小原 一成所長が、2017年度日本地震学会賞を受賞しました。
授賞対象業績名:スロー地震学の創成
受賞理由:受賞者は、西南日本に沈み込むフィリピン海プレートの上部境界付近の深さ30~40kmで、同規模の通常地震と比較して低周波成分に卓越する「深部低周波微動」が発生していることを世界で初めて発見し、この微動の震央が南海トラフ巨大地震発生域の下限に沿って約600kmの長さにわたって帯状に分布することを明らかにした。さらに受賞者は、共同研究者とともに、低周波微動に同期して発生する短期的なスロースリップ(SSE)や深部超低周波地震(VLF)、さらには巨大地震発生域の浅部の付加体近傍で発生する浅部VLFや低周波微動などの諸現象を次々と発見するとともに、これらの現象が示す移動性などの諸性質や、現象間の相互作用などについて探究を進め、それらの画期的な成果は「スロー地震学」という全く新しい研究分野を切り開くこととなった。
受賞者によるスロー地震の発見は、プレートテクトニクス理論以降提唱されてきた単純なプレート間の固着・すべりモデルを発展させ、より複雑な固着・すべり現象が起きていることを世界に先駆けて提示したものであり、地震学の研究分野に新たな潮流を生み出した。スロー地震に関する研究が世界中の様々な場所を対象として活発に進められるようになり、その結果、多くの沈み込み帯でスロー地震の発見が相次ぎ、国内だけでなく世界中の地球物理学界に対して大きなインパクトを与えた。また、その影響は地震学や測地学コミュニティにとどまらず、その周辺の地質学や物質科学の研究分野にも広がっており、たとえば、沈み込み帯のプレート境界近傍における変形機構や流体の循環過程を理解する上で、スロー地震の知見は貴重な要素として位置付けられている。
また受賞者は、スロー地震と巨大地震との関連性についての研究にも尽力しており、スロー地震が1)巨大地震の発生様式を理解する上でのヒントを与えてくれる可能性、2)巨大地震震源域の応力状態を反映するインジケーターとなる可能性、3)隣接した巨大地震震源域における断層破壊を促進する可能性の3点を追求している。将来発生が想定されている南海トラフ巨大地震の発生機構の解明にとって、スロー地震はもっとも有効な知見の一つとして認識されており、今後の研究の進展が期待される。
「スロー地震学」を核として、受賞者は多くの地震学会会員と共同研究を進めるとともに、若手研究者の指導育成や後進の研究推進に努め、地震学コミュニティの研究活性化に大きく貢献してきた。また、国際共同研究を積極的に進めることにより、世界における日本のスロー地震学のプレゼンスを高めてきた。
以上のように、受賞者は「スロー地震学」の創成を通して、地震学の発展に著しく貢献しており、2017年度日本地震学会賞を授賞する。
(「2017年度日本地震学会賞」ホームページより抜粋)