【研究速報】2023年5月5日石川県能登地方の地震

ウェブサイト立ち上げ:2023年5月8日
最終更新日:2023年5月16日

2023年5月5日にありました石川県での地震について、解析結果等地震研の研究者による研究速報を以下に随時掲載いたします.

*報道関係の皆さまへ:図等をご使用される際は、「東京大学地震研究所」とクレジットを表示した上でご使用ください。また、問い合わせフォームよりご連絡ください。


□2023/05/10 15:35 加藤愛太郎教授による解析が更新されています。


1729年能登半島の地震の際の有感地震数

地震火山史料連携研究機構が,石川県能登地方の地震に関連して作成した資料です。以下のリンクからご覧ください(提供:加納靖之准教授)

東京大学地震火山史料連携研究機構(地震研究所・史料編纂所)
https://www.eri.u-tokyo.ac.jp/project/eri-hi-cro/topics/1729noto.html


2023 年5月5日石川県能登地方の地震(M6.5)に関連する海岸の隆起(速報)

石山達也(東京大学地震研究所)・廣内大助(信州大学)・松多信尚(岡山大学)・立石 良(富山大学)・安江健一(富山大学)
2023年5月9日

 
 2023 年5月5日14時42分に、石川県能登地方の深さ約10 km でM6.5(暫定値)の地震が発生した。地震の発震機構は北西-南東方向に圧力軸を持つ逆断層型で、上部地殻内で発生した地震である(地震本部, 2023)。この地震に関連する地震性隆起の痕跡を調べるために、地震発生翌日の5月6日から8日にかけて、能登半島北東岸部の海岸地形調査を実施した。その結果、複数の地点においてこの地震によって生じたと考えられる隆起の痕跡を見出した(図1)。
 もっとも確実な隆起の痕跡は、Hamada et al. (2016)のSite H(珠洲市高屋町、堂ガ崎東方)である。ここで記載されたノッチ・隆起ベンチおよびヤッコカンザシを同定し、ハンドレベルを用いた簡易測量を5月8日に行った(図2)。海面高度とヤッコカンザシ下面の比高(約76 cm)および測定時の珠洲市長橋における観測潮位の標高(5 cm; 速報値)から、地震後のヤッコカンザシ下面の標高は約81 cmと推定される。Hamada et al. (2016) によるヤッコカンザシ下面の標高は69 cmであることから、本地点における地震時隆起量は約12 cmと推定される。この値はGNSS観測によってM珠洲狼煙観測点で観測された11 cm程度の隆起と整合的である。ただし、観測潮位は速報値であることから、この値は暫定値である。震源域には堂ガ崎と同様に地震前に計測された離水岩石海岸地形・ヤッコカンザシ群集が、Hamada et al. (2016) のSite I(珠洲市狼煙新町、能登双見西方)や宍倉ほか (2020) のE3地点(珠洲市馬緤町)など複数存在するが、荒天による波浪や地震による斜面崩壊のため今回は測量を実施することができなかった。
 このほか、震源域に分布する漁港の防波堤内に付着する貝類(カキ、フジツボ)が、満潮時に海面より上位に分布する様子が複数認められた。これらはいずれも潮間帯に生息することから、このような分布は地震時の隆起を示す可能性がある。カキ・フジツボ分布上限と海面の高度差は、狼煙漁港では5月6日に約10 cm、折戸漁港では同日に約10 cm、狼煙漁港(高屋)では約5 cmであった。これらの測定時は漁港内の波は穏やかであった。また、震源域東端に位置する長橋漁港ではカキは海面下に分布していたほか、震源域東端の大谷漁港および震源域西端に位置する寺家漁港では海面より上に分布する貝類は確認出来なかった。今後貝類の鑑定を実施し、より詳細な分布高度の検討を行う。
 このように、今回の地震に際しては、震源域直上にあたる能登半島北東部の海岸に10 cm程度の地震性隆起が生じたと考えられる。地震性隆起と佐藤ほか(2020)による震源断層モデルとの関係を見ると、NT5の西部では地震性隆起が生じた一方、NT5下端以南や西に隣接するNT6直上では地震性隆起の痕跡は見出されなかった。大雨および波浪のために調査を行うことができなかった地点については、後日補完的な調査を行う予定である。


[引用文献]
Hamada, M., Hiramatsu, Y., Oda, M., and Yamaguchi, H., 2016, Fossil tubeworms link coastal uplift of the northern Noto Peninsula to rupture of the Wajima-oki fault in AD 1729. Tectonophysics, 670, 38-47.
地震調査研究推進本部・地震調査委員会, 2023, 2023 年5月5日石川県能登地方の地震の評価, https://www.static.jishin.go.jp/resource/monthly/2023/20230505_ishikawa_1.pdf(2023年5月9日閲覧)
佐藤比呂志ほか, 2020, 2.5.1 断層モデルの構築, 令和2年度「日本海地震・津波調査プロジェクト」成果報告書, 275-303.
宍倉正展・越後智雄・行谷佑一, 2020, 能登半島北部沿岸の低位段丘および離水生物遺骸群集の高度分布からみた海域活断層の活動性. 活断層研究, 53, 33-49.

1 今回の調査地点と推定された地震に伴う隆起量。NT5, NT6は佐藤ほか(2020)の震源断層モデル。

図2 堂ガ崎東方の離水ベンチ・ノッチ。Hamada et al. (2016) のSite Hにあたる。
2023年5月8日11時41分撮影。白矢印はヤッコカンザシ群集が付着するノッチの位置を示す。

地震予知研究センター:加藤 愛太郎 教授
最終更新日:2023年5月10日15:35


 2023年5月5日14 時 42 分に石川県能登地方の深さ約12 kmでマグニチュード(M)6.5(気象庁暫定値)の地震が発生した。この地震により石川県で最大震度6強が観測され被害が生じた。この地震の発震機構は北西-南東方向に圧力軸を持つ逆断層型で,地殻内で発生した地震である。この地震により,珠洲市長橋と輪島港で0.1mの津波が観測された(気象庁)。

 2023年5月5日から5月9日までの5日間の連続地震波形データを用いて,地震の検出と震源再決定(計2420個)をおこなった。今回の地震にともなう活発な地震活動は,東西約15 ㎞,南北約15 ㎞の領域内で発生している(上図)。震源の深さ断面図(下図)を見ると,南東に傾斜した震源の並びが確認でき,今回の地震は南東傾斜の断層面上で発生したことが分かる。21時58分に発生したM5.9の地震も同様に南東傾斜の断層面で発生したが,M6.5の断層面よりも少し深い場所で生じた可能性がある。今回の地震が発生した石川県能登地方では,2020年12月以降,地震活動が活発な状態が継続している。今回の活動域は,これまでの活動域と比べて北側の海域(浅部)に広がっている点が特徴的である。海域で大きな地震が起きれば今回よりも大きい津波が生じる恐れがあり,強い揺れだけでなく津波にも十分な注意が必要である。


今回の地震活動にともなう震源分布(初期解析結果)

謝辞:防災科研Hi-net,気象庁,京都大学で管理・運営されている地震観測連続波形データを使用させて頂きました。ここに記して感謝の意を表します。