金曜日セミナー(2025年5月9日 )荒木 英一郎(JAMSTEC)

タイトル:南海トラフでの光ファイバ歪によるスロースリップの時空間把握にむけて

 

要旨:
JAMSTECでは、南海トラフの巨大地震発生帯広域のプレート間固着の時空間把握を目指していますが、そのためには、海底や海底掘削孔内の光ファイバ歪計測が有効ではないかと考えて、観測技術の開発と、実地の観測の取り組みを進めています。本セミナーでは、それらの取り組みについて、これまでの研究開発の状況を紹介し、また、今後の研究開発の計画について、特に日向灘への展開を中心にお話ししたいと思います。
具体的には下記についてお話しします。
・海底光ファイバ歪計の海底展開とスロースリップの観測、日向灘海域他への展開計画。
・海底掘削孔内光ファイバ歪センサを導入した掘削孔内観測システムの開発と紀伊水道沖への設置・観測、四国沖・日向灘・カスカディアへの展開計画。
・海底ケーブルや海底掘削孔内光ファイバでの光ファイバセンシング。DASおよび海底地殻変動観測を目指した新しい光ファイバセンシング技術の開発と観測。
・南海トラフの浅部ゆっくり滑り断層を貫通して断層近傍を観測する計画とその現状。
(時間があれば)・通信用海底光ファイバケーブル全体をセンサとした超長距離光ファイバセンシング技術の南海トラフや他地域への展開の構想。

2024年能登半島地震(Mw 7.5)に伴う地震波速度変化

Paris Nicolas (1, 2)、伊東 優治(2)、Brenguier Florent(3)、Wang Qing-
Yu(3, 4)、盛一笑(5)、岡田 知己(6)、内田 直希(2, 6)、Higueret
Quentin(3)、髙木 涼太(6)、酒井 慎一(2)、平原 聡(6)、木村 洲徳(6)

1グルノーブルアルプ大学環境地球科学研究所、 2東京大学地震研究所、 3グルノーブルアルプ大学地球科学研究所、 4ストラスブール大学地球環境研究所、 5中国科学技術大学地球和空間科学学院、 6東北大学大学院理学研究科地震・噴火予知研究観測センター

Nicolas Paris (1, 2), Yuji Itoh (2), Florent Brenguier (3), Qing-Yu Wang (3, 4), Yixiao
Sheng (5), Tomomi Okada (6), Naoki Uchida (2, 6), Quentin Higueret (3), Ryota
Takagi (6), Shin’ichi Sakai (2), Satoshi Hirahara (6), Shuutoku Kimura (6)

1IGE, Université Grenoble Alpes, France, 2ERI, University of Tokyo, Japan, 3ISTerre, Université Grenoble Alpes, France, 4ITES, Université de Strasbourg, 5School of Earth and Space Sciences, University of Science and Technology of China, 6Research Center for Prediction of Earthquakes and Volcanic Eruptions, Graduate School of Science, Tohoku University, Sendai, Japan

Coseismic crustal seismic velocity changes associated with the 2024 Mw 7.5 Noto earthquake, Japan
Earth, Planets and Space, 77, 51
https://doi.org/10.1186/s40623-025-02177-x

 
 2024年能登半島地震(M w 7.5)に先駆けて生じていた群発地震活動は、15km以深に存在していた流体が浅部へ上昇することで生じたと考えられている。地下の地震波速度は地震等に伴う外部からの応力擾乱に応答して変化することが知られており、地震波速度の変化量は地殻内流体の量に応じて増幅される。したがって、2024年能登半島地震のような大きな地震に伴う地震波速度の変化を検出することで、異常な量の地殻内流体の存在の有無を議論できると考えられる。そこで、本研究では常時微動を使った地震波干渉法解析を実施し、地震前後の地震波速度の変化を検出した。その結果、能登半島の直下においては、本研究の解析周波数帯が感度を持つ0.5kmから2.5kmの深さにかけて、平均0.5%程度、最大で0.6-0.8%程度の地震波速度の低下があったことが明らかになった(図)。大地震に伴う地震波速度変化は、地震波による動的な応力変化と、静的な応力変化によって生じるとされる。そこで、地動最大速度(PGV)と地動最大加速度(PGA)を動的な応力変化を示す量として動的な応力変化の観測された速度低下の寄与を議論した。また、モデル計算により静的な応力変化による速度低下を見積もった。その結果、PGV、PGA、静的な応力変化による速度低下のいずれもが観測された速度低下とよく相関していたため、どちらのメカニズムが観測された速度低下に支配的な影響を及ぼしていたかについては結論づけられなかった。PGV、PGA、静的な応力変化による速度変化と観測された速度変化の比較から、能登半島北東端の群発地震域における本震時の地震波速度低下量は、地殻内に異常な量の流体が存在すると解釈できるほど大きくなかったことがわかった。この結果は、2.5km以浅には異常な量の流体は貯まっていないこと、すなわち、本震前数年間に亘って上昇していたとされる流体の大半が2.5km以深に留まっていたことを示唆している。なお、本研究では、防災科学技術研究所による定常地震観測ネットワークの観測点に加えて、東京大学地震研究所並びに東北大学が設置した臨時の地震観測点のデータを加えて解析を実施した。臨時観測点は能登半島北東端に集中して設置されており、定常観測点のみの解析結果と比較して、その直下の地震波速度の解像度の向上に大きく貢献した。

図: (a-d) 観測された2024年能登半島地震に伴う地震波速度低下。a-bは広域の、c-dは能登半島の結果の拡大図。aとcは0.3-0.5Hz、bとdは0.9-1.1Hzの解析結果で、それぞれ約2.5km、0.5kmの深さにおける地震波速度低下を表していると考えられる。(e-f) それぞれ0.3-0.5Hz、0.9-1.1Hzにおける本震前後の地震波速度の時間変化。異なる色のグラフは、それぞれ能登半島内の異なる観測点での結果を表す。

2025年夏の研究体験プログラム(サマースクール)の参加者募集を開始しました

2025年夏(8月~9月)に、大学院への進学を検討している国内の学部生を対象とした、東京大学地震研究所 研究体験プログラムを実施します。

2025年夏の研究体験プログラム(サマースクール)」(https://www.eri.u-tokyo.ac.jp/education/spring_school_2025/)
に、実施テーマに関する情報や参加希望登録フォームのリンクを掲載しています。


大学院教育(https://www.eri.u-tokyo.ac.jp/education/

沈み込む海山と浅部スロー地震の震源特性

武村俊介1・矢部優2・江本賢太郎3・馬場慧3

1東京大学地震研究所,2産業技術総合研究所, 3九州大学

Takemura, S., Yabe. S., Emoto, K., Baba, S. (2025).
Along-dip variations in source characteristics of shallow slow earthquakes controlled by topography of subducted oceanic plate, J. Geophys. Res., 130, e2024JB030751, https://doi.org/10.1029/2024JB030751

 
 紀伊半島沖の巨大地震発生域浅部延長では、浅部スロー地震と呼ばれる通常の地震と比べてゆっくりとした断層すべり現象が発生しています。本研究では、浅部スロー地震域近傍のDONET海底地震計を活用して、浅部スロー地震の一種である浅部超低周波地震の震源特性を正確に評価し、その空間分布を詳細に調べました。

 浅部超低周波地震は沈み込む古・銭洲海嶺(図中のPZR)の西端で活発に活動しており、大きな浅部超低周波地震も集中して発生しています(図1ab)。フィリピン海プレートが沈み込む北西方向に着目すると、DONETのKMD観測点のあたりでは、浅部超低周波地震は海岸線または巨大地震域へ近づくほど(深くなるほど)地震波を強く放出しています(図1c左)。巨大地震域へ近づくほど地震波輻射が強くなる傾向は、南海トラフやカスケード沈み込み帯の深部(30-40 km)でも確認されており、スロー地震に共通した特徴かもしれません。一方で、古・銭洲海嶺が沈み込むKMB観測点付近(図1c右)では、KMD観測点から30 km程度しか離れていないにも関わらず、その傾向は逆で、巨大地震域から遠ざかるほど浅部超低周波地震の地震波放出が強くなる逆の傾向を示しています。

 我々は、この逆のトレンドの原因が沈み込む古・銭洲海嶺であると考えています(図2)。海山の沈み込みに伴い、沈み込む海山の周辺では複雑な地下構造や応力状態となることが知られています。そのような複雑な状態が、大きな浅部超低周波地震の発生を阻害しているのかもしれません(図2)。沈み込んだ海山が浅部スロー地震の特徴をコントロールしている可能性が高く、より高精度な地下構造モデルとの比較、他の地域の比較研究を今後も進めることで、浅部スロー地震の発生場の理解を深めたいと考えています。

図1.  (a) 2015年4月〜2021年3月までの浅部超低周波地震の積算モーメントの空間分布、個々の浅部超低周波地震のモーメントレートの(b)走向方向変化と(c)傾斜方向変化。図中の灰色の領域はPark et al. (2004)による古・銭洲海嶺の位置、青点線はTakemura et al. (2024)の超低周波地震の検知下限
図1.  (a) 2015年4月〜2021年3月までの浅部超低周波地震の積算モーメントの空間分布、個々の浅部超低周波地震のモーメントレートの(b)走向方向変化と(c)傾斜方向変化。図中の灰色の領域はPark et al. (2004)による古・銭洲海嶺の位置、青点線はTakemura et al. (2024)の超低周波地震の検知下限
図2. 図1のKMD/KMC観測点測線とKMB観測点測線の差異の概略図。沈み込むフィリピン海プレート構造はPark et al. (2002, 2004)などを参考にした。南海トラフの固着域(Locked zone)は、Noda et al. (2018)によるプレート境界のせん断応力増加率の高い領域を参考にした。

伊東優治助教らによる論文がAGU Editor’s Highlight 受賞

伊東優治助教らによる論文が、AGU Editor’s Highlight を受賞。


受賞者:伊東優治、Socquet Anne(グルノーブルアルプ大学)、Radiguet Mathilde(グルノーブルアルプ大学)
受賞名:Editor’s Highlight アメリカ地球物理学連合
受賞日:2025年3月18日
受賞研究:Slip-Tremor Interaction at the Very Beginning of Episodic Tremor and Slip in Cascadia

 第1046回地震研究所談話会開催のお知らせ

下記のとおり地震研究所談話会を開催いたします。

対面での開催を再開しておりますので、地震研究所へお越しいただければ幸いです。

なお、お知らせするZoom URLの二次配布はご遠慮ください。また、著作権の問題が

ありますので、配信される映像・音声の録画、録音を固く禁じます。

                 記

         日  時: 令和7年4月18日(金) 午後1時30分~

         場  所: 地震研究所1号館2階 セミナー室

               Zoom Webinarにて同時配信 

1. 13:30-13:45

演題:火山噴火の周期性の理解を目指した間欠泉の噴出間隔多様性の解明プロジェクト室 活動報告 【所長裁量経費成果報告】

著者:○柘植鮎太・市原美恵

2. 13:45-14:00

演題:2024年能登半島地震(Mw 7.5)に伴う地震波速度変化

著者:Paris NICOLAS(グルノーブルアルプ大学)、〇伊東優治、BRENGUIER Florent(グルノーブルアルプ大学)、WANG Qing-Yu(グルノーブルアルプ大学、現所属ストラスブール大学)、盛 一笑(中国科学技術大学)、岡田知己(東北大学)、内田直希(東北大学、現所属東大地震研)、HIGUERET Quentin (グルノーブルアルプ大学)、髙木涼太(東北大学)、酒井慎一、平原 聡・木村洲徳(東北大学)

要旨:2024年能登半島地震の本震に伴う地震波速度構造変化をHi-netと大学のキャンペーン観測点のデータを使って推定した(EPSに論文が受理済)

3. 14:00-14:15

演題:Magnitude Estimation via An Attention-based Machine Learning Model

著者:○Ji ZHANG・Aitaro KATO、Huiyu ZHU(Institute of Engineering Mechanics, China Earthquake Administration) and Wei WANG(Key Laboratory of Earth and Planetary Physics, Institute of Geology and Geophysics, Chinese Academy of Sciences)

○発表者

※時間は質問時間を含みます。

※既に継続参加をお申し出いただいている方は、当日zoom URLを自動送信いたします。

※談話会のお知らせが不要な方は下記までご連絡ください。

〒113-0032 東京都文京区弥生1-1-1 

東京大学地震研究所 共同利用担当

E-mail:k-kyodoriyo(at)eri.u-tokyo.ac.jp

※次回の談話会は令和7年5月23日(金) 午後1時30分~です。

開催報告:懇談の場「海からプレートテクトニクスの根幹に迫る」

地震研究所と参加者とのコミュニケーション促進の場である「懇談の場」が2025年4月10日にハイブリッドで開催されました。
『海からプレートテクトニクスの根幹に迫る』について、一瀬 建日 准教授・馬場 聖至 准教授によるお話でした。