【研究速報】霧島新燃岳の最新噴火活動:2025年6/22・23に噴出した火山灰《7/14更新》

ページ立ち上げ:2025年6月27日
最終更新日:2025年7月14日

霧島新燃岳では2025年6月22日の水蒸気噴火を皮切りに、活動が活発化しています。
※下記に情報を随時更新してまいります。


*報道関係の皆さまへ:図・動画等を使用される際は、「東京大学地震研究所」と、クレジットを表示した上でご使用ください。また、問い合わせフォームより使用した旨ご連絡ください。


霧島新燃岳2025年6−7月噴火の火山灰の全岩化学組成とその推移

2025年7月14日
東京大学地震研究所



 火山灰の全岩化学組成は,2011年や2018年など,これまで新燃岳の噴火活動の推移把握に活用されてきた経緯がある1), 2).そこで,新燃岳で2025年6月22日から7月8日の間に発生した噴火の火山灰について,全岩化学組成分析を実施し,過去の噴火推移との比較を行った.

 火山灰試料はバルクを未洗のまま処理して溶融ガラスビードを作成し,蛍光X線分析により測定した.今回測定した火山灰試料の化学組成はSiO2含有量が59 – 63 wt. %(無水100%換算)で,2011年および2018年噴火噴出物に基づく新燃岳マグマの組成トレンドからは逸脱していた.ただしその化学組成については時系列変化がみられ,2008年水蒸気爆発から2011年1月マグマ噴火への移行期1) や,2017年10月から2018年3月のマグマ噴火に至るまでの火山灰組成変化の傾向2) と類似している.

 6月22日から7月2日の火山灰はSiO2含有量が60 – 63 wt. %,K2O含有量が1.5 – 1.9 wt. %で,2017年10月噴火の変質物に富む火山灰と類似していた.7月2–4日火山灰はやや変化に富み,噴煙が約5,000 mまで上昇した7月3日15時頃の火山灰はややSiO2含有量が低かった.その後の7月5–6日の火山灰は再度変質物を多く含む火山灰の組成に戻ったが,7月8日早朝の火山灰ではSiO2含有量の低下とMgO含有量の増加がみられ,2018年3月の溶岩流出直前と類似した化学組成であった.このような徐々にマグマ組成に近づく火山灰組成の変化は,新鮮な溶岩あるいはマグマの割合が増加したことを反映していると考えられる.7月2日以降の火山灰が新鮮な発泡ガラスを含み,その割合が増減していること3),また7月8日火山灰に酸化岩片や新鮮な破断面をもつ溶岩片および発泡した白色粒子(軽石)が認められること4) 等の観察結果と調和的である.

参考文献:

  1. Suzuki, Y., Nagai, M., Maeno, F. Yasuda, A., Hokanishi, N., Shimano, T., Ichihara, M., Kaneko, T., Nakada, S. (2013) Precursory activity and evolution of the 2011 eruption of Shinmoe-dake in Kirishima volcano—insights from ash samples. Earth, Planets and Space, 65, 11. https://link.springer.com/article/10.5047/eps.2013.02.004
  2. Maeno, F., Shohata, S., Suzuki, Y., Hokanishi, N., Yasuda, A., Ikenaga, Y., Kaneko, T., Nakada, S. (2023) Eruption style transition during the 2017–2018 eruptive activity at the Shinmoedake volcano, Kirishima, Japan: surface phenomena and eruptive products. Earth, Planets and Space, 75, 76. https://doi.org/10.1186/s40623-023-01834-3
  3. 産業総合研究所,新燃岳2025年7月2日〜4日の火山灰構成粒子の特徴.火山調査研究推進本部提出資料.2025年7月7日.https://www.gsj.jp/hazards/volcano/kazanhonbu/index.html
  4. 東京大学地震研究所,霧島新燃岳2025年7月8日噴火の火山灰について.火山調査研究推進本部提出資料.2025年7月11日.
図1 霧島火山新燃岳噴出物の全岩化学組成.2025年噴火の火山灰(A)を■,それ以前の噴火の火山灰(A)を▲,溶岩(L)や噴石(B)および軽石(P)を●で示した.2017−2018年噴火では変質物に富んだ火山灰組成(黄色領域)からマグマ組成トレンド(青色領域)に向けて,火山灰組成の時系列変化が認められた(灰色矢印)2)

火山噴火予知研究センター 前野 深 准教授
川口 允孝 助教
技術開発室 外西 奈津美 技術専門職員


霧島新燃岳の最新噴火活動:霧島新燃岳2025年7月8日噴火の火山灰について

2025年7月11日
東京大学地震研究所

・降灰状況
 霧島火山群新燃岳で7月8日朝5時台および6時台に発生した爆発的噴火では、西側の新湯方向に火山灰が飛散、堆積した。東京大学地震研究所では、これらの噴火直後の7月8日8時〜11時に現地調査を実施した(図1)。とくに新湯温泉から烏帽子岳にかけての道路沿いでは 数mm程度の火山灰の堆積が認められ、降灰量は、新湯温泉駐車場で1440 g/m2、新湯展望台で399 g/m2などであった(図1)。降灰軸は西南西方向で、南限は不明瞭だが、北限は大浪池登山口付近と推定された。
 7日午後に烏帽子林道(地震研観測点付近)に設置した火山灰採取用のトラップにより、この噴火の火山灰を採取することができた。火山灰は濃灰色で、500 μm以上の粗粒粒子も含む火山灰で、6月22−23日など、この噴火以前の火山灰と比べて粗い特徴を有する。

調査地点の地図
図1 7月8日の調査地点と降灰量(単位はg/m2
降灰の様子(トラップ内)
図2 トラップ内の火山灰。
降灰の様子(支柱座)
図3 支柱座石上の火山灰。
図4 葉上に堆積した火山灰。

火山灰の鏡下での特徴
 地震研の烏帽子観測点付近でトラップにより採取した火山灰(7月8日9時採取、試料No. 2025070802)の構成物を実体顕微鏡で観察した。なお、火山灰は乾燥重量を計測後、超音波洗浄を行い、篩がけにより250-500 μmの粒子を抽出して検鏡を行った。
 火山灰の構成物種は、これまでの噴火(6月22−23日や7月3−4日、図5)とほぼ同様で、破断面に光沢のない灰色石質岩片、破断面に光沢を有する岩片、赤色酸化岩片、白色珪化変面に光沢を有する岩片、赤色酸化岩片、白色珪化変質岩片、斑晶鉱物由来の結晶片が大部分を占めるが(図6)、破断面に光沢を有する岩片の割合は7月4日までの火山灰に比べて多く、白色珪化変質岩片量は明らかに減少した。また、黒〜濃褐色のガラス質粒子に加えて、淡褐色から白色で透明感がある発泡粒子(軽石)が微量(1%以下)含まれていた(図7)。

6/22-23火山灰粒子。7/3-4火山灰粒子。
図5 上段: 6月22日―23日にかけての火山灰粒子。下段: 7月3日―4日にかけての火山灰粒子。
7/8噴火の火山灰粒子
図6 7月8日噴火の火山灰粒子。新鮮な破断面を有する火山灰粒子が多数を占める一方で、赤色・白色に変質した岩片も微量認められる。
発砲粒子拡大写真
図7 (左)黒〜濃褐色のガラス質粒子。これまでの噴火でも微量認められていた。(右)7月8日噴火で認められた、淡褐色から白色で透明感のある軽石粒子。

 石質岩片、赤色酸化岩片や白色珪化変質岩片などの火山灰構成物の特徴は、既存の溶岩ドームや熱水系を破壊することにより生産された火山灰であることを示唆する一方、ガラス質光沢を有する火山灰は新鮮であり、マグマ物質に由来する可能性がある。また、濃褐色のガラス質粒子はこれまでの火山灰試料にも認められていたが、白色の発泡粒子は今回の一連の噴火で初めて確認された粒子である。このような粒子の混入は、マグマの浅部への上昇および噴火への寄与が大きくなったことを示唆する。

 火山灰構成物の変化は、噴火発生場(火道の拡大やマグマの寄与の程度など)の変化を反映すると考えられ、今後の活動においても、構成物の種類や量比に着目した分析を継続していく必要がある。

火山噴火予知研究センター 前野 深准教授
川口 允孝助教


2025年6月27日
東京大学地震研究所

・降灰状況
霧島火山群新燃岳で6月22日午後に噴火が発生し、東〜北東に位置する宮崎県高原町や小林市など広い地域で降灰が確認された。東京大学地震研究所では、この噴火による噴出物調査を6月23日に実施した(図1)。ただし、6月23日早朝からの雨により、降り積もった火山灰の多くは水により再移動し、調査時に元の堆積状態を保っていたと考えられる堆積物はわずかであった。
調査地域の中でも、夷守台や矢岳および大幡前山に続く道路、林道沿いでは比較的厚い堆積物が認められた。皇子原公園から大幡沢登山口の間の林道においては西進するにつれて火山灰量は増加し、大幡沢登山口付近(新燃岳火口縁から3.3 km)では層厚数mm、786 g/m2(乾燥重量)程度の降灰量であった(図2)。一方、夷守台から北方向へはしだいに減少していく特徴を示した(図3)。高原IC付近では、聞き取り調査により、22日夕方に比較的多量の降灰があり、吸い込まないように注意していたとの証言も得た。降灰の分布軸は新燃岳から東北東方向であり、気象庁等がまとめた降灰分布図と整合的である。 
 調査中、しばしば激しい雨を伴う天候であり、新燃岳火口からの噴煙の有無や様子を確認することはできなかったが、23日午後3時過ぎからの1時間には、夷守台で火山灰混じりの降雨や火山ガス臭を確認した(図4)。そのため、23日のこの時間の直前頃にも火山灰噴出があったと考えられる。

6月23日の調査地点を現した地形図。左下に新燃岳の火口があり、そこから右・右斜め上に延びる線の間を範囲で調査地点の印が複数書かれている。
図1 6月23日の調査地点
大幡沢登山口付近で撮られた写真。看板に火山灰が積もっている様子。
図2 大幡沢登山口付近
ベンチの上に火山灰が積もっている様子。
図3 夷守台のベンチ上
木の葉に火山灰が積もっている様子。
図4 大幡沢登山口手前
ビニール袋に濁った水が入っていて、先の方に火山灰が沈殿している。
図5 6月23日15時半頃、夷守台での調査中に雨とともに直接採取した火山灰。

・火山灰の鏡下での特徴
 皇子原公園から大幡沢登山口の間の林道において葉上から採取した火山灰(6/23 12:40, No. 2025062302B、図4、火口縁から3.8 km)と、夷守台での調査中に雨とともに直接採取した火山灰(6/23 15:30頃, No. 2025062304、図5、火口縁から4.9 km)の構成物を実体顕微鏡で観察した。なお、湿った火山灰は一旦乾燥し、乾燥重量を計測後、水洗し、篩がけにより125-250 μmの粒子を抽出して検鏡を行った。

 どちらの試料の構成物の特徴も、他の大学・研究機関がすでに報告している特徴とほぼ同様であり、破断面に光沢のない灰色石質岩片、破断面に光沢を有する岩片、赤色酸化岩片、白色珪化変質物(黄鉄鉱が付着する場合がある)、斑晶鉱物由来の結晶片が含まれていた(図6)。ただし、23日に採取したNo. 2025062304の試料の方は白色岩片量がやや少ない、全体的に光沢を有する破断面を持つ岩片が多い、また、濃褐色のガラス質粒子がごく微量含まれるなどの特徴を有していた。

火山灰を顕微鏡で見た際の画像6枚。
上三枚とした三枚は同じ場所で採取された火山灰。
図6 上段は、皇子原-矢岳登山口間の林道沿いで葉上(図4)から採取した火山灰粒子の特徴。下段は、6月23日15時台に夷守台で雨とともに採取した火山灰粒子(図5)の特徴。右下段の写真中央には、濃褐色のガラス粒子が認められる。

 火山灰構成物の特徴は、既存の溶岩ドームや熱水系を破壊することにより生産された火山灰であることを示唆しており、これまでの新燃岳における水蒸気噴火による火山灰の特徴ともよく似ている。6月22日および23日の噴火は水蒸気噴火と判断できる一方、23日の火山灰構成物は22日に比べて若干の違いがあるようにも見える。

 火山灰構成物の変化は、噴火発生場(火道の拡大やマグマの寄与の程度など)の変化を反映している可能性があり、今後の活動においても、構成物の種類や量比に着目した分析を継続していく必要がある。

火山噴火予知研究センター 前野 深准教授
川口 允孝助教