伊藤伸一(1),長尾大道(1,2),糟谷正(3),井上純哉(3,4)
(1)東京大学地震研究所 (2)東京大学大学院情報理工学系研究科 (3)東京大学大学院工学系研究科 (4)東京大学先端科学技術研究センター
Science and Technology of Advanced Materials (2017), 18:1, 857-869, http://dx.doi.org/10.1080/14686996.2017.1378921
データ同化は、限られた観測データとシミュレーションモデルをベイズ統計学に基づいて融合することで、モデルのパラメータや観測できない内部の状態などの推定や、その推定値の不確実性の評価を可能にする計算技術であり、特に台風の進路予測および予報円の評価など、近年の天気予報では無くてはならないものとなっています。データ同化は原理的には、天気予報のシミュレーションモデルだけではなく、さまざまなシミュレーションモデルに利用できるため、近年その有用性が認知され、断層パラメータの推定や岩石成長過程の推定などの固体地球分野に応用され始めています。
データ同化によるモデルパラメータの推定およびその不確実性の評価はシミュレーションモデルの規模が大きくなるほどに困難になる傾向がありますが、我々は先行研究[Ito et al., Physical Review E (2016), http://www.eri.u-tokyo.ac.jp/2016/11/18/data-assimilation-for-massive-autonomous-systems-based-on-a-second-order-adjoint-method/]の中で、モデルの規模が大きくなっても高精度な推定および不確実性評価を行えるアルゴリズムを開発しました。
しかしながら、パラメータの推定値の不確実性を得るだけでは、将来予測がどれくらい変わり得るか(予測不確実性)を調べることができません。予測不確実性を調べることは台風の進路予測の例で言えば予報円を計算することに相当しますが、既存のデータ同化手法では予測不確実性を正しく調べるためには一般に膨大な計算コストが必要となり現実的な時間での計算が難しくなるので、精度を犠牲にする代わりにさまざまなアドホックな工夫を凝らしていました。そこで本論文では、上記のアルゴリムを応用することで、大規模シミュレーションモデルにも適用ができる新しい予測不確実性の評価方法を開発しました(図1)。これにより既存の方法よりも計算コストを大きく軽減しつつ高精度に予測不確実性を調べることができるようになりました。論文中では提案手法を検証するために、曲率駆動型の粒成長モデルに適用し、本手法が正しく粒成長を予測できること、データの量・データの質・データ取得のタイミングに対応した予測不確実性の計算ができることを確認しました。
本提案手法は一般の問題に対して適用が可能であるため、断層運動の予測や津波の到達予測などの時間発展を予測することが重要になる地震に関連した様々な固体地球分野へ応用できます。さらに、それらの得られた予測が不確実性付きで評価できるようになるため、予測精度の向上や観測点配置の問題などに広く展開できると期待されます。