金曜日セミナー (2020年12月11日) 内出 崇彦 氏 (産総研)

地震学への深層学習の応用 〜P波初動極性の自動読み取りによる震源メカニズム解の推定〜

Abstract:
深層学習の急速な進展により、地震学においてもこの導入が進んでいる。いわば、深層学習の実力を測るという段階になりつつある。その中でも、地震波形の処理は比較的相性のいい課題であるように思われ、検測を中心に研究が進んでいる。
本セミナーでは、そのような応用研究の一つとして、大量の微小地震について震源メカニズム解を推定した研究(Uchide, GJI, 2020)を紹介する。地震発生の想定やテクトニクスの理解の鍵の一つとして、応力場が挙げられる。そこで、応力場推定の手がかりとなる震源メカニズム解を、日本列島内陸部の20 km以浅の11万個余りの微小地震について推定した。その際、230万本余りの地震波形のP波初動極性の読み取りに深層学習を利用した。得られた震源メカニズム解のP軸とT軸の方位分布を概観すると、大局的な応力場の傾向が示唆されるほか、局所的に特異な応力場が存在することも見えてくる。本研究で微小地震まで解析することで、震源メカニズム解が得られない空白域はかなり狭まった。これにより、より広い範囲でより詳しく応力場を推定することができるようになった。

 

第997回地震研究所談話会開催のお知らせ

下記のとおり地震研究所談話会を開催いたしますので、ご案内申し上げます。
今回は、コロナウィルス感染対策として、地震研究所の会場での開催は行いません。
WEB会議システムを利用した参加のみとなります。参加に必要な設定URL・PWD
については、参加をご希望される方宛に別途ご連絡をいたしますので、共同利用担当宛
(k-kyodoriyo@eri.u-tokyo.ac.jp)お問い合わせください。
なお、お知らせする設定URLの二次配布はご遠慮ください。また、著作権の問題があ
りますので、配信される映像、音声の録画、録音を固く禁じます。

                  記

日  時  令和2年11月20日(金)午後1時30分~ 
      インターネット WEB会議

1. 13:30-13:45
演題:Harmonic tremor model during the 2011 Shinmoe-dake eruption, Japan
   【所長紹介(受入教員:市原美恵)】
著者:○武尾 実(気象庁)

2. 13:45-14:00
演題:シミュレーションによる釜石沖繰り返し地震の予測実験の検証
著者:○吉田真吾・加藤尚之・福田淳一・五十嵐俊博
要旨:Yoshida et al. (2016, EPS)で行った、論文発表後の釜石沖繰り返し地震の
予測について検証する。

3. 14:00-14:15
演題:日本海における確率論的津波ハザード評価
著者:〇Iyan E. MULIA、石辺岳男(地震予知総合研究振興会)、佐竹健治、
Aditya Riadi GUSMAN (GNS Science)、室谷智子(国立科学博物館)
要旨: 日本海東縁部の活断層による、沿岸での再来期間100年、400年、1000年の最大の
津波高さや、各沿岸での津波に寄与する活断層を明らかにした。

4. 14:15-14:30
演題:高分解能反射法地震探査による中央構造線活断層系(四国地域)の浅部~深部形状
【2019年度所長裁量経費報告】
著者:〇石山達也・加藤直子・佐藤比呂志、越谷 信(岩手大学)、
松原 誠(防災科学技術研究所)、 石川正弘(横浜国立大学)
要旨:新たな高分解能反射法地震探査により推定された中央構造線活断層系(四国地域)の
浅部~深部形状とその地質学的意義について報告する。

○発表者
※時間は質問時間を含みます。
※談話会のお知らせが不要な方は下記までご連絡ください。

〒113-0032 東京都文京区弥生1-1-1 
東京大学地震研究所研究支援チーム
E-mail:k-kyodoriyo@eri.u-tokyo.ac.jp
※次回の談話会は令和2年12月18日(金)午後1時30分~です。

着任セミナー(2020年11月6日)大園真子氏(地震火山噴火予知研究推進センター 准教授)

タイトル:GNSS観測から見る内陸スロー地震,日本海・東シナ海横断広域地殻変動

要旨:
日本国内の浅部の群発的な地震活動に伴う非地震性すべりの検出の試み,広域地
殻変動解析のための日本海・東シナ海横断GNSSデータ解析予備結果の2つについ
て紹介する.北海道北部の稠密GNSS観測網から,2012年7月-2013年1月の期間に
群発的な地震に伴う浅部での非地震性すべりと思われるイベントを検出した.断
層モデルを仮定すると,Mw5.4相当になる.内陸部でのこのような非地震性すべ
りを捉えるのは珍しい.そこで他にも事例ないか,群発的な地震活動域に着目し
て,同様の非地震性すべり発生の可能性について気象庁一元化震源とGEONETの日
座標解を使って検討した.2012年道北のイベントほど顕著なものは見つからな
かったが,地震活動に伴う一時的な非定常地殻変動がある地域もありそうだとい
う感触を得た。一方,北海道北部はプレート境界の位置が明瞭ではない.これを
議論するためにはより広域の地殻変動に着目する必要がある.現在,中国ロシア
との共同研究で日本海・東シナ海を横断するGNSS観測点を結んだ地殻変動解析に
取り組もうとしている.その予備解析の結果として,海を越えて結んだ基線長変
化を見ると,2011年東北地方太平洋沖地震の余効変動による伸びなど,地域毎に
特徴が見られたので,それについて簡単に紹介する.

金曜日セミナー:着任セミナー(2020年10月23日)臼井嘉哉氏(地震予知研究センター 助教)

3次元インバージョンによる浅間山、沖縄トラフ伊平屋北海丘、跡津川断層周辺域の電気比抵抗構造モデリング

地下の電気比抵抗値は温度、岩石及び間隙流体の種類、間隙流体の量やその連結度などに依存し、流体分布など地下の状態を明らかにする上で重要なパラメータの1つである。電気比抵抗構造を推定する代表的な地下構造探査方法の1つであるmagnetotelluric法 (MT法)は1950年代に基礎理論が確立され、現在に至るまでモデリング技術が発展し、近年は3次元インバージョンを用いた比抵抗構造モデリングが普及してきた。本セミナーでは講演者がこれまで開発してきた四面体要素を利用した地形によるDistortionに対してロバストな3次元インバージョン手法及び通常のMT法とNetwork-MT法のジョイントインバージョン手法を紹介するとともに、それらの適用例として浅間山、沖縄トラフ伊平屋北海丘、跡津川断層周辺域の電気比抵抗構造について紹介する。このうち、浅間山、伊平屋北海丘では3次元インバージョンにより地下の貫入、固結したマグマの存在が示された。また、跡津川断層周辺域では、跡津川断層、牛首断層、高山・大原断層帯下の下部地殻にせん断帯と考えられる低比抵抗域が局在していることを明らかにした。

木村 将也(博士課程3年)が2020EPS Young Researcher Awardを受賞

木村将也(博士課程3年)が、科学論文雑誌Earth Planets Space誌において若手科学者賞を受賞しました。

評価された内容: The 2020 EPS Young Researcher Award is granted to Masaya Kimura, as the first author of the following paper. Masaya Kimura, Nobuki Kame, Shingo Watada, Makiko Ohtani, Akito Araya, Yuichi Imanishi, Masaki Ando and Takashi Kunugi (2019): Earthquake-induced prompt gravity signals identified in dense array data in Japan (https://doi.org/10.1186/s40623-019-1006-x).

Earth Planets Space, 71:27,120.
https://www.earth-planets-space.org/en/news/yra2020-en

This paper reported an observation of transient elastogravity signals prior to the P-wave arrival of the 2011 Tohoku-oki earthquake by using a new processing strategy. They optimized the multi-channel data recorded by superconducting gravimeters, broadband seismometers and tiltmeters, providing new constraints on the amplitude of the observed prompt signals that may serve as a reference in the detection of similar signals in future earthquakes. In this paper, the authors also proposed a theoretical development of the prompt signal as gravity-gradient in addition to acceleration and gravity perturbation. Such elastogravity transient perturbation is promising for future early-warning systems. This paper highlighted scientific interests about this transient gravity signal. The first author Masaya Kimura has made the main contribution to this study, to whom we award the 2020 EPS Young Researcher Award.

大谷真紀子助教が日本地震学会若手学術奨励賞の受賞決定

大谷 真紀子助教の研究業績に対し、2020年度日本地震学会若手学術奨励賞が決定しました。

受賞対象研究: 巨大地震発生機構の理解と予測可能性に関する地震発生サイクルシミュレーション研究

日本地震学会若手学術奨励賞授賞のページ:
2020年度日本地震学会論文賞および若手学術奨励賞受賞者の決定について|公益社団法人 日本地震学会 (zisin.jp)

東北沖地震震源域に設置した海底ケーブル地震津波観測システム OBCSTの開発と運用

篠原雅尚・山田知朗・植平賢司(防災科学技術研究所)・酒井慎一・塩原肇・金沢敏彦(現在地震予知総合研究振興会)

Development and Operation of an Ocean Bottom Cable Seismic and Tsunami (OBCST) Observation System in the Source Region of the Tohoku-oki Earthquake

Earth and Space Science, 8, e2020EA001359. https://doi.org/10.1029/2020EA001359

海底ケーブル式地震津波観測システムは、海域においてリアルタイム観測が可能な点が優れています。我々はインターネット通信技術(ICT)を用いた新しい小型の海底ケーブル式地震津波観測システムを開発しました。新しいシステムでは、ICTが持つ冗長性を用いてシステムの信頼性を確保しました。最新電子技術を用いたソフトウェアベースのシステムを開発することにより、製作コストと設置後の運用維持経費を削減しました。開発したシステムをOBCSTと名付け、2011年東北地方太平洋沖地震の震源域である三陸沖に2015年に設置しました。周辺の海底観測システムと併せて、多くの海底観測点を用いて地震活動と津波を観測することが目的です。システムは、設置直後から地震と津波(水圧変化)の観測を継続しています。地震観測における雑微動ノイズの大きさはこれまでのシステムとほぼ同じであり、多くの微小地震や遠地地震が観測されています。海底下1 mに埋設した観測点では海底に置いた観測点よりノイズが小さくなりました。高精度圧力計の環境的ノイズは海面の高さ変化1 cmに対応する1 hPa程度と小さく、また、埋設した観測点でも実際の津波を適切に観測することができました。設置したシステムは観測装置の環境データも計測しています。長期間稼働が期待される観測装置の動作温度が、安定して低く抑えられていることもわかりました。

図の説明
新しく開発した海底ケーブル式地震津波観測システムの観測装置の写真。円筒形の耐圧容器は、直径約26 cm、長さ約1.3 mです。観測装置は2種類を開発しました。タイプFAは、地震センサーとして加速度計と津波センサーの圧力計を内蔵しています。タイプFBは加速度計と水中着脱コネクタを用いたPoE(*注)インターフェイスを搭載しています。左下は水中ロボットが撮影した海底でのタイプFBです(観測点名はYOB3)。水中ロボットは、2016年10月11日に水深1,570 mの海底に潜航しました。設置する前に取り付けた水圧計とPoEインターフェイスが確認できます。
(*注)PoE: パワー・オーバー・イーサネット、通信を行うLANケーブルを用いて、電源も供給する技術

第7回サイエンスカフェ(オンライン)開催報告

「第7回サイエンスカフェ」を、 地震・火山噴火予知研究協議会と広報アウトリーチ室の共同で、2021年3月19日にオンラインで開催いたしました。

7回目となる今回は、「千島海溝沿いの巨大地震」というテーマで開催し、話題提供者に谷岡勇市郎 教授(北海道大学大学院理学研究院)と 大園真子 准 教授(地震研究所)を迎え、加藤尚之 教授の司会のもと、北海道東部の千島海溝沿いで起こり得る巨大地震の研究についてお話しがされました。

【地震・火山噴火予測研究のサイエンスカフェ 】地震や火山噴火に関する研究の成果は、予測の基礎となることが期待されています。これまでの研究から、地震や火山噴火のメカニズムへの理解は深まってきました。また、今後発生する可能性のある地震や火山噴火を指摘することもある程度はできます。しかし、規模や発生時期についての精度の高い予測はまだ研究の途上です。このサイエンスカフェでは、地震・火山噴火の予測研究の現状について研究者と意見交換を行い、研究者・参加者双方の理解を深めることを目的とします。

【共同プレスリリース】福井県文書館所蔵「松平文庫」の市民参加型翻刻プロジェクトを開始!

国立歴史民俗博物館 を中心に開発を進める 歴史資料 の市民参加型翻刻プラットフォーム「みんなで翻刻」は、新た に 、 福井県文書館と連携して松平文庫の資料の翻刻に取り組みます。

共同プレスリリース資料(PDF):福井県文書館所蔵「松平文庫」の
市民参加型翻刻プロジェクトを開始!

『歴史のなかの地震・噴火ー過去がしめす未来』(加納靖之・杉森玲子・榎原雅治・佐竹健治著)が東大出版会から出版されました

駒場での学術フロンティア講義の内容をまとめた書籍です。歴史上の地震や火山噴火の事例について、地震学、歴史学双方の視点から解説しています。地震学、歴史学に関する基礎的な事項や、地震研究所と史料編纂所がが連携して設立した地震火山史料連携研究機構の最新の研究成果も盛り込みました.


本の詳細はこちら(東京大学出版会)をご覧ください。
http://www.utp.or.jp/book/b555769.html