3.9.5 災害復旧時の社会経済分野における大規模数値解析手法の開発に関する研究

企業,家庭,銀行などの経済主体は,他の経済主体やライフラインなどのインフラストラクチャと密接な依存関係を持って機能しているため,これらの経済主体の集合である経済システムは大地震などの局地的な自然災害に対して脆弱となりがちである.そのため,大規模な災害に対する復旧計画を立案する際には各経済主体間の依存関係を考慮することが望ましい.このような分析においては,個々の経済主体を時系列で自律的に動くエージェントとしてモデル化しその相互作用を陽に解像するエージェントベース経済シミュレータが適しているが,数億エージェントからなる大規模経済においてはシミュレーションコストが膨大となり災害復旧の分析に適用するための課題となっている.

この課題を克服するため,計算地球科学研究センターでは多数のCPUを搭載した分散メモリ型並列計算機において高速実行可能な,高性能計算に基づく高分解能エージェントベース経済シミュレータ(HP-ABES)の開発を進めている.これまでのHP-ABESでは国全体で各エージェントの特性が均質であることを前提としていた.これは平時におけるGDPなどの国全体の経済指標を予測するためには有効であったが,大規模な地震災害時においては立地やサプライチェーンの状況によって各エージェントは異なる状況に置かれるため,この前提は成り立たなくなる.そこで2022年においては,災害後における各エージェントの状況を捉えるため全国を47の領域に分割し,全国をこれらの領域の集合体としてシミュレーションできるようにHP-ABESを拡張した.また,各領域における経済活動に関わる費用等を正確に計算するため,各都道府県から入手可能なデータに基づいて47領域におけるパラメータを設定した.これらの拡張により,災害後の経済シミュレーションの精度向上が期待される.