着任セミナー(2023年6月30日)三反畑修(地球計測系研究部門)

題目:海底カルデラにおけるトラップドア断層破壊:新たに発見された火山性津波の発生メカニズムと,海底カルデラ地下の力学状態への知見

 

要旨:

津波は巨大地震以外にも,海底地滑りや海域の火山活動,気象的要因など様々な要因で発生する.私はこれまで,海底カルデラ火山で発生する特異な津波現象について研究してきた.例えば,伊豆諸島の鳥島近海に位置する海底カルデラ火山・スミスカルデラでは,おおよそ十年間隔で地震マグニチュード5級の特異な火山性地震が繰り返し,いずれも地震規模から経験的に推定されるより大きな津波を引き起こしてきた.この特異な津波を伴う地震現象については1980年代に「鳥島近海地震」などとして知られていたが,その発生要因は長年未解明であった.本セミナーでは,上記の例に代表される特異な火山性地震・津波を対象に取り組んできた研究について,二部構成で紹介する.

第一部では,その地震・津波の発生メカニズムに迫る.スミスカルデラの2015年地震を対象に,その津波および地震波記録の解析から,「トラップドア断層破壊」と呼ばれるカルデラ火山特有の地震現象を,火山性津波の新たな発生メカニズムとして提案する.またニュージーランド北方沖の海底カルデラでも同様の現象が発生していたことを示す.さらに,その特異な地震波励起特性や海底地形との関係など,現象の特徴を議論する.

第二部では,同現象の力学機構のモデル化を通して,海底カルデラの火山内部の力学状態を探る.研究対象として,小笠原諸島の北硫黄島近傍の海底カルデラで発生したトラップドア断層破壊を扱う.ここでは,動力源である火山地下のマグマ圧力と,地震と津波の規模を結びつけた,トラップドア断層破壊の静力学的地震モデルを開発する.モデルと津波の観測記録と付き合わせることで,地下のマグマ圧を含めた力学状態を推察する.

最後に,活動的海底カルデラ火山の海底観測の必要性も含め,今後の研究の展望を議論する.