地震研究所は全国で13の観測所(2023年4月時点)を展開しております。

白木微小地震観測所は1965年に、地震予知研究計画に基づき、中国地方に遠地地震の観測も兼ねた微小地震観測所を設けることを計画し設置されました。広島県高田郡白木町の鷹山国有林内に用地を有償で借り受け、現在も林野庁から有償で土地を借りています。
1966年1月から世界標準地震計観測網(WWSSN: World-Wide Standardized Seismograph Network)の一観測点としての役割を担っていたというユニークな観測所です。
世界標準地震計観測網は、米国沿岸測地局(USCGS)が、地下核爆発探知の目的で世界125か所に設置したもので、日本では松代にある気象庁地震観測所と、広島にあるこの白木微小地震観測所の2点に設置されました。
設置当初はアメリカから技師が二名松代観測所に来ており、地震研究所からは白木観測所に勤務し標準地震計の設置をする予定になっていた茅野一郎氏が見学のため松代に出張しています。
1979年に開始した第4次地震予知計画において、有線PCMテレメータ方式による南海地震観測網が整備されることになりましたが、山間部に位置するこの場所において新規観測網の構築・維持が困難であったため、観測所機能を移転させることが出来る新観測庁舎と付帯する無線局設備を、ここから南西に位置する広島市内に建てました。それが現在の広島地震観測所です。




・長周期地震計:プレスユーイング型(固有周期100秒)。
・短周期地震計:ベニオフ型(固有周期1秒)。
・光学式記録方式で、記録媒体は大判ブロマイド紙。そのため暗室があることが必須であった。
・電子コンソールはタイミング システム、コントロール、および電源を含む。
世界標準地震計観測網(WWSSN: World-Wide Standardized Seismograph Network)
米国沿岸測地局(USCGS)が、1966年頃から世界125か所に同一の地震計を配布した観測網。
世界中で同じ地震計を用いて観測をするWWSSNは、地震学における技術的なマイルストーンでもあったと言え、研究のための高品質なデータを豊富に生み出しました。参加国は設置施設の提供、機器の操作が出来、かつ、録れた地震記録のコピーを米国沿岸測地測量局(C&GS)に送ることとなっていました。
アメリカ地質調査所(USGS)が公式に終結させた1996年頃までには、多くの観測所は閉じているか、デジタルの観測への切り替えがされていました。(Jon Peterson and Charles R. Hutt, 2014. p1-3)
白木微小地震観測所で実際にこの業務に従事していた、当時を知る三浦 勝美 技術職員による『国際標準地震観測の思い出』の「あとがき」を下記に引用します:
国際標準地震観測網 (WWSSN)の記録装置の維持と記録の処理は、現在では考えられない手間のかかる作業であった。この観測で得られた記録は世界中の多くの研究者に利用されてきた。記録はよく知っているが、観測の現場は知らないという方も多いのではないかと思う。また適切な処理を行えば、今でも地球内部の研究や震源過程の現代的な研究に使える貴重な記録である。記録処理の苦労の一端を少しでも理解いただければ幸いである。
(三浦 勝美「国際標準地震観測の思い出」『東京大学地震研究所技術報告』, No. 3, 1998年)
【沿革】
1963年 | 設置に向けた現地調査開始。 |
1965年 | 鷹山国有林内に設置完了。8月にはHES1-0.2電磁地震計による微小地震観測開始(1973年まで)。 |
1966年 | 1月からは世界標準地震計観測網(WWSSN: World-Wide Standardized Seismograph Network)の一観測点として、国際標準地震計であったプレスユーイング型とベニオフ型地震計による観測開始。 |
1979年 | 第4次地震予知計画開始。テレメータ方式による南海地震観測網の整備が決定。 |
1983年 | 3月に新庁舎および無線局設備が、広島市安佐北区落合に建設・観測機能の移転。 |
1990年 | 5月に白木観測点(現在の白木微小地震観測所)においてSTS-1型地震計(3成分)が設置され広帯域地震観測が開始。 |
1995年 | 地震研究所改組によって「広島地震観測所」と名称が改められる。 |
2012年 | 技術職員の常駐が終了。 |
2013-2014年 | 老朽化対策のため施設整理および過去記録(紙およびフィルム)の広島地震観測所への移設がされる。 |
【文献】
・Jon Peterson and Charles R. Hutt. “World-Wide Standardized Seismograph Network: A Data Users Guide”. USGS. Open-File Report. 2014–1218. https://pubs.usgs.gov/of/2014/1218/pdf/ofr2014-1218.pdf , (参照 2024-09-03)
・三浦 勝美「国際標準地震観測の思い出」『東京大学地震研究所技術報告』, No. 3, 1998年
・三浦 勝美「広島地震観測所の変遷と震源データ」『技術研究報告( 東京大学地震研究所) No. 1』, 50-58, 1996 年
・森 健彦, 藤田親亮, 渡邉篤志, 外西奈津美, 田中伸一, 西本太郎 「広島地震観測所及び白木地震観測所における施設整理」『東京大学地震研究所技術研究報告』,No. 21,25-31 頁,2015 年
・萩原 尊禮「松代群発地震」『理科年表読本 地震予知と災害』,p129, 1997年, 丸善株式会社
【関連するリンク】
USGS. “World-Wide Standardized Seismograph Network: A Data Users Guide”. p.1-10. https://pubs.usgs.gov/of/2014/1218/pdf/ofr2014-1218.pdf
“東京大学地震研究所地震計博物館”「プレス・ユーイング長周期地震計」p10 https://www.eri.u-tokyo.ac.jp/wp-content/uploads/2024/03/eri_seismometers_museum.pdf
「「波形手ぬぐい」の解説動画」地震研チャンネル. 2023-01. https://youtu.be/AfNjhwNsU2w?feature=shared
地震研究所技術部総合観測室 https://www.eri.u-tokyo.ac.jp/gijyutsubu/kansoku/