【研究速報】西之島2019年-2020年活動の観測

最終更新日:2020年7月28日

2019年12月から活発に活動している西之島は、現在(2020年7月)も活動し続けています。ここでは、最新の観測結果を紹介します。


西之島における2020年7月11日噴火の火山灰 ( 2020年7月28日更新 )

概要: 2020年7月11日に気象庁観測船「凌風丸」上にて採取された西之島噴火の火山灰について,実体顕微鏡による観察,全岩化学組成および石基ガラス組成の分析を行った。実体顕微鏡では,よく発泡した黒〜褐色粒子を主体とする細粒火山灰である(図1)。SiO2含有量は全岩で約55 wt.%,石基ガラスで約58 wt.%を示す玄武岩質安山岩で,MgOなど苦鉄質成分に富む特徴を示す(図2〜4)。西之島におけるこれまでの陸上噴出物は,SiO2含有量は全岩で59-61 wt.%程度,石基ガラスで62 wt.%以上の安山岩であった。したがって今回の結果は,マグマ組成がこれまでの安山岩から玄武岩質安山岩に変化していることを示す。従来の解析結果も考慮すると(図5),2019年12月から開始した現在の活動では,より深部に由来する苦鉄質マグマの寄与が激的に増大し,このことが現在の活発な活動の原因になっていると考えられる。

分析試料:
2020年7月11日に,西之島北北西約18.5 km地点にて気象庁気象観測船凌風丸のA: 船首,B:フライングデッキ,C: 船尾で採取された火山灰。気象庁より提供頂いた。

[全岩化学組成分析]
A,B,Cそれぞれの試料について,篩い分けによりごく細粒物を除外した火山灰粒子を用い,XRFにより分析を行った。
今回分析した試料は火山灰であり,溶岩やスコリアとは産状が異なることには注意を要する。火山灰全岩化学組成は,異質岩片が大量に混入した場合や,運搬過程で密度が大きい有色鉱物粒子の分離が起こった場合,マグマとは異なる化学組成を示す可能性がある。今回用いた試料については,実体顕微鏡により異質物・岩片をほぼ含まないことを確認し,また,船上の異なる場所A, B, Cで構成物・化学組成にほとんど違いは見られない。試料の状態から,混染の影響はほとんどないと考えられる。また,斑晶鉱物量は10 vol.%以下と低く,有色鉱物が分離したとしてもその化学組成への影響は小さく,変化したとしても珪長質側に変化すると考えられる。以上の点を踏まえると,今回分析した火山灰全岩化学組成の特徴は,概ね今回の噴火のマグマ組成を反映したものであり,これまでの噴出物との違いは有意なものと考えられる。

[石基ガラス組成分析]
A,B,Cそれぞれの試料について,ふるいがけにより250-500 μmの粒子を集め,石基ガラスについてEPMAによる定量分析を行った。 化学組成のばらつきは,結晶化の程度による粒子毎,同一粒子内の組成不均一によるが,これまでの噴出物との全体的な組成差は,結晶化の程度によるばらつきで説明することは難しく,マグマがより未分化なものへ変わったことを示すと考えられる。

図1 西之島火山灰の実体顕微鏡写真。(左)2020年7月11日に採取された火山灰(125-250 μm)。よく発泡した多角形状の黒〜褐色粒子を主体とする。(右)比較のために,2015年6月噴火火山灰(125-250 μm)を示す。2020年と同様に黒〜褐色粒子を主体とするが,透明度が高く,引き伸ばされた形状を有するものが多い。

図2 2020年7月11日に西之島沖で採取された火山灰の反射電子像。発泡度の良い多角形・不定形状の粒子で構成される。石基結晶度は粒子ごとにばらつきがあるが,これまでの活動で噴出した火山灰
でも同様の特徴が観察されている。
図3 西之島噴出物の全岩化学組成。2020年は火山灰。その他は溶岩およびスコリアである。2018年までの噴出物は安山岩であるが,2020年7月噴出物は玄武岩質安山岩である。これまでの噴出物よりも明瞭にMgOやCaOに富み,K 2 Oに乏しくなる。
図4 2015年以降の西之島噴出物の石基ガラス組成。赤丸が今回の噴出物の分析値。これまでの陸上噴出物の石基ガラス組成は,概ねSiO 2 含有量62 wt.%より富む特徴を示していた。2020年7月噴出物は約58 wt.%に集中し,MgOなど苦鉄質成分に富む。この組成変化は,全岩化学組成における変化と調和的であり,現在進行中の噴火においてより苦鉄質なマグマの寄与が大きくなっていることを示している。
※ 図4中には示していないが,2017年5月に西之島沖で回収された海底電位磁力計に堆積していた
火山灰の石基ガラス組成 1) のうち苦鉄質なものと,2020年7月噴出物の組成はよく似た特徴を示
すことがわかった。この関連性については,今後検討を要する。
図5 西之島における2013年以降の噴出物の化学組成の変遷。2018年までの噴出物の化学組成には弱い変化傾向(SiO 2 の減少,MgOやCaOの増加)が認められていた。Zrなど液相濃集元素は減少傾向を示していた。2020年噴出物の組成変化は,これまでの変化よりもはるかに大きい。2013年以降の噴出物の斑晶鉱物の分析から,浅部低温マグマ溜りへの深部高温マグマの注入が推定されている 2) ことを考慮すると,2019年12月から開始した今回の活動では,より深部に由来する苦鉄質マグマの寄与が激的に増大し,このことが現在の活発な活動の原因となっていると考えられる。

参考文献
1) 安田ほか(2017)西之島近海の海底から採取されたガラス質の火砕物について.日本火山学会秋
季大会講演予稿集, P094.
2) 前野・安田ほか(2018)海洋理工学会誌, 24, 1, 35-44.

(前野・外西・安田)


西之島における地震、空振観測

小笠原諸島の西之島では2013年以降火山活動が継続しており、度重なる溶岩流出により島は急速に拡大している。地震研究所では活動の合間を縫って、2016年10月と2019年9月に西之島旧島に上陸し、地震計・空振計を設置した。2016年10月に設置した観測装置は翌2017年4月の火山活動により失われたが、噴火開始前後の地震・空振データを得ることができた。2019年9月には再度旧島部に上陸し、3成分広帯域地震計と空振計から成る観測装置を再設置した。本報告は、2019年9月に開始した観測の紹介である。

 度重なる溶岩流出により旧島部分の大半が覆われていたが、 2019年9月時点ではわずかに土壌面が残され海鳥も多数生息していた(図1)。溶岩流に飲み込まれずに残ったわずかな土壌部分に30㎝ほどの穴を掘り、埋設設置した(図2)。

 観測装置の電力は太陽電池から供給し、衛星通信を介してデータを送る仕組みになっている。衛星通信の容量や通信費の制約から、観測で得られた全データを送信することはできないため、以下の手順でデータを回収した。1)1日の観測が終わると、現地ロガーが1日分のランニングスペクトルを作成・圧縮した上で、地震研へ送信する。2)ランニングスペクトルを確認し、地震などが発生していた場合は該当する時刻のデータを手動で切り出し、後日回収する(図3)。これにより、限られた通信条件下で活動の概要を捉えることが可能となった。

図3 データーの蓄積、処理、送信までの流れ

設置後3ヶ月ほどは目立った火山活動は無かったが、2019年12月4日より地震活動が高まり、翌12月5日から溶岩流出が始まった。図4に12月5日の地震、空振波形とその拡大図を示す。

 12月5日5時台に、振幅20Pa程度の空振が捉えられており、この頃には溶岩が火口極浅部に達し、激しいガス放出が始まっていたと考えられる。地震振幅の増加もこの頃から目立ち始める。同日午後から地震振幅が急増し、280Paの比較的強い空振も観測された。同じ時間帯にひまわり8号の観測から強い熱異常が確認されており、溶岩流出が一気に始まったものと考えられる。これ以降は、大きな振幅の地震動が継続し、空振も頻発した。

 地震波の振動方向を見ると、この時期の地震波はほぼ火口方向から到来しており、西之島中心付近に位置する火口での活動が中心であった。

噴火開始直後は2Hz付近の周波数帯が卓越していたが、卓越周波数は徐々に低周波側に移動し、2020年4月以降は0.5~1Hz付近が卓越するようになった。2020年5月からは振幅が顕著に増加し、6月下旬に掛けて加速度的に増加した。振幅の増加とともに卓越周波数もやや高周波側にシフトした(図5)。6月下旬には加速度的に増加する熱異常がひまわり8号によって捉えられており、この時期に大規模な溶岩流出が起きたと考えられる。

 6月22日に前日分のデータが送られてきたが、それを最後に通信が途絶えた。6月24日の衛星画像には溶岩流が旧島に迫る様子が捉えられており、観測点はこの頃に溶岩流に飲み込まれたと推定される。

 西之島の厳しい観測環境において、当初の期待を大きく上回り6か月以上に渡りデータを送り続けることができた。特に、噴火の開始から最近の活発化までの一連の活動全体を捉えることができたことは重要な成果である。今後は、熱異常データや海上保安庁による空撮画像、衛星データによる溶岩流出域拡大の推移など、他の観測データと比較することにより、地震学的に見た西之島の活動を明らかにしていきたい。

(火山噴火予知研究センター: 大湊隆雄 )


◆ ひまわり8号による西之島2019-20年噴火の観測(11)-噴出率とその変化

(火山噴火予知研究センター:金子隆之)


西之島の噴火に伴う津波の試算

小笠原諸島西之島では,2019年12月の噴火再開以降,溶岩流出により島の拡大が続いている。 今回の噴火活動は,2013-2015年噴火を上回る勢いであり,溶岩流出率も2013年以降最大となっている1)。 2020年6月末には,溶岩流が山体南側で再び急峻な海底斜面に流出する状況になっている。 このような噴火活動がさらに継続・活発化した場合,山体が部分的に崩壊し,津波が発生する可能性が考えられる。 東京大学地震研究所では,2013-2015年噴火の際にも山体崩壊と津波について検討したが2), 2019-2020年噴火においては山体がさらに大きく成長し,噴火活動も活発であるため,現状の活動状況を踏まえて,改めて西之島の崩壊と津波について検討を行うことにした。

[西之島の崩壊・津波シミュレーション]
 数値計算は,これまでの事例で用いられた手法2, 3)と同様である。 重力流(岩屑なだれや火砕流など)が海に流入することにより発生する津波を対象として開発されてきた, 非線形長波理論にもとづく二層流モデルの有限差分法による解析手法4, 5) を用いた。 海底地形データには海洋情報研究センターによる M7023 ver. 2.0(小笠原海域)を用いた(図1,2)。 計算領域は,広域では200 m,波源近傍ではその1/3のグリッドを用いて接続している。初期崩壊条件は表1の通りである。 このうちCase 1A, 1Bと2A, 2Bはすでに検討しており2),今回新たに崩壊量が5-10倍大きい場合について調べた。 Case 2Cは,インドネシア・アナククラカタウ島で2018年12月に発生した山体崩壊と同程度を想定した場合である。

図 1 西之島および小笠原諸島周辺の海底地形 (東西 240 km,南北 180 km)。xy軸は緯度経度,z軸の単位はm。
図 2 (左) 西之島周辺の海底地形,(右) 想定崩壊位置。xyz軸の単位はm。

表 1 検討した初期条件
LocationVolume (×106 m3)
Case 1ASW13
Case 1BSW6
Case 1CSW52
Case 2ASE12
Case 2BSE8
Case 2CSE123
Case 2DSE51

 Case 1とCase 2は,それぞれ島の南西側と南東側が崩壊し,崩壊物が海底山体の斜面上へ流出するというシナリオである。 すべての場合において,海面上の新しい島の一部と海面下の既存山体を合わせた部分が崩壊する状況を想定している。 陸上部分は崩壊量全体の20-30%程度である。Case 2Cでは,島中央の火砕丘の一部も含まれる。なお,モデル内の重力流の底面摩擦係数については,従来の研究にもとづき陸上域,水域ともに0.1,重力流―海水二層の界面抵抗係数は0.2とした。

[数値シミュレーション結果の例]

図 3 Case 2Cの計算結果。4分毎,24分まで。

[最大波高分布]

図 4 (a) Case 1A,(b) Case 1C,(c) Case 2C,(d) Case 2D。 それぞれ波高のスケールが異なることに注意。(b)-(d)では,波源近傍では波高20-30 mに達するが,西之島から離れると急速に減衰する。 しかし,海底地形の影響により小笠原諸島付近で再び波高が高まる。

[父島南西岸における津波の特徴]

図 5 父島南西岸における津波波形(発生から40分後まで)。東側では崩壊量が最大の場合,5 m程度の津波になる可能性がある。 また,いずれの場合も,2分30秒から3分程度の周期の波が次第に減衰していくという特徴を示す。

[崩壊体積と最大波高との関係]

図 6 西之島の崩壊体積(横軸)と津波の最大波高(父島南西岸)(縦軸)との関係。 南西側の崩壊(Case 1)では,津波の主な伝搬方向が小笠原諸島と反対側になるため,波高は全体的に低くなる。

[津波到達時間分布]

図 7 津波到達時間の分布(Case 2Cの例)。単位は分。父島へは20分弱で到達する。 津波の波速はほとんど水深に依存するため,初期条件が変わっても津波到達時間の分布に大きな変化はないが, 最大波高に達するまでの時間は,崩壊量が大きいほど早くなる。

[参考文献]
1) 東京大学地震研究所「ひまわり8号による西之島2019-20年噴火の観測」第146回火山噴火予知連絡会資料.
2) 東京大学地震研究所「西之島噴火に伴い発生する可能性がある津波について」, 2014年7月, リンク
3) 東京大学地震研究所「2018年インドネシア・クラカタウ火山噴火・津波」, 2019年1月15日, リンク
4) Kawamata, K. et al. (2005) Model of tsunami generation by collapse of volcanic eruption: the 1741 Oshima-Oshima tsunami. In Tsunamis: cases studies and recent development (Satake, K., ed.), p79-96.
5) Maeno, F. and Imaumra, F. (2011) Tsunami generation by a rapid entrance of a pyroclastic flow into the sea during the 1883 Krakatau eruption, Indonesia. JGR, 116, B09205.

なお、下記ページでも随時情報が更新されております。ぜひご覧ください:

西之島の噴火に伴う津波の試算【http://www.eri.u-tokyo.ac.jp/VRC/nishinoshima/nishinoshima_tsunami_2/

( 火山噴火予知研究センター  前野 深 )