2024年能登半島地震(Mw 7.5)に伴う地震波速度変化

Paris Nicolas (1, 2)、伊東 優治(2)、Brenguier Florent(3)、Wang Qing-
Yu(3, 4)、盛一笑(5)、岡田 知己(6)、内田 直希(2, 6)、Higueret
Quentin(3)、髙木 涼太(6)、酒井 慎一(2)、平原 聡(6)、木村 洲徳(6)

1グルノーブルアルプ大学環境地球科学研究所、 2東京大学地震研究所、 3グルノーブルアルプ大学地球科学研究所、 4ストラスブール大学地球環境研究所、 5中国科学技術大学地球和空間科学学院、 6東北大学大学院理学研究科地震・噴火予知研究観測センター

Nicolas Paris (1, 2), Yuji Itoh (2), Florent Brenguier (3), Qing-Yu Wang (3, 4), Yixiao
Sheng (5), Tomomi Okada (6), Naoki Uchida (2, 6), Quentin Higueret (3), Ryota
Takagi (6), Shin’ichi Sakai (2), Satoshi Hirahara (6), Shuutoku Kimura (6)

1IGE, Université Grenoble Alpes, France, 2ERI, University of Tokyo, Japan, 3ISTerre, Université Grenoble Alpes, France, 4ITES, Université de Strasbourg, 5School of Earth and Space Sciences, University of Science and Technology of China, 6Research Center for Prediction of Earthquakes and Volcanic Eruptions, Graduate School of Science, Tohoku University, Sendai, Japan

Coseismic crustal seismic velocity changes associated with the 2024 Mw 7.5 Noto earthquake, Japan
Earth, Planets and Space, 77, 51
https://doi.org/10.1186/s40623-025-02177-x

 
 2024年能登半島地震(M w 7.5)に先駆けて生じていた群発地震活動は、15km以深に存在していた流体が浅部へ上昇することで生じたと考えられている。地下の地震波速度は地震等に伴う外部からの応力擾乱に応答して変化することが知られており、地震波速度の変化量は地殻内流体の量に応じて増幅される。したがって、2024年能登半島地震のような大きな地震に伴う地震波速度の変化を検出することで、異常な量の地殻内流体の存在の有無を議論できると考えられる。そこで、本研究では常時微動を使った地震波干渉法解析を実施し、地震前後の地震波速度の変化を検出した。その結果、能登半島の直下においては、本研究の解析周波数帯が感度を持つ0.5kmから2.5kmの深さにかけて、平均0.5%程度、最大で0.6-0.8%程度の地震波速度の低下があったことが明らかになった(図)。大地震に伴う地震波速度変化は、地震波による動的な応力変化と、静的な応力変化によって生じるとされる。そこで、地動最大速度(PGV)と地動最大加速度(PGA)を動的な応力変化を示す量として動的な応力変化の観測された速度低下の寄与を議論した。また、モデル計算により静的な応力変化による速度低下を見積もった。その結果、PGV、PGA、静的な応力変化による速度低下のいずれもが観測された速度低下とよく相関していたため、どちらのメカニズムが観測された速度低下に支配的な影響を及ぼしていたかについては結論づけられなかった。PGV、PGA、静的な応力変化による速度変化と観測された速度変化の比較から、能登半島北東端の群発地震域における本震時の地震波速度低下量は、地殻内に異常な量の流体が存在すると解釈できるほど大きくなかったことがわかった。この結果は、2.5km以浅には異常な量の流体は貯まっていないこと、すなわち、本震前数年間に亘って上昇していたとされる流体の大半が2.5km以深に留まっていたことを示唆している。なお、本研究では、防災科学技術研究所による定常地震観測ネットワークの観測点に加えて、東京大学地震研究所並びに東北大学が設置した臨時の地震観測点のデータを加えて解析を実施した。臨時観測点は能登半島北東端に集中して設置されており、定常観測点のみの解析結果と比較して、その直下の地震波速度の解像度の向上に大きく貢献した。

図: (a-d) 観測された2024年能登半島地震に伴う地震波速度低下。a-bは広域の、c-dは能登半島の結果の拡大図。aとcは0.3-0.5Hz、bとdは0.9-1.1Hzの解析結果で、それぞれ約2.5km、0.5kmの深さにおける地震波速度低下を表していると考えられる。(e-f) それぞれ0.3-0.5Hz、0.9-1.1Hzにおける本震前後の地震波速度の時間変化。異なる色のグラフは、それぞれ能登半島内の異なる観測点での結果を表す。

2025年夏の研究体験プログラム(サマースクール)の参加者募集

2025年夏(8月~9月)に、大学院への進学を検討している国内の学部生を対象とした、東京大学地震研究所 研究体験プログラムを実施します。
参加者の募集は、5月19日(月)に開始の予定です。
https://www.eri.u-tokyo.ac.jp/education/
に実施テーマに関する情報や、参加希望登録フォームのリンクを掲載します。

沈み込む海山と浅部スロー地震の震源特性

武村俊介1・矢部優2・江本賢太郎3・馬場慧3

1東京大学地震研究所,2産業技術総合研究所, 3九州大学

Takemura, S., Yabe. S., Emoto, K., Baba, S. (2025).
Along-dip variations in source characteristics of shallow slow earthquakes controlled by topography of subducted oceanic plate, J. Geophys. Res., 130, e2024JB030751, https://doi.org/10.1029/2024JB030751

 
 紀伊半島沖の巨大地震発生域浅部延長では、浅部スロー地震と呼ばれる通常の地震と比べてゆっくりとした断層すべり現象が発生しています。本研究では、浅部スロー地震域近傍のDONET海底地震計を活用して、浅部スロー地震の一種である浅部超低周波地震の震源特性を正確に評価し、その空間分布を詳細に調べました。

 浅部超低周波地震は沈み込む古・銭洲海嶺(図中のPZR)の西端で活発に活動しており、大きな浅部超低周波地震も集中して発生しています(図1ab)。フィリピン海プレートが沈み込む北西方向に着目すると、DONETのKMD観測点のあたりでは、浅部超低周波地震は海岸線または巨大地震域へ近づくほど(深くなるほど)地震波を強く放出しています(図1c左)。巨大地震域へ近づくほど地震波輻射が強くなる傾向は、南海トラフやカスケード沈み込み帯の深部(30-40 km)でも確認されており、スロー地震に共通した特徴かもしれません。一方で、古・銭洲海嶺が沈み込むKMB観測点付近(図1c右)では、KMD観測点から30 km程度しか離れていないにも関わらず、その傾向は逆で、巨大地震域から遠ざかるほど浅部超低周波地震の地震波放出が強くなる逆の傾向を示しています。

 我々は、この逆のトレンドの原因が沈み込む古・銭洲海嶺であると考えています(図2)。海山の沈み込みに伴い、沈み込む海山の周辺では複雑な地下構造や応力状態となることが知られています。そのような複雑な状態が、大きな浅部超低周波地震の発生を阻害しているのかもしれません(図2)。沈み込んだ海山が浅部スロー地震の特徴をコントロールしている可能性が高く、より高精度な地下構造モデルとの比較、他の地域の比較研究を今後も進めることで、浅部スロー地震の発生場の理解を深めたいと考えています。

図1.  (a) 2015年4月〜2021年3月までの浅部超低周波地震の積算モーメントの空間分布、個々の浅部超低周波地震のモーメントレートの(b)走向方向変化と(c)傾斜方向変化。図中の灰色の領域はPark et al. (2004)による古・銭洲海嶺の位置、青点線はTakemura et al. (2024)の超低周波地震の検知下限
図1.  (a) 2015年4月〜2021年3月までの浅部超低周波地震の積算モーメントの空間分布、個々の浅部超低周波地震のモーメントレートの(b)走向方向変化と(c)傾斜方向変化。図中の灰色の領域はPark et al. (2004)による古・銭洲海嶺の位置、青点線はTakemura et al. (2024)の超低周波地震の検知下限
図2. 図1のKMD/KMC観測点測線とKMB観測点測線の差異の概略図。沈み込むフィリピン海プレート構造はPark et al. (2002, 2004)などを参考にした。南海トラフの固着域(Locked zone)は、Noda et al. (2018)によるプレート境界のせん断応力増加率の高い領域を参考にした。