図4)。C地点では断層にほぼ直交して道路が延びることから(図5)、iPad Pro搭載のLidarセンサーによる計測を実施し、地形断面を取得した。その結果、二条の並走する低断層崖のトータルの上下変位が約1.7 mと計測された。また、低下側の地形面が断層崖に向かって傾動する様子が認められた。

 D地点では、低断層崖は水田を変位させるとともに(図6a)、C地点同様南流する河川を横切っており、上流側に湛水が認められた(図6b)。擁壁を基準に簡易的な計測を実施した結果、約2 mの上下変位が見積もられた。また、D地点付近の段丘面上では、低断層崖が既存の低崖に沿って現れる様子が認められた。

 D地点から西では、断層は分岐・分散する様子が認められた。さらに西側では水田内において多数の地表地震断層が並走するように分布し、北側のトレースが北上がり、南側のトレースが南上がりを示すことから、概ね地溝状の変位が生じていると考えられる。今回の調査範囲の西端付近では地表地震断層は若山川の左岸側に分散して現れており、それらのトレースでは主に南上がりの変位が確認された。

 以上のように、今回の調査によって若山川沿いの東西約2 kmにわたって、最大上下変位量約2 m、左横ずれ変位量約1.2 mを示す地表変状が認められた。これらは、地震前の空中写真等では確認されず、地すべりなどの斜面崩壊と無関係に発達することから、令和6年能登半島地震の際に形成された地表地震断層と推定される。今回発見した地表地震断層とその変位量は、国土地理院(2024b)が判読した地表変状の分布や、地震前後の数値表層モデルから算出した上下変位量と概ね整合的である。 今回地表地震断層が確認された範囲では、限られた時間の中での調査であったため、確認できた範囲は東西約2 kmに留まるものの、変位量が大きいことから、断層の分布はさらに東西に延長することが予想される。また、今回調査した範囲でも、大部分が積雪に覆われていたことから、地表変状の観察が難しく、変位量の計測が困難であった。融雪後の詳細な観察が必要であることから、現地の被害状況に十分配慮しつつ、今後も引き続き調査を継続する予定である。


引用文献

-地震調査研究推進本部・地震調査委員会, 2024, 令和6年能登半島沖地震の評価, https://www.static.jishin.go.jp/resource/monthly/2024/20240101_noto_1.pdf(2024年1月30日閲覧)

-国土地理院, 2024a, 空中写真正射画像 珠洲地区、輪島東地区、輪島中地区(1/2撮影), https://www.gsi.go.jp/BOUSAI/20240101_noto_earthquake.html#3-1 (2024年1月30日閲覧)
-国土地理院, 2024b, 石川県珠洲市若山町に出現した上下変位を伴う線状の地表変状(速報),https://www.gsi.go.jp/common/000254854.pdf(2024年1月30日閲覧)

図1 石川県若山町中地区において確認した地表地震断層
(a)調査地域の位置図。黒四角は図1bの範囲を示す。
(b)赤線は国土地理院公表の正射画像(国土地理院, 2024)から判読し、現地にて確認した地表地震断層。背景は地理院地図(電子国土Web)を使用。
図2 水田に生じた低断層崖と擁壁の破断(2024年1月27日撮影)
(a)A地点を南に向かって撮影。赤矢印は低断層崖の基部を示す。写真右手がB地点。標尺は2 mを示す。
図2(b)A地点から東に向かって撮影。赤矢印は低断層崖の基部を示す。
図3 水田に生じた低断層崖(2024年1月27日撮影)
(a)B地点において南に向かって撮影。赤矢印は低断層崖の基部を示す。水路を基準にすると南上がりの上下変位量約1.4 m、左横ずれ量約1.2 mが計測された。標尺は2 mを示す。
図3(b)B地点から東に向かって撮影。赤矢印は低断層崖の基部を示す。やや不明瞭ながら右雁行配列を呈する開口亀裂(黄矢印)が認められた。
図4 道路の変形と擁壁の破断(2024年1月27日撮影)
C地点を東から撮影。赤矢印は低断層崖の基部を示す。擁壁の破断箇所を境に写真左手側が隆起し、右手側(上流側)に湛水が生じていた。
図5 道路と水田に生じた低断層崖(2024年1月27日撮影)
C地点を南に向かって撮影。赤矢印は低断層崖の基部を示す。標尺は3mを示す。
図6  水田に生じた低断層崖と破断した擁壁(2024年1月27日撮影)
(a)D地点の水田に生じた低断層崖。赤矢印は低断層崖の基部を示す。南に向かって撮影。標尺は2 mを示す。
図6(b)破断した擁壁。赤矢印は低断層崖の基部を示す。上流側(写真手前側)に湛水が生じていた。

掲載日:2024/01/19

富山大学のグループがまとめた能登の海岸調査の写真集
https://storymaps.arcgis.com/stories/40e7a9d10dd446279e465845b93339d2


掲載日:2024/01/17

令和6年能登半島地震(M7.6)で生じた海岸隆起速報その4

Coseismic coastal uplift associated with 2024 Noto Peninsula Earthquake (Preliminary Report 4)

石山達也(東京大学地震研究所)・立石 良(富山大学)・安江健一(富山大学)

Tatsuya Ishiyama (Earthquake Research Institute, the University of Tokyo), Ryo Tateishi (University of Toyama), Ken-ichi Yasue (University of Toyama)

 
 2024 年1月1日16時10分に、石川県能登地方の深さ約15 km でM7.6(暫定値)の地震が発生した。地震の発震機構は北西-南東方向に圧力軸を持つ逆断層型で、上部地殻内で発生した地震である(地震本部, 2024)。この地震によって生じた地震性隆起の痕跡を調べる目的で、地震発生翌日の1月2日より能登半島北部の海岸地形調査を実施した。現地の道路・被災状況等を考慮し、能登半島北西部の調査を引き続き行った結果、石山ほか(2024a, b, c)で報告した範囲に加えて、石川県輪島市光浦町から同河井町にかけて、この地震によって生じたと考えられる顕著な海岸隆起を確認した(図1)。

 輪島市輪島崎町の竜ヶ埼(たつがさき)灯台周辺では、広い範囲で波食棚が貝・海藻類と共に明らかに海面より上位に位置しており(図2)、塩水プールが完全に干上がる様子が確認された(図3)。海面付近に分布する海藻類の分布高度から、約2.2 m(潮位補正前の暫定値、以下同じ)の隆起が生じたと推定される。また、輪島市輪島崎町竜ヶ崎でも同様に約1.4 mの隆起が生じたと推定される(図4)。

 今回推定した隆起量の分布は竜ヶ埼灯台周辺をピークに東西に減少する傾向を示し、だいち2号の観測データ解析によって暫定的に推定された地殻変動(国土地理院, 2024)と概ね整合的である。今後も現地の被害状況に十分配慮し、能登半島北部海岸沿いの隆起量の推定を主な目的とした調査を継続する予定である。


謝辞 現地調査に際しては、被災直後の困難な状況にも関わらず、多くの地元住民の方々から地震に関係する証言をご提供頂いたほか、温かい励ましの言葉を頂いた。皆様のご協力に感謝すると共に、一刻も早い状況の改善をお祈りします。

引用文献
-国土地理院, 2024, 「だいち2号」観測データの解析による令和6年能登半島地震(2024年1月1日)に伴う地殻変動(2024年1月16日更新), https://www.gsi.go.jp/uchusokuchi/20240101noto_insar.html (2024年1月16日閲覧)

-石山達也・松多信尚・立石 良・安江健一, 2024a, 令和6年能登半島地震(M7.6)で生じた海岸隆起(速報), https://www.eri.u-tokyo.ac.jp/eq/20465/ (2024年1月4日閲覧)

-石山達也・廣内大助・松多信尚・立石 良・安江健一, 2024b, 令和6年能登半島地震(M7.6)で生じた海岸隆起(速報その2), https://www.eri.u-tokyo.ac.jp/eq/20465/ (2024年1月5日閲覧)

-石山達也・廣内大助・松多信尚・立石 良・安江健一, 2024c, 令和6年能登半島地震(M7.6)で生じた海岸隆起(速報その3), https://www.eri.u-tokyo.ac.jp/eq/20465/ (2024年1月9日閲覧) 地震調査研究推進本部・地震調査委員会, 2024, 令和6年能登半島沖地震の評価, https://www.static.jishin.go.jp/resource/monthly/2024/20240101_noto_2.pdf(2024年1月16日閲覧)

図1 今回の調査によって地震に伴う海岸隆起が確認された地点の分布と隆起量
図2 輪島市輪島崎町鴨ヶ浦で観察された地震によって離水した波食棚。2024年1月14日11時撮影。
図3 輪島市輪島崎町、地震後に干上がった塩水プール(鴨ヶ浦塩水プール)。2024年1月14日11時撮影。
図4 輪島市輪島崎町竜ヶ崎で観察された地震によって離水した波食棚とテトラポット。2024年1月14日12時撮影。


掲載日:2024/01/16


令和6年能登半島地震の津波波源モデル

東京大学地震研究所 佐竹健治

建築研究所国際地震工学センター 藤井雄士郎


東京大学地震研究所では,文部科学省の委託により2013~2020年に日本海地震・津波プロジェクトを実施した.同プロジェクトhttps://www.eri.u-tokyo.ac.jp/project/Japan_Sea/index.htmlでは,地下構造探査などに基づき,震源断層モデルを構築し津波や強震動の予測を行った.能登半島周辺の断層モデルと津波予測については,平成27年度報告書で報告していた.

https://www.eri.u-tokyo.ac.jp/project/Japan_Sea/JSH27Report/index_201806.htm


2024年(令和6年)1月1日の能登半島地震(M 7.6)について,各地で観測された津波波形のインバージョンによって,波源を推定した.日本海地震・津波プロジェクトで提案された断層モデル(NT2~NT6, NT8,NT9)を津波波源として想定したが,NT6断層については位置と長さを若干変更した(図1).


津波の観測波形はUNESCO IOCサイトで公開されている日本及びロシアの検潮記録(http://www.ioc-sealevelmonitoring.org/),国土地理院サイトの験潮記録,国土交通省港湾局サイトで公開されている毎分沖平均水面(沖合)を利用した(図2, 図3).


各断層のすべり量を表1に示すが,津波波源となったのは,能登半島北側のNT4, NT5, NT6, NT8であったと考えられる.これらの北東側に位置する北西傾斜の活断層(NT2, NT3)はほとんどすべっていない.これらの活断層周辺では,1月9日のM 6.1などの余震が発生しており,さらに大きなM7クラスの地震が発生すると,佐渡島を含む新潟県沿岸で3m程度の津波が予想されている(図4)ことから,注意が必要である.

図1  (上)小断層の位置とすべり量.赤丸は1月1日~11日までのM4以上の震央(気象庁による).灰色の点線は国土地理院の断層モデル.(下)計算された上下変動量.コンター間隔は隆起(赤実線)0.2 m,沈降(青破線)0.1 m.

表1 小断層のパラメター,地震モーメント,Mw

小断層長さ (km)幅(km)すべり量(m)モーメント(Nm)Mw
NT236.616.30.47.42E+186.5
NT32016.60.00.00E+00 
NT419.816.53.84.27E+197.0
NT521.617.14.15.25E+197.1
NT65016.72.36.54E+197.1
NT815.116.71.21.00E+196.6
NT918.416.70.00.00E+00 

地震モーメント計算にあたって,剛性率は 34.3GPaとした.

図2  各地で記録された津波波形(黒)と計算波形(赤:表1の波源モデル,青:国土地理院の断層モデル(図1))
図3 2024年の津波波形が記録された検潮所・験潮場・波高計の位置
図4 NT2-NT3断層の連動(Mw 7.1)によって想定される津波高さ
(日本海地震・津波プロジェクト 平成27年度報告書より)
https://www.eri.u-tokyo.ac.jp/project/Japan_Sea/JSH27Report/PDF/20_H27JSPJ-C3.3.1.pdf


一般社団法人日本建築学会に掲載されている 災害科学系研究部門 楠 浩一 教授による現地調査報告
http://saigai.aij.or.jp/saigai_info/20240101_noto/202340101_noto_eq.html(日本建築学会ホームページ)


令和6年能登半島地震(M7.6)で生じた海岸隆起【速報その3】
Coseismic coastal uplift associated with 2024 Noto Peninsula Earthquake (Preliminary Report 3)


石山達也(東京大学地震研究所)・廣内大助(信州大学)・松多信尚(岡山大学)・立石 良(富山大学)・安江健一(富山大学)
Tatsuya Ishiyama (Earthquake Research Institute, the University of Tokyo), Nobuhisa Matta (Okayama University), Daisuke Hirouchi (Shinshu University), Ryo Tateishi (University of Toyama), Ken-ichi Yasue (University of Toyama)


 2024 年1月1日16時10分に、石川県能登地方の深さ約15 km でM7.6(暫定値)の地震が発生した。地震の発震機構は北西-南東方向に圧力軸を持つ逆断層型で、上部地殻内で発生した地震である(地震本部, 2024)。この地震によって生じた地震性隆起の痕跡を調べる目的で、地震発生翌日の1月2日より能登半島北部の海岸地形調査を実施した。現地の道路・被災状況等を考慮し、能登半島北西部の調査を引き続き行った結果、石山ほか(2024a, b)で報告した石川県輪島市門前町皆月海岸から同志賀町赤崎に加えて、赤崎から志賀町安部屋漁港にかけて、この地震によって生じたと考えられる顕著な海岸隆起および津波痕跡を確認した(図1, 2)。
 海岸隆起については、志賀町西海千ノ浦にて地震前には海面下であった岩礁が地震後に海面上に位置するようになったとの証言があった。岩礁に付着する貝・海藻類の分布高度から約0.2 m(潮位補正前の暫定値、以下同じ)の隆起があったと推定される。一方、上野漁港および安部屋漁港では、岸壁に付着する貝・海藻類が海面とほぼ同じ高度に分布する様子が確認されたことから、明瞭な海岸隆起は生じていないものと判断される。これまでの調査結果をふまえると、輪島市門前町皆月漁港から志賀町西海千ノ浦にかけての区間で最大約4.1 mの海岸隆起が認められ、隆起量は南に向かって減少すると考えられる。今回推定した隆起量の分布は、だいち2号の観測データ解析によって暫定的に推定された能登半島北西部の顕著な地殻変動(国土地理院, 2024)と概ね整合的である。
 津波痕跡については、志賀町富来(とぎ)漁港から同安部屋漁港までの区間で、7箇所で確認された(図2)。このうち、富来漁港(図3)や福浦漁港では漁港内外の倉庫内壁に残された痕跡が津波によることが証言によって確認され、その分布高度からそれぞれ約2.6 mおよび約2.5 m(潮位補正前の暫定値、以下同じ)の浸水高を推定した。赤住漁港(南)では倉庫外壁に残された津波痕跡等の高度分布から、約2.6 mの浸水高を推定した(図4)。上野漁港では、漁船の転覆がみられ、漁港内の倉庫内壁に残された痕跡(図5)が津波によることが証言によって確認されたほか、漂着物の分布高度等から、約2.0 mの遡上高を推定した。また、道路を挟み倉庫の陸側に隣接する家屋には津波痕跡は認められなかった。安部屋漁港では、船の転覆が見られたほか、証言から得られた遡上高と漂着物の分布高度から約1.4 mの遡上高を推定した。このように、赤崎漁港から安部屋漁港にかけては断続的に津波痕跡が分布し、その遡上高・浸水高は南に向かって減少する傾向が認められる。
 今回の地震に際して震源域南西部にあたる能登半島北西部の海岸沿いに顕著な海岸の地震時隆起と津波が発生したものとみられる。隆起量および津波の遡上高・浸水高はともに南に向かって減少すると推定される。今後は現地の被害状況に十分配慮し、能登半島北部海岸沿いの隆起量の推定を主な目的とした調査を継続する予定である。

【訂正】図1の鹿磯漁港の隆起量を3.9 mから3.6 m(潮位補正前の暫定値)に訂正しました。


謝辞 現地調査に際しては、被災直後の困難な状況にも関わらず、多くの地元住民の方々から地震に関係する証言をご提供頂いたほか、温かい励ましの言葉を頂いた。皆様のご協力に感謝すると共に、一刻も早い状況の改善をお祈りします。


引用文献
-石山達也・松多信尚・立石 良・安江健一, 2024a, 令和6年能登半島地震(M7.6)で生じた海岸隆起(速報), https://www.eri.u-tokyo.ac.jp/eq/20465/ (2024年1月4日閲覧)
-石山達也・廣内大助・松多信尚・立石 良・安江健一, 2024b, 令和6年能登半島地震(M7.6)で生じた海岸隆起(速報その2), https://www.eri.u-tokyo.ac.jp/eq/20465/ (2024年1月5日閲覧)
-地震調査研究推進本部・地震調査委員会, 2024, 令和6年能登半島沖地震の評価, https://www.static.jishin.go.jp/resource/monthly/2024/20240101_noto_1.pdf(2024年1月2日閲覧)
-国土地理院, 2024, 「だいち2号」観測データの解析による令和6年能登半島地震(2024年1月1日)に伴う地殻変動(2024年1月2日発表), https://www.gsi.go.jp/uchusokuchi/20240101noto.html (2024年1月2日閲覧)

図1 今回の調査によって地震に伴う海岸隆起が確認された地点の分布と隆起量(2024/01/12更新)

図2 今回の調査によって津波痕跡が確認された地点の分布と遡上高および浸水高。七海(しつみ)漁港の遡上高は漂着物の分布上限が不明瞭なため参考値とした。
図3 富来漁港の倉庫内にて認められた津波の浸水痕。2024年1月5日13時撮影。
図4 赤住漁港(南)の倉庫外壁にて認められた津波の浸水痕。2024年1月5日11時撮影。
図5 上野漁港の倉庫内壁にて認められた津波の浸水痕。倉庫床は津波によって運搬されたと推定される薄い砂層によって覆われる。2024年1月5日10時撮影。


令和6年能登半島地震(M7.6)で生じた海岸隆起【速報その2】

Coseismic coastal uplift associated with 2024 Noto Peninsula Earthquake (Preliminary Report 2)


石山達也(東京大学地震研究所)・廣内大助(信州大学)・松多信尚(岡山大学)・立石 良(富山大学)・安江健一(富山大学)

Tatsuya Ishiyama (Earthquake Research Institute, the University of Tokyo), Nobuhisa Matta (Okayama University), Daisuke Hirouchi (Shinshu University), Ryo Tateishi (University of Toyama), Ken-ichi Yasue (University of Toyama)


 2024 年1月1日16時10分に、石川県能登地方の深さ約15 km でM7.6(暫定値)の地震が発生した。地震の発震機構は北西-南東方向に圧力軸を持つ逆断層型で、上部地殻内で発生した地震である(地震本部, 2024)。この地震によって生じた地震性隆起の痕跡を調べる目的で、地震発生翌日の1月2日より能登半島北部の海岸地形調査を実施した。現地の道路・被災状況等を考慮し、能登半島北西部の調査を引き続き行った結果、石山ほか(2024)で報告した石川県輪島市門前町鹿磯(かいそ)から同志賀町赤崎に加えて、石川県輪島市門前町の皆月海岸においてこの地震によって生じたと考えられる顕著な海岸隆起および津波の痕跡を見出した(図1)。

 輪島市門前町五十洲(いぎす)の五十洲漁港では、鹿磯漁港などと同様に港湾底が広く海面上に露出しており、貝・海藻類の分布高度から約4.1 m(潮位補正前の暫定値、以下同じ)の隆起があったと推定される(図2)。また、五十洲漁港北西の小崎では、約4〜5 m(参考値*)の隆起が確認された。また、地震時に湾内にて釣りを行っていた地元住民から、地震時に海岸一帯が隆起したこと、湾内の隆起が地震と同時に生じたこと、湾内の津波は隆起した港湾には遡上しなかったとの証言を得た。このように、皆月海岸西半部では約4 mを超える地震時の海岸隆起が生じたものと考えられる。一方、皆月海岸東端部に位置する皆月漁港(図3)では約3.3 m、皆月漁港南では約3.4 mの海岸隆起が推定され、海岸隆起量が東方に減少している(図1)。

 このように、今回の地震に際しては、震源域南西部にあたる能登半島北西部の海岸に約4 m を超える顕著な海岸の地震時隆起が生じたと推定される。皆月海岸で認められた隆起量は、宍倉ほか(2020)で推定された地震前の完新世段丘面(L2面)の旧汀線高度と類似する値であり、能登半島北西部に分布する完新世段丘面群は今回のようなM7級地震の繰り返しによって形成された可能性がある。今回の地震・津波は、海陸境界断層の構造・分布・活動性の十分な理解が沿岸域の地震・津波ポテンシャルの推定と被害の軽減にとって本質的に重要であることを改めて示した。特に、今回の地震に伴う海岸隆起は、海陸境界断層の活動性を解明する上で海成段丘の離水時期や変形、形成プロセスの理解が重要な鍵となることを意味する。今後も現地の被害状況に十分配慮しつつ、引き続き調査を継続する予定である。

* 貝・海藻類を視認する仰角が大きかったことや波高が高かったため、他の推定値に比べて精度が低いと考えられることから、参考値とする。


謝辞 現地調査に際しては、被災直後の困難な状況にも関わらず、多くの地元住民の方々から地震に関係する証言をご提供頂いたほか、温かい励ましの言葉を頂いた。皆様のご協力に感謝すると共に、一刻も早い状況の改善をお祈りします。


引用文献

-石山達也・松多信尚・立石 良・安江健一, 2024, 令和6年能登半島地震(M7.6)で生じた海岸隆起(速報), https://www.eri.u-tokyo.ac.jp/eq/20465/ (2024年1月4日閲覧)
-地震調査研究推進本部・地震調査委員会, 2024, 令和6年能登半島沖地震の評価, https://www.static.jishin.go.jp/resource/monthly/2024/20240101_noto_1.pdf(2024年1月2日閲覧)
-宍倉正展・越後智雄・行谷佑一, 2020, 能登半島北部沿岸の低位段丘および離水生物遺骸群集の高度分布からみた海域活断層の活動性. 活断層研究, 53, 33-49.

図1 今回の調査地点と地震に伴う海岸隆起量の分布。
図2 地震によって隆起した五十洲漁港の様子。2024年1月4日14時撮影。
図3 地震によって隆起した皆月漁港。2024年1月4日15時撮影。



令和6年能登半島地震(M7.6)で生じた海岸隆起【速報】
Coseismic coastal uplift associated with 2024 Noto Peninsula Earthquake (Preliminary Report)

石山達也(東京大学地震研究所)・松多信尚(岡山大学)・立石 良(富山大学)・安江健一(富山大学)
Tatsuya Ishiyama (Earthquake Research Institute, the University of Tokyo), Nobuhisa Matta (Okayama University), Ryo Tateishi (University of Toyama), Ken-ichi Yasue (University of Toyama)


 2024 年1月1日16時10分に、石川県能登地方の深さ約15 km でM7.6(暫定値)の地震が発生した。地震の発震機構は北西-南東方向に圧力軸を持つ逆断層型で、上部地殻内で発生した地震である(地震本部, 2024)。この地震によって生じた地震性隆起の痕跡を調べる目的で、地震発生翌日の1月2日より能登半島北部の海岸地形調査を実施した。現地の道路・被災状況等を考慮し、能登半島北西部の調査を行った結果、石川県輪島市門前町鹿磯から同志賀町赤崎にかけての複数地点において、この地震によって生じたと考えられる顕著な海岸隆起および津波の痕跡を見出した(図1)。

 今回の調査範囲において最も顕著な海岸隆起が見られた鹿磯漁港では、貝・海藻類の分布高度から、約3.9 m(潮位補正前の暫定値、以下同じ)の隆起があったと推定される(図2, 3)。また、鹿磯漁港東の砂浜海岸では、約3.2 mの隆起とともに約250 mの海岸線の前進が確認された(図4)。約3 mを超える海岸隆起は鹿磯漁港から南北約4 kmの範囲で海岸線沿いに確認された。門前町池田以南では2 m未満の海岸隆起であり、門前町剱地では約0.6 mと、顕著な隆起量の減少が認められた。このような海岸の隆起量分布は、だいち2号の観測データ解析によって暫定的に推定された能登半島北西部の顕著な地殻変動(国土地理院, 2024)の傾向と概ね一致する。地殻変動解析による隆起域はさらに北に広がっていることから、今回の地形調査で確認された顕著な海岸隆起はさらに北方にかけて分布するものと予想される。

 また、鹿磯漁港など海岸隆起量の大きな地点では、砂浜海岸に津波痕跡が認められたものの、建造物等に顕著な津波による被害は確認されなかった。一方、志賀町赤崎漁港では約0.25 mの海岸隆起のほか、漁港の港湾施設に津波による被害が確認された(図5)。倉庫外壁に残された津波痕跡(図6)等の分布高度から津波の遡上高は約4.2 mと推定される。このことから、赤崎漁港以南の隆起量の小さい海岸沿いでは津波被害があったことが予想される。

 このように、今回の地震に際しては、震源域南西部にあたる能登半島北西部の海岸に少なくとも約4 m の顕著な海岸の地震時隆起が生じたと考えられる。また、海岸隆起が小さい箇所では津波被害が確認された。今回の震源域直上にあたる能登半島北岸では複数段の完新世海成段丘面や離水生物遺骸群集が断続的に分布し、調査地域のさらに北方ではその分布高度が高いことが知られている(宍倉ほか, 2020)。現地の被害状況に十分配慮しつつ、今後も引き続き調査を継続する予定である。


引用文献
・地震調査研究推進本部・地震調査委員会, 2024, 令和6年能登半島沖地震の評価, https://www.static.jishin.go.jp/resource/monthly/2024/20240101_noto_1.pdf(2024年1月2日閲覧)

・国土地理院, 2024, 「だいち2号」観測データの解析による令和6年能登半島地震(2024年1月1日)に伴う地殻変動(2024年1月2日発表), https://www.gsi.go.jp/uchusokuchi/20240101noto.html (2024年1月2日閲覧)   
宍倉正展・越後智雄・行谷佑一, 2020, 能登半島北部沿岸の低位段丘および離水生物遺骸群集の高度分布からみた海域活断層の活動性. 活断層研究, 53, 33-49.

図1 今回の調査地点と地震に伴う海岸隆起量の分布。
図2 地震によって隆起した鹿磯漁港の様子。2024年1月3日11時撮影。
図3 地震によって隆起した鹿磯漁港。標尺の黄色部分は1 mを示す。2024年1月3日11時撮影。
図4 鹿磯漁港東において、地震によって前進した海岸線。2024年1月3日11時撮影。
図5 赤崎漁港における津波被害の状況。2024年1月3日16時撮影。
図6 赤崎漁港の倉庫外壁に残された津波痕跡。2024年1月3日16時撮影。