藤田航平助教・市村強教授らの共同研究の成果がプレスリリースされました

巨大地震津波災害予測研究センターの藤田航平助教・市村強教授らの共同研究の成果が、JAMSTECよりプレスリリースされました。

今回、理化学研究所のスーパーコンピュータ「京」上で、開発した手法を用いて大規模数値シミュレーションを行うことで、「2011年東北地方太平洋沖地震後に観測された余効変動の発生要因」の検討を行った論文「Rapid mantle flow with power-law creep explains deformation after the 2011 Tohoku mega-quake」が英科学誌「Nature Communications」に掲載されました。詳細は、海洋研究開発機構からのプレスリリースをご覧ください。

2011年東北地方太平洋沖地震後に観測された余効変動の発生要因を岩石流動の実験則を組み込んだ大規模数値シミュレーションにより説明
(JAMSTECホームページ内プレスリリース資料)

世界の火山・プレート地図 誕生

地震研究所のグッズに、新たな仲間が加わりました。世界の火山およびプレートの動く向きや速さを表した地図です。「国」ではなく、「プレート」という視点で世界を見ていただくものになっております。
今回も、「震源地図シリーズ」でお馴染みの東京カートグラフィック株式会社さんにご協力いただき作成しています。

8月に開催される、地震研一般公開で配布される予定です。

退職教員による最終講義が開催されました

今年度末で退職される教員5名の、最終講義が3月22日、地震研2号館第一会議室で開催されました。

岩崎 貴哉教授
演 題: 「北海道に始まり,北海道に終わる」

歌田 久司教授
演 題: 「どうして電磁気を」

大久保 修平教授
演 題: 「重力・測地学の観測と理論~野性と美を追い求めて」

壁谷澤 寿海教授
演 題: 「鉄筋コンクリ-ト造建築物の耐震性能の評価と検証」

武尾 実教授
演 題: 「地震の波を見続けて」

【プレスリリース】地震史料翻刻プロジェクト「みんなで翻刻」地震研所蔵の495 点すべて解読

2017 年1 月に開始した、市⺠参加型の地震史料翻刻プロジェクト「みんなで翻刻」において、東京大学地震研究所図書室所蔵の古文書のうち495 点すべてが解読され、プレスリリースがされました。

プレスリリース資料

2011年東北沖地震の地震波到達前に観測された重力変化

木村将也・亀伸樹・綿田辰吾(東大地震研)・大谷真紀子(産総研)・新谷昌人・今西祐一(東大地震研)・安東正樹(東大物理)・功刀卓(防災科研)

Earthquake-induced prompt gravity signals identified in dense array data in Japan.

Earth, Planets and Space, 71:27, https://doi.org/10.1186/s40623-019-1006-x, 2019.

地震の断層運動によって放射される地震波は地殻中を6—8 km/sの速さで広がります。一方この地震波は地殻の岩石の密度変化を引き起こし、これに伴い重力が変化します。重力変化は地震波より速く光速 (~300,000 km/s) で空間全体に伝わるので、この性質を利用することで、地震発生を地震波到達前に検知することが可能となります。

我々は2011年Mw 9.0東北沖地震の際の広帯域地震計アレイ (F-net) 記録中の重力成分を調べ、地震波到達より前に重力が変化していることを示す信号を7シグマの有意性で見つけました(図1)。これは従来の検出報告に比べはるかに確度が高く、地震発生が重力変化で捉えられることを確実にしました。

現在、重力で地震を検知するための新型の計測装置 (TOBA) の開発が東大物理で進められています。この装置が地震計のように日本列島全体に設置されれば、緊急地震速報をこれまでより早く出せると期待されます。

図1 (a) 2011年東北沖地震による揺れが到達する前の地震計記録の一例。波形を一本ずつ見ても、背景ノイズを超える信号はほとんど見られません。
(b) 左図で用いた観測点(F-net広帯域地震計アレイ)。
(c) 27観測点での波形をスタッキング解析(波形同士を足し合わせて背景ノイズを低減する手法)することで発見された、地震波到達時刻 (t=0) 前の重力変化。

【本研究は英文プレスリリースされました】
UTokyo Focus – “Sensing shakes”
https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/en/press/z0508_00032.html

2011年東北沖地震の前後に発生した応力異常

T. W. Becker1・橋間昭徳2・A. M. Freed3・佐藤比呂志2

1テキサス大学オースティン校, 2東京大学地震研究所, 3パーデュー大学

Earth and Planetary Science Letters, 504, 174-184, doi:10.1016/j.epsl.2018.09.035

Published: 15 December 2018

Key Points
・    2011年東北沖地震の4年ほど前から、東北地方の応力パターンが変化
・    2011年東北沖地震後も応力パターンの変化が続くが、3〜4年後以降は回復傾向
・    応力パターン変化のモニタリングは、超巨大地震の発生プロセスの推定に有用

2011年東北地方太平洋沖地震(以下、東北沖地震と表記)のようなマグニチュード9以上の超巨大地震にともなう上盤プレート内の地殻活動の解明は、プレート沈み込み運動の研究や、巨大地震前後における内陸地震の発生ポテンシャル評価のために大変重要です。GNSS観測網による東北地方の地殻変動データより、東北沖地震の10年ほど前から変動速度がそれ以前の通常状態から有意に変化していたことが、すでに示されています。

本研究では、日本列島下の応力場に注目し、東北沖地震の前後に通常時からの変化が見られるのかどうかを調べました。地下の応力状態は、そこで起こる地震のメカニズム解から推定することができます。そこで、防災科学技術研究所のF-net観測網による地震メカニズム解のカタログを用い、東北沖地震の地震前と地震後の応力場を、カタログの各地震の発生と調和的になるよう推定しました。

図1aに、通常時(2007年以前)と比べた東北沖地震直前の応力パターン変化を示します(応力を表す震源球については図1aの説明参照)。特に震源域直上の東北沖(紫四角の周辺)で、緑〜青色の震源球で表される相対的な水平伸張が見られます。これは、通常時の太平洋プレートの固着による東西圧縮応力が、地震直前には弱まっていることを示しています。これは地殻変動研究により指摘されている地震前の固着のゆるみと調和的です。

図1bは東北沖の水平応力の時間変化を示します。最も目立つのは東北沖地震直後の急激な変化ですが、地震前にも3~4年前(2007~2008年)から圧縮のゆるみが見られ、通常時から応力パターンがずれていったことを示しています。地震後には、伸張的な応力場が持続しますが、興味深いことに4年後(2015年)くらいから、伸張応力が弱まり、地震発生前の状態に戻ろうとしているように見えます。

地震後の応力パターン変化については、変動の支配メカニズムが余効すべりから粘弾性緩和へと変わっていくために起こると考えられ、モデル計算により再現することができます。今後、地震前の応力変化も合わせて、地殻変動など他のデータとともにモデル化し、解明を進めていくことが、巨大地震災害を理解するのに必要であるといえます。

図の説明
図1 (a) 東北沖地震直前の応力場の通常(1997–2007年)からのずれ。震源球は、地下の各点が受ける圧縮応力(白面)と伸張応力(色付き面)の3次元的パターンを示す。震源球の色は規格化した応力の水平成分(σm)。背景色(θ)は通常時と地震前の応力パターンの一致度。θ = 1は完全な一致、θ = -1は反転(圧縮⇔伸張)。東北地方のほとんどで0.75以下であり、通常時と比べて一定の違いを示す。(b) 東北沖地震の震源域直上の規格化水平応力(σm)の時間変化(図1aの紫四角の位置)。上下の点線は、それぞれ期間1 ≤ t ≤ 3 year、t < -4 yearのσmの時間平均。東北沖地震に伴う急激な変化の他にも、地震の3〜4年前からの変化や、地震4年後以降にもゆっくりとした変化が見られる。