金曜日セミナー (2021年6月11日) 辻健 (九州大学)

微動とアクティブ震源を用いた地殻モニタリング

GNSS等の測地データの蓄積により、地震や火山噴火に伴う地表変動が明らかになってきた。しかし地震に伴う地殻応力の変化や、火山噴火に伴うマグマ溜まりの変動は、地殻深部で生じる現象である。つまり地震や火山噴火に伴う動態を正確に理解するには、地殻内部の変動を観測するのが好ましい。本研究では、日本列島全域に設置されている地震計で記録された微動データに対して地震波干渉法等を適用し、地殻深部を伝わる弾性波速度(S波速度)の時空間変化を推定した。モニタリングで得られた弾性波速度変化は、地殻の間隙水圧の変化を反映しており、その変化のパターンは岩石の種類や浸透率に依存することが分かってきた。同様の手法は、海溝付近に設置されている海底地震計にも利用できる。紀伊半島沖のDONETに適用したところ、プレート沈み込みに伴う歪の蓄積と、地震に伴う歪の解放といった断層の動態を捉えることができる可能性が示された。近年は、さらに精度良く(高い時空間解像度で)モニタリングを実施するために、定常モニタリング震源とDASを用いたシステムの開発を行っている。本発表では、これらのモニタリングの結果と課題、将来に向けた取り組みについて紹介する。

金曜日セミナー (2021年5月28日) 西川友章(京大防災研)

ニュージーランド・ヒクランギ海溝における群発地震活動検出:地震活動とスロースリップイベントの関係への示唆

要旨:
群発地震は明確な本震を伴わない地震の群れであり、しばしば地殻内流体の移動やスロースリップイベント(SSE)などの過渡的な非地震性現象に伴って発生する。ニュージーランド・ヒクランギ海溝沿いで発生するSSEは、群発地震活動を伴うことが知られている(Delahaye, 2009)。しかしながら、これまでヒクランギ海溝では群発地震活動の系統的な検出が行われたことはなく、群発地震活動の長期間にわたる時空間分布も明らかではない。そこで、本研究では、地震活動統計モデルの一種である時空間ETASモデルを用いて、ヒクランギ海溝沿いの群発地震活動(M3以上)を系統的に検出した。その結果、1997年から2015年までの期間に、119系列の群発地震活動が検出された。これらの群発地震活動の大部分はスラブ内地震であり、ニュージーランド北島の海岸線沿いの特定の地域で繰り返し発生していた。次に我々は、群発地震活動とGNSS時系列データや、既存のSSE・微動カタログを詳細に比較した。その結果、119系列の群発地震活動うち25系列は、既知のSSEや、本研究で新しく検出されたSSEと時空間的に近接して発生していた。さらに、群発地震活動がSSE・微動の発生に一週間以上先行したり、遅れたりする現象も確認された。「SSEの応力載荷による地震活動の誘発」という従来の群発地震活動誘発メカニズム(Fukuda, 2018)では、SSEに先行する群発地震活動を説明することはできない。そこで、我々は、ヒクランギ海溝沿いのSSEサイクルに伴う海洋地殻内流体圧の変化を捉えた先行研究(Warren-Smith et al., 2019)に注目し、「SSE発生前の地殻内流体の移動による地震活動の誘発」という新たな群発地震活動誘発メカニズムを提案する。

EGU2021にバーチャルブースを出展

地震研はEuropean Geoscience Union 2021 (vEGU21: Gather Online)にバーチャルブースを出展しています。

EGU21 – List of exhibitors (copernicus.org)


EGUのIDがない方は、地震研ホームページ上のコンテンツ:”3min movies on our research” をご覧ください:
EGU2021 – Earthquake Research Institute, the University of Tokyo (u-tokyo.ac.jp)

金曜日セミナー (2021年5月21日) Dr. Zhongwen Zhan (Caltech)

Geophysical sensing on submarine cables: a cocktail for two communities

Abstract:
The oceans present a major gap in geophysical instrumentation, hindering fundamental research on submarine earthquakes and the Earth’s interior structure, as well as effective earthquake and tsunami warning for offshore events. Emerging fiber-optic sensing technologies that can leverage submarine telecommunication cables present an new opportunity in filling the data gap. Marra et al. (2018) turned a 96 km long submarine cable into a sensitive seismic sensor using ultra-stable laser interferometry of a round-tripped signal. Another technology, Distributed Acoustic Sensing (DAS), interrogates intrinsic Rayleigh backscattering and converts tens of kilometers of dedicated fiber into thousands of seismic strainmeters on the seafloor (e.g., Lindsey et al., 2019; Sladen et al., 2019; Williams et al., 2019; Spica et al., 2020). Zhan et al. (2021) successfully sensed seismic and water waves over a 10,000 km long submarine cable connecting Los Angeles and Valparaiso, by monitoring the polarization of regular optical telecommunication channels. However, these new technologies have substantially different levels of sensitivity, coverage, spatial resolution, and scalability. In this talk, we advocate that strategic combinations of the different sensing techniques (including conventional geophysical networks) are necessary to provide the best coverage of the seafloor and benefit both the geophysics and oceanography communities. Furthermore, strategic collaborations with the telecommunication community without burdening their operation will be critical to the long term success.

着任セミナー (2021年5月7日) 行竹洋平(火山噴火予知研究センター)

箱根火山周辺域の地殻構造及び地震活動とマグマ供給過程

要旨:
本発表では、主に箱根火山に焦点をあて、地殻構造や地震活動に関するこれまでの研究結果を紹介する。箱根火山では近年、群発地震活動や水蒸気噴火などの火山活動が観測されている。こうした火山活動とマグマ供給系との関係を理解するため、地震波速度構造の推定を行った。火山の深さ6kmより深部で顕著は低速度域が推定され、深さ9km付近にマグマ溜まりを示唆する高Vp/Vs域、またその上部にマグマ由来の熱水やガスの存在を示唆する低Vp/Vs域の存在が明らかになった。また深さ20km付近に発生する深部低周波地震は、より浅部での火山性地殻変動や群発地震活動と時間的に連動していることが明らかになった。多くの場合、深部低周波地震がやや先行して活発化し、その後深さ6km付近を圧力源とする膨張性地殻変動やより浅部での群発地震活動が開始する。この結果から、深部からのマグマ供給に伴い深部低周波地震が活発化し、その影響がより浅部に伝播し火山活動を引き起こしていることが示唆される。浅部で発生する群発地震の震源位置を高精度に決定すると、ほぼ鉛直な面上に地震が集中し、また時間の経過とともにある地点から地震活動域が拡散的に移動していく様子が明らかになった。こうした震源の移動様式は、マグマ由来の高圧流体が脆性領域の断層帯に貫入し拡散していく過程を反映している可能性がある。一方、群発地震の際にわずかな地殻変動が伴っていることが最近明らかになり、流体の移動に伴い背景に非地震性の変動が生じている可能性も示唆される。

古村 孝志 教授 が令和3年度科学技術賞科学技術振興部門を受賞

古村 孝志 教授 が令和3年度科学技術賞科学技術振興部門を受賞しました。

業績名:リアルタイム災害避難支援 システムの市民参加型研究 の振興
受賞者:大石裕介(富士通株式会社富士通研究所)・今村文彦(東北大学災害科学国際研究所)・古村孝志(東京大学地震研究所)・三原宣輝(川崎市総務企画局危機管理室)

https://www.mext.go.jp/content/20210414-mxt_sinkou01-000013957_1.pdf