3.2.1 地球波動現象としての地震・津波の研究

(a)火山性津波の研究

2015年5月に発生した鳥島近海地震はM5.7と小さいが,東南海地域で広範囲に津波が観測された.津波波形と地震波形の解析から,地震発生時にはカルデラ底がその下部で水平に広がるマグマの増圧により傾斜運動を起し,カルデラ壁に沿って跳ね上げ運動起していることが判明した.長周期の遠地地震波を用いて,環状断層運動パラメタ(傾斜角・環状円弧の広がり角・カルデラ底部の地殻の傾斜運動)を決定する手法を開発した.鳥島近海のスミスカルデラ付近で繰返し発生するCLVD型の火山性津波地震に適応し,継続的なマグマ供給がカルデラ底跳ね上げ運動を繰返し誘発していると結論付けた研究内容を論文にまとめた。

2009年と2017年にケルマデック諸島のカーチス島,チーズマン島付近で,同様の地震規模に比べ大振幅の津波が発生する特異なCLVD型の火山地震津波が発生している.長周期の遠地地震波と津波波形の解析から,これら津波地震の環状断層運動パラメタを決定し,論文にまとめた.

(b)津波を利用した巨大地震の研究

2010年チリ地震津波や2011年東北沖地震津波で観測された高品質の深海域津波データは,遠地津波の研究の進展に大きく貢献した.旧来用いられてきた長波津波モデルで説明できなかった遠地津波の遅延と初動反転が,重力結合した固体海洋弾性系における海洋表面重力波の理論で説明可能となった.新たに開発された遠地津波計算法が,1854年安政東海・南海地震の津波記録を始め、現在までに発生した19の地震津波に適応され,繰り返される海溝型巨大地震の断層滑りモデルが構築・更新された.遠地津波に関するこれら最新の観測・理論・計算手法・応用例をレビュー論文としてまとめた.

(c)大規模な爆発的火山噴火の研究

2022年1月に発生したトンガ海底火山の爆発的噴火では, 大気と固体地球の共鳴周期を持つ地震表面波と大気圧力波と津波が全球的に発生した.この噴火に伴う地震・津波・大気波動を速報する論文をまとめた.また,気象庁地上気象観測網(アメダス)記録を解析し,気圧変化と同期した,個々の観測点では検出できない気温変化と風速変化を検出した.検出された気温・風速変化は、気圧波(大気境界波)に付随する断熱圧縮と運動量輸送として定量的に説明可能であることを示した.気圧と風速記録から気圧波により運ばれた全球的波動エネルギーを見積もり,これらを論文にまとめた.