【プレスリリース】大西洋の爆弾低気圧によって励起された脈動実体波

大西洋の爆弾低気圧によって励起された脈動実体波

論文:Teleseismic S-wave microseisms

著者:
西田 究(東京大学地震研究所 数理系研究部門 准教授)
高木 涼太 (東北大学大学院理学研究科附属地震・噴火予知研究観測センター 助教)

雑誌名:Science (2016年8月26日)

プレスリリース文書:PDF

◆大西洋で発生した爆弾低気圧による海洋波浪が励起した P 波・S 波を日本の観測記録を使 って検出した。震源情報を定量化することによって、その発生メカニズムを明らかにした。
◆嵐によって P 波だけでなく S 波が励起されていることを初めて検出した。
◆嵐による P 波・S 波を利用することで、地震・観測点ともに存在しない、海洋地域を通過 する嵐直下の地球内部構造を推定し、新たな地球科学的な知見を与える可能性がある。

*今発表につきましては、Science誌主催の記者レクである、”Media Availability”が、8月24日東京大学地震研究所セミナー室にて開催されました。日本で初めての開催となりました。また、この論文は2016年8月26日発刊のScience誌の表紙にも選ばれております。

 

IMG_1975-1

三次元数値計算による実験試料の幾何形状が波動場に及ぼす影響の検討

吉光奈奈(1,2)・古村孝志(1)・前田拓人(1)

(1) 東京大学地震研究所 (2) スタンフォード大学

Journal of Applied Geophysics 132 (2016) 184–192,
http://dx.doi.org/10.1016/j.jappgeo.2016.07.002

地震発生のメカニズムを調べるために,岩石試料を用いて地震を模擬した破壊実験や摩擦実験がおこなわれています.外からは直接見えない試料内部の状態を,試料を破壊することなく調べる手段として,試料を透過させた波の速度や振幅が注目されてきました.実験に使われる試料のサイズは一辺が数センチメートル程度で,試料に入力された波は短い時間の間に何度も反射や変換を繰り返します.複雑な波形全体からより多くの情報を得るには,試料内で波がどのように伝播していくかを把握しておく必要があります.そこで我々は,このような実験を模擬した3次元差分法シミュレーションをおこない,小さな試料の中で波がどのように反射・変換しているかを調べました.

解析の結果,円柱形の試料の表面から入力された実体波が試料内で幾度も反射・変換する様子や,大振幅の表面波が試料の水平・垂直両方向に伝播していく様子が明らかになりました(図1).さらに,数値シミュレーションと実験室で得られた波形を比較したところ,両者はよい一致を見せました(図2).

本研究では,媒質の持つ不均質性と幾何形状の影響とを切り分けて評価するために,均質媒質であるステンレス試料を用いて解析をおこないました.試料の鉛直方向中央に体積力を与え,試料内部を伝播する70マイクロ秒間の波動場を,3次元差分法を用いて計算しました.図1に計算された波動場のスナップショットを示します.震源に力が与えられた直後は,P波,S波の直達波がまっすぐに試料の中を伝播していきます(図1a).この波は震源と反対側の試料表面で反射・変換し,震源の方向へと戻っていきます(図1b).この時,試料の周方向では振幅の大きな表面波が生成していました.さらに時間が経つと,試料の側面,上下端で何度も反射・変換を繰り返した波が入り交じり,波動場は非常に複雑になります(図1c).

試料の上下端と側面での反射・変換の効果を分けて評価するために,モデル媒質の上下端に吸収境界を入れて,同様に数値計算をおこないました.その結果,試料の上下端の角で表面波が生まれ,試料の上下方向に次々と伝播しながら重なり合っていく様子が明らかになりました.水平方向に関して円柱形試料の周境界を伝播する表面波についてはこれまでの研究でも報告例がありましたが,3次元的な幾何形状を数値計算に取り入れた本研究によって,上下方向に伝播する表面波も波動場に大きな影響を与えている可能性が示唆されました.これに加えて,上下端の試料の角があたかも第二の震源であるかのように次々と変換波を生んでいる様子も確認されました.これらの波は,元々の震源から生まれた波とは異なる方向に伝播し,波動場を複雑にしていました.

このように,数値計算によって実験室スケールでの波動場の時間発展を追うことができるようになました.数値計算を通じて,時間変化する媒質の波形後続部に含まれる位相から,試料内部や表面の変化を推定できる可能性が見えてきました.また,数値計算を応用することで,実験前に波動場の広がりを予測し,効率的な観測点配置や試料形状について検討することもできると期待されます.初めに挙げた地震の再現実験以外にも,透過波は,地中から回収したコアの物性や流体の影響を調べるために岩石試料に水やCO2を注入する実験など,様々な場面で試料内部の特性を推定するために利用されています.数値シミュレーションを上手に利用することによって,実験室で得られた波形データの幅広い利用が可能になると期待されます.

Figure1_NY2016
図1.数値シミュレーションによる試料内における波動伝播スナップショット.震源に力が与えられてから (a) 7マイクロ秒, (b) 14マイクロ秒, (c) 28マイクロ秒後の波動場.円筒軸と震源を含む鉛直断面,試料中心を含む水平断面を示す.赤はP波,緑はS波の伝播を表す.(d) 透過波形の一例.
Figure2_NY2016
図2. 震源と同じ水平断面内における,震源からの中心角が60度,90度,120度,150度,180度の位置で得られた 動径方向の速度波形.室内実験から得られた波形を赤色,数値シミュレーションによって得られた波形を黒色で表す.(a) 200 – 400 kHz,(b) 400 – 800 kHzのバンドパスフィルタを適用した波形.

地震波伝播のアニメーション【画像クリックで動画再生】
円柱形試料ないの3次元波動伝播シミュレーションの結果.

(Movie1) 試料中心を含む水平断面.

(Movie2) 試料中心と震源を含む鉛直断面.

 

2016年熊本地震の本震発生前に見られた前震域の拡大

加藤 愛太郎・福田 淳一・中川 茂樹・小原 一成(東京大学地震研究所)

Geophysical Research Letters, doi: 10.1002/2016GL070079.

18 July 2016 (Online publication) http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/2016GL070079/full

 2016年熊本地震の前震や本震に伴って発生した一連の地震活動の震源カタログを高い精度で推定し、その時空間発展を詳細に分析しました(図1)。その結果、4月14日の前震(モーメント・マグニチュード(Mw)6.2)発生以降、地震発生域が時間の経過とともに徐々に拡大する様子を捉えました(図2)。前震域の拡大は、断層の走向方向に加えて傾斜方向(浅い・深い)にも起きており、4月16日に発生した本震(Mw 7.0)の破壊開始点へ向かう動きも見られました。前震域の拡大は、前震(Mw 6.2)がきっかけとなって生じたゆっくりすべり(余効すべり)の伝播によるものと考えられます。

実際、前震発生域の近傍の地殻変動観測点(国土地理院電子基準点)では、前震発生後から本震が発生するまでの間に、前震時と同じ方向に変位がじわじわと進んだことがわかります(図3a, 3b)。このような変位が観測された場所は極少数であり、すべりの場所や大きさを正確に推定することは困難な状況ですが、前震の断層面上ですべりが生じたというモデルで変位データを説明することができます。この結果は、前震の断層面上においてゆっくりすべりが起きていたという解釈を支持します。前震による応力の載荷に加えてゆっくりすべりにより、本震断層面への応力載荷が進行し、本震の発生が促進されたと考えられます(図3c)。

前震活動中に地震発生域が拡大する現象は、沈み込む海洋プレートと陸側プレートとの境界で発生した2011年東北地方太平洋沖地震や2014年チリ北部地震の発生前に起きていたことが報告されているものの(e.g., Kato et al., 2012; Kato et al., 2016)、内陸の活断層においても、規模は小さいものの類似した現象が起きていたことを明らかにした点はユニークです。地殻内の浅い場所で規模の大きな地震が起きた後に、その余震域が時間の経過とともに拡大する現象は、2004年パークフィールド地震や2007年能登半島地震などの発生後に確認されており、ゆっくりすべり(余効すべり)の伝播が余震域の拡大をコントロールする物理過程の一つとして考えられています(Peng and Zhao, 2009; Kato and Obara, 2014)。

本研究で見られたような、大きな地震発生後に震源域の拡大や余効すべりが起きたからと言って、その周辺でさらに規模の大きな地震(本震)がすぐに発生するかどうかを判断することは、現状ではできません。なぜなら、本震の断層面が最終的に破壊に至るかどうかは、応力載荷の受け手側、つまり、本震の震源域の応力蓄積状況に依存するからです。本震の断層面に応力が十分蓄積されていて臨界状態に近い状況であれば、前震やその余効すべりが引き起こす応力載荷により、短期間で本震の発生が促進されると予想されます。断層の応力蓄積状況を把握する研究をより発展させることが、今後の重要な課題です。

図1. a) 九州地域の地震テクトニクス図6).灰色の○印はM6以上の地震の分布図.b) 地震活動と解析に用いた地震観測点の分布図.青色の点は2016年4月14日以降の熊本地震に関連した活動.灰色の点は熊本地震発生以前に発生した地震活動の位置(2003年以降, 気象庁一元化処理震源).□印は地震観測点、赤線は活断層の地表トレース、赤い△印は活火山の位置.
図1. a) 九州地域の地震テクトニクス図6).灰色の○印はM6以上の地震の分布図.b) 地震活動と解析に用いた地震観測点の分布図.青色の点は2016年4月14日以降の熊本地震に関連した活動.灰色の点は熊本地震発生以前に発生した地震活動の位置(2003年以降, 気象庁一元化処理震源).□印は地震観測点、赤線は活断層の地表トレース、赤い△印は活火山の位置.
図2. 前震の発生以降、本震が発生する直前までの地震活動の時空間発展図(積算図).断層の走向方向に加えて、断層面の傾斜方向(浅い・深い側)にも前震の発生域が拡大する様子がわかります.
図2. 前震の発生以降、本震が発生する直前までの地震活動の時空間発展図(積算図).断層の走向方向に加えて、断層面の傾斜方向(浅い・深い側)にも前震の発生域が拡大する様子がわかります.
図3. a) カラースケール(CFS)は前震(Mw 6.2)による本震断層面(A1-, A2-, B-fault)へ加わったCoulomb応力変化を示します.灰色の○印は前震から本震発生直前までの地震活動の震央位置を示します.黄色の☆印は本震の破壊開始点、灰色の実線は活断層の地表トレース.緑色の矢印は前震から本震発生前までに測地観測点で観測された非定常な変位ベクトル、白色矢印は前震の断層面上にすべり(約25 cm)を仮定して計算された理論変位ベクトル.b) 測地観測点(電子基準点)1071で捉えられた前震発生以降の非定常な変位変化.赤い曲線は、対数関数によるフィットを示します.c) 前震発生以降の地震の移動現象の概念図.黄色い矢印は前震域の拡大方向、黄色い☆印は本震の位置を示します.
図3. a) カラースケール(CFS)は前震(Mw 6.2)による本震断層面(A1-, A2-, B-fault)へ加わったCoulomb応力変化を示します.灰色の○印は前震から本震発生直前までの地震活動の震央位置を示します.黄色の☆印は本震の破壊開始点、灰色の実線は活断層の地表トレース.緑色の矢印は前震から本震発生前までに測地観測点で観測された非定常な変位ベクトル、白色矢印は前震の断層面上にすべり(約25 cm)を仮定して計算された理論変位ベクトル.b) 測地観測点(電子基準点)1071で捉えられた前震発生以降の非定常な変位変化.赤い曲線は、対数関数によるフィットを示します.c) 前震発生以降の地震の移動現象の概念図.黄色い矢印は前震域の拡大方向、黄色い☆印は本震の位置を示します.

【参考文献】

  • Kato, A., K. Obara, T. Igarashi, H. Tsuruoka, S. Nakagawa, and N. Hirata (2012), Propagation of slow slip leading up to the 2011 Mw 9.0 Tohoku-Oki Earthquake, Science, 335, 705–708, doi:10.1126/science.1215141.
  • Kato, A., J. Fukuda, T. Kumazawa, and S. Nakagawa (2016), Accelerated nucleation of the 2014 Iquique, Chile Mw 8.2 Earthquake, Sci. Rep., 6, 24792, doi:10.1038/srep24792.
  • Peng, Z., and P. Zhao (2009), Migration of early aftershocks following the 2004 Parkfield earthquake, Nature Geosci., 2, 877–881, doi:10.1038/ngeo697.
  • Kato, A., and K. Obara (2014), Step-like migration of early aftershocks following the 2007 Mw 6.7 Noto-Hanto earthquake, Japan, Geophys. Res. Lett., 41, 3864–3689, doi:10.1002/2014GL060427.

スロー地震の巨大地震との関連性

小原一成・加藤愛太郎 (東京大学地震研究所)

Science, 353(6296), 253-257. Doi:10.1126/science.aaf1512
14 July 2016 (Online publication) http://science.sciencemag.org/content/353/6296/253

スロー地震は、断層破壊がゆっくりと進行する地震現象であり、強い揺れを伴いません。しかし、スロー地震の多くは沈み込むプレート境界面上で巨大地震発生域に隣接し、巨大地震と共通の低角逆断層型のメカニズムを有することから、巨大地震との関連性が示唆されてきました。スロー地震は、発見されてから20年も経っていませんが、巨大地震に対して以下の3つの役割を担う可能性があることが、これまでの観測研究により明らかになってきました。

①Analog(類似現象):スロー地震の活動様式が巨大地震と類似し、さらに高頻度で発生することから、巨大地震の発生様式を理解するためのヒントを与える可能性。

②Stress meter(応力状態を反映するインジケーター):スロー地震は周囲の応力変化に敏感であるため、巨大地震震源域における応力蓄積の状況に応じて、スロー地震の活動様式が変化する可能性。

③Stress transfer(周囲への応力載荷):スロー地震の発生によってその周囲に応力を載荷することがあるため、隣接した巨大地震震源域における断層破壊を促進する可能性。

今後もスロー地震の活動を継続的にモニタリングし、その活動様式や発生原因の解明を進めることにより、巨大地震の発生過程に関する理解の進展にも繋がることが期待されます。

スライド4-2

2014年長野県北部地震の余震活動によって明らかにされた神城断層のFootwall Shortcut Thrust断層モデル

パナヨトプロス ヤニス、平田 直、橋間 昭徳、岩崎 貴哉、酒井 慎一、佐藤 比呂志 (東大地震研)

Tectonophysics 679, 15-28,  doi:10.1016/j.tecto.2016.04.019, 2016

2014年11月22日、長野県北部を震源とするマグニチュード6.7(MJMA6.7)の地震が発生した。この地震の余震域の西側には、糸魚川-静岡構造線の一部である神城断層の北部区間が位置しており、地表で確認されている活断層との関係を明らかにすることは,活断層の活動評価を行うにあたって重要である。そこで、震源域とその周辺に位置する41ヶ所の定常点のデータを用いて、2014年長野県北部の地震の前震、本震、余震の震源を詳細に調べて、震源断層の形状把握を試みた。用いたデータは、2014年11月18日から11月30日までの期間に観測された2,118個の地震であり、3次元速度構造(Panayotopoulos et al., 2014)を用いてDouble differential法によって震源を決めた(図1)。得られた震源分布から震源断層を推定した。震源断層の浅部は神城断層の地表トレースと一致し、南東方向に30°~45°で傾斜する。一方、震源断層の深部は小谷-中山断層の深部と一致し、南東方向に50°~65°で傾斜する。神城断層は小谷-中山断層から深部で分岐したFootwall Shortcut Thrustとして 更新世に形成されたと考えられる。断層の中央部では、地震時の滑りが大きく余震活動が少ない。一方、断層北部では余震活動が活発で、地表変位が少ないため、地震時の滑りが少ないと考えられる。本研究で提案した断層モデルを使用して半無限質弾性体モデルを用いて地表変位を求めたところ、得られた地表変位分布はInSARによって観測された地表変位分布と調和的な分布が得られた(図2)。

図:断層モデルと地殻変動と地表地質の比較。赤線:神城断層地表トレース。青線:小谷中山断層地表トレース。A)DD法によって再決定された震源(赤い立方)分布から得られた断層モデル。黒多角形:震源断層。水色多角形:最大滑り域。水色網は震源断層面に沿って余震活動が少ない領域。青多角形:小谷中山断層の浅い部分(0~4km)。B)神城断層に沿って地形と地質図。C) 国土地理院の解析による干渉SAR図(原初データ所有:JAXA)
図:断層モデルと地殻変動と地表地質の比較。赤線:神城断層地表トレース。青線:小谷中山断層地表トレース。A)DD法によって再決定された震源(赤い立方)分布から得られた断層モデル。黒多角形:震源断層。水色多角形:最大滑り域。水色網は震源断層面に沿って余震活動が少ない領域。青多角形:小谷中山断層の浅い部分(0~4km)。B)神城断層に沿って地形と地質図。C) 国土地理院の解析による干渉SAR図(原初データ所有:JAXA)
図2:本研究の震源断層モデルを用いた地表変位。A) 最大滑り域に平均滑り1.37mを仮定した計算B ) 国土地理院の解析による干渉SAR図(原初データ所有:JAXA)
図2:本研究の震源断層モデルを用いた地表変位。A) 最大滑り域に平均滑り1.37mを仮定した計算B ) 国土地理院の解析による干渉SAR図(原初データ所有:JAXA)

【受賞】中谷正生准教授「岩の力学連合会フロンティア賞」受賞

中谷正生准教授が、「岩の力学連合会フロンティア賞」を受賞しました。

受賞研究:「山はね被害の低減を目的とした大深度金鉱山における極微小地震モニタリング」

受賞理由:岩の力学に関する技術の進歩に著しい貢献をしたことが認められたため。

*岩の力学連合会による「フロンティア賞」は、岩の力学に関連する新しい分野、学際分野で岩の力学の新境地を開いた業績、もしくは新しい分野に対して果敢に挑戦した萌芽的業績と認められるものを表彰する賞です。(一般社団法人 岩の力学連合会ポータルサイトより)

中谷准教授賞状写