三反畑修
東京大学地震研究所
三反畑修 (2026)*. トラップドア断層破壊に伴う海底カルデラの地震性隆起──地震・津波としての特異性と,カルデラ変動としての普遍性──, 地震第2輯, 79, 81–101. https://doi.org/10.4294/zisin.2025-12.
*出版版は、出版後1年間、日本地震学会会員限定で公開されています。会員以外の方も、出版版と同じ内容の著者最終原稿を、下記の東京大学学術機関リポジトリよりご覧いただけます:https://r.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/esploro/outputs/9919010109301
海底カルデラの地下で起きている火山活動は、直接観測することが難しく、その実態には多くの謎が残されています。本稿は、その手掛かりとなる「トラップドア断層破壊」について、著者らの一連の研究を日本語レビュー論文として整理したものです。
いくつかの海底カルデラでは、マグニチュード5級ながら津波を伴う特異な地震が、数年から十年間隔で繰り返し発生します。著者らは、津波の観測記録からこうした地震に伴う海底変形の規模や様式を推定し、カルデラを取り囲む浅い環状断層の一部がすべって海底を大きく隆起させる「トラップドア断層破壊」が原因であることを明らかにしてきました。研究の出発点となった伊豆諸島のスミスカルデラの事例では、カルデラの一部が急激に隆起するトラップドア断層破壊のモデルによって、2015年に発生した津波と地震波の波形の両方が初めて定量的に再現されました。その後、ニュージーランド北方沖のカーティスカルデラや、小笠原諸島の北硫黄島カルデラでも同様の現象が見つかりました(図)。とくに北硫黄島カルデラの事例では、高密度な海底津波観測網でミリメートル規模の微小な津波が検出・解析され、環状断層の複数の部分がそれぞれ個別に破壊していることが明らかになりました。
こうした複数の海底カルデラにまたがる観測事例を通して、浅いマグマ溜まりを力源とするトラップドア断層破壊では、地下浅部での大きな断層すべりが海底を効率的に変形させ、異常に大きな津波を引き起こす、という共通の特徴が示されました。一方で、地震波や津波波形の詳細な比較からは、断層破壊が繰り返される様式が、環状断層の構造の違いに応じてカルデラごとに異なることも見えてきました。また、海底隆起を伴うトラップドア断層破壊が長期にわたって繰り返されていることは、これらの海底カルデラが現在もマグマ供給活動を続け、将来的に噴火に至る可能性を示しています。
スミスカルデラにおける特異な地震・津波の謎解きから始まった研究は、複数のカルデラの比較へと広がり、現象に共通する特徴と、カルデラごとの違いの両方を捉えるまでに進展しました。これらの成果は、地震波と津波の観測が、直接観測の難しい海底カルデラの火山活動を解き明かす有力な手段であることを裏付けています。
参考記事
- 「地震規模に比べて大きな津波を繰り返し引き起こす火山性地震の発生メカニズム:海底火山・須美寿カルデラにおける『トラップドア断層破壊』」https://www.eri.u-tokyo.ac.jp/research/17626/
- 「北硫黄島カルデラにおけるトラップドア断層破壊:津波記録と力学的地震モデルを用いたカルデラ直下のマグマ過剰圧の定量化への試み」https://www.eri.u-tokyo.ac.jp/research/20586/
- 「北硫黄島カルデラにおけるトラップドア断層破壊(2):振幅1mmの極小津波シグナルで明らかになった海底カルデラで繰り返す断層破壊」https://www.eri.u-tokyo.ac.jp/research/22923/
- 「繰り返しトラップドア断層破壊の顕著な類似性—津波・地震波の広周期帯域波形の比較から—」https://www.eri.u-tokyo.ac.jp/research/24940/

