3.5.1 陸域機動地震観測

(1)内陸地震発生域における不均質構造と応力の蓄積・集中過程の解明

(1-1)2011年東北地方太平洋沖地震にともなう地殻応答

内陸地震発生メカニズムを解明することは,災害を軽減するために非常に重要な課題である.内陸地震のメカニズムを理解するためには,断層への応力集中と歪みの蓄積について理解することが重要である.また,内陸地震発生には地殻内流体の存在が大きく関係していることがわかってきている.そのような地殻内流体が,島弧のシステムの中でどのように生成され,移動し断層近傍に存在するのかについて理解することは重要な研究課題である.電磁気学的手法によって求められた島弧断面の比抵抗構造と,レシーバ関数解析で得られた地震学的構造との比較検討を行い,島弧構造について明らかにし,地殻内流体の理解を深めることを目的として研究を行った.東北地方太平洋沖地震以降活動が増加したいわき市周辺の地震活動域から日本海側に抜ける島弧横断の測線で,3測線において比抵抗構造を求めた.火山フロント近傍でマントルから下部地殻に延びる顕著な低比抵抗体,いわきの地震活動域下の低比抵抗体,越後平野の表層部の低比抵抗体を検出した.これら低比抵抗体と地殻流体との関係を明らかにすることによって,地震発生につながる内陸地震発生ポテンシャルの解明を目指している.

(1-2)茨城県北部・福島県南東部の地震活動と応力場の研究

2011年東北沖地震以降の活動が継続している茨城県北部・福島県南東部における稠密地震観測網(40点)の維持を行った.また,機動的な地震観測網の設置が完了した2011年3月29日から2022年2月28日の期間(約12年間)に発生した気象庁一元化処理震源と一致する震源を再決定した.気象庁の検測値に加えて,自動処理による読み取り値を用いて初期震源を推定した.その後,近接イベント間の相対走時差データを波形相関法に基づいて大量に抽出し,約15万個の地震の震源再決定を行った.震源分布の特徴として,面状の震源分布が数多く認められ,多数の断層が活動したことが明瞭に示された.震源域全体で西南西傾斜の断層面が卓越するものの,東南東傾斜や東西走向の横ずれ断層面も存在する.また,共役断層の存在や断層の傾斜方向の深さ変化が見られ,断層の分布が複雑である.特に,茨城県北部において,西南西傾斜の1つの断層面に変形が集中しているが,震源域の北部と南側では共役断層系が発達しており,歪みの解放の様式が,震源域の中で異なっていることを意味する.

(2)プレート境界域における不均質構造と地震活動の解明

(2-1)相似地震研究

ほぼ同じ場所ですべりが繰り返し発生する相似地震は,断層面のすべりの状態を示す指標として注目されている.また,地震の再来特性を考える上で重要な地震である.そこで,日本列島全域に展開されているテレメータ地震観測点で観測された地震波形記録を用いて,日本列島周辺および世界で発生している小規模~中規模相似地震の検出を継続的に行い,相似地震カタログを作成している.長期間にわたって繰り返す相似地震群は,沈み込むプレートの上部境界において多数検出されている.そこで,相似地震とその周辺で発生する地震活動を用いて,プレート間すべり速度変化の短期的・局所的な時空間変化の推定を試みた.2011年東北地方太平洋沖地震の大すべり域周辺において,巨大地震発生後に加速した非地震性すべりの時間変化を調べたところ,宮城県北部では現在も余効すべりが継続していることが確認された.一方,その他の地域では,その後数年の間にほぼ収束していた.宮城・福島県沖では2021年から2022年にかけてM6,M7クラスの地震が複数個発生した.これらの地震発生後には,いずれの場合も小規模なプレート間非地震性すべりが発生したことが示された.