3.2.5 高度な観測機器を開発するための研究

(a)長基線レーザー伸縮計の開発(観測開発基盤センターと兼務)

地震研では高精度のひずみ観測を可能にするレーザー伸縮計のネットワークを展開している。その中心として、神岡地下の重力波検出器KAGRAに併設して建設した全長1.5 kmの基線をもつレーザー伸縮計と、近接する神岡鉱山内で100 mのレーザー伸縮計を運用して観測を行っている。1.5 kmレーザー伸縮計については昨年度までにレーザー周波数安定度の評価を終え(最高で オーダーの分解能を実現していることを確認)、本年度は定常的な観測を継続した。100 m伸縮計については、設置場所である地下実験室の空調が更新されたことに伴うレーザーの周波数安定化制御の不調について原因調査と対策を継続している。

2022年1月15日のトンガ噴火により発生した大気ラム波は地球を周回したが、これにより生じた気圧変化によるひずみ変化を1.5 kmレーザー伸縮計で精度良く観測することができた[図3.2.1]。今年度は気圧変化とひずみの詳細な分析を行った。その結果、ラム波による気圧変化への応答係数(1 hPaあたりのひずみ変化量)は -(2.3 ー3.7)×10-10 /hPaであり、平常時のゆっくりした気圧変化への平均的な応答係数 -4.7×10-10/hPaよりも小さいことがわかった。また、気圧変化に対してひずみ変化は25ー155 秒程度先行することが示された。これは、地殻の変形が直上の気圧荷重のみならず周辺の気圧荷重に大きく影響されることの直接的な証拠と考えられる。これらの観測結果を定量的に説明するための理論モデルの構築を行っている。

他に、愛知県犬山市の名大観測所の30 mレーザー伸縮計や、気象研との共同研究として静岡県浜松市船明トンネルに設置された400 mレーザー伸縮計による観測も継続している。

(b)反磁性を利用した小型傾斜計の開発

永久磁石と組み合わせることによって,受動的に浮上させた反磁性体(熱分解カーボン)を基準とした傾斜計の研究開発を行っている.これは以前本部門で行った重力計の研究を発展させたものである.浮上体(参照振り子)にはたらく水平面内での復元力を小さくすることによって傾斜に対する感度を高めることができる.これまでの研究で,磁石と浮上体の形状や配置を工夫することによってこのような状態は比較的容易に実現可能であることがわかった.一昨年度より科研費を取得して研究を継続している.山梨県立産業技術短期大の研究者と連携して浮上体の理論モデルの精度を高め,実際に10秒程度の周期をもつ浮上振り子を製作した.今年度はこれを元にして実際に傾斜計を設計して試作機を製作し,性能評価実験を行った(一部継続中).