3.1.1 地震発生場の研究

(1-1)長期的SSEのデータ同化研究

巨大地震誘発の可能性もある長期的SSEについて,その地殻変動データから断層のすべり速度などのモデル変数とモデルパラメタである摩擦特性の同時推定を行うデータ同化の手法を開発している.本年度は,従来のEnKF法に比べて計算量が少ないアジョイント法を, 数値実験で生成したSSEデータで適用したところ,初期条件で観測から直接は知れない初期強度分布と,摩擦パラメタにトレードオフがあり推定が困難であることがわかったが,SSEの周期性を条件として陽に課すことでこの問題を解決し,摩擦パラメタを誤差15%程度で推定できることがわかった.

(1-2)P波前地震重力信号の研究

地震震源情報を早期に得る新たな観測窓として注目されるP波前地震重力変化は,現在,重力計や地 震計で検出されているが,これらの計器では,観測点での重力の変化と,それによる観測点の加速度の和を測っており,P波到着の少し前までは,両者がほぼキャンセルしあって信号が微弱である.しかし重力変化の空間微分は,このようなキャンセルを受けず,これは歪み計で観測できる可能性がある. 理論歪みは震源メカニズムを反映した方位分布を持つが,有利な方位では,距離2000kmにおけるP波 前歪み信号は,P波走時の半分程度の時刻において神岡にて稼働中の100m基線長レーザー歪計の雑音レベルを越え,P波到達直前には雑音レベルの50倍にも達することがわかった.