3.5.5 地殻変動

 巨大地震後に測地学的に観測される余効変動は,地震時の応力変化が緩和されるによって生じる現象であり,主要なメカニズムとしてプレート境界における余効すべりと下部地殻・上部マントルにおける粘弾性応力緩和が挙げられる.従って,余効変動の時空間パターンは地震時の応力変化,プレート境界の摩擦特性,地殻・マントルのレオロジー特性に依存する.このことから,観測される余効変動からプレート境界の摩擦特性や地殻・マントルのレオロジー特性を推定できる可能性があるが,余効すべりと粘弾性緩和の間のトレードオフのために,客観的な推定は現状では困難である.そこで,余効すべりと粘弾性緩和を組み合わせた物理モデルを用いて,余効変動からプレート境界の摩擦特性や地殻・マントルのレオロジー特性を推定する手法の開発を行っている.モデルでは,余効すべりは摩擦構成則,粘弾性緩和は非線形のBurgers rheologyに従い,これらのプロセスが地震時の応力変化により駆動され,力学的に相互作用すると仮定した.このモデルを地震時と地震後の測地データと組み合わせて,地震時の応力変化,プレート境界の摩擦構成則パラメータ,マントルの粘弾性レオロジーのパラメータの空間変化とそれらの不確実性を推定する手法を開発した.この手法の性能を評価するために,モデルを用いて作成した人工的なGNSS時系列データを用いてパラメータ推定の数値実験を行った.その結果,開発した手法によるパラメータ推定結果は真のパラメータ空間分布を良く再現できることが示された.また,地震時の応力変化が大きい場所でパラメータ推定の不確実性が小さいという妥当な結果が得られた.