ページ立ち上げ:2025年9月2日
霧島新燃岳では2025年6月22日の水蒸気噴火を皮切りに、活動が続いています。ここでは現地調査の結果を随時更新しております。
7月14日までの研究速報につきましては、
【研究速報】霧島新燃岳の最新噴火活動:2025年6/22・23に噴出した火山灰《7/14更新》をご覧ください。
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2025年9月2日
東京大学地震研究所
霧島新燃岳2025年7月8日噴火の火山灰に含まれていた白色軽石および濃褐色の発泡ガラス質粒子1)を対象として,FE-EPMA(JXA-8530FPlus, JEOL Ltd.)による組織観察および鉱物・ガラスの化学組成分析を実施した.試料は水洗し超音波洗浄機にかけて乾燥後,分粒した125–500 µmの粒子から発泡ガラス質粒子を鏡下で拾い出した.125–250 µmサイズ粒子の未研磨試料を形態観察に,250–500 µmサイズ粒子の研磨試料を化学分析に利用した.
二次電子像による表面形態の観察では熱水変質の痕跡がほとんどの粒子に認められるが,変質の程度は粒子によって異なり,一部には新鮮なガラスが残存している(図1).新燃岳の火口下に予想されるような酸性熱水と火山ガラスとの反応は比較的早く進行するであろうことから,これらの軽石粒子は噴火のごく直前に供給された本質物である可能性が高い.
ガラス光沢をもつ新鮮な軽石粒子はいずれもマイクロライトに富む石基に相当する粒子で,粒子ごとに結晶量の違いが見られる.間隙ガラスは濃褐色ガラス質粒子5粒子,軽石粒子5粒子から計37点分析した.ビーム径(<5 µm)を確保できないほど結晶化が進んでいる粒子は分析対象から除外した.石基に含まれる鉱物は斜長石,単斜輝石,直方輝石およびチタン磁鉄鉱であった.間隙ガラスのSiO2含有量は64.9 – 77.6 wt.%(無水100%換算)で,K2O含有量と正の相関がある(図2).濃褐色粒子と軽石粒子の間に系統的な違いは見られない.粒子毎にやや組成が異なる傾向があり,結晶度の違いを反映していると考えられる.
今回分析した試料のうち比較的均質な間隙ガラス組織をもつ軽石粒子について,マスバランス計算によりバルク石基組成を推定した.石基の結晶量は反射電子像の輝度の違いを利用して見積もった(見かけの結晶量23.6 vol.%,図3).計算には分析した粒子のガラスと鉱物の平均化学組成を用い,単斜輝石および直方輝石の存在比は本試料でランダムに輝石を分析した際の存在比に基づいてCpx:Opx = 4:3を仮定した.得られたバルク石基組成は62.6 wt.% SiO2,2.2 wt.% K2Oで,2011年噴火の安山岩質噴出物のバルク石基組成と類似している(図2).火口直下に上昇し,本軽石粒子を生じたマグマは,2011年噴火および2018年噴火と類似した安山岩質マグマの可能性が高いと考えられる.



火山噴火予知研究センター 前野 深 准教授
川口 允孝 助教
水野 樹(博士課程学生)
技術開発室 外西 奈津美 技術専門職員
参考文献:
- 東京大学地震研究所,霧島新燃岳2025年7月8日噴火の火山灰について.火山調査研究推進本部提出資料.2025年7月11日.
- Suzuki, Y., Maeno, F., Nagai, M., Shibutani, H., Shimizu, S., Nakada, S. (2018) Conduit processes during the climactic phase of the Shinmoe-dake 2011 eruption (Japan): Insights into intermittent explosive activity and transition in eruption style of andesitic magma. Journal of Volcanology and Geothermal Research, 358, 87-104.
- Sato, H., Suzuki-Kamata, K., Sato, E., Sano, K., Wada, K., Imura, R. (2013) Viscosity of andesitic lava and its implications for possible drain-back processes in the 2011 eruption of the Shinmoedake volcano, Japan. Earth, planets and space, 65, 623-631.
- Suzuki, Y., Yasuda, A., Hokanishi, N., Kaneko, T., Nakada, S., Fujii, T. (2013) Syneruptive deep magma transfer and shallow magma remobilization during the 2011 eruption of Shinmoe-dake, Japan—Constraints from melt inclusions and phase equilibria experiments. Journal of Volcanology and Geothermal Research, 257, 184-204.
- Matsumoto, K., Geshi, N. (2021) Shallow crystallization of eruptive magma inferred from volcanic ash microtextures: a case study of the 2018 eruption of Shinmoedake volcano, Japan. Bulletin of Volcanology, 83, 31. https://doi.org/10.1007/s00445-021-01451-6
- Schneider, C. A., Rasband, W. S., Eliceiri, K. W. (2012) NIH Image to ImageJ: 25 years of image analysis. Nature Methods, 9, 671–675. doi:10.1038/nmeth.2089
霧島新燃岳2025年7–8月噴火火山灰の全岩化学組成とその推移
2025年9月2日
東京大学地震研究所
火山灰の全岩化学組成は,これまで霧島新燃岳の噴火活動の推移把握に活用されてきた. 2025年7月20日から8月10日の間に新燃岳で発生した噴火の火山灰について,全岩化学組成分析を実施した.火山灰試料はバルクを未洗のまま処理して溶融ガラスビードを作成し,蛍光X線分析により測定した.
7月20−22日火山灰は変質した粒子(岩片および遊離結晶)が約半数以上を占めていたのに対し,噴煙高度が約3,000 mに達した8月10日火山灰では既報3)にあるように新鮮な溶岩片や赤色酸化した岩片の量がやや増加している.なお,7月8日火山灰で確認された白色の発泡ガラス質粒子(軽石)は7月20日では1%以下に減少し,8月10日火山灰では見られなくなった.
今回測定した火山灰試料の化学組成はSiO2含有量が59–60 wt.%,K2O含有量が約1.7 wt. %(全鉄をFeOとして無水100%換算)で,2011年および2018年噴火噴出物に基づく新燃岳マグマの組成トレンドと比較してややK2Oに乏しい特徴を有する.7月8日早朝の火山灰は2018年3月の溶岩流出直前と類似した化学組成であったが1),7月20–22日の火山灰は6月22日から7月6日までと同様の変質物を多く含む火山灰の組成2)に近い.その後の8月10日の火山灰では再度7月8日と類似した組成へ変化した(図1).全岩化学組成の変化は火山灰構成物の変化と調和的であり,火道内環境や噴出口の位置など,噴火発生場の変化を反映していると考えられる.

火山噴火予知研究センター 前野 深 准教授
川口 允孝 助教
水野 樹(博士課程学生)
技術開発室 外西 奈津美 技術専門職員
謝辞
火山灰の採取に際しては,古園俊男氏(霧島ネイチャーガイドクラブ),田島靖久氏(日本工営)の協力を得た.
参考文献:
- 東京大学地震研究所,霧島新燃岳2025年7月8日噴火の火山灰について.火山調査研究推進本部提出資料.2025年7月11日.
- Maeno, F., Shohata, S., Suzuki, Y., Hokanishi, N., Yasuda, A., Ikenaga, Y., Kaneko, T., Nakada, S. (2023) Eruption style transition during the 2017–2018 eruptive activity at the Shinmoedake volcano, Kirishima, Japan: surface phenomena and eruptive products. Earth, Planets and Space, 75, 76.
- 産業総合研究所,新燃岳2025年8月10日噴火の火山灰構成粒子の特徴.火山調査研究推進本部提出資料.2025年8月19日.
