部門・センターの研究活動」カテゴリーアーカイブ

3.10.5 無人飛翔体を用いた空中磁気測量による火山体構造探査

 火山噴火は地下の高温の火山性流体の移動に起因する表面現象であり,あらかじめ物理・化学観測を実施し地下の熱的状況や構造を把握しておくことは,将来の火山噴火減災のために重要である.我々は火山火口近傍観測のために,無人飛翔体(産業用無人ヘリコプターやマルチコプタードローンなど)を活用することを進めている.無人飛翔体を使用する利点は,(1) 噴火活動による人的リスクを負うことなく火口近傍の物理・化学探査が可能であること,(2) 有人機と違い,プログラミングされた航路を精確に飛行できるため,繰り返し同一測線・測点での計測が可能となり,測定量の時間変化を抽出できるようになること,が挙げられる.両利点を考慮し,これまで特に空中磁気測量を複数の活火山で実施してきた.磁性鉱物を含む火山岩は温度によって帯・消磁するため,地上で磁気測量することで地下の温度の状況・分布を把握することが可能となる.

 2021年には三宅島雄山においてドローンを用いて空中磁気測量を実施した.磁場データ解析の結果,推定された地下磁化強度分布から,カルデラリム下は強い磁性を示す一方で,カルデラ内下は磁化強度が弱くなっているというコントラストが見られた.カルデラ内の弱化は2000年噴火でカルデラ崩壊した際に,岩石磁化の磁性方向がバラバラになってしまったことによると示唆される.また,2014年に産業用無人ヘリコプターを利用して実施した空中磁気測量のデータと今回のデータの比較を行った結果,地下浅部は冷却による再帯磁が進んでいる.一方で,カルデラやスオウ穴火口下深さ1km程度では消磁傾向にあることがわかった.このことは,先行研究で示唆された発達した火山熱水系により不透水層の亀 裂に沿って選択的に熱が供給され,熱消磁をおこしている可能性がある.今後この熱消磁域の時間発展をモニタリングすることで,来る火山災害リスクを事前に評価できる可能性を示した.

3.10.4 北海道東部ひずみ集中域における地殻変動解析

 北海道東部屈斜路カルデラ周辺では,北海道でも内陸地震が比較的多く発生し,過去に被害も記録されている.この地域では,カルデラ特有の地下の不均質構造の存在が示唆されており,それによる応力集中によって地震が発生すると考えられている.

 この内陸地震発生ポテンシャルが高いと示唆される地域の周辺では,既存のGNSS観測網に加え,連続およびキャンペーン観測点も設置されており,より空間分解能が高い地殻変動場の推定とその変動場の理解が期待されている.これまでもGNSSデータの解析はされていたが,解析ソフトウェアや設定パラメタの更新,データの追加による再解析を実施した.連続観測点ではこれまでよりもばらつきの小さい座標時系列を得るとともに,キャンペーン観測点では2015年以降のデータが新たに解析されたことにより,概ねどの観測点でも約10年間線形的な変動が続いていることを確認することができた.連続点からは過去に屈斜路湖南部の北向きの局所変動が捉えられていたが,周辺のキャンペーン観測点の結果もそれをサポートし,ひずみ分布としてカルデラの中心部で1ppm/yrオーダーの大きい短縮変形の存在を裏付ける結果が得られた.この短縮変形が生じる要因として,球状圧力源の収縮,低粘性をもつマグマの粘性緩和,不均質構造の影響などが考えられるため,今後モデル計算等によってこれらを定量的に議論し,地震発生ポテンシャルについて検討する必要がある.

3.10.3 相似地震

 ほぼ同じ場所ですべりが繰り返し発生する相似地震は,断層面のすべりの状態を示す指標として注目されている.また,地震の再来特性を考える上で重要な地震である.そこで,日本列島全域に展開されているテレメータ地震観測点で観測された地震波形記録を用いて,日本列島および世界で発生している小規模~中規模相似地震の検出を継続的に行っている.その結果,沈み込むプレートの上部境界では,長期間にわたって繰り返す相似地震群が多数検出されている.作成した相似地震カタログを用いて世界の沈み込み帯におけるすべりの空間分布を調べたところ,得られた平均すべり速度はプレート間巨大地震とその余効すべりの影響が見られる地域では,プレート間の相対運動速度よりも速く,それ以外の地域で遅い傾向を示した.また,プレート間巨大地震の発生サイクルにおいて,プレート間すべり速度が長期的に変化する傾向を明らかにすることができた.すべり速度は地震発生直後に急激に増加し,その後10年程度かけて徐々に減少する一方,地震発生から30年以上経過すると徐々に増加していく傾向が見られた.これらは余効すべりの発生および応力レベルの上昇と関連していると示唆される.さらに,2011年東北地方太平洋沖地震発生から10年経過した後の東北日本地域におけるすべり状況について調査を進めた.2021年に大すべり域周辺で発生したM6~7クラスの地震後には,いずれも小規模な余効すべりが発生したことを確認した.

3.10.2 速度・状態依存摩擦則に基づくSSEのトリガーモデル

 円形アスペリティを仮定し,Nagata et al. (2012)により修正された速度・状態依存摩擦則に基づいて地震トリガーに関する数値シミュレーションを行なっている.地震サイクルのある時点で,応力擾乱を与えると微小滑りが起こり,強度が下がる(滑り弱化).擾乱の振幅が大きくなるにつれ,大きな滑り弱化が起こり,地震滑りに至るまでの時間が短くなる.これまでの研究により,応力擾乱の周波数依存性はほとんど見られないこと,静的応力擾乱を与えた場合は,動的応力擾乱の場合より小さな応力変化量でトリガーされ,応力変化量の大小だけでトリガー効果を見積もることはできないこと,などを示してきた.また,ある動的応力変化に対し,トリガー効果が等価な静的応力変化量も評価した.今年度は,スロースリップイベント(SSE)のトリガーについて調べた.同じ半径のアスペリティでも,摩擦パラメータの値により,周期的地震,周期的SSE,安定すべりなどが発生する.周期的SSEが起こっているときに,様々なタイミング,振幅で応力擾乱を与えた.擾乱の振幅が大きくなるにつれ,SSEの発生が早められ,SSE時の滑り速度が速くなり,継続時間が短くなっていく.さらに大きくすると,高速な地震滑りに移行することもわかった

3.10.1 地震・火山噴火予知研究協議会企画部

 全国の大学等が連携して実施している「災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画」を推進するために,地震研究所には地震・火山噴火予知研究協議会が設置されている.地震・火山噴火予知研究協議会の下には,推進室と戦略室からなる企画部が置かれ,研究計画の立案と実施で全国の中核的役割を担っている.企画部推進室は,流動的教員を含む地震火山噴火予知研究推進センターの専任教員,地震研究所の他センター・部門の教員から構成されている.流動的教員は,地震研究所以外の計画参加機関にも企画部の運営に参加してもらうために,東京大学以外の大学,関連機関から派遣されており,2年程度で交代する.戦略室には,効果的に研究計画を推進するために,東京大学地震研究所以外の多くの大学の研究者も参加している.企画部では次のような活動を行っている.

1. 協議会の円滑な運営のため常時活動し,大学等の予算要求をとりまとめる.
2. 地震・火山噴火による突発災害発生時に調査研究を立ち上げるためのとりまとめを行なう.
3. 大学の補正予算等の緊急予算を予算委員長と協議し,とりまとめる.
4. 研究進捗状況を把握し,関連研究分野との連携研究を推進する.

 毎年3月に成果報告シンポジウムが開催され,大学だけでなく研究計画に参加するすべて機関の研究課題の成果が発表される.2021年はオンラインで実施された.科学技術・学術審議会測地学分科会が毎年作成している成果報告書では,各課題の成果報告に基づいて全体の成果の概要をとりまとめており,文科省のHPで公開されている.また,地震・火山噴火予測研究の現状を正確に社会に伝えることを目的として,主に報道関係者を対象とするサイエンスカフェを7回オンラインで開催した.それらの活動については,facebookを用いて随時情報提供している

3.10 地震火山噴火予知研究推進センター

教授加藤尚之(センター長),吉田真吾,加藤愛太郎(兼任),大湊隆雄(兼任),上嶋誠(兼任)
准教授大園真子
助教小山崇夫,五十嵐俊博
特任研究員GRESSE Marceau
学術支援職員荒井道子

3.9.4 CREST次世代インテリジェント地震波動解析プロジェクト

 日本には,国の機関等が整備した数千点の観測点で得られる高精度地震計測データのほか,建造物,電気・ガス等のライフライン,スマートフォンが持つ加速度計等のデータが存在しており,これらを活用する次世代の地震計測ビッグデータベースが構築されつつある.最先端ベイズ統計学に基づいて,これらの多種多様な地震計測データを包括的に解析するためのアルゴリズム群を開発し,地震防災・減災や地震現象の解明に役立てることを目的とするプロジェクトが,科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業CRESTの研究領域「計測技術と高度情報処理の融合によるインテリジェント計測解析手法の開発と応用」(略称:「情報計測」CREST)における研究課題「次世代地震計測と最先端ベイズ統計学との融合によるインテリジェント地震波動解析」(略称:iSeisBayes)として,2017年10月に発足した.本研究課題は,地震研究所の地震学の専門家と,東京大学大学院情報理工学系研究科の統計学の専門家との異分野交流プロジェクトであり,2023年3月までの5.5か年にわたって実施される.2020年度からは,東北大学大学院工学研究科の流体力学の専門家グループが新規加入し,同分野において用いられているスパースセンシングなどの新しい情報科学技術に基づく地震データ解析アルゴリズムの開発を行っている.2021年は,開発した地震解析手法の性能を評価するためのデータセットを公開し,深層学習に基づく地震波自動検出アルゴリズムや新規統計量の導入に基づく深部低周波微動検出アルゴリズム等,本研究課題で開発した新しい地震データ解析技術を既存の解析システムに実装する準備を開始した.また,強震動予測等において重要な地震の応力降下量の推定法,地殻内の地震波速度不連続性に適合的な正則化による地震波トモグラフィ,首都圏周辺の地震観測網データに基づいて地表面における地震波の時空間発展をイメージングするための地震波動場再構築手法,情報科学的手法に基づく地震観測点選択アルゴリズムの開発を継続的に進めている.さらには,科学技術振興機構が主催する情報計測オンラインセミナーシリーズにおいて,本研究課題に参画する3名の教員が一般向け講演を行い,研究成果を広く国民に周知することにも努めた.

 本研究課題には,計算地球科学研究センターの他,地震予知研究センター,観測開発基盤センター,地震火山情報センターの教員と研究員が参加している.

[情報計測] 計測技術と高度情報処理の融合によるインテリジェント計測・解析手法の開発と応用プログラム概要
https://www.jst.go.jp/kisoken/crest/research_area/ongoing/bunyah28-3.html

H29年度採択課題:次世代地震計測と最先端ベイズ統計学との融合によるインテリジェント地震波動解析
https://www.jst.go.jp/kisoken/crest/project/1111092/1111092_2017.html

iSeisBayesホームページ
http://www.eri.u-tokyo.ac.pj/project/iSeisBayes/

3.9.3 「富岳」プロジェクト先端的数値解析の研究開発

 ポスト「京」(現在の「富岳」)を有効に活用するため,ポスト「京」で重点的に取り組む社会的・科学的に重要課題のひとつとして「地震・津波による複合災害の統合的予測システムの構築」が選定され,地震研究所はこの重点課題の代表機関を担った.2020年3月に最終成果発表会を開催し,2019年度末で本プロジェクトは予定通り終了した.この過程で,大規模シミュレーションを可能とする先端的数値解析の研究開発のための基礎的な数理研究と計算科学研究の学理が涵養され,2020年度から開始された「富岳」成果創出加速プログラムでは,「富岳」の性能を引き出すように計算科学・計算機科学の最先端技術を駆使して,地殻変動・地震動・地盤震動・都市地震応答等の地震に関する高性能大規模シミュレーション手法を開発している.

 上記の過程を通して,首都直下地震を対象として,山手線内の30万を超える構造物の地震動応答解析を行えるだけの解析技術が整いつつある.10Hzまでの精度保証可能な1000億自由度級の有限要素法モデルを用いて,断層から地表までの地震動解析,地表近傍の堆積層による地盤震動解析を行う.これらの解析技術は上記の基礎的な数理研究と計算科学研究に立脚する成果であり,ハイパフォーマンスコンピューティング分野における世界的な賞のひとつであるゴードンベル賞の最終選考論文5編に2014年2015年2018年に選ばれた.地殻構造の幾何形状が地殻変動の弾性・粘弾性挙動に大きな影響を及ぼすことが指摘されていることから,構築中の技術のこれらの解析への展開も進められている.2016年には,日本列島全てを含む広領域において高詳細な地殻モデルから構築した100億自由度以上の有限要素モデルを用いた弾性・粘弾性地殻変動解析等が行われた.また,2兆自由度を超える有限要素モデル構築技術及びこれを用いた地殻変動解析技術を開発し,プレート境界の応力分布推定のための超高分解能有限要素解析が可能であることを示した.これらの成果は,ハイパフォーマンスコンピューティング分野における世界的な国際会議のひとつであるSCにおいて受賞するなど計算科学の分野においても高い評価を受けている.また,2017年には上述の山手線内の1000億自由度級の有限要素法モデルを用いた解析と人工知能を組み合わせた地震の揺れの推定高度化に関するする成果がSCにおいて受賞するなど,新たな研究の展開が進むと同時にその内容も高い評価を受けている.さらに,2018年には人工知能により高性能計算を高速化するというあらたな「人工知能と高性能計算の融合の在り方」を試みた超並列ソルバーを開発し,2018年時点で世界最速のスーパーコンピュータである米国Summitにおいて従来を凌駕する高性能を達成し,上述のようにゴードンベル賞の最終選考論文に選ばれた.また,2019年には人工知能用演算加速器を物理シミュレーションに適用可能とすることで,エクサ級のkernelにより全系で400ペタの速度を実現した新たな方程式ソルバーを開発した.2020年には,地震シミュレーションにおいて幅広く使われているものの,「富岳」で高速計算が難しいとされている非構造格子型有限要素法について,京コンピュータ全系と比較して富岳全系で59.2倍の高速化を達成するなどシミュレーション能力を大幅に引き上げると期待される新たな先端的な大規模シミュレーション手法の開発に成功するとともに,人工知能により微分方程式を学習することで方程式ソルバーの高速化を可能とする新たな手法の開発にも成功している.2021年には,富岳上で人工知能により物理シミュレーションを高速化する方法を開発することで,断層から都市までを単一の有限要素モデルにてモデル化し地殻中の波動伝播から地表付近での地盤増幅,構造物の応答までを高分解能で連成して解く世界で初めてのシミュレーションを実現した(HPC Asia 2022 Best Paper賞受賞).また,2020年に実施した人工知能により微分方程式を高速化する方法をGPU上で高効率に実行する手法を開発することで,開発手法の汎用性を示した(SC21-WACCPD Honorable Mention).以上のように,新しい分野を開拓するとともに,継続的に高い国際的評価を受けている.

3.9.2 巨大地震関連現象の解明に資するデータ同化およびデータ駆動型モデリングの研究開発

(1)革新的データ同化の創出を目指して

 科学研究を進める上において,物理・化学法則等に基づく数値モデルと,観測・実験に基づくデータの比較が重要であることは論をまたない.しかしながら,近年の巨大スパコンの登場や大規模地球観測網・実験設備等の整備に伴い,大規模数値モデルと大容量観測データを突き合わせることすら容易ではなくなってきた.数値モデルと観測データをベイズ統計学の枠組みで統融合するための計算技術であるデータ同化は,時々刻々と入力する観測データに基づいて各時刻における状態の逐次推定を行う「逐次データ同化」と,予め決められた時間窓において観測データと最も整合する状態を探索する「非逐次データ同化」とに大別される.大規模数値モデルへデータ同化を実装する際には,4次元変分法を始めとする非逐次データ同化を用いるのが常套であり,例えば気象予報は主に4次元変分法に基づいて行われている.

 従来の4次元変分法は,事後分布の局所最大を与える状態を推定するのみであり,その不確実性を推定することが原理的に不可能であるという大きな欠点があった.我々は,2nd-order adjoint法を採り入れることにより,不確実性評価が可能な4次元変分法を開発することにより,これを解決した(Ito et al., 2016).このようにして得られた不確実性は,観測デザイン最適化のためのフィードバックともなる極めて重要な情報である.

 2021年はこの不確実性評価法を,豊後水道沈み込み帯を模擬した境界要素モデルに適用し,断層面内の摩擦パラメータを空間場として推定し,その不確実性を評価するアルゴリズムの開発を継続実施した.これにより沈み込み帯で発生するスロースリップ現象の物理と摩擦パラメータ空間場の関係の定量的評価が可能となる.

 また,必要なメモリを最低限に抑え,さらにヘッセ行列の数値誤差を計算機誤差まで抑えることを可能にする2nd-order adjointモデルの最適な数値積分法の選択法を提案した(Ito et al., 2021).本手法は,2nd-order adjoint法に登場する微分方程式群に内在する保存量を離散化後も保存するような数値積分法を構築し,高精度なヘッセ行列計算を可能にする.反応拡散系や波動方程式系の初期値推定問題やパラメータ推定問題などを通じて本手法を検証し,本手法から提案される数値積分法は,従来用いられてきた数値積分法に比べて,ヘッセ行列に含まれる数値誤差を劇的に抑えることを確かめた.

(2)情報と計測の融合に資する数理的手法の開発

本センターは,科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業CRESTの研究領域「計測技術と高度情報処理の融合によるインテリジェント計測・解析手法の開発と応用」において,平成29年度に採択された研究課題「ベイズ推論とスパースモデリングによる計測と情報の融合」に参画し,本学大学院新領域創成科学研究科,統計数理研究所,海洋研究開発機構との協働により,ベイズ推論に基づいて実験計測効率を最大限に高める「ベイズ計測」を実現するための情報数理基盤の開発研究を実施している.

本年度は,2.5次元古典スピン系の磁化ダイナミクスを双極子間相互作用を含む時間依存 Ginzburg-Landau (TDGL) 方程式によって実現し,平衡状態で見られるドメインの空間パターンを分類する方法論を構築した(Anzaki et al., 2021).

(3)画像データからの深部低周波微動シグナル検出に向けた深層学習モデルの構築

 本センターは,科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業CRESTの研究領域「計測技術と高度情報処理の融合によるインテリジェント計測・解析手法の開発と応用」において,平成29年度に採択された研究課題「ベイズ推論とスパースモデリングによる計測と情報の融合」に参画し,本学大学院新領域創成科学研究科,統計数理研究所,海洋研究開発機構との協働により,ベイズ推論に基づいて実験計測効率を最大限に高める「ベイズ計測」を実現するための情報数理基盤の開発研究を実施している.

 2021年は,2.5次元古典スピン系の磁化ダイナミクスを双極子間相互作用を含む時間依存 Ginzburg-Landau (TDGL)方程式によって実現した,平衡状態で見られるドメインの空間パターンを分類する方法論(Anzaki et al., 2021)をテストベッドに,複雑なモデルから少数モードで構成される有効モデルを抽出する数値実験を実施した.

3.9.1 計算地震工学分野での大規模数値解析手法の開発に関する研究

 断層-構造系システムとは,対象とする断層と構造物から成る地殻と構造物のモデルである.断層から生成される強震動と,その強震動に対する構造物の地震応答を計算するために使われる.開発されてきた独自のマルチスケール解析手法を改良し,大規模化・高速化を実現し,断層-構造系システムの解析を行っている.なお,大規模化・高速化の結果,従来の手法を凌駕する時間・空間分解能で,断層から伝播する地震動に対する構造物の地震応答を計算することに成功した.断層-構造系システムの根幹である地震波動の計算では,地盤・地殻構造の幾何形状を詳細にモデル化することが重要であり,このためには有限要素法を用いる必要がある.しかし,有限要素法は差分法に比べ,計算コストが膨大となる.数理的な観点から分析し,計算コストを低減させる効率的なアルゴリズムを考案し,マルチスケール解析手法の計算コードに実装した.実装に際して並列化性能を上げることにも成功した.また,断層-構造系システムの応用として,広域都市の震災想定を高度化することを目的として,広域都市をモデル化し,その地震時応答をシミュレーションする統合地震シミュレータ(IES)の開発を進めてきた.断層-構造系システムの大規模数値解析手法の開発では,このように基礎的な数理研究と計算科学研究にも重点が置かれている.断層-構造系システムの具体的な対象として,大規模地下トンネルや原子力発電所といった実際の大規模構造物も挙げられる.実構造物に忠実な大自由度の解析モデルを構築し,改良されたマルチスケール解析手法を適用し,地震応答を計算している.構造物の特性を理解するためには,民間企業等の協力が必須であり,共同研究を介することで実構造物のより現実的な地震応答解析手法の構築をすすめている.

 断層-構造系システムにおける地震波動の計算の高性能化を目指し,大規模で複雑な断層系の震源過程をシミュレーションするために,三次元不均質体内のき裂伝播を効率的にモデル化可能なPDS-FEMをベースとした高性能計算シミュレーション手法の開発を行っている.これにより,複雑な断層形状,不均質な摩擦特性,不均質で非線形な材料などを含む大規模な三次元モデルにおいて,Super-shear ruptureを含む多様な震源過程をより詳細にモデル化出来るようになり,強震動シナリオ構築に寄与すると期待される.また,PDS-FEMは三次元不均質体のき裂伝播一般を正確に扱うことが出来るので,上記のような強震動の震源過程だけではなく,多様なスケール・メカニズムの破壊過程の現象解明を目指した展開も期待される.