3.3.1 多結晶体特性からみた地球内部ダイナミックスの素過程

岩石のほとんどは多相固相系であり、第1相鉱物の粒界に孤立して存在している第2相がオストワルド成長し、それに応じて第1相粒子も粒成長する。その時、粗大化する第2相と第1相の重なりを解消するように、第1相粒子の変形(クリープ)が必要と考えられ、多相固相系のクリープと粒成長は同じメカニズムで進むと予想される。本研究では、フォルステライト(Mg2SiO4)+ペリクレース(MgO)多結晶体のクリープ実験と粒成長実験を行い、クリープと粒成長を支配する拡散メカニズムを明らかにした(Okamoto & Hiraga, 2022 JGR)。最も遅い拡散種であるケイ素は、この多結晶体では第1相であるフォルステライトにのみ含まれており、先程の仮説を検証するために適した試料だと考えられる。このフォルステライト+ペリクレース多結晶体に対して、大気圧・高温(1150〜1400℃)下での一軸圧縮方向のクリープ実験を行った。また、1300℃から1450℃の異なる温度で500時間の粒成長実験も行った。実験後の試料の微細構造を走査型電子顕微鏡で観察した。その結果、クリープ速度と粒成長速度の両方から推定される拡散係数は実質同じであることがわかった。この結果は、フォルステライト+ペリクレース多結晶体のクリープと粒成長が、共通の拡散メカニズムに制御されていることを示す。多くの岩石において、最も遅い拡散種が第一相(例えば、Si)に含まれることから、クリープと粒成長の速度が共通の拡散係数で決まるとことが予想される。粒成長を伴う拡散クリープ中の多結晶体の粘性率はその共通な拡散係数と時間で記述することでき、粒径‐時間粘度計が提案された。

上部マントル主要鉱物であるオリビンの結晶軸が、岩石中である方向に配向することが知られ、上部マントル内の地震波速度異方性の成因と考えられている。せん断面およびせん断方向に対して結晶軸が並ぶパターンに様々なものがあることが知られている。Miyazaki et al. (2013 Nature) において、拡散クリープ下で結晶軸選択配向が生じること、Maruyama & Hiraga (2017ab JGR)で、その配向が粒界すべりによって生じることを明らかにした。本研究では、様々な結晶軸選択配向のパターンが拡散クリープで生じるかを実験的に調べた(Kim et al., 2022 JGR)。Miyazaki et al. (2013) およびMaruyama & Hiraga (2017ab)で用いた同一試料であるオリビン+20vol%ダイオプサイド多結晶体に対して、異なる温度、変形時間条件での純粋せん断変形実験を行った。オリビンのb軸がせん断面の法線方向に集中するタイプ、その集中に加えてa軸がせん断方向に並ぶタイプ、配向しない(ランダム)タイプが見いだされた。そのタイプが、オリビン粒子形で決定されていること、粒子形は粒子成長と共に変化することが分った。これまで、オリビンの配向およびそのパターンは、転位クリープ下での水の有無、応力の大小、温度の違い等によって変化すると考えられてきたが、我々は、粒成長によって粒界すべりし易い方向が変化し、それに応じて結晶軸選択配向パターンが変化するという新しいメカニズムを提案する。